○参考人(平澤慎一君) 平澤です。

本日は、このような場を設けていただきまして、ありがとうございます。感謝いたします。

では、私の意見を述べさせていただきます。

私は、民法の成年年齢を二十歳から十八歳に引き下げる本法案について反対です。

私は、弁護士として、消費者被害救済事件を多く扱ってきました。引下げによって十八歳、十九歳の者が未成年者取消し権を失い、若年者の消費者被害が拡大することを特に懸念していますが、今国会の審議を見ても、残念ながら十分な議論が行われているように見えません。極めて重要な法案であるにもかかわらず、国民的議論も行われず、イメージ先行の議論の下で成立に向かっていくことに大きな危機感を覚えます。

以下では、一、そもそも成年年齢を十八歳に引き下げなければならない立法事実はない、二、引下げに伴って予想される若年者の消費者被害の予防、救済策が全く不十分である、三、国民的議論がなされていないという三点に絞って意見を述べさせていただきます。

第一に、百四十年間も続き、社会的に定着している成年年齢二十歳を、なぜ今十八歳に引き下げる必要があるのかという積極的な理由、すなわち立法事実が見出せません。

二〇〇九年の成年年齢引下げについての法制審議会は、引下げの意義について、十八歳をもって大人として扱うことは、若年者が将来の国づくりの中心であるという国としての強い決意を示すことになるとしています。今国会において、上川法務大臣も、十八歳、十九歳の若年者の社会参加の時期を早め、社会の様々な分野において積極的な役割を果たしてもらうことは、少子高齢化が急速に進む我が国の社会に大きな活力をもたらすものであると答弁されています。そして、引下げは、新たに成年になる若年者の自己決定権を尊重し、参政権に加えて経済取引の面でも一人前の大人として扱うことでこれらの者の社会参加を促すということが述べられています。

しかし、若年者の社会参加が活力ある社会をもたらすとしても、そのために民法の成年年齢も引き下げるべきというのは論理の飛躍です。

民法の成年年齢は、日本社会における大人を何歳とするかということに大きな影響を与えるものですけれども、法律的には、未成年者取消し権を使える年齢、親権の対象となる年齢を決めるという二つの点に大きな意味があります。十八歳から積極的に社会参加できる国にすることと直接的な結び付きはありません。若年者の社会参加という意味では、既に実現されている国民投票権や選挙権の付与が重要なのであって、民法の成年年齢引下げについてはその法的意味を踏まえた上での慎重な議論がなされるべきだと思います。

また、十八歳、十九歳の自己決定権が尊重されるという理由も、日本の現状からすると大きな違和感があります。

個人の自己決定権は、年齢や属性にかかわらず極めて重要で、最大限尊重されなければなりません。しかし、一人前に成熟する一定の年齢までは自己決定権とその者の保護とのバランスが必要です。現行法はその線引きを二十歳としているわけですが、十八歳、十九歳の若年者が未成年者取消し権や親権による制約によって自己決定権を行使できず、大きな問題や不都合が生じているということは聞きません。逆に、日本では、二十歳を過ぎても経済的、社会的に独立していない若年者が多く見られるのであって、あえて成年年齢を引き下げる必要が見出せないのです。

第二に、若年者の消費者被害の予防、救済策が全く不十分であることを指摘します。

成年年齢を引き下げるべき積極的な理由が見出せない一方で、引下げによる多くの具体的な問題点が指摘されています。特に、若年者の消費者被害拡大のおそれが懸念されますが、それに対応する施策は全く不十分です。

私は、弁護士として、今まで消費者被害救済事件を多く扱い、また、国民生活センターのADRの仲介委員や消費生活相談員の方の事例相談などを通じて生の消費者被害事件に接してきました。

消費者トラブルの態様は多種多様で、被害者も高齢者、若年者だけでなく、会社員や公務員、主婦の方など様々です。消費者トラブルは複雑多様化、巧妙化していますが、その背景にあるのは事業者と消費者との情報量や交渉力の格差です。消費者は、ちょっとした心の緩みや気分などからうまい話に乗ってしまい、あるいはうまく断れず被害に遭ってしまいます。その被害救済や予防は極めて重要で、多くの消費者被害に対応する法律、例えば消費者契約法や特定商取引法などが整備されてきました。

その中でも、民法の未成年者取消し権が未成年者の消費者被害の予防と救済に絶大な効果を発揮しているということを実感します。

若年者の消費者被害は、社会経験や知識の乏しさ、判断力、交渉力が乏しいことなどを原因としており、特徴的なものとして、マルチ商法、キャッチセールス、エステ、インターネット取引などによる被害があります。また、若年者は友人関係や上下関係などの人間関係の影響を受けやすく、被害が拡大する傾向があります。被害に遭ったときの問題対応能力も乏しく、問題を抱え込んでしまい解決ができず、被害を拡大させてしまうことも見られます。被害は経済的な損失にとどまらず、精神面に大きな傷を残すこともしばしばです。これらの若者に特徴的な消費者被害については、国民生活センターの資料を今般御配付していますので、是非御参照ください。

このような被害について未成年者取消し権は絶大な効果を発揮します。未成年だったことさえ証明できれば、説明が違ったとか強引な勧誘だったとか証明しなくても契約を取り消せるからです。また、後で簡単に取り消されるリスクがあるため、事業者はそもそも未成年者を勧誘しません。このことは、既に衆議院の議論の中で鉄壁の防波堤などとして再三述べられているところです。

