○参考人(島岡まな君) 大阪大学の島岡でございます。
本日はこのような場で発言の機会を与えていただき、どうもありがとうございます。
肩書が大阪大学副学長となっておりますが、本日の私の発言は刑法学者としての研究の知見に基づいた個人的見解ですので、御了承ください。専門は刑法、フランス刑法、ジェンダー刑法でございます。
この資料のタイトルが性犯罪関係改正法案に対する評価と課題となっておりますが、時間の関係で、不同意性交等罪、性交同意年齢の引上げ、公訴時効の延長を中心にお話しさせていただきたいと思います。
まず、初めにを御覧ください。
私は、今回の刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案提案理由を読みまして、もう感無量でございました。と申しますのは、今の現行刑法典が、明治四十年、今から百十六年前の家父長制の下で男性のみによって起草された刑法典ですので、自覚はないかもしれませんが、女性差別的な規定が幾つか残っていると考えておりました。その最たるものが性犯罪規定と思いまして、ここに書きましたような「ジェンダーと現行刑法典」という二〇〇三年の論文でその問題性を指摘してから二十年でございます。それから、その後に「新基本法コンメンタール 刑法」の二〇一二年に出た解説書の中で性犯罪規定の持つ問題性を主張、刑法学者としては初めてだと思うんですが、主張してから十一年たちました。ですので、感無量ということです。
そして、性犯罪の本質が、被害者が自由意思に基づき任意に与えられた同意に基づかない性行為が全てであるということが二〇一一年のイスタンブール条約で既に記載されていたんですけれども、そこには、行為が男性器挿入に限定されることはないとか、暴行・脅迫要件もどこにも出てきませんでしたし、配偶者間強姦を明記するように既に言っていたにもかかわらず、御案内のように、百十年ぶりになされた二〇一七年の改正ではこれがどれも取り入れられなかったということで、私は半分絶望しておりました。
でも、ようやく六年後の二〇二三年、今年に入って、国際水準にかなり近づいた性犯罪改正が行われようとしております。これを絶対に先送りしてはならず、必ず今国会で成立させていただきたいと心から願っております。
それでは、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪の新設についても簡単に御説明します。
たくさん書いてしまったんですが、評価する点は、括弧一はちょっと読んでいただいて、括弧二が中心ですね、暴行、脅迫のほか、心身の障害やアルコール、薬物の摂取又は影響等八項目の具体例を挙げ、その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な場合に性犯罪が成立したことです。どのような客観的行為が性犯罪となり得る危険があるかを一般人や裁判官にも分かりやすく示し、かつ性犯罪の本質は不同意の形成、表明、全うが困難な中での性行為であることを明確に示した優れた規定方法であると思っております。
二ページ目に続きます。
従来の刑法の構成要件としては少し違和感がある規定方法だと思われるかもしれませんが、やはり罪刑法定主義の要請と一般人や裁判官に解釈の指針を与えるために分かりやすく例示する要請という二つのバランスを考慮した、非常に苦労して、何というか作成された案だと思いますので、私は、性犯罪に関する刑事法検討会や法制審議会委員の先生方の御尽力のたまものと感謝して、評価しております。
次の米印が実は重要なのですが、単なる不同意を要件にしてしまうと、意思に反したというだけにしてしまうと、性行為の意味が分からず不同意を形成できなかった場合が入らず、ドイツ刑法の、他の者の認識可能な意思に反して、ノー・ミーンズ・ノー要件では不同意を表明できなかった場合をカバーできないと思うんですね。
でも、それが、今回の改正では入る案では、どちらもカバーするだけでなく、しかも、一旦不同意を表明しても相手の圧力に屈して恐怖の念から諦めてしまった場合、これが非常に多いというふうに聞いておりますが、これの場合でも全うすることが困難な状態での性行為ということで、性犯罪となり得るということで、今まで涙をのんできた多くの被害者を救う可能性があると高く評価して、是非そのように解釈していただきたいと思っております。
