○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
まず最初に、三月二十日の川崎傷害事件などについて河野国家公安委員長の御認識を伺いたいと思うんですけれども、三月二十三日のこの委員会で私は、衝突を防止するために多数の警察官を動員しながら目の前で殴る蹴るを制止できなかった、しかも現行犯逮捕をしなかった、しかも身元は分かっているのに、結局今日伺いますと三月の二十九日から三十日、この四名を逮捕するまで任意同行さえ求めていないと。これは警察組織がこの街宣活動家たちの暴行を容認していると社会的に評価されるものであって、ほくそ笑むのは加害者の側であると指摘をいたしました。
大臣にこの認識をお尋ねをしたいその前提として、警察が本来守るべき市民の側、当事者の側がそうしたことでどれだけ傷つけられているかと。先ほど来お話がありますように、三月三十一日に私ども桜本にお訪ねをいたしまして、ふれあい館でこの委員会に参考人としておいでいただいた崔さん始め地元の皆さんのお話を伺わせていただきました。この中で、私、初めて崔参考人の中学生の息子さんの肉声を伺うことができました。
彼は、十一月八日にヘイトデモが来ると聞いて、大人なんだし、外国人も日本人も共に生きていますよと説明したら分かってくれると、そう思ってその場に立ったわけですね。ところが、彼、このように語りました。ゴキブリ朝鮮人、たたき出せ、出ていけ、死ね、殺せと警察に守られて叫んでいました。差別をやめてと伝えたら、大人が指を指して笑いました。警察はそんな大人を注意してくれませんでした。警察がヘイトスピーチをする人を守りながら桜本へ向かってきました。朝鮮人が一人残らず出ていくまで首を絞めると言った人を警察が守っていました。オモニは泣いていました。僕も苦しくて涙が出ました。
そう語りましたけれども、大臣はこの中学生の男の子の側の立場に立ちますか、それともこの指摘は心外ですか。
○国務大臣(河野太郎君) 違法行為には厳正に対処するのが警察に課せられた使命だと思います。そういう意味で、今回の対応には課題が残った、そう言わざるを得ないと思います。
残念ながら、ヘイトスピーチを繰り返すようなデモを現在の法令では禁止することができませんので、そうしたデモが行われているときには、デモの参加者あるいはその周りにいる人たちに危害が生じるということがないように、より適切な警備がしっかりできるように警察を指導してまいりたいと思っておりますし、このヘイトスピーチに対しましてはあらゆる法令を適用して厳正に対処する、もう繰り返して申し上げておりますが、そのように警察をしっかり指導してまいりたいと思います。
○仁比聡平君 私は、大臣が言うほど現行法は無力なのかと。それはそうではないと思うんですね。
ちょっと警察庁にお尋ねしたいと思うんですが、三月二十日の川崎の傷害事件の現場に配置されていた警察官部隊の対応についてですが、何だかしきりに、二十数メートルの道路を逮捕された四人も含めた十三人が突然走り出して渡って向かい側の歩道で事件が起こったので、その歩道側の配置されていた警察官が少なかったのが問題だったかのようなお話をされるんですが、私よく分からないんですよ。その四人を始めとした十三人が道を渡ろうとする挙動を示したときに、そちらの側にいた多数の警察官部隊が配置されていたんでしょう。一体何をしていたんですか。そうやって渡ろうとする、つまり抗議をする市民や当事者の側に向かっていこうとする、それをなぜ制止しなかったんですか。
○政府参考人(斉藤実君) 当日の状況でございますが、先ほども申し上げましたとおり、街宣車の周辺、街宣車の後ろ側に抗議をされる勢力がおり、それと政党関係者との間に衝突が生じないように警備をしておりました。ところが、街宣車の前は特段そういう阻止をしておりませんでしたので、その十数名の者が渡ったということがございまして、それを認めたこの街宣車周辺にいた警察官も後から追いかけて、その混乱の鎮静化には加わったものでございます。
○仁比聡平君 いや、追いかけて加わったというのが私は分からない。元々、衝突を防止するために配置されていたわけですよね。
河野大臣、警察官というのは市民の命や安全を守るために採用もされ、訓練も受けているわけでしょう。大臣、ちょっと、通告なんてもちろんしていませんけれども、私は、そうした安全を脅かすような警戒すべき相手を注視する、警戒すべき相手の動きをしっかり見極め、必要なら制止をする、それが当然だと思いますが、いかがです。
○国務大臣(河野太郎君) そのとおりだと思います。
○仁比聡平君 警察庁、誰を警戒していたんですか、この警察部隊は、街宣車の周りにいた多数の警察官。これ、だって逮捕された四人も含めて十三人が、二十数メートルといったら大きな道路じゃないですか、ここを突如渡ろうとする、それをちゃんと見ていたら、制止のしようというのはあるでしょう。歩道の側に配置されていた警察官も、その渡ってこようとするヘイト宣伝の当事者たちを見ていたら、そうしたら殴りかかる前に制止可能でしょう。いかがですか。
