○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
まず、法案について民事局長に二問お尋ねしたいと思います。
第一問は、仲裁制度というのは、当事者の私的自治によって裁判を受ける権利を制約する面を持っております。先ほども少し質疑がございました。したがって、当事者間に紛争が起こったときに、仲裁に委ねましょうという合意、仲裁合意と呼びますけれども、これが仮に本意に基づいてなされなければ重大な権利侵害が起こりかねないわけです。二十年前、二〇〇三年の本法の審議の中で、この点は相当な議論になりました。
そこで、確認をしたいと思うんですけれども、例えば、取引上の力関係に圧倒的な差があるとか、あるいは威迫、詐欺が行われるとかそういう場合が懸念をされるわけですが、どんな場合に仲裁合意の無効、取消しを求めることはできますか。
○政府参考人(金子修君) 仲裁法上、仲裁合意が効力を有しないときは、裁判所に対して訴えを提起することができるほか、裁判所に対し仲裁判断の取消しを求めることができます。さらに、裁判所に対し仲裁判断の執行決定を求める申立てがされた場合であっても、仲裁合意が効力を有しないことを執行拒否事由として主張することができることとなっております。仲裁合意が効力を有しないこととなる事由としては、例えば仲裁合意が錯誤や詐欺、強迫に基づくものであることを理由にして当該仲裁合意が取り消されたことなどがございます。
委員御指摘のような場合にどのような主張をすることができるかにつきましては、個別の事案によるため一概にお答えすることは難しい面がございますが、一般論としましては、例えば、当事者間の交渉力の格差に起因して一方当事者が十分な情報を提供されずに仲裁合意をされたような場合には錯誤を理由として当該仲裁合意を取り消したり、あるいは詐欺や強迫に基づき仲裁合意が取り消されたような場合はこれらを理由として当該仲裁合意を、詐欺や強迫に基づき仲裁合意がされたような場合にはこれらを理由として当該仲裁合意を取り消すなどして、我が国の裁判所に対し仲裁合意が効力を有しないことを主張することができる場合もあるというふうに考えております。
○仁比聡平君 めったにないことだと思いますけど、公序良俗違反で無効というようなこともあり得ますか。
○政府参考人(金子修君) 公序良俗違反であれば無効になりますので、何というんですかね、非常に極端な場合だとは思いますが、可能性は否定できないということでございます。
○仁比聡平君 そのとおりだと思います。専らその仲裁制度を利用しようとする当事者間というのが、の一般論を考えればそうなんですが、万が一のときにはそういう無効、取消しということを求めることができるということです。
二十年前の法案審議の中で、特に社会的弱者の保護の必要性があるではないかと、そうしたその仲裁という制度の特徴からすれば、特に消費者、それから雇用関係における労働者については特別の保護規定を置こうということで附則が置かれました。これ、当時の議論で、森山大臣なんですけれども、いずれ本則にすることも含めてというような趣旨の答弁をされておられます。
二十年たって、そろそろ本則に私はこれは規定することを検討していいんじゃないかと思うんですが、いかがですか。
○政府参考人(金子修君) 委員御指摘のとおり、仲裁法の附則第三条は、当分の間、消費者は、消費者と事業者との間に成立した仲裁合意を解除することができる旨などの特例を、それから附則の第四条は、当分の間、将来において生ずる個別労働関係紛争を対象とする仲裁合意は無効とする旨の特例をそれぞれ定めております。
その趣旨は、当事者間に定型的な情報や交渉力の格差が認められ、事業者や使用者が自己に有利な仲裁合意をすることにより消費者や労働者の実体法上の権利や裁判を受ける権利が害されるおそれがあることに配慮したものというふうに承知しています。
平成十五年に現行仲裁法が制定された後、消費者と事業者との間の仲裁合意又は個別労働関係紛争に関する仲裁合意に関する事例の蓄積が乏しく、今般の改正におきましても、仲裁法附則三条、四条の規定に関しましては、これらを本則に規定することを含め見直しを求める意見が特に見られなかったということでございます。
こういうことから、現段階でなお本則にするという改正は考えていないということでございます。
○仁比聡平君 つまり、仲裁法が制定されて二十年になるんですけれども、さほど事案があるわけじゃないと、なので、二十年前に当分の間というふうに決めたんだけれども、これからも当分の間この保護規定を置きますという、そういう案になるわけですよね。