時間の関係で三と四は抜かします。
課題、懸念なんですけれども、括弧三の例示というところで、八番目の項目で、経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益の憂慮という要件がありますが、これ処罰範囲が不当に限定されないだろうかというふうにちょっと懸念を持っております。と申しますのも、教師と生徒とか、施設職員と入所者、まあ障害者のように、被害者が未熟で不利益を憂慮する能力さえない場合に不処罰となってしまうのではないか、もう少しはっきりとこういうものを規定した新しい立法が必要ではないかと思っています。でも、先ほど小西先生もおっしゃったように、五年後の見直しで検討していただければと思っています。
それから、括弧四の故意の認定ですが、これも行為者が同意だと誤信したということで無罪になっている判例が、ここに挙げましたように最近でも出ております。それで、かつては強い暴行、脅迫が要件となっていたので、それがない場合に同意の誤信が認定されやすかったと思います。
しかし、改正法成立後は、犯罪の故意が構成要件該当事実の認識ですので、条文に規定された八類型の事情を認識すれば、被害者が同意の形成、表明、全うが困難な状態にあることを慎重に確認すべきという規範が働き得るのではないかと考えております。ですので、それをしなかった加害者の方が悪いということで、加害者の言い逃れを許さないためには、裁判官は他の犯罪と同様に客観的状況から未必の故意を適切に認定するよう解釈すべきであると私は考えております。
では次に、性交同意年齢の引上げに入ります。
評価する点は、もちろん、十三歳から十六歳の引上げが、今まで私が長年論文等で主張してきた内容ですので評価します。そして、十三歳から十五歳について五歳以上の年齢差を要件とすることにつきましては、青少年の対等で自由な性的自己決定権を尊重し、不要な処罰を避けるという意味では一定の評価はしております。
ただ、課題、懸念としましては、括弧三に書きましたように、成人、十八歳と十四歳の中学生では、たった四歳、まあ五歳差はないんですけれども、経済力等の差は明らかで、権力関係が生じやすいです。十三歳の中学生、一年生と十六歳の高校生でも同様です。将来的には、三歳差にすることも検討の余地があるのではないかと考えております。
四番のわいせつ目的で若年層を懐柔する行為、いわゆるグルーミングに係る罪の新設については、時間の関係上詳細は省略させていただきますが、大人が児童を手懐けて自由恋愛と思わせる性的搾取が横行しており、最近、故ジャニー喜多川氏による未成年者に対する性加害も社会問題化しておりますので、三ページ目です、そのような行為は未成年者保護のためにきちんと処罰すべきで、刑法典の中に新設されることを評価しております。
五番目の公訴時効についてです。
これも、評価する点は、成人年齢までの実質的停止と五年の延長、今の時効よりも五年の延長は、現在よりはまだ良いという意味で評価しております。
ただ、課題、懸念を申し上げますと、しかし、いまだ圧倒的に不十分だと思います。スイスは、未成年時の性犯罪の時効を撤廃したと聞いておりますし、私の専門であるフランス刑法は、成人から三十年、四十八歳まで告訴可能でございます。
その私見と次書いたところですが、時効の理由とされてきた証拠の散逸というのはやはり過去の話で、現在の技術革新により、スマホの映像やデジタルデータ等、半永続的に証拠が残る場合もございます。そのような場合は時効の意味が半減すると思いますので、むしろ被害者の保護や加害者処罰による正義の回復の方を重視すべきではないか、先進国はそのように考えていると思っています。
米印ですが、その他、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案についても、時間の関係で省略をいたしますが、盗撮が社会問題となり、各自治体の条例だけでは適切に処罰できない事案もあるため、特別刑法で処罰し、記録の消去等も速やかに行えるようにする方向性には賛成いたしております。