十八歳を成年とすれば、高校三年生の間に成年になります。また、高校卒業という進学、就職、転居という人生の大きな節目で必ず成年ということになります。このような、多感で社会と接触する機会が格段に増える時期に未成年者取消し権を十八歳、十九歳の者が失うのであれば、それに見合う効果を持った制度が必要不可欠です。二〇〇九年の法制審議会意見も、十八歳引下げを適当としながら、その条件として、消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要であると明記していました。ところが、本法案の成立に当たって、そのような施策が全く盛られていません。

法務大臣は、今国会に提出されている消費者契約法改正法案について、若年者を中心に発生する消費者被害事例を念頭に置いた取消し権の創設等を内容とするものと位置付け、成年年齢引下げに伴う消費者被害拡大のおそれを解決するための施策が実現していると繰り返し答弁されています。しかし、この答弁には無理があります。

今国会で審議されている消費者契約法改正法案に盛り込まれた取消し権は、消費者が抱いている不安や勧誘者に対して恋愛感情を抱いていることに付け込んだ勧誘を理由とするものです。その趣旨は、不当な勧誘により消費者が合理的な判断ができなくなったことを理由に取消しを認めようとするものであって、若年者の特性に着目したものではありません。内閣府消費者委員会の消費者契約法専門調査会の報告書でもそのように整理されています。それが、今国会の法案提出の段階で社会生活上の経験が乏しいことからという要件が付され、特に若年者の特性に配慮したような文言になってしまったものです。

不安を抱かせるような就職セミナー被害やデート商法による被害を受ける若年者はいるかもしれませんが、そのような悪質商法被害からの救済の必要性は若年者に限られません。この消費者契約法改正法案は、直接若年者の消費者被害を念頭に置いて創設されたものではないのです。そして、これらは消費者被害のごく一部の類型についてのものでしかありません。

法制審議会の言う消費者被害の拡大のおそれを解決する施策というのは、そのような特定の商法に着目した被害救済を行うような小さな施策ではありません。もっと広く、若年者の知識、経験、判断力不足から生じる消費者被害の救済や予防を実現する施策だったはずです。そして、それはさきに述べた若年者の消費者被害の実情に対応した施策であり、消費者契約法に関して言えば、広く、判断力、知識、経験等の不足に付け込んで締結させた消費者契約についての取消し権創設ということです。このような取消し権創設すら実現していない状況での成年年齢引下げは、法制審議会が指摘する条件を無視するものです。

また、消費者被害の拡大のおそれを解決する施策として、消費者教育の充実も極めて重要です。この点、法務大臣は、二〇〇八年の現行学習指導要領によって充実した消費者教育が展開され、国民に浸透しており、引下げの環境整備が既に整っていると答弁されています。しかし、これも実態と離れたものです。二〇〇八年当時は、成年年齢引下げの議論も具体化しておらず、引下げを前提に学習指導要領が改訂されたり、その後、引下げを見据えて消費者教育が全面的に展開されたという実態はありませんでした。

消費者教育は、生の社会で生じる消費者問題への考え方や具体的な対応を扱うものであり、教科書を使った従来型授業では限界があります。その限界を超えて実践的な消費者教育が行われ、その効果が国民生活上に現れるには長い時間を要するのでして、今までそのような消費者教育は行われていないのです。

政府は、消費者教育について、今年二月に決まった関係四省庁による三年間集中のアクションプログラムを施策の実現として強調します。しかし、これは逆に言えば、今年二月の時点で実現されていなかったことを示すもので、これによりどれだけ効果が上がるのかは全く未知数です。本来、その効果を丁寧に検証し、その後に成年年齢の引下げを行うというのが法制審議会の意見なのでして、順番が違うと言わざるを得ません。

第三に、国民的議論が行われていないことが挙げられます。

百四十年間も続いて特段不都合が生じておらず、国民の生活に深く根付いている成年年齢二十歳を十八歳に引き下げるのであれば、国民的な議論の盛り上がりが必要です。ところが、議論の盛り上がりどころか、多くの国民は成年年齢が引き下げられようとしていること自体を知りません。また、引下げによってどのようなことが生じるかについての正しい知識も持っていません。そして、世論調査でも反対意見が多くを占める結果となっています。

この点、成年年齢引下げは国民投票法制定時の政治判断であり、弊害についてはそれまでに論じるべきで、本法律案の審議で議論することは時期遅れだとする賛成意見が衆議院本会議で述べられました。しかし、これは耳を疑う暴論です。国民主権の我が国において、国民の意見を無視し、あるいは国民の意識に浸透しないまま国民生活に密着した重要な制度変更がなされるなどということはあり得ません。だからこそ、法制審議会意見は、引下げを国としての強い決意としながらも、国民の意識に現れることを重視しているのです。本法案については、成立前に国民的議論がなされることが絶対に必要だと考えます。

最後に、今、我が国の二十歳以上の人は、婚姻によって成年擬制となった人を除けば、全員二十歳まで未成年者取消し権や親権による保護を受けていました。その我々成年者が、将来の若者に対して、十八歳から社会に出て活躍してほしいので、保護を外すけど頑張ってくれというのであれば、自分たちが受けてきた保護に匹敵する別の手当てを将来の若者に与えなければ、余りにも自分勝手で無責任だと思います。

若年者が社会に参加し、柔軟な視点で日本社会を変革してくれることを期待するならば、若年者が安心、安全に暮らせる社会的基盤を保証することが必要不可欠です。未熟な若者に重い責任を与えて自覚をさせるのではなく、社会全体で若者を育てながら社会に参加させる制度が必要なのではないでしょうか。そして、それは国民的議論の下で、社会的意思として構築されるべきものです。そのような国民的議論もなく、十分な施策もなく、今拙速に成年年齢を十八歳に引き下げることに反対です。