くれぐれも、この社会的弱者が裁判を受ける権利を制約されるという、その仲裁制度によって権利侵害がされることがないように、これは現場の事案で取り組んでいかなきゃいけないと思いますが、大臣、ちょっとうなずいておられますが、通告していませんが。
○国務大臣(齋藤健君) まさにおっしゃるとおりだと思っております。
○仁比聡平君 この仲裁法も含めて、この仲裁法関連の三案は、この改正案においてその暫定保全措置命令を盛り込むなど、国際モデル法あるいは国際水準に対応しようという整備でございますので、我が党は賛成をさせていただきます。
そこで、ちょっと残る時間、入管施設における不適切事案について、おとといから続いて法務大臣と入管庁にお尋ねをしたいと思うんですが、まず、十八日に質問いたしましたウィシュマさんに対するバイタルチェックについてビデオ調査していただいたと思いますが、その結果どうだったでしょうか。
○政府参考人(西山卓爾君) 先日の質疑で御指摘いただきました二月二十三日午後七時台のバイタルチェックについてビデオ映像を再度確認した結果、職員が当初計測した際には、血圧が上が九十八、下が五十八、脈拍が六十六。改めて計測し直したところ、血圧が上が百六十三、下が百十七、脈拍が六十台。そこで更に計測し直したところ、血圧が上が百十九、下が九十二、脈拍が百三十一ということで職員はバイタルチェックを終えたという事実確認が、事実関係だったことが確認できました。
○仁比聡平君 事実確認というか、つまりビデオ上そういう言葉を発していると、そういう意味ですね。
○政府参考人(西山卓爾君) 委員がおっしゃったとおりです。
○仁比聡平君 私の聞き取りは違っていたようなので、数字も含めて御答弁いただいてよかったんですけれども。
つまり、正常でない値が出たときに、看守者の手元メモにその記録はなかったという趣旨になるわけですよね、その手元メモをそのまま書き写したのが検証に当たって出された別紙資料だということなわけですから。
つまり、検証チームが前提にした事実関係が、こうした、その入管庁が準備を恐らくしたんだろうと思いますけれども、こうした様々な資料の中に、今申し上げているような検証の前提を揺るがすようなことがありはしないのかと。
私が気付いたそのシーンでは今のようなやり取りでしたけれども、先ほど石川議員からも御質問ありましたけれども、二百九十五時間と言われるその映像記録の中で、同様の事案、あるいはほかにももっと重大な事案というのがないのかということは懸念されるわけですね。
だから、この実態をしっかり検証する、そのためには全てのビデオを私は明らかにすべきではないかと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(西山卓爾君) 前提といたしまして、調査チームにおいては外部の有識者にも加わっていただきましたが、その方々も含めて、ビデオ映像は全て調査の対象として閲覧いただいております。その上でこのような調査報告書の結果が出ているということは御理解いただきたいと思います。
その上で、ビデオの全てについて開示をせよとの委員の御指摘でございますけれども、情報公開法上の不開示情報に該当する上に、現在訴訟係属中であることに鑑み、その全面開示につきましては差し控えさせていただきたいと存じます。
○仁比聡平君 そうおっしゃるんですけれども、その検証チームの報告書には、本当に深掘りした認識があるのか、認識はないのではないのかと、あるいはそれが表現はされていないのではないかと、検証に当たられた専門家の方々には問題意識あったかもしれないけれども、それが報告書には表れていないのではないのかと。
大臣、先ほどの質疑の中で、プロが検証したというふうにおっしゃったけど、本当にその認識が反映されていますかという疑問は多々私は持っているんですが、ちょっとその中で一問、入管庁に聞きますが、前回の質疑で、このバイタルチェックの問題について、職員らが測定の目的及び意義を十分に理解していなかったとおっしゃいました。そうなんでしょう。私は、どう理解していたのかということを聞きたいんですよ。
御飯が食べられない、飲物が飲めないという人のバイタルが測定できなくなると、そのときにどういう意味だと思ったのかと。理解していなかったのはそうですよ、理解していなかったからその後の経過になっちゃうわけですけど、どう理解していたんですか。
○政府参考人(西山卓爾君) 報告書におきましては、医師である外部有識者から、バイタルチェックで一部項目が測定できない場合に、看守勤務者がその後どのように対応してよいか分からなかったようにも思われるなどと指摘されている部分がございます。