○政府参考人(斉藤実君) まず、街宣車の反対側の歩道上の話について申し上げますと、確かに向かってくるという状況認められましたので、歩道上の周辺にいた警察官がそれを制止をしようと、まさに渡ってきた者と抗議をされている方の間に入ったわけでありますが、舗道を渡ってきた人間が十数名おりまして、それよりも少ない警察官でそれに対応した結果、一人の警察官が複数の男を押さえて制止をするという中でこの暴行事件が発生をしたものであります。
当然、先ほど申し上げましたように、通りを渡るというのを認知をした街宣車の周辺にいた警察官も後から追いかけて、そこでそれに加わって混乱を鎮静化させたものでございます。
○仁比聡平君 あり得ない。西田理事の質問に対して答弁をしたそのときの状況と違うじゃないですか。なぜ現行犯逮捕できなかったかというと、全体が混乱をしていて、その暴行、傷害を現認していなかったからだとおっしゃったでしょう。何言っているんですか。
実際にそうやって大通りを渡って襲いかかってくる加害者をずっと注視をしてそれを制止しようとしていたら、たとえそこにたどり着いていなかったとしても、殴りかかる瞬間には、だけれども、その人物が誰に対して何をしようとしているかというのは見極めているのが当たり前じゃないですか。
あなた方はといいますか、つまり現場の警備は、そうしたヘイト宣伝活動家の側ではなくて市民、歩道の側を見ていたんじゃないんですか。市民を守るのだったら市民を背にして加害者の側に向き合ってそれを止める、それが警察でしょう。違うんですか。
○政府参考人(斉藤実君) 委員御指摘のとおり、抗議をされている歩道上におられた方の前に警察官が出て、反対側から渡ってくるその十数名の者を制止をしようとしたわけであります。ところが、先ほど申し上げましたように、一人の警察官が複数の人間を押さえる、その警察官越しに暴行が加えられるというような状況もございまして、必ずしもそれを現行犯逮捕できるような形での現認ができていなかったものでございます。
○仁比聡平君 刑訴法上は準現行犯という規定もあり、犯行を行って間もない、そうした状況であれば、その加害者をその場でただす、もちろん身柄を拘束することだってあるでしょうし、何にせよ、これはやってはならないことなんだということを明らかにして野放しにはしないという、それは現行法だって十分可能なんです。ところが、それをやってこなかった。これがこれまでの日本の警察組織だと言わざるを得ない、今の御答弁を伺ってもそう感じるんですね。
ヘイトデモと警察の関係についてちょっとまた別にお尋ねをしたいと思うんですが、せんだっての崔参考人の意見陳述によって、二〇一五年十一月八日にこの桜本に向かってこようとしたデモのコース、これが、富士見公園という、デモを出発してしばらくのところで変更されたということが明らかになりました。
元々、十一月八日になる前まではこの富士見公園から駅の方に向かって行っていた、桜本には向かってこなかった。けれども、このときは桜本に向かってくるんじゃないかというデモだった。けれども、出発はしたけれども、その公園を出たところで別のコースに変更されたわけですね。これはどのようにして変更がされたわけですか。
○政府参考人(斉藤実君) お答えいたします。
お尋ねの平成二十七年十一月八日のデモは、川崎市内の富士見公園付近の交差点を出発地として京浜急行川崎大師駅を解散地とするものでありまして、委員御指摘のとおり、当初の申請はその桜本地区を通るものでございました。しかしながら、出発直前になり、デモに反対するグループとのトラブルを懸念をした主催者側からコースを一部短縮をしたい旨の申出がありまして、それがトラブルの防止やあるいは関係者の安全を確保する観点にかなうものであり、また、コースを一部短縮しても問題はないものとして認めたといいますか、その申出どおりにしたというものでございます。
○仁比聡平君 主催者側からというお話がありましたが、警察の側はそれに対する相談なりなんなり、警察側としてどうかというようなことは何もないんですか。
○政府参考人(斉藤実君) 神奈川県警察におきましては、公安条例の申請受理や許可の手続のときはもとよりでございますが、デモを実施する現場におきましても、デモが申請どおり実施されているかを確認するため主催者との間では常に連絡を取っているところでございまして、このデモにつきましても必要な指導を実施している中で主催者側からの申出がなされたものと承知をいたしております。
○仁比聡平君 つまり、十一月八日のときに、カウンターの皆さんやその住民の皆さんがこうした桜本に入れないでくださいという抗議を上げておられた、そうした状況を警察としても勘案してこうやって変更が行われたということじゃないんですか。