御清聴ありがとうございました。

○委員長(石川博崇君) ありがとうございました。

次に、窪田参考人にお願いいたします。窪田参考人。

○参考人(窪田久美子君) おはようございます。

公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会、通称NACSの窪田と申します。今日は、このような場で発表する機会をいただき、誠にありがとうございます。

私どもは、消費生活に関する有資格者で構成された会員約三千名の団体です。会員の多くは、ふだんは企業のお客様相談室やCSR部門、消費生活センターの相談員など別の仕事を持っており、平日の夜や休日の空いた時間で活動をしております。

NACSの活動は三本柱です。消費者教育、消費者トラブルの解決、消費者と行政、企業、消費者団体等との連携を通じて、健全で持続可能な消費生活の確立を目指しております。

私は消費者教育委員長ですので、今日は、消費者教育に特化してお話をさせていただきます。

NACSの消費者教育委員会では、民法の成年年齢引下げの議論が本格化した平成二十八年度から、成年になる前に必要な消費者教育とは何かの研究を始めました。そして、この「思わず伝えたくなる「消費者市民社会」の話 「買う・支払う・使う・捨てる」の4ステップで育てる消費者市民の芽」という教材を作成しました。

お手元の資料の別紙一に、買う、つまりこの契約の基本のテキスト、こちらですね、それからあと、これめくっていただきまして、途中から指導書の数ページ、そして一番最後のページにこのテキストを使って行うワークシートと授業案、授業展開例ですね、こちらを抜粋して掲載してありますので、御覧ください。

この教材を作成する際に、私どもでは、高校の家庭科と公民科の先生にお願いをして、十数回にわたり授業をさせていただきました。私がこの二年間の活動で痛感したのは、高校では、今回の法改正によってどのようなリスクがあるのか、一部の熱心な先生方を除いてほぼ全くと言っていいほど理解されていない、認識されていないということです。

今までの活動を通して私が先生方から伺った言葉でよく聞いたのは、民法の成年年齢が引き下げられると何が問題なんですか、民法の成年年齢引下げってお酒とたばこの話かと思っていました、そして家庭科の先生に授業をさせてほしいというふうにお願いをしますと、民法は公民科の先生の分野ですから、そして今度公民科の先生に御挨拶に行けば、○○教育は主権者教育で十分かと思っていたとか、うちの学校では消費者教育は家庭科の先生に任せているからなどとおっしゃいます。

この先生方の御事情というのは私もよく分かります。先生というのは物すごくお忙しいですし、そもそも授業時間に余裕がないのです。

どういうことかといいますと、まず、御承知のとおり、消費者教育というのは家庭科の授業がメーンになっています。この家庭科の授業は、全国の高校のうち約七割は高校一年生のうちの一年間だけ授業をしています。学習指導要領には、この授業のうち五分の三は調理実習などの実技を行うということが決められていますので、結局その残された時間で衣、食、住、消費生活の勉強をしています。つまり、やらなければいけない項目がとっても多いのです。ですから、私たちが講座をさせてほしいとお願いに行っても、消費生活だけにたくさんの時間は使えないということになるわけです。これは公民科の先生にもお聞きいたしましたが、事情は全く一緒で、やらなければいけないことはとても多く、民法に充てられる時間は年間で一時間のみと、せめてあと一時間授業が増やせればということをおっしゃっていました。

このような状況の中でも、私たちから未成年者取消し権を喪失することの影響について説明をしますと、最初の資料の真ん中のところに受講した高校の教員の感想よりというふうに書かせていただきましたが、先生は、うちの生徒たち、大丈夫かしらと、まるで我が子のように大変心配されるのです。そうはいっても、先生は生徒にどうやって伝えればよいか、専門知識がないから難しい、分からないともおっしゃいます。

この家庭科の先生が、専門知識がないから自信がないとか、それから民法は公民科の先生の領域という気持ち、私もよく分かります。家庭科の先生というのは、そもそも食や衣服、被服ですね、そちらの大学を卒業して家庭科の免許を取得します。大体が理系の出身で、法律の勉強はしていません。ですから、民法の基本的な考えである、たとえ相手がどんなに大企業であっても人と人とは対等、だから、長時間粘り強く交渉されたとしても、一度成立した契約はどちらか一方の都合では取り消せない、それほど契約には強い拘束力がある、逆に言うと、その民法で規定されている未成年者取消し権はトランプで言うとジョーカーのように非常に強い権利を持っているということもほとんど理解している先生はいらっしゃらないと思います。

先生のお話を伺いますと、民法の基本的な考え方は公民科、特別法である消費者契約法やクーリングオフは家庭科で学習することになっているようです。学校内でこの二教科が連携して授業を行っていれば生徒たちも理解ができるのだと思いますけれども、まあ大体は連携はしておりません。違う時期にそれぞれ単独で学習、授業をしますと、家庭科の場合ですとクーリングオフばかりがクローズアップされる傾向があります。そうすると、未成年者取消し権がなくなると何が問題、クーリングオフがあるからいいんじゃないというような感覚になりがちです。