○仁比聡平君 いや、その報告書はそうなんですよ。報告書ではなく、入管庁として、その職員さんたちの聞き取りなんかもしたんでしょう。どう、何だと思っていたんですか、バイタルが振れないということを。脈が触れないんですよ。血圧が測れないんですよ。それを何だと思っていたんですか。しかも、一人だけじゃないですよね。三人、五人とチェックしているじゃないですか。途中で、ボスと呼ばれている、恐らく処遇関係の責任者も登場しますけど、看護師さんだって、そのプロセス中では、三月の四日、五日、六日の中で出てきますよね。
バイタルが振れないということをどういう認識をしていたんですか。
○政府参考人(西山卓爾君) ここはその調査報告書の記載にも表れているところでございますが、一般的には、測定機器が適切に装着等されなかった場合などには正常な測定ができないことが生じ得るところで、職員らとしても、例えば三月六日朝の血圧等が測定不能になった際の発言などからしまして、そのような要因で正常な測定ができない、できていないと認識していたとうかがわれるところではございます。
○仁比聡平君 いや、とんでもない認識じゃないですか。そういう認識をしていたと、これ、とんでもないんじゃないですか。
いや、実際、そのバイタルが振れなくなった後、本人はもうぐったりして首も定まらない、首が据わらないという状況で、もう首が右前に折れてぐったりしている。そのウィシュマさんに対して、精神科の先生、全部分かってくれたから大丈夫、大丈夫とか、あるいは、翌日、三月五日の朝の介助の時点では、サンダマリさんも頑張らないと介助できないよなどと言いながら、ズボンを脱がされるのを嫌がるように、ああ、ああと、こう声を上げるウィシュマさんに対して、ちょっとは頑張らないと、自分のためだよなどと職員が笑い声とともに行為をしているという映像があります。
看護師さんなどは、最近よく眠れるね、さすがドクター、いい薬くれたねなどと、看守職員だったかもしれませんが、そんな発言をしている。三日にわたってバイタル振れないという状況のウィシュマさんに対して、睡眠不足だとか、夜昼が逆転しているだけだとか、そういう認識だったんでしょう。
○政府参考人(西山卓爾君) その点につきまして、調査報告書でも問題点と指摘され、それで前回の質疑でも御答弁を申し上げましたけれども、その問題点を踏まえ、使命と心得といった職員の意識改革という点、それから救急対応マニュアルを策定して、きちんとその役割等を明確化するということをやったということでございます。
○仁比聡平君 私は、それは職員の意識の問題ではないと、制度の問題だと指摘をしております。
死亡事案以外の入管施設における処遇をめぐる主な事案として、お配りをしている二枚目ですけれども、法務調査室が御苦労いただいてまとめていただきました。この二〇〇五年以降の十五件の事案についてですが、これは記載事実は事実ですね。
○政府参考人(西山卓爾君) こちらに記載のように、その資料に記載された各新聞記事の報道があることは承知しております。資料にはその報道の内容の概要が一覧として記載されているところは確認をしております。
その上で、御指摘の点は個別事案の内容等に関わる事柄でございますので、お答えは差し控えさせていただきます。
○仁比聡平君 個別聞きますけれども、四番目の、二〇一七年の六月に東京入管でトルコ人の二十代の男性が容態観察とし診療を受けさせなかったという欄の事案について、平成三十年四月二十三日付けの東京新聞の夕刊をお配りしています。
二十時間診療受けさせず、職員が容態観察という大見出しですが、これ、二〇一七年に虫垂炎の手術を受けたトルコ人男性二十九歳が、事前に激しい腹痛の症状を訴えたにもかかわらず、職員が容態観察として二十時間以上診療を受けさせなかったと。関係者によると、二〇一七年六月三日、激しい腹痛に襲われ医師の診療を申し入れた男性に対して、職員は午後五時頃、様子を見ると言い、男性を個室に移送。男性は四日未明、すごく痛いから病院に連れていってと壁をたたきながら訴えたが、職員は、大丈夫だ、壁をたたくなとやめさせたというんですが、この大丈夫というのは一体何が大丈夫なんでしょうか。この報道の事実関係も含めて教えてください。
○政府参考人(西山卓爾君) 個別事案の内容等に関わる事柄でございますので、お答えを差し控えさせていただきます。
○仁比聡平君 激しい腹痛というこの要因は何なのか、何に着目して容態観察をするというのかと。
結果、午前九時半頃、四人部屋に戻っているんですよね。ほかの収容者が異常に気付いて強く訴えて、昼過ぎに都内の病院に搬送されたら緊急手術ですよ、虫垂炎に加えて腹膜炎も併発している。医療関係者からは、診療がもっと遅れていたら腹膜炎から敗血症になり死に至る可能性もあったと指摘をされている。それが二〇一七年の六月に起こっていることです。
十二番目の事案について、これは、二〇一九年の十二月に東京入管でペルー人男性五十代の方に関わるものですけれども、これも新聞記事をお配りしております。
