○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
今ほどもお尋ねがありましたけれども、まず男性裁判官の育児休業の取得の実際の運用について、男性裁判官が育児休業を取得をしたのは二〇〇一年に一人だ
けでございます。この取得者は育児休業からそのまま退官され、現場には復職をしておられないというふうに伺っておりますけれども、これは事実でしょうか。
加えて、その後、男性裁判官からの育児休業の取得の申請はないのではないかと思うんですが、いかがですか。
○最高裁判所長官代理者(大谷直人君) 今委員から御指摘がありましたとおり、この一名の裁判官については復職せずに退職、退官したということでございます。それから、その後でございますけれども、男性裁判官からの育児休業の取得の申出というものはございません。
○仁比聡平君 そうした、つまり育児休業を取得して現場に復帰をした方がいないと。そういう意味では、育児休業法こそ施行はされているけれども、男性裁判官の育児休業というのは実質的には保障された例がないと言ってもおかしくないなと思うんですね。
この実態について、どういう認識で、原因はどこにあるとお考えですか。
○最高裁判所長官代理者(大谷直人君) 女性裁判官から申出があった場合には、これは全部今まで認めてきておりまして、特に男性裁判官につ
いてこの権利を保障していないというようなことは我々は毛頭考えておりません。ただ、現実としてだれもまだ取得申請もしていないということについて何らか
の考えなければならないところがあるということは、もう委員の御指摘のとおりだろうと思います。
具体的には、先ほども申しましたように、我々としてやらなければならないのは、男性裁判官が育児休業の取得を必要ではないかと考えたときにちゅうちょな
く申し出られる、そういう環境づくりというのを、今までもしてきたところでありますけれども、今回のこの法改正を機に、更にそういうことについて環境整備
に努力していかなければならない、このように考えております。
○仁比聡平君 大臣に法務省においての取組をちょっと先にお尋ねしたいと思うんですけれども、育児休業の取得というのは権利であって、いか
なる不利益取扱いも許されないということは法律上明らかであります。加えて、男女の家庭生活や仕事との両立ということを考えましたときに、育児休業の取得
こそ望ましいというぐらいの構えでの周知がなされてしかるべきだと思うんですけれども、大臣、いかがですか。
○国務大臣(千葉景子君) 今、仁比委員が御指摘をされたことは、私もほぼもう同感でございます。
法務省におきましても、この間、スマイル子育て応援プランと、何か名前はとてもあれなんですけれども、このような行動計画を策定して、育児休業の取得についての目標を設定するなどの取得促進を図ってきたというふうに私も承知をしております。
具体的には、パンフレット、ハンドブックなどの配布、あるいは研修の際の講義や啓発、あるいは職員からの相談に対応するための窓口の設置、あるいはホー
ムページや各省庁、法務省の所管官庁のネットワークに専用コーナーを設置しての情報提供などと。私も、ちょっとこの間の取組、これで本当に積極的に取得を
することが可能になってきたのかなというのは、若干私もまだまだ疑問が残るところでございます。
そういう意味では、なかなかこれ権利であって、そして取ったときに不利益処分を受けないと、こう言いましても、これは裁判官あるいは検察官、ほかの分野
でもそうだと思うんですけれども、強制的に首に縄を付けて休めということにはなりませんけれども、何とかやはり男女共同参画、そして家庭と仕事と両立する
ワーク・ライフ・バランス、こういうことがやはりどこの分野でも徹底できるように何か私ももっと知恵を働かせていかなければならないのではないかと、こう
いうふうには私も考えております。
是非、また仁比委員からもこういうことが必要ではないかと、そんな御指摘あるいは御提起もいただきつつ、私も最大限ちょっと目を向けやっていきたいというふうに思いますので、よろしくお願いをしたいと思います。
○仁比聡平君 今大臣がおっしゃられましたように、そうした社会に変わるんだということが政権交代に期待されているものなのだろうと思います。その期待に是非こたえる努力をいただきたいと思うんですが。
裁判所なんですけれども、先ほども部総括判事の役割というお話もありましたけれども、実際、判事、判事補が配偶者に子供さんができたということが分かっ
たときに、部長に報告をしたときに、おめでとう、必要なら育児休業を取ってね、どんどん取ってねという対応にならないと、東京地裁の民事通常部でいいます
と手持ち事件が二百三十件と伺っていますし、大阪では二百件という、そうした水準なわけですよね。こうした中で取れないじゃないかと。いかがですか。
○最高裁判所長官代理者(大谷直人君) 裁判官の業務の問題とも恐らく関連しているということはそのとおりかと思いますが、そういう意味でトータルに考えていかなければならないという御指摘であれば、私もそのとおりだと思います。
ただ、今、取得の局面でいいますと、重要なことは、ちゅうちょなく、先ほど申し上げましたけれども、取得できるように、そういうユーザーの側と、それか
ら若い世代の側と、それからそれを受け入れる部総括等の側あるいは所長の側、その辺が共通認識といいますか、より一層認識を深めていくということがまずは
重要ではないかと、このように考えております。
○仁比聡平君 裁判官の中で是非この育児休業が積極的に取れるように御努力をいただきたいといいますか、迅速にやっていただきたいと思うんですけれども。