さて、私どもが授業に伺う際、高校は学校によって特色があるため、事前にその学校の生徒さんたちの様子や学習の理解度というのを確認させていただいております。今回の成年年齢引下げについては、経済的に何の問題もなく、親の経済的に何の問題もなく進学できるような環境にある生徒さんたちにとっては、今まで未成年者で一人で、単独で契約ができないということで困ったことはないし、法律が変わってもまあそんなに余り困らないというふうに思っているようです。これに対して、うちの生徒、大丈夫かしらと先ほどお話ししました先生方が心配する生徒さんというのは、経済的に進学を諦めざるを得ない状況にあることが多いのです。

こういった学校の先生に、高校三年生に成人と成人でない生徒が入り交じり、高校でもマルチ商法がはやるかもしれないというお話をすると、大変先生方は心配されます。私の人生、これで変わるかもしれないと思い込んでマルチ商法を始めてしまう生徒さんがいるだろうとおっしゃっていました。ほとんどの大人は、簡単にもうかるなんという言葉は誰も信じません。しかし、この進学を諦めざるを得ないような経済状況、それもまだ十八歳という年齢の子にとっては、この簡単にもうかるという言葉は何か魔力を持ったような言葉に聞こえるようです。

今回この法律が改正されますと、経済的には自立していない十八歳、十九歳の子が親の承諾なく一人で契約し、さらに借金もできてしまうのです。これは、悪質業者にしてみたら、今まで鉄壁の防波堤と思っていたこの未成年者取消し権がなくなることで、判断力が未熟な十八歳、十九歳の新たなおいしい市場ができるようなものではないでしょうか。もし高校でマルチ商法がはやったら、現場はどうしたらよいでしょうか。実際に、私は大学でマルチ商法がはやった学校で対応に右往左往しているという話をお聞きしました。これが高校でも起こる可能性があるということなんです。

消費者教育については、今年の二月に、若年者への消費者教育推進に関するアクションプログラムを四省庁合同で出されました。これは今までになかったとても画期的なことだと思います。アクションプログラムでは、今後三年間で、消費者庁が作成した「社会への扉」というテキストを全県、全学校に配付して授業をすることが数値目標となっていますが、高校の生徒の理解度、それから特色は様々です。私どもの消費者教育のメンバーがお世話になった先生に、どんなにいい教材であっても自分たちの生徒に合っていなかったら意味がないというふうに言われたことがありますが、全くそのとおりだと思います。

テキストを配って消費者教育を一回やればこれは終わりというようなものは消費者教育ではないと思っております。そして、現場の学校の先生は大変お忙しく、このテキストの内容を勉強している時間というのもほとんどないと思います。このような中、誰がこの問題を子供たちに伝えるんでしょうか。

最後に、私は、この国会の参考人の機会をいただくと決まり、慌ててNACSや身近な友人に民法の成年年齢の引下げに関するマル・バツクイズ五問と、今回の引下げに関する感想を聞きましたので、これで御報告をして、終わりにしたいと思います。

一枚目の資料の一番後ろ側を御覧ください。お出しした問題は、この三番の成年年齢引下げに関するクイズ及びアンケート結果からというところの一番の問題です。仮に民法の成人年齢が二十歳から十八歳に引き下がるとしたら、次のうち何が十八歳でできるようになりますか、マルかバツかで答えてください。一番、十八歳で酒が飲めるようになる。二番、十八歳で十年間のパスポートが作れるようになる。三番、十八歳で性別転換の届けを出せるようになる。四番、十八歳で馬券が買えるようになる。五番、十八歳で親の承諾なくクレジットカードが作れるようになる。全問正解した正答率は全体の四三%です。内訳は、NACSの会員は元々興味があるものですから高く出がちなので、一般とNACSの会員と分けて書かせていただきましたが、一般の人は三二%、NACSの会員は五七%でした。

そして、別紙の二ですけれども、その次にまとめさせていただいたのが、この三番のところに書いてある成人年齢引下げに関して御意見がある方は是非お願いしますということで、書いていただいたコメントがこちらに寄せられています。三日間で百五十六人の回答がありましたけれども、これだけの意見が寄せられています。この中には、必要性を感じないとか、あと、なぜ今引き下げるのかとか、酒とたばこは年齢を引き下げないでほしいといったコメントが多く書かれています。

法制審議会の最終報告書では、成年年齢引下げの法整備は、若者の自立を促す施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題解決のための施策が実施すること、そして、その効果が十分に発揮されること、それが国民の意識と現れた段階で速やかに行うのが妥当となっていますが、このクイズの結果やコメントからも、社会的に認識されているとはとても思えません。

このように、教員も保護者も社会的にも認識していない人が多い中、成年年齢の引下げを進めることは、特に学校現場で混乱が起きるのではないかと大変危惧いたします。

以上、NACSの報告を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

○委員長(石川博崇君) ありがとうございました。

次に、河上参考人にお願いいたします。河上参考人。

○参考人(河上正二君) 青山学院大学の河上と申します。

こうした機会を与えていただいたことについてはお礼を申し上げたいと思います。

実は、私自身は、内閣府の消費者委員会で成年年齢引下げに対する対応のワーキング・グループというのをつくって、そこで報告書を取りまとめたり、その後の答申の発出に関与していたということもありまして、この問題に対しては非常に強い関心を抱いておりました。反対論、賛成論かと言われると、慎重論ですというところになろうかと思います。

あらかじめ意見書をお配りさせていただきましたので、少し省略しながらお話をさせていただきたいと思います。

最初の方は今回の法案が出るまでの経緯等について書いた部分ですが、これは既に御承知のとおりと思われますので省略いたしますけれども、一言だけ申し上げるとすれば、今回の改正への直接の契機が選挙権年齢の十八歳への引下げにあったということは私も承知しているところですけれども、先ほどももう既に指摘がありましたけれども、私法上の成年とそれから公法上の成年というのは、必ずしも一致させる必然性はないということであります。個々の法律ごとに、その立法目的、立法趣旨に照らして成年の年齢設定を異にすることが合理的であることは少なくないわけであります。