最後に、終わりになんですが、性犯罪、性差別的暴力の根絶は刑法改正だけでは決して実現しないと思っております。
性犯罪、DV、セクハラ等は、性差別、ジェンダー差別に根差した暴力、人権侵害で、決して許されないというのが先進国の常識でございます。性犯罪はまさに人権問題です。性犯罪の遅れは日本のジェンダー不平等の反映であると私は二十年来主張してまいりました。日本のグローバルジェンダーギャップ指数は、御案内のとおり、百四十六か国中百十六位でございます。ちなみに、私の専門のフランスは十六位でございます。日本とフランスの間は百か国も差があるということを考えていただきたいと思っています。
必要なことはやはり三点あると思っております。
最初に、ジェンダー平等意識を促す包括的性教育、これは人権教育だと思うのですが、これは犯罪を未然に防止するために絶対に必要だと思っております。ここに書きましたが、妊娠の経過は扱わないとされているということなんですが、それだけでなく、対等なジェンダー平等意識の醸成、セクシュアル・リプロダクティブヘルス・ライツ、SRHRの涵養等、海外では当然学校教育で教育される包括的性教育は、イコール人権教育がなされていないことが日本の大きな問題であり、加害者も被害者も出さない性差別根絶のためには最重要課題だと考えております。
金曜日の本会議の方の質問、答弁をちょっと拝見させていただいたんですが、永岡文部科学大臣の答弁が、性に関しては個人差があるということで、全体に共通の教育はしないけれども、個別に指導することは重要だというふうにお答えになっていたんですが。
ここで私の個人的エピソードで御紹介したいんですが、恐縮ですが、私は二人の子供をフランスの教育を受けさせまして、下の息子が五歳だった二十年前です、既に二十年前に、学校から帰ってきて、お母さん、今日、赤ちゃんがどうして生まれるか習ったんだよと私にフランス語で説明してくれました、卵子と精子が結合して、こうこうこうなるんだよと。私、もう顔が真っ赤になっちゃうぐらい、当時は二十年前ですから、びっくりしたんですね。
でも、私、考えたのは、そうやって恥ずかしいという観念を生まない早い段階で教えてしまった方が、それで親子ともオープンに性のことを話せる雰囲気をつくり出すということでは大変いいと今は考えております。そして、北欧もそうだと、本当に一桁代のときから教えるというふうに言っています。
ですから、もう日本の小学校高学年で性に対する個人差が出てきてしまう、思春期になってからでは遅いんですね。むしろ、もっとその前に共通に教えるというのが世界標準だということを御紹介させていただきます。
そして、二番目の被害の早期発見や被害者支援の充実というのは、弱者保護、人権擁護のために必ず大切ですけれども、これはもう多くの方が、既にワンストップセンターの設置とか支援とかいうことはいろいろなところでもう出ておりますので、省略させていただきます。
それから、三番目の加害者プログラムの充実というのも、こちらも、やはり被害者に非常に焦点当たっていますが、これから斉藤参考人がお話しすると思うんですが、再犯防止のためには必ず必要ですので、是非そちらの方も充実させていただければと思っております。
早口で失礼いたしました。御清聴ありがとうございました。

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
四人の参考人の皆さんの知見と、それからこれまでの取組に心から敬意を申し上げたいと思います。
島岡参考人が感無量というふうに冒頭表現をされたんですけれども、私、六年前の二〇一七年改正の参考人質疑、この同じ委員会室から考えたときに、隔世の感がするという思いがいたします。Springの山本潤さんが被害当事者としてフリーズの紹介をされた、御自身の体験を紹介をされたときに、やっぱり与野党超えて認識が全くずれていたんじゃないのかという思いは共有できたのではないかと思うんですね。
そこで、まず小西参考人にお尋ねしたいと思うんですが、法律がモデルとしてきた被害者像は現実と懸け離れているとおっしゃいました。そのことは、この六年間の、前回改正からの取組を経てなお今度の改正案にまだ残っている。だから、これから五年のうちにはちゃんと見直しをしなければならないという附則が衆議院の段階で付けられたのではないかなと思うんですよ。