○政府参考人(斉藤実君) これは、あくまで主催者の方がトラブルを懸念をして自らコースの短縮を申し出たものでございます。
○仁比聡平君 十一月八日がそういう経過だったと。
一月の三十一日ですけれども、このときは、その公園を出て、曲がらずにそのまま真っすぐ桜本の方に向かってきました。しかも、駅方面と桜本方面の分かれ道になる追分交差点というところを更に桜本の方に曲がり、つまり桜本の玄関口にまで入ってくるということをしたわけですね。そして、この桜本の玄関口、大島四ツ角の交差点、ここをUターンして戻っていくということに結果なったわけですけれども、これは警察がそういうふうにしたわけですか。
○政府参考人(斉藤実君) お尋ねの本年一月三十一日のデモでございますが、同じく富士見公園付近の交差点を出発地として、京浜急行川崎駅を解散地とするものでございました。今委員の御指摘のあったようなコースが当初申請をされておりましたが、そのデモの途中で、デモに抗議をする多数の方がおられるということもあり、そうした方々とのトラブルを懸念をした主催者側からこれもコースを一部短縮したいという旨の申出があり、それを認めたというものでございます。
○仁比聡平君 元々、十一月八日に先ほど御説明いただいたようなことがあった。なのに、一月三十一日に更に同じように桜本に踏み込んでいく、そうしたデモコースを何で警察認めたんですか。
○政府参考人(斉藤実君) 公安条例の申請を受理するに当たりましては、いろいろとその当日の催物の状況ですとかあるいは過去に起きたトラブル等を情報提供いたしまして指導はいたしておるところでございますが、最終的に、デモをこのコースで申請をするとなれば、それは許可せざるを得ないというふうに認識いたしております。
○仁比聡平君 河野大臣、お聞きいただいて、つまり、現場で深刻な人権侵害が起こる、それを阻止しようとして混乱も起こるかもしれないということがあれば、現場ででもデモコース変更するんですよ。それはもちろん主催者の判断というのが最終的にはあるでしょうけれども、けれども、そこには警察も周りの状況を勘案して働きかけるというのがこれ当然だと思うんですよね。
今申し上げているような共生の地域、例えばこの桜本というような地域をじゅうりんしてくるようなヘイトデモ、これは様々な形で、これはそんなことは初めからさせないと様々な形でいろんなことを考えて警察も努力する、それは私、そういうふうにすべきだと思うんですが、いかがですか。
○国務大臣(河野太郎君) 警察も様々な対応をすべきだと思いますが、道路の使用許可がデモという形で出されたときに、それをそれだけの理由で却下できるかどうかというのは法律的な問題もあるんだろうと思います。
主催者側が当日の状況を判断して、道路を一部短縮をするというようなことがあったという報告は受けております。それについて警察がどこまで対応できるのか分かりませんが、そういうことが可能であるならばそういうことを追求するということもあると思いますが、そこは道路の使用許可その他法令との関係があると思いますので、一概にどうこうできるというふうにちょっと残念ながら申し上げるところにはありません。
○仁比聡平君 もちろん、私は個々具体的な話だと思いますから、一律にどうこうしろというようなことにはならないのかなとも思いますけれども、この十一月、一月のデモの状況からすると、これは警察が働きかけることによってデモコースを変更させるなどということは元々可能であると思うんですね。
このデモが向かってきた桜本という地域がどんな地域か、三月三十一日の視察で私、二つのことを感じました。特に二つのことを感じました。
一つは、このヘイトスピーチの根絶をするという私たち政治家の責任の重さです。
伺いますと、ダブルあるいは三世、四世の在日の人たちがその出自を隠して生きていかなきゃいけない、そういう思いがこのヘイトスピーチにさらされることによって一層本当につらくなる。そうした思いの中で、先ほど来御紹介をしている崔参考人の息子さんは勇気を持ってダブルに誇りを持って発信を続けておられるわけですね。自分を隠して生きなきゃいけないという、そうした思いの人たちに対してどう思うかというふうに私お尋ねをしたら、そうした人たちから、このヘイト問題で発言をし始めてから、私たちのためにありがとう、あんたの顔は一生忘れないと、そうした励ましをよく受けるそうです。つらいダブルの人たちが自分の発信した言葉を聞いて、その人も自信を持って生きていってほしいというふうに彼は語りました。