民法の第四条の成年という、二十歳以上という数字、これは明治三十一年の民法施行以来のものでございますけれども、御承知かと思いますけれども、太政官布告の中で、強壮のときにあたる年齢、あたるというのは丁という字を書きますけれども、この丁の年と書いてあったこの言葉を成年というふうに置き換えたんだというふうに言われています。

日本では、社会的に一人前であるというふうに考えられる労働能力とかあるいは戦闘能力ですね、これは伝統的にはもう少し若くて、おおむね十三歳から十五歳前後でいわゆる元服式とか成年式を迎えていたとされていたわけですけれども、成年年齢を二十歳と定めたこの太政官布告というのは、諸外国の例を参考に、諸外国では当時二十四歳から二十一歳ぐらいだったわけですが、その例を参考にして、日本でももう少し成熟した判断力を求めたというふうに考えられるところでございます。

先ほど鎌田先生からもお話ありましたけれども、諸外国ではもう十八歳が圧倒的に多くなっているということでしたけれども、諸外国で一九七〇年頃から二〇〇〇年ぐらいにかけて成年年齢の引下げが行われて、かなり多くの国で十八歳にされたということでございます。実は、この十八歳になったということの前提には、必ずしもそれだけではないのですけれども、徴兵制が絡んでいたということであります。つまり、戦闘能力があるということで、もう既に徴兵に掛かっている十八歳の子たちが、自分たちはこういうことがあるのになぜこの成年年齢が二十一歳であったり二十四歳であったりするんだというような意見があって、それにも応えたと。まあ一筋縄ではいきません、いろんな要素があったわけですが、そういう声に応えたものだということであります。

ただ、現在では、若者の身体あるいは精神年齢の成熟度、あるいは本人の意思の尊重と社会的責任への自覚を促すという声に応えたものだというふうに言われていることが多くて、昔はどちらかというと家の財産である家産を守るために親が財産管理をするというところに重点があったところが、今は親権者による財産管理よりも本人の意思決定を尊重するというところに裏打ちされて年齢が下がってきているというのが現状かと思います。

既にお話ありましたけれども、法制審議会が十分議論をした上で平成二十一年に取りまとめた答申では、十八歳に引き下げるのが適当であるということと、ただし書がございまして、現時点で引下げを行うと、消費者被害の拡大など様々な問題が生じるおそれがあるため、引下げの法整備を行うには、若者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の解決に資する施策が実現されることが必要であるというふうに書いておりまして、その時期に関しては国会の判断に委ねるということにしてあったわけであります。

その基になった最終報告書では、消費者保護の具体的施策として、例示ではありますけれども、若年者の特性に応じて事業者に重い説明義務を課すこと、若年者の社会経験の乏しさによる判断力不足に乗じた契約の取消し権を付与することなどを例として挙げていたとおりでございます。後に述べますように、この点は非常に重要な指摘であると考えています。

人の能力の成熟度を制度に反映させようとする試みは、これはもう古くローマの時代から存在いたします。ローマの時代、三十一歳でございました。いずれにしても、人間が社会的に見て一人前になったかどうかについて、古くは、どちらかといえば生殖能力、戦闘能力というものが問われたわけでありますが、現在では、身体的能力よりも精神的能力、つまり自分の独立した意思を形成する能力を重心に移して私法上の能力が問題とされているわけであります。

民法は、基本的に、能力をその人の一定の法的資格というふうに考えて、そのうちの精神的能力、判断能力に着目した制度をいろいろと用意しております。人は生まれながらにして権利義務の帰属点となり得る能力、すなわち権利能力が備わるわけですが、行為の法的効力を考える場合には、その背後にある意思活動に対する評価が加わりまして、成熟した意思能力あるいは事理弁識能力が必須であると。さらに、完全で単独で有効な法律上の行為をなすには、成熟した財産管理能力、判断能力としての行為能力が必要であるというふうにされて、これが民法の成人という概念と結び付けられているわけでございます。

この行為能力が制限されている未成年者の行為に対しては、原則として取消し権が付与されておりまして、これが未成年者取消し権と呼ばれるものでございます。他方、未成年者であっても、法定代理人の個別の同意があったり、あるいは包括的な同意を受けますと、行為能力者と同様に認められる場合があります。つまり、未成年者取消し権制度には、法定代理人の包括的同意によって、その時々の本人の成長段階に応じた能力制限の緩和措置があらかじめ組み込まれているというものでございます。婚姻による成年擬制で親権から解放されることとか、あるいは営業許可によって成年擬制が行われるといったようなこともこの観点から説明されることが可能であります。その意味では、現行の未成年者取消し権制度というのはかなりよくできた制度であるというふうに思われます。

未成年者取消し権が果たす機能というものには幾つかの側面がございます。第一は、その経験未熟な子供あるいは若者の財産を守るということでありまして、自らの軽率な判断の誤りを是正して致命的被害に陥ることを回避する、そういう機会を付与する財産保全機能というのがございます。第二は、親権者等の法定代理人による財産管理機能と、これによって未成年者の不適切な判断を是正する教育的機能でございます。また、幾つかの例外的措置を設けることで段階的に未成年者の独立的判断を支援し尊重する措置を組み込むことで社会取引安定との調整を図るという機能を未成年者取消し権制度全体が果たしていると、こういうふうに言えるかと思います。