小西参考人がおっしゃった、法律あるいは法、司法関係者と言ってもいいかもしれませんけど、がモデルとしてきた被害者像が現実と懸け離れている。ここに追い付いて今回来ているのかもしれないけれども、例えば、先ほどお話しになっている公訴時効の問題にせよ、あるいは性的同意年齢の規制の在り方にしても、更なる改正に向けた実態をちゃんと政府そして我々国会議員が把握するための調査が必要なのではないかと。小西先生がずっと取り組んでこられて到達しておられる認識を、我々がきちんと立法府として共有できるような調査が必要なのではないかと思うんですけれども、どんな調査が必要かとか、こういう調査は政府としてやるべきなんじゃないかとか、そういう御意見がございましたら是非お聞かせいただきたいと思います。
○参考人(小西聖子君) そうです、要するに、その法律がモデルにしているものは、嫌だったらノーと言うだろう、考えなくちゃいけないときは考えて判断するだろうみたいなモデルに私には思えるんですけど、とても人間はその特殊な事態に置かれたときにそうはできない。そのことは、前回のときにはほとんど皆さん無反応でしたけれども、今回はかなり勉強されているんだなというか、理解されているんだなというのは法制審議会でも感じました。
その中で、お尋ねの、どういう調査かということなんですが、日本では、犯罪社会学的といいますか、その被害時の行動、それから加害時の行動でもありますが、それから心理、そういうことに関しての実証的な調査というのが非常に欠けています。例えば、どれくらいの人が実際に抵抗でき、どれくらいの人がこういう状態になり、例えばフリーズになった人はどれくらいというようなことが海外では結構研究されています。もちろん日本でも、今回の法制審議会の前にサイトウ先生や山本さんたちが研究されましたけれども、もっと大きい、洗練されたというか、ちゃんと検証ができる大規模な調査をやっぱりやるべきだと思うんですね。だから、その性的な被害があったときの人の行動ということについてもっといろんなことを調べるべきです。
例えば、ディスクロージャーというのはいつ話すか、人に話すかということですけど、これも一つ分野が実際には海外にはあります。ディスクロージャーの時期やディスクロージャーをする要因ということについて調べられているんですけれども、これも日本にはありません。
それから、今の公訴時効の問題にしても、一体どれくらいそういうニーズがあるのかということも調べられていないわけですね。私たちが直接持っている被害者の大きい情報って、本当に内閣府の被害調査ぐらいしかないんですけど、それでは不足です。
そういう意味では、その性犯罪と被害者の行動、それから加害者の行動にまつわる実証的な研究が是非必要ですし、この法律ができたときに、そこで変わったことがどういうふうに実情に合わせて使われるかも当然検討する必要があると思います。
○仁比聡平君 今、小西参考人もお話あったように、今回の公訴時効の問題についても、立法事実として援用されている内閣府の性暴力に関する調査は、これは一般的な統計法に基づく調査で、この性刑法の改正の必要性について、あるいは今、小西参考人がおっしゃったような特性みたいなものをきちんと大規模に検証可能な形で、あるいは国民的にと言ってもいいと思うんですけど、調査したものではない。だからこそ、これからこの法律成立後、徹底した調査が私、必要だと思っているんですけれども、小西先生もうなずいていただいているので、島岡参考人、その件について、島岡参考人がフランス始め、ドイツも含めて、立法プロセスで調査の果たす役割について御認識あればお話しください。
○参考人(島岡まな君) ありがとうございます。
私は、もうまさにそれが一番日本で足りない点だと思っております。
例えば、性刑法に関してのどういう調査が必要かというのは、今、小西参考人がおっしゃって、専門家の立場からおっしゃっていただいたので、私はもうちょっと一般的なお話をしたいんですけれども、やはりフランスでは、何か問題が起きたらまず実態調査をするということで、それは個々の民間とか研究者の小規模なものに任せているわけではなくて、もう国が公費で調査官何百人というのを使ってやるんですね。