ちょっとその点にかかわって、二〇〇一年の司法制度改革審議会の意見書において、裁判官の人事制度の見直し、とりわけ透明性、客観性の確保というテーマ
で詳しい意見が述べられております。その前提認識は、引用しますと、現行制度においては、下級裁判所の裁判官の人事は、最高裁判所の行う司法行政事務の一
環として、同裁判所の裁判官会議により決することとされているが、その前提となる人事評価については透明性、客観性において必ずしも十分ではないとの指摘
もあるという前提認識で、二つお尋ねしたいんですけれども、その人事評価について、評価権者及び評価基準を明確化、透明化し、評価のための判断資料を充
実、明確化し、評価内容の本人開示と本人に不服がある場合の適切な手続を設けるなど、可能な限り透明性、客観性を確保するための仕組みを整備すべきである
という点が一つ。もう一点は、裁判官の報酬の進級制、昇給制について、昇進の有無、遅速がその職権行使の独立性に影響を及ぼさないようにする必要があるこ
と、また、裁判官の職務の複雑、困難及びその責任の度は、その職務の性質上判然と分類し難いものであることにかんがみ、現在の報酬の段階の簡素化も含め、
その在り方について検討すべきであるという指摘なんですね。けれども、これ以降、裁判所における人事のありようが、報酬についても、あるいは任地について
もそうですし、この育児休業の取得がどんなふうにキャリアシステムの中で評価をされたのか、そうしたことを当該裁判官が感じたのかというようなことは、私
の目から見ますと何にも変わっていないというふうに感じるわけです。
今回の法改正に当たっての裁判官の報酬の規定といいますか、号俸の表を拝見をしても、判事補の二十二万円台から始まって最高裁長官に至るまでのそのキャ
リアが細かく、けれども、どういう裁判官がどこに当たっていくのかということは国民の目からは全く分からない形でそのキャリアシステムを支える形になって
いるように見受けられるわけですね。
この透明性、客観性の確保、特に昇進の有無、遅速が職権行使の独立性に影響を及ぼさないようにする必要がある、これは極めて重要な指摘だと思うんですが、いかがでしょう。
○最高裁判所長官代理者(大谷直人君) 人事評価等について少し御説明させていただいてよろしいでしょうか。
司法制度改革審議会の意見書については、今御指摘があったとおりでございます。人事評価につきましては、最高裁として、この意見書を受けまして、その後、平成十六年の一月に裁判官の人事評価に関する規則というものを新たに制定いたしました。
それが実施されているわけでございますけれども、その内容についてちょっとだけ申し上げますと、先ほど御指摘のあったような点については、人事評価を行
う評価権者というのを所長等というふうに明確に決め、それから評価の基準も定めております。そして、人事の評価のプロセスを透明化、明確化するという点に
つきまして、評価権者は、人事評価に当たって、裁判官から担当した職務の状況について裁判官からの書面の提出を受けるとともに、必ず裁判官と面談をしまし
て、申出があるときには、その評価書については先ほどの意見書のとおり開示するということが定められており、さらに裁判官が評価権者に対して評価書の記載
内容について不服を申し出る機会もこれは明定されております。このように、審議会意見書の言わば現実、具体化として対話型の人事評価制度というものを実現
し実施しているところでございます。
それから、進級制の問題についてもお話がありましたが、この点につきましては、審議会の意見書の後に、司法制度改革推進本部に置かれました法曹制度検討
会というところの議論の中でも、この進級制の刻みについて検討の余地があるという御意見もございました。議論されたことは承知しておりますが、他方で、こ
の検討会では現在の進級制には特に問題がないという御意見も少なくなかったものと承知しております。
裁判官の報酬体系については、これは長い歴史を持った制度として定着しておりまして、これを変更するということは裁判官の地位あるいは勤務条件というも
のに極めて大きな影響を与えるものでございます。そこで、裁判官の職権行使の独立性への影響、あるいはその職務の特質性というものを考えながら慎重に検討
をしていく必要があると考えてきたところであり、また現在においてもそのように考えております。
○仁比聡平君 今お話のあった長い歴史の中でつくられてきた裁判官の、私から見ればキャリアシステムであり、それは官僚裁判官のシステムと
いうふうに聞こえるんですよ。その弊害がこれだけ指摘をされる中で、変えるつもりがないという形になってしまうと、個々の裁判官の独立、そしてその独立性
に対する国民の不信をなくすことはできないと私は思いますので、是非御検討をいただきたいということを申し上げておきたいと思います。
大臣に最後一問お尋ねをしたいんですけれども、そうした日本の司法制度全体を、これをどう変えていく、改革をしていくのかというのは、これはこれまでの
政権はやってこなかった大きなテーマではないかと、そんなふうにも思います。裁判官の在り方の問題については、これは最高裁が考えるべきところが多々ある
と思うんですけれども、大臣の政治家としての思いがあればという点と、それから、そうした中で予算の問題に関して、裁判所予算というのは国家予算のわずか
〇・四%にとどまり続けてまいりました。例えば民事法律扶助の予算も、これ、先進諸国に比べて極めて低額かつ立ち遅れが顕著だとかねてから指摘をされてき
ました。この抜本増額が求められながら、なかなかそうなってこなかったというのがこれまでだと思うんですけれども、大臣の所見と決意を伺って、質問を終わ