ですから、基本は本人を保護するというところが未成年者取消し権の目的ではあるわけですけれども、結果として、未成年者取消し権があることによって本人の行為能力は制限される。相手はそんな取消し権がある相手とまともに取引をしようとはしないというようなことがあるのかもしれません。しかし、完全に有効な法律行為をなし得る能力を認めるということは、本人の意思を尊重するということと同時に、自ら一旦なされた意思決定について責任を取らせると、そしてその決定に拘束されることを意味します。それゆえ、若者に対する攻撃的で不当な勧誘行為があった場合、これに対して、これまでは未成年者取消し権が非常に大きな防波堤になっていたという事実は、これは間違いないことでございます。

もっとも、若年者の具体的成長過程は多様でありまして、二十歳という年齢で画一的に保護の要否や程度を考えるということは本来的には困難でありまして、その要保護状態については、実はむしろ一定の幅を持って検討されるべきだろうと思います。その結果、十八歳から二十二、三歳の幅を持った年齢に対する配慮による若年成人の保護と支援というものが必要だというのが実態に即しているように思われるわけでございます。

消費者委員会で消費者問題について扱っていたこともあって、消費者法の世界でこの若年者がどういうふうに位置付けられるかということを更に申しますと、消費者法の中では、成人を前提としても、やはり情報の質、量、交渉力の格差というものが非常に強く考慮される、取引に際しては、消費者の知識、経験、財産状況への配慮というものが基本法によっても要請されているところでございます。

これらは、精神的能力を考える上での前提となります認知能力、あるいは理解力、分析力、判断力と、そのための情報収集能力や意思貫徹能力というものが問われると同時に、自らの財産を管理する財産的能力、資力、その背後にあるいろんな力があるということに法が配慮していることを示しております。

従来、消費者政策の課題は、どちらかと申しますと、高齢消費者の財産被害あるいは身体的危険からの保護や見守りが重視されておりまして、消費者教育に関しても、高齢消費者を念頭に置いた消費者啓発というものに重心が置かれてまいりました。しかし、翻って考えてみますと、相対的に弱い立場にある傷つきやすい消費者というものには、高齢者のみならず、児童、少年、障害者、そして若年者層が存在するということでございます。

特に、成長期にある若年者は、知識、社会経験が乏しいためにトラブルに巻き込まれやすく、身体的にも成人のような体力がないために思わぬ事故に遭遇することがございます。取引とか社会のリスクに対する耐える力、耐性と申しますが、耐性の乏しさを始め、これらの点は、ちょうど高齢者問題とパラレルに考える、あるいは語ることが可能であります。その差は、衰退途上なのか成長途上なのかという差にすぎないと思われます。

意見書の六ページのところに、高齢者の場合とそれから若年者の場合で一覧表にして左右に書いてありますけれども、こういうふうに対応してそれぞれの弱さというものがございます。財産管理能力の弱さ、攻撃的な勧誘に対する耐性の乏しさということを考えますと、こうした者を守るということは、高齢者、若年成人に共通課題というふうに考えられるわけでございます。

これまでのところは、高齢者に比して若年者はまとまった財産を有しないことが多いために欺瞞的取引のターゲットになることは比較的小さくてあったわけですけれども、それに対して、やはりこれからこの若年者に対するいろんな措置が必要になると。

これについて、消費者教育が重要な課題になるということはいろんなところで論じられておりますけれども、ただ、この教育に関しては、やはり実際に育て上げていくためには少なくとも五年程度の猶予期間は必要だというのがワーキング・グループでのヒアリングの実感でございました。

それからもう一つ、制度的な手当てとしてですけれども、インターネット被害、あるいはマルチ取引被害、エステティックサービス被害、サイドビジネス商法など、若年者に特有の被害に対処するための特商法のような特別法上の手当てと、それから消費者契約法において、年齢に配慮しつつ、高齢者、子供、若年者を含めて判断力、知識、経験不足に付け込まれた脆弱な消費者一般を保護する形での受皿的な取消し権の付与、そして、こうした脆弱な消費者を念頭に置いた説明義務、情報提供義務の強化が必要であろうと考えております。

今般の消費者契約法改正では、実は必ずしも十分な対応をしていただいていないというふうに認識しております。十八、十九の若者から未成年者取消し権を失わせるに当たって、一定のセーフティーネットを張っておいてやるということは、これまで未成年者取消し権の恩恵を受けて生活をしてきた大人たちの若者に対する義務であろうとさえ私は思います。

その意味で、今後、そうした制度的な支援というものを是非考えていただいて初めて成年年齢の引下げということに向かっていただければと思います。

少し時間が超過してしまいました。どうもありがとうございます。

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

今日は、四人の参考人の皆さん、本当にありがとうございます。

今の質問に続きまして、若者の特質ということについてまずお尋ねをしたいと思うんですけれども、今、河上参考人からお話ありました、ひとたまりもないという表現も大変胸に刺さったんですが、窪田参考人、今の河上先生のお話も踏まえてといいますか、窪田参考人が感じていらっしゃる若者の契約の知識の問題だったり、あるいは、これ、昨年の消費者委員会のワーキング・グループの報告書でいうと、知識としてクーリングオフという言葉を知っていても、正確な知識がないためにかえって被害に遭ってしまうとか、マルチ商法は知っていてもネットワークビジネスと言われるとその区別が付かないとか、様々な若者の実情ということあるかと思うんですが、これまでお話しになっていることに加えてお話があれば、是非聞かせていただきたいと思います。