それで、例えば、今問題に、別のところで問題になっているカルトの問題なんかも、最初に国会の国民議会の調査報告書が出たのが一九八三年です。今から四十年も前に第一回目の報告書が出て、九六年に第二回目が出て、二〇〇〇年にカルト規制法って作っているんですね。だから、やはり法律を作るためには、まず調査、国会の調査が絶対に必要で、そういうサイクルができているものですから、フランスではどんな問題が起きてもすぐに調査チームを立ち上げられて、調査して、実態が分かった上で立法事実をしっかり認識した上で、それに適した法律を作っているというサイクルを、まず日本でもつくらなくてはいけないのではないかと思っております。
○仁比聡平君 ちょっと戻りまして、小西参考人、法制審でもそういう議論があったのか、それから法制審に二度にわたってこの問題と関わってこられて、これからの更なる見直しに向けて、政府にちょっとこうやってほしいという、みたいなことがあれば。
○参考人(小西聖子君) 調査の必要性というのは、その折々に、特に今回の法制審では話されていたと思います。例えば、一番分かりやすいのが、公訴時効の延長についてのその内閣府のデータの不十分さなんですけれども、そのために意図された調査ではありませんから、答える人の六割が誰にも言っていない。誰にも言っていないけど、言っている人の中で、例えば三十三まで延びれば大丈夫だと言われても、言わない人は、きっともっとできない人たちだということが予想されますよね。そういうふうに、その統計の不十分さみたいなところが指摘はされる、そういう議論はされていました。
前回のときは、もうそこまで全く行っていませんでした。本当に、私も、隔世の感だと思っております。
○仁比聡平君 ちょっと刑法の理論的なちょっと話で、島岡さん、嶋矢さんにお尋ねしたいと思うんですけれども、故意の問題で、島岡参考人の方で、従来の著しい暴行、脅迫や抗拒不能というその構成要件が、つまり命懸けの抵抗をしなければならないということが求められていた、あるいは求められているかのように読めたということによって、故意を誤信、故意というか、状況を誤信することによっての故意が阻却されるという無罪が現にあったじゃないかと、これはどう変わるのかと。
今回の不同意性交等罪への転換で変わるのかという点について、それぞれお答えいただけますでしょうか。
○参考人(島岡まな君) 先ほど申し上げましたように、大きく変わるのではないかと期待しております。
というのは、やはり八類型がきちんと明記されたことによって、このような事由によって同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難になり得るんだということをちゃんと行為者が考えろという規範がそこに示されていると思うんですよね。だから、それがそろったらすぐ犯罪が成立するという意味じゃなくて、こういう事由の場合は被害者が同意しない意思を形成、表明、全うすることは困難なんですよと示して、それが分かっていたら、やっぱりそれを知らなかったという、そういう状況をちゃんと認識していたなら考えるべきだったのに、それをしないことによって、知らなかったという言い逃れはできにくくなるのではないかと大変期待しております。
○参考人(嶋矢貴之君) 御質問ありがとうございます。お答えいたします。
故意につきましては、もちろん新しい条文によりまして特別なルールが定められたという、故意に関して定められたというわけではありませんで、原則どおり、構成要件に該当する事実を認識する必要があり、各困難事由のいずれか、あるいはそれに類するものを認識するということと、困難な状態にさせ、あるいはその状態にあるということを認識するということと、わいせつ、あるいは性交等を行うということが必要になってくるかと思います。
その上でなんですけれども、あくまで、何でしょうね、理論的に必然的なものではないかとは思うんですが、このように困難事由を具体的に定めたことによりまして、これらによって困難が生じるということ自体は広く理解され、認識されるというふうにはなっているということがある種前提にはなってまいりますので、こういった事情を認識していれば、その後の困難な状態とか、その状態にあることに乗じてという方の認識を場合によっては推認しやすくなるという関係は出てき得るんではないかというふうに考えております。