毎日新聞の記事ですが、ペルー出身の男性五十四歳が腹部の痛みを訴えて宇都宮市の総合病院を訪れたのは昨年、これ二〇一九年十二月二十五日のことだった。胆管結石から膵炎を併発していると診断された。即日、内視鏡手術を受け、そのまま入院。同病院の担当者は、もし手当てが遅れていたら命に関わるような状態だったと話した。この男性は、前日まで東京出入国在留管理局に収容されていたいわゆる非正規滞在者だというので、その後の記事に、一時的に収容を解かれる仮放免措置が認められたと。
つまり、二〇一九年の十二月十四日にこの方は仮放免されたということでしょうか。
○政府参考人(西山卓爾君) これも、先ほどと同様に個別事案に関わりますので、お答えは差し控えさせていただきます。
○仁比聡平君 大臣、先ほど石川議員の質問に、大臣に十一月に就任されて、その後にウィシュマさんの関連するビデオを御覧になったと。どうしてこんなことが起こるのかと思われたということですよね。
どうしてこんなことが起こるのか分かったんですか。
○国務大臣(齋藤健君) 少なくとも、先ほど申し上げたように、あの調査委員会で専門家入れて結論を出されたということについて、私自身は納得をしています。
ただ、個々の細かい事実関係について、今裁判で争われているところもありますので、それは見守っていくしかないかなと思っているわけであります。
○仁比聡平君 あのウィシュマさんの事件は裁判で争われているんですね。これまで、こうした不適切な処遇の事案で、裁判で争われているものもあれば、争われていないものもある。入管庁が調査をして、不十分だとは思いますけれども、それを公表しているものもあれば、そうでないものもあるという、そういう状況にあるから、前回と二回にわたって、死亡事案、それから不適切処遇事案について、この調査室の一覧を作っていただいて、検証するのが我々の委員会の責務ではないかと、私は問題提起をしたいと思うんですよ。
というのは、こうした死亡や不適切処遇というのは、偶発的に起こっているものじゃないですよ。後ほど時系列で事案を並べていただいたらお分かりのとおりですけれども、ウィシュマさんがバイタルがチェックもできないのにもかかわらず救急車も呼ばれないと。これはウィシュマさんだけに起こったことじゃなくて、名古屋入管だけで起こったことじゃなくて、牛久でも東京でも大村でも起こっているわけですよ。それは、偶発的な問題ではなくて必然的に起こったと、制度上こうなっていると言うべきだと私は思います。
収容がおよそ入管組織の裁量によって行われ、収容の必要性や相当性についての第三者、とりわけ裁判所のチェックなしに無期限に行われ得ると。何でそうなっているのかと。結局、帰国できない非正規滞在者を悪質な送還忌避者呼ばわりして、帰国意思を示すまで自由を奪い続けるっていう拷問なんじゃないですか。だから、職員の判断も、言動も、構造的な残酷な人権侵害になっているんじゃありませんか。一個一個の個別事件の問題じゃないでしょう、ここまで繰り返されてきて。
だから、私は、一昨日提起をした十八件の二〇〇七年以降の死亡事案について、おととい提起をしたような観点で徹底した調査をして国会に明らかにすべきだと思うんですが、もう一度、大臣、申し上げますね。
私は、特に死亡事案について、どんな事情の下に収容されたのか、死に至るまでの収容期間、単独室に置かれた期間、死亡に至った経過と死因、そしてどのような医療上の対応、治療がなされたかを国会に、この委員会に私は明らかにすべきだと思います。十八件はあった、あるのは事実です、それ以外ありませんというのが入管の答弁ですからね。そして、入管庁の中では、検証して、それは書面として保管をしていますというのが昨年の答弁ですから。それを国会に明らかにして議論すべきじゃありませんか、大臣。
○国務大臣(齋藤健君) それぞれの事案につきましては、その発生の都度、当時の判断に基づいて、公開できるものは公開をしてきているということであろうかと思います。
その上で、各事案に係る詳細な事実関係等についてどうするかということでありますが、こういった個別事案の中には個人に関する情報も様々含まれておりますし、そして情報公開法上の不開示情報にも該当するものでありますので、我々としては慎重に考えておりまして、現時点において、過去の各事案についてその事案の詳細等を明らかにするのは適当ではないというふうに考えています。
○委員長(杉久武君) お時間になりましたので、質疑をまとめてください。
○仁比聡平君 はい。
この問題は、今日の質問で終わるような話では到底ないと思いますので、今後も引き続き求めていきたいと思います。
終わります。ありがとうございました。