○参考人(窪田久美子君) そもそも学校の先生もよく分かっていらっしゃらないと思います。先ほどもお話し申し上げましたけれども、そんなに学校の中で消費者被害のことを知っていらっしゃる方ってまずいらっしゃらないんですね。

その中で、教科書にはクーリングオフのことがやけに詳しく書かれています。だから、クーリングオフの細かな要件はよく知ってはいるんですけれども、じゃ、それがどうやって使われるかということは多分分かっていないと思いますので、とっても単純な質問で、「社会への扉」にもあると思いますが、一度した契約ですね、それはたしかお店で買った恋人へのプレゼント、それを振られてしまったからお店に返したい、これは返すことができるかできないかという、法律上の話での返すことができるかできないかという質問に対して、先生でも返せるんじゃないですかとおっしゃる方もいらっしゃいます。

そのぐらい、実際にはよく分かっていらっしゃらない。そして、これは高校一年生に授業をしますので、全くもってよく分からない子たちに教えるというようなのが現状だと思います。

○仁比聡平君 今日、冒頭御説明をいただいた現場の実情を伺って、家庭科と公民の連携が極めてなされていないということだったり、あるいは、その中で民法という授業をできるのは僅か一時間程度だったりというようなお話を伺って、消費者教育の分野で効果の測定ということが大きな課題にもなっていると思うんですけれども、その前にといいますか、体制が整ったとはまだ言えないんじゃないのか、現実には。

その下で、皆さんのような担い手、専門家の育成だとか、あるいはそれを保障する予算だとか、やっぱりこれは大きな課題があるんじゃないかと思うんですけれども、その辺りの実情はいかがでしょう。

○参考人(窪田久美子君) おっしゃるとおりだと思います。やっと消費者教育が、私、消費者教育に十五年ぐらい携わっているんですが、まず、学校に入れてもらえるということ自体も厳しいですし、そんな状況の中で消費者教育をやる担い手というのは、当然やる場もないわけですから、育つのも大変だというような状況なんですね。

今、活性化基金がありまして、消費生活センターの相談員さんたちが現場に行って消費者教育というのをやり始めたところですけれども、どちらかというと、それは高齢者向けが多くて、学校にまだまだ行けるような状況には全くなっていないと思います。

ですから、学校もそういう土壌もないですけれども、実際には消費生活センターの方でも、今から学校に行けるような場がないわけですから、育ちようもないというのがまだ現状だと思います。

○仁比聡平君 河上先生にお尋ねしたいんですが、その昨年のワーキング・グループの報告書では、そうした下で、「成年になった時点で全て自己責任ということで責任を負わせるのではなく、社会人としての出発点あるいは助走期間とも言える時点で多額の負債を負い、また、その支払いのためのアルバイトで学業や就職活動がままならなくなるなどの回復不能なダメージから保護しつつ、段階的に経験を積んで成熟した成人に成長することができる社会環境を整備し、若者の成長を支える必要がある。」という言葉があるんですけれども、今回の成年年齢引下げというこの法案の提出に当たってそうした環境が整ったと言えるのか、そこはどうお考えでしょうか。

○参考人(河上正二君) 結論から言うと、言えないというふうに思います。

先ほど来、私は受皿的な取消し権の話をさせていただいておりますけれども、未成年者取消し権というのはオール・オア・ナッシングで、つまり未成年者であるということだけで取消し権を認めてやるというやり方ですけれども、そのやり方がどこまで下に下がるかというよりも、一定の幅の中で、本当に悪質な勧誘行為があったときに、それに対して取消し権で守られるという状況を早くつくっておいて、セーフティーネットを張った中でトライしたりエラーが生じたりということで育てていくということにせざるを得ないんじゃないかという気がするわけでございます。

その意味では、ワンポイントで、これは駄目よ、あれは駄目よというのを事業者のためにつくっていくというやり方は、それは一つの方法ですけれども、逆に言うと、ここぐらいまでやらないと取り消されませんということを消費者契約法がメッセージとして出すわけでありまして、それはやはりまずいんじゃないかという気がしているところです。

○仁比聡平君 そこに関わるお話だと思うんですけれども、河上先生の意見陳述の要旨の三ページ目にもありますが、消費者被害をなくすための施策の問題で、具体的施策として法制審の最終報告書が、若年者の特性に応じて事業者に重い説明義務を課すこと、若年者の社会経験の乏しさによる判断力不足に乗じた契約の取消し権を付与すること、ここを具体例として掲げていることは極めて重要だというお話がありました。

そのことも踏まえて、この若年者の消費者被害をなくすための防止策ですね、先ほど時間が少し足りなかったようにも思いましたので、河上先生の方でお考えになっている重要な事項というのを御提言もいただきたいと思うんですが。

○参考人(河上正二君) どうもありがとうございます。

いや、実は、今の段階で被害がたくさん起きているものについてはワンポイントで手当てをするということが必要で、これは特定商取引法とか先ほどの貸金業法等々の手当てがまずは必要だということと、もう一つが、もう少し一般的な形で、消費者契約法の中で、そのような重要事項説明に関して年齢等に配慮した説明の仕方を要求するということ、そして、受皿的な規定の中で、やはり年齢等、あるいは経験不足やそうした知識不足について、そこに付け込まれたというような場合の取消し権を用意しておいてやるというぐらいの手当ては段階を追ってつくっておかないといけないんじゃないかという気がします。