○仁比聡平君 慎重なおっしゃり方ながら、島岡参考人と同じことを嶋矢参考人もおっしゃっているんではないかと私としては受け止めました。
最後に、斉藤参考人にお尋ねしたいと思うんですけれども、加害者の考える性的同意という先ほどのお話、あるいは治療の中でアップデートしていくことになると。この提起というのは、私にとっても本当に大切なことを学ばせていただいたなと思っておるんですけれども、先ほど来何回かお話がありましたけれども、受刑者、矯正中の更生プログラムの中で、あるいは社会内処遇、執行猶予中のというお話が、御提案が先ほどありましたけれども、そういう取組の中で、転機をつくる、行動変容の転機をつくっていくために、どんなことが刑事司法に対して、あるいは政府に対して期待をされるか、それから、先ほど行動変容につながるのがもっと早ければというふうなお話があったんですけれども、ターニングポイントになることというのがどんなことなのか、教えていただければと思います。
○参考人(斉藤章佳君) ありがとうございました。
まず前提として、性暴力や性犯罪は学習された行動であるという前提が重要だと思います。生まれながらにして性犯罪者というのはいないので、例えば赤ちゃんのときに、私は将来性犯罪者になりたいと思っている人は恐らくいないと思います。じゃ、なぜ性犯罪を繰り返すようになったのかというと、この社会の中で学習してきたものだからだと思います。
ですから、まずこの視点として、性犯罪は学習された行動であるという前提が私はすごく大事だと思っています。だからこそ、学習し直すことでやめることができるわけです。そこに専門の治療が最もエビデンスがあると、刑罰ではなく、刑罰プラス治療をしていくことが重要であると言われているということが前提としてあります。
その中で、ターニングポイントをどのようにつくっていくのかというのは、私もこの十六年間の加害者臨床の中でいろいろ悩みながらケースに関わってきました。今月も二件、府中刑務所に出所前の環境調整で性犯罪の受刑者の方に会いに行くんですけれども、私の最初の冒頭で申し上げたとおり、どうしてもこの性犯罪の問題自体が判決が出ると国民若しくはもうメディアの関心が薄れてしまい、その後、彼らがどうなっていくのかというのを余り知られていないというような現状があります。
でも、我々、入口の支援の中でも関わりながら、実際に実刑判決が出た方も受刑者支援という形で手紙を通してつながりを続ける。そして、出所前には、実際に刑務所には分類の担当官というのがいますので、その方から連絡をもらい、出所前に面会をし、出所後の生活環境調整を受刑中にちゃんとした上で、出所後また生活をしていく場所に定着させていくと、こういう連続した実は関わりが非常に重要になってきます。
ですから、ピンポイントでどこにターニングポイントをつくるかというよりは、実は事件を起こして刑務所に行ったら、それで関わりが終わるんではなくて、彼らが出所後も社会とのつながりを持てるような連続したやはり関わりが必要になってくるかなと思います。実質、例えば出所の日に身柄引受人がいない方は、私、刑務所に出所の日に八時半頃迎えに行くんですけれども、これは全部持ち出しというか、ここに何の予算も付いていません。実際に、その人が治療につながらない場合もあれば、治療につながるケースもあります。
ただ、やはりどんなハイリスクな性犯罪者であっても、出所後どこかにつながれる場所があるというのは実は再犯を繰り返さない上でもやはり重要ですので、もし国の方に何か提言をということであれば、やはり、その入口と出口の段階でのサポートだけではなくて、その後も継続してつながれるような、そこのコーディネーターや調整する機能をもっと強化してほしいなというのが私自身十六年間やってくる中での感想ですし、矯正施設内処遇と社会内処遇が今かなり分断されている状況ですので、やはりここに連続した処遇ができるような制度とか予算が付くことを私自身は望んでいます。
○仁比聡平君 ありがとうございました。終わります。