○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
四月四日の質疑に続いて、まず警察庁にお尋ねしたいと思います。
お配りをしている資料の五枚目ですけれども、滋賀県の湖東病院事件という再審無罪事件についてです。
この事件は、この記事にもありますように、二〇〇三年に病院で患者さんが死亡され、殺人罪で元看護助手の西山さんが懲役十二年とされて服役をされたが、後に捜査段階での自白には信用性と任意性がないとして無罪判決が言い渡された事件です。
この再審無罪事件についても、検察は、徹底して再審開始決定を抗告あるいは特別抗告をされ、争われた事件なんですが、警察庁にお尋ねしたいのは、被告人に有利な方向、つまり無罪ではないかということを示す証拠が隠されていたという問題です。
左の方に県警の記者会見の記事が書かれていますが、地検への未送致証拠があった、なぜかという問いに対して、県警は、再審開始決定後、検察から原本がない証拠があると言われ、確認して見付かった、昨年七月、百九点の証拠を地検に送った、未送致となっていた理由は調査したが判然としなかったと、こう答えているわけですね。調査したが判然としなかった、つまり、送致をしなかった理由は分かりませんと。それで問題ないなんて言えるのかと。これ、不適切ではありませんか。
○政府参考人(親家和仁君) 委員御指摘のコメントについてでございますが、滋賀県警察において、なぜ当該捜査報告書を送致していなかったのか調査したものの明確な理由は判明しなかったということでありまして、その旨を取材で説明したものであるというふうに承知をしております。
また、そのような扱いが適切と言えるかとの御質問でございますが、お尋ねの事件につきましては、現在、国家賠償請求訴訟が提起されておりまして、当該捜査報告書を送致していなかったことの違法性も争点の一つとされておりますことから、お答えについては差し控えさせていただきたいと思います。
その上で、一般的に申し上げますと、警察におきましては、捜査の結果、作成された書類や得られた証拠物は、刑事訴訟法等の関係規定に基づき適切に検察官に送致することとしておりますので、警察庁としては、引き続き、法令に基づいた対応をしっかり行うよう、全国警察を指導してまいりたいというふうに考えております。
○仁比聡平君 引き続き適切にと、これ、あたかもこれまでも適切に行われていたかのような、そういうごまかしの答弁を幾ら繰り返しても、これ違法性というのは阻却されないですよ。
犯罪捜査規範の百十七条が紹介をされていますけれども、事件の捜査が長期にわたる場合においては、領置物は証拠物件保管簿に記載して、その出納を明確にしておかなければならないと警察庁から説明を受けました。
この証拠物件保管簿に記載してその出納を明確にしていたならば、未送致の理由は判然としないなどというようなことは起こらないのではないですか。
○政府参考人(親家和仁君) そうした点につきましても、現在、国家賠償請求訴訟が係属中でございますので、お答えは差し控えさせていただきたいと思います。
○仁比聡平君 未送致になっていた件というのは、このときの記者会見では百九点と述べられているんですが、百十七点あったのではないかという指摘もあります。
それはおいておいて、この未送致になっていて、ようやく再審請求審において開示された証拠の中に、鑑定医の所見が記された捜査報告書がありました。この患者さんが亡くなった原因は他殺ではなく、管内でのたんの詰まりにより酸素供給低下状態で心臓停止したことも十分に考えられるとした、つまり自然死という鑑定意見、所見を示した捜査報告書を警察庁は自ら作りながら、これを送致していなかった。したがって、裁判上も証拠として提示をされていなかった。そうですよね。
○政府参考人(親家和仁君) 繰り返しになって恐縮でございますが、そういった点も含めまして、国家賠償請求訴訟で争点とされているところと認識しておりまして、お答えは差し控えさせていただきたいと思います。
○仁比聡平君 結局、警察組織のこの証拠の取扱い、送致や保管、あるいは、再審請求審始めとした裁判で争点になってもこれを隠してきたという、そうした扱いについて胸を張って物を言えないと、だから隠すんでしょう。国会で聞かれても答えないわけでしょう。違いますか。この裁判の中で、再審開始決定の理由は、患者さんが自然死した合理的な疑いが生じたからだということが再審開始の決定の理由になっています。
そこで、大臣にお尋ねをしたいと思いますけれども、最終的に再審無罪になった、この際に、この新聞記事にも詳しく記載をされていますけれども、裁判官は元被告人に対して、本件再審公判の中で十五年の歳月を経て初めて開示された証拠が多数ありましたと、そのうち一つでも適切に開示されていれば本件は起訴されなかったかもしれませんと、こう説諭をされたんですよね。これ、大変重たいことだと思います。
本人は警察の取調べの中で、いろいろ事情があるけれども、とうとう自白をしてしまった。けれども、通常審の公判の中では、私はやっていませんと無罪を争っていたんですよ。無罪を主張し続けてきたわけですよ。ところが、有罪判決が確定して十二年懲役を受けた。その後に、再審開始決定が争われ続けたけれども、最終的に再審公判を勝ち取って、当初からあったはずの証拠、これに基づいて無罪判決を受けた。