でも、もちろん、消費者教育の問題は他方であるわけでして、私は、中学生ぐらいからその教育のための教材作りとか、それから人材養成といったようなことをやらなくちゃいけなくて、これは五年ぐらいは絶対掛かるという気がしております。もうその意味では、今予定している施行日は恐らく間に合わないという気がしているところでございます。

○仁比聡平君 そうしますと、そうした消費者保護の施策というのは私もとても大事だと思うんです。それが現実にはまだ今の時点でできていないと。もちろん、その効果が国民の中に浸透しているということもあり得ないわけで。

そうすると、この成年年齢の引下げというのは、法制審の最終報告書の立場に立ったとしても、その具体的時期はまだ来ているとは到底ちょっと言えないんじゃないのかと、それは国会の判断だということにはなっているけれども、その具体的時期というのは来ていないんじゃないのかと私は思うんですが、先生、いかがでしょうか。

○参考人(河上正二君) ただ、いつまでもこの宙ぶらりんの状態に置いておくということがいいとは私も思いませんで、法制審では、十八にすることが望ましいというふうにした上で、一定の状況が整うのを国会の審議に委ねました。ですから、それを考えると、どこかで十八歳成年制というのは国会としてお認めになっていただいて構わないんじゃないかと思うわけです。

ただ、その施行時期を、少し時間的な余裕を取って、いろんな施策がある程度完了するまで待っていただくと。それまでの間に、様々な法的な制度整備、それから消費者教育についての整備というものを急速にやっていただくということでどうかというふうに考えているところでございます。

○仁比聡平君 同じ質問を三人の参考人の皆さんに伺いたいと思うんですが、まず窪田参考人、いかがでしょう。

つまり、法制審の言った三つのハードルというのは、これクリアできたと言えるのかと。

○参考人(窪田久美子君) 先ほども申し上げましたとおり、まず施策が実現されているとも思いませんし、その後の効果が十分に発揮されたということでもないと思っております。

○仁比聡平君 平澤参考人に、その点と、あわせて、先ほど河上参考人もおっしゃられたんですけれども、私、包括的な取消し権というこの消費者契約法の問題、それから加えて若年者勧誘に対する事業者への規制措置、それからクレジット契約をする際の資力要件やその確認方法を厳格化する、あるいは貸金業者からの借入れを行う際にその資力要件や総量規制というのをこれははっきりさせるし、その確認方法を厳格化すると、こういうことをやらないまま未成年者取消し権を外してしまったら、これやっぱり被害にさらされてしまうということになるんじゃないかと思うんですが、その点も併せていかがでしょう。

○参考人(平澤慎一君) 法制審議会のいわゆる三つのハードルと言われているものはやはり達成できていないと私も思っていて、それが、法制審議会の意見を読めば、それを達成してから施行じゃなくて、まず成立という話なんじゃないかなというふうにまず理解しています。

それから、消費者被害の拡大のおそれを解決する施策ということで、今、消費者契約法の付け込み型のことを大分議論になっていますけれども、それだけではなくて、特定商取引法は特に被害に遭いやすい特別な形態の取引を定めているわけで、そこでの規制、特に若い人が引っかかりやすいマルチ取引とかエステなどの美容医療サービスとかキャッチセールスとか、こういうものに対する事業者への規制、あるいは、更にいけば、そこについての取消し権等の民事ルールを付与するような制度ができないか。

それと、今、仁比議員おっしゃったように、若い人はお金を持っていないので、クレジットやキャッシングをしなくちゃいけないので、そこへの貸金業法や割賦販売法の資力要件や審査については厳格化、より厳格化するものがないと被害が簡単に広がるのではないかということで懸念しています。

○仁比聡平君 最後、鎌田参考人に、今のハードル、クリアしたかという点と、それから、冒頭の意見陳述で、万全の体制を整えたとは言えないのではないかと、不十分な課題の克服や新たな課題への対応が必要であるという御認識も示されたと思うんですが、そうした不十分な点とか新たな課題とかいうことの中身で、もし教えていただければ。

○参考人(鎌田薫君) これ、ちょっと法制審の報告書を作った立場としてなかなか答えにくいところもあるんですけれども、これ、この方向性で、ここでは、これらの施策の効果が十分に発揮され、それが国民の意識として現れた段階においてというところまで完全に達しているかというと、まだ不十分だというふうには思っております。

他方で、いろいろな提案について、実際にも消費者保護法制を作っていくときには、これ要件立てをめぐって、できるだけ幅広く救済できるような要件立てをすると正常取引が引っかかってくるというふうな問題もあって、一朝一夕に解決できないような部分もありますので一気呵成には行けないだろうというふうなことも他方で考えております。

と同時に、どれぐらいの数の若年者被害が出てきて、それに対してどれぐらいのコストを掛けることが妥当なのかと、こういうふうなことを多分総合的に考えていくし、規制をすれば、逃げ水現象で、それを逃れる新たな手法というのは常に出てきますので、その二重の意味で完璧というのは、これが完璧でないというのじゃなくて、これからも完璧な対応というのは、達成するような性質のものじゃないので、常にそれらをフォローアップして次々とやっていかなきゃいけないと。

そういうときに、今の時点で、まあここが一つの現時点での妥協点だという御判断は国会の側でやっていただいて、それを前提にして次のステップを考えていくというのはあり得るんじゃないかという趣旨を申し上げさせていただきました。

○仁比聡平君 その国会の判断というのはもう極めて重いということを言わなきゃいけないと思います。

今日はありがとうございました。