もう一つは、共生ということを本当に理解していく、理解を広げていく、あまねく広げていくということの私たちの責任ですけれども、このふれあい館をつくってきた青丘社のペ理事長は、元々保育園の取組から始まったわけですね。その子たちが学校に上がるというときに、学校で潰されてはならない、学校がコミュニティーの中心だということでいろんな努力を重ねて、市ともずっと長い協議を続けてふれあい館をつくってきたわけです。そうした取組の中で、ある町会長の方が、地域のために本当によくやってくれている、ありがとうという感謝を述べられて、そのときは本当に涙が出たというふうにおっしゃいました。
共生の実現というのはそんなに簡単なことじゃない。長い歴史の中で、いろんな先輩たちも含めて、本当に努力を重ねてこうした到達点をつくってきているわけでしょう。こうした共生の地域を、あるいは共生の在り方、社会の在り方そのものを根底から覆し、排除、排斥しようとする、こんなヘイトスピーチというのは絶対に許されないと思うんですね。ちょっと岩城大臣、いかがですか。
○国務大臣(岩城光英君) 仁比委員から御指摘のありましたとおり、共生、とりわけ多文化の共生ということを本当に長い年月、経緯を経て築き上げてきた地域でこうしたヘイトスピーチのような行為が行われることは全くあってはならないことだと考えております。
○仁比聡平君 これは、そうした桜本のような地域に襲いかかってくるというヘイトデモだけを対象にしたものではない。新宿でも銀座でも、当然そうしたアイデンティティーを持って生きている方々、当然いらっしゃるわけです。そうした方々を攻撃し排除しようとしてヘイトスピーチやデモというのは行われるわけですね。
法務大臣に御認識をお尋ねをしたいと思うのは、前回、三月二十三日のこの委員会で、前日に行われた崔参考人を始めとした参考人質疑を踏まえて私、認識をお尋ねしました。そのときに、桜本に入れさせないでという、そのヘイトデモについて、差別的言動が行われたとすればと留保を付けて答弁をされたんですね。けれども、大臣はその前日の参考人質疑も御覧になっていたとおっしゃいましたし、その中で当事者の不安感や恐怖感、そうした生の声を受け止める発言をされたんですね。にもかかわらず、ヘイトスピーチが行われたとすれば、差別的言動が行われたとすればという留保がなぜ付いちゃうのかと。
これ、当然、人権侵犯事件だったらば、これは法務局が事実を認定して審判、指導する。どういう勧告を出すのかというようなことは、それは手続があるでしょう。けれども、我々政治家は違うんじゃないですか。現実に証拠も示して、ヘイトスピーチ、差別的言動が行われたという訴えがあり、その訴えが私たちの胸を揺さぶり、事実そうだともう考えるなら、感じるなら、それは許されないとはっきりすべきなんじゃないですか。大臣がこの分野を所管をされる大臣としてそうした認識を持っているのかどうなのかということが私、問われていると思うんですが、大臣いかがでしょう。
○国務大臣(岩城光英君) 仁比委員御指摘のその三月二十三日の私の答弁でありますが、これは委員の御質問が、三月十六日に被害申告を受け法務局において現に調査中の人権侵犯事件、これに関するものであったのでああいう言い方を申し上げたということは御理解いただきたいと思います。
その上で、個別具体の人権侵犯事件としての調査、処理を離れまして、崔参考人の意見陳述にありました川崎市でのデモにおける言動について申し上げさせていただきますと、こうした言動は、人々に不安感や恐怖感を与えるだけでなく、人としての尊厳を傷つけたり差別意識を生じさせることになりかねず、あってはならないものであると、そのように考えておりまして、そのような言動が許されないということをこれからも更に強く訴えていかなければならないと、そう考えております。
○仁比聡平君 もう一問、大臣、最後。
ニューヨーク・タイムズの前の東京支局長をしておられたマーティン・ファクラーさんという方が、最近、安倍政権にひれ伏す日本のメディアという本を書かれまして、この中にこういう指摘があるんですね。異論を認めず、自分たちに都合の悪いメディアを一斉に攻撃する、社会にこのような風潮を広げてしまったのは明らかに安倍政権の大きな責任だと言わざるを得ない。なぜなら、卑劣な攻撃を繰り返すネット右翼に対して何らノーの声を出さないからだ。これでは、事実上、ネット右翼に青信号を出しているのと同じように見える。
この前段としては、ヘイトの問題あるいは日本軍慰安婦の問題などの取材とそれに対するバッシングというようなことも指摘をされているんですが、大臣、この指摘にはどう答えますか。
○国務大臣(岩城光英君) 政府におきましては、これまでもヘイトスピーチはあってはならないと、そういうことを啓発活動を通じて訴え続けてまいりました。また、国会の場でもヘイトスピーチが許されないことを繰り返し申し上げてまいったところでありまして、今後も引き続きこうした言動はあってはならないということを明確に示し、粘り強い啓発活動を続けていきたいと考えております。
○仁比聡平君 終わります。