りたいと思います。
○国務大臣(千葉景子君) 日本の中で、司法というのはこれまで本当に小ぢんまりした体制でしかなかったのではないかというふうに思っています。
そういう意味では、三権の中で、そして一人一人のやはり人権を守り、そして正義をきちっと法の支配という名の下に確立をしていくということになれば、や
はり司法の役割、もう大変大きいわけですので、その体制を三権の中でほかに劣ることのないような形でやはりきちっと確立をしていくということは大変重要な
ことであろうというふうに私は思っております。司法制度改革の中でも、やっぱり司法というものをもっと大きく、そして力強いものにしていくということが指
し示されておりまして、私も、是非そういう方向に向けて日本の司法を育てていくことができたらと、こう思っております。
そういう中で、当然のことながら財政も充実をしていかなければいけません。法律扶助につきましては、その国際比較をどういうふうにしていくかということ
はあるんですけれども、現状でも法律扶助の予算がもう大分枯渇をするおそれもあるというところまで来ております。これは社会の情勢、これだけ雇用情勢が悪
くなり、あるいは多重債務が増え、そして貧困というか格差が増えている、こういう中で大変な事態になっているわけで、これも最後のやっぱり権利保障のセー
フティーネットということになりますので、この法律扶助のやはり予算につきましても今後しっかりと確保することができるように頑張っていく決意でございま
すので、どうぞまた応援方をよろしくお願いをしたいと思います。
○仁比聡平君 終わります。
○委員長(松あきら君) 他に御発言もないようですから、三案に対する質疑は終局したものと認めます。
─────────────
○委員長(松あきら君) この際、委員の異動について御報告をいたします。
本日、石井一君が委員を辞任され、その補欠として姫井由美子さんが選任をされました。
─────────────
○委員長(松あきら君) これより三案について討論に入ります。
御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。
○仁比聡平君 日本共産党を代表して、裁判官の報酬等に関する法律等の一部を改正する法律案及び検察官の俸給等に関する法律等の一部を改正する法律案の両案に反対、裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案に賛成の立場から討論を申し上げます。
裁判官、検察官の報酬、俸給等に関する法律の一部を改正する法律案は人事院勧告に準じて裁判官及び検察官の報酬及び俸給を引き下げようとするものであり
ますが、本来、人事院勧告は労働基本権を制限する代償措置として機能すべきものであり、マイナス勧告はその目的をそもそも逸脱をしております。とともに、
社会全体にこの間低賃金化の悪循環を現実にもたらしてまいりました。
特に、裁判官の報酬については、憲法七十九条六項及び八十条に、在任中、これを減額することはできないと明記され、その趣旨は、裁判官の報酬を減らす措
置をとることができないとの意味であり、直接に裁判官の報酬を減らす目的の措置を法律によるにせよ行政行為によるにせよ禁ずる趣旨であるとするのが我が国
憲法の通説であり、裁判官の独立性を侵しかねないものだからでございます。
育児休業に関する法律の一部を改正する法律案は、男女共に家庭生活の責任を担い、仕事と生活の両立を図る環境整備は重要であり、女性差別撤廃条約の理念、目的にも一致することから賛成をいたします。
以上です。
○委員長(松あきら君) 他に御意見もないようですから、三案に対する討論は終局したものと認めます。
これより採決に入ります。
まず、裁判官の報酬等に関する法律等の一部を改正する法律案の採決を行います。
本案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕
○委員長(松あきら君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
次に、検察官の俸給等に関する法律等の一部を改正する法律案の採決を行います。
本案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕
○委員長(松あきら君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定をいたしました。
次に、裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案の採決を行います。
本案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕
○委員長(松あきら君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定をいたしました。
なお、三案の審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんでしょうか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(松あきら君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
本日はこれにて散会いたします。
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