十五年の歳月を経て初めて開示された証拠が多数あったというのは、つまり無罪の証拠はあったということですよ、元々。それが隠される。これを手続上の言葉で言うなら、裁判所に開示されないことによって不当な冤罪事件が起こり続けると。これはとんでもないことだと、大臣、思いませんか。
○国務大臣(齋藤健君) 御指摘の事件に関して、大津地裁が令和二年三月三十一日、捜査手続の不当等を指摘した上で無罪判決を言い渡したということはもちろん承知をしております。
検察当局におきましては、有罪判決を受け服役された方に対し再審公判において無罪とする判決が言い渡される事態に至ったこと、これは厳粛に受け止めているものと承知をいたしております。
ただ、その上で、個別事件に関する裁判官のお話について、法務大臣として所感を述べるということは差し控えさせていただきたいというふうに思っております。
○仁比聡平君 個別事件、個別事件と言うけれども、私は個別の事件ではなくて制度の問題なのではないかと思うんですが、もう一点、警察庁に伺いますけれども、今日も鈴木先生が厳しく指摘をされている袴田事件に関して、私は同様の思いです。
先週、その袴田事件の五点の着衣に、五点の衣類についてのカラー写真のネガが再審請求審まで、第二次再審請求審まで隠されてきたということを問いました。
この問題について、静岡県警の刑事部長が、再審開始決定後に偶然発見し、東京高検に連絡した、発見したのは県警の施設内であると当時述べましたが、これも不適切ではありませんか。
○政府参考人(親家和仁君) お答えいたします。
お尋ねの静岡県旧清水市における事件に関しましては、衣類を撮影した写真のネガにつきまして、平成二十六年九月に送致した旨、静岡県警察から報告を受けているところでございます。
この事件につきましては、今後再審公判が予定されていることなどから、事実関係の詳細やその評価等につきましてはお答えを差し控えさせていただきたいと思います。
○仁比聡平君 再審公判の中でも、そしてその後も、これはもう徹底的に明らかにされなければならないし、されていくと思います。
時間が迫っているので、大臣にお尋ねしたいと思うんですね。
私は、こうした証拠隠しとともに、更に問題なのは、再審請求を裁く裁判所によっても取扱いが全く違うということなんですよ。
日本弁護士連合会が今年の二月十七日に刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書を出しておりまして、大臣を始め、あるいは委員の皆さんのところにも届けられていると思いますが、そこにこうあります。「再審請求事件の審理の進め方は裁判所によって区々であり、えん罪被害者の救済に向けて能動的かつ積極的に活動する裁判所がある一方で、何らの事実取調べも証拠開示に向けた訴訟指揮もせず、それどころか進行協議期日すら設定せず放置したり、事前の予告もないまま再審請求棄却決定を再審請求人や弁護人に送達したりする裁判所もある。」と。
これは、個々の裁判所やあるいは個々の事件の問題ではなくて、再審という法の問題、再審の刑事訴訟法上の規律あるいは基準の問題だと思うんですよね。
これを法案、これをしっかりと検討するというのが刑事訴訟法の九条三項の附則に定められた検討ということの意味なのではないかと思うんですが、いかがですか。
○国務大臣(齋藤健君) 御指摘のように、二十八年成立の刑事訴訟法等の一部を改正する法律の附則第九条三項において、幾つか日弁連が指摘されたようなことも検討を行うように求められているところでありますけれども、二十九年、平成二十九年三月からは、この検討に資するように刑事手続に関する協議会を開催し、令和四年七月からは、同法附則第九条により求められている検討に資するために改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会を開催しており、同協議会においては今御指摘の再審請求審における証拠開示の在り方についても協議が行われる予定になっているということであります。
私どもとしては、その附則の趣旨を踏まえて、充実した協議が行われるように適切に対応をしていきたいというふうに考えているところでございます。
○仁比聡平君 そんな答弁はもう幾ら繰り返したって、今日も指摘をしているような、証拠に基づかない、あるいは捜査機関の描いたストーリーに沿う証拠だけを裁判所に示して有罪を取っている、それによって冤罪が次から次に生まれていくという、こういう訴訟構造を変えることはできないじゃないですか。
法が検討を求めているというのは、つまり、この再審に、少なくともその附則九条が証拠開示と言っているとおり、その証拠開示のありようを、実際に法改正も含めた取組をしなければならない。これ、裁判所によって区々だと、まるで再審における裁判所の職権行使は全くの自由裁量かと、そんなことあっていいわけがないじゃないですか。
大臣、どう思いますか。
○国務大臣(齋藤健君) 裁判所の判断が区々であるかどうかということについて、法務大臣として答弁は差し控えたいと思います。
○仁比聡平君 それぞれの裁判官の資質の問題ではなくて、私は、制度の問題だと、刑事訴訟法という法の問題だと、規律と基準の問題だということを大臣にしっかり考えていただいて、この刑事手続に関する協議会、それから在り方協議会、これの目途、それから速やかな制度の改正、これを進んでいただきたいということを強く求めて、質問を終わります。