○仁比聡平君
日本共産党の仁比聡平でございます。
まず、客体の拡大について、これまでの議論も踏まえてちょっと局長に伺おうと思いますけれども、改正案は、資金若しくはその実行に資するその他の利益(資金以外の土地、建物、物品、役務その他の利益)というふうに書いてあるわけです。この資金以外の土地、建物、物品までは、それはそれなりに分かると。役務っていうのは、これは相当曖昧じゃないかというふうにも思うんだけれども、その他の利益となると、これ法文上どう限定されているというのかということが一つの問題なのだと思います。
そこで、このその他の利益に情報は含まれるという御答弁が続いていますけれども、それでいいのかという確認と、この条文には、局長、衆議院、参議院でもずっとあれこれおっしゃっているんですけれども、法文上は情報という言葉さえそもそもないわけですよね。このその他の利益という言葉の中でどうこの客体が限定されていると法文上言えるのか、お尋ねします。

○政府参考人(林眞琴君)
まず、ここで言う土地、建物、物品、役務というのは利益の中の例示でございます。そして、じゃ利益とは何なのかといえば、およそ人の需要、欲望を満足させるに足りるもの、こういったものとして今回、利益というものが意味されております。
その中で情報というものがこれに当たるかということでございますが、やはりその利益というものが一切の有形無形の利益というものを、これがおよそ人の需要、欲望を満足させるに足りるものというものに入る以上は、情報につきましても、これがその他の利益の中に入り得ると考えております。
ただ、もとよりこれに対しましてはテロ行為等の実行に資するという限定が掛かっておりますので、あらゆる情報がこの改正法案上のその他の利益に入るわけではございません。

○仁比聡平君
今の御答弁の中でも、結局、需要や欲望を満たすものというのは一切の有形無形のものが含まれるということですから、その利益という構成要件上の言葉ではおよそあらゆるものが入るわけですよね。土地だとか建物だとかというのが例示だというふうに言うんですけれども、土地に準ずる情報なんというようなことを考えたって余り意味がなかろうかと思うんです。
そうすると、実行に資するとは何かということが極めて大きな問題になるわけですけれども、実行に資すると言うときの資するというのは何なんですか。

○政府参考人(林眞琴君)
この資するという意味ですが、一般にはこれは、役立つあるいは助けとなるという意味でございます。

○仁比聡平君
いや、それはそうでしょう。そんな、助けるとか役立つとか、あるいは支えるというみたいな、そんな日本語の国語辞典みたいな話をして、何の刑罰法規としての限定になるんですか。

○政府参考人(林眞琴君)
資するという言葉自体は、今申し上げたように、役立つであるとか助けとなるということでございますが、それが何の助けとなるのか、あるいは何に役に立つのかという形で、この場合は、本法の一条に列挙されております公衆等脅迫目的の犯罪行為、この実行に資するという形で、そういったテロ行為の実行に役に立つ、あるいはその助けとなると、こういった意味を持つ形でその他の利益というものが限定されていくものと理解しております。

○仁比聡平君
そうおっしゃるので、つまり利益とか資するでは限定がされないわけですね。ならば、実行というのは何かということなんですが、これは刑法の講学上、実行行為あるいは実行の着手というふうに言われる概念にいう実行というのと同じ意義ですか。

○政府参考人(林眞琴君)
もとよりテロ資金の提供というものは、テロ行為自体がその実行の着手に至っていることを念頭に置いているものではございません。少なくとも、テロ行為が将来起きる、テロ行為が将来起こす、こういったこと、そういったものについて、それに向けられたテロ資金の提供罪を独立の処罰、犯罪としたものでございます。そういった意味で、犯罪行為という概念そのものについてが異なるわけではございませんが、今委員から指摘のあった実行の着手というものが要求されるかというと、そうではございません。

○仁比聡平君
私が問うているのは、テロ企図者の実行の着手が今回改正される諸犯罪の成立の条件となるかというと、そうではない、これはもう法文上も明らかですよね。今も御答弁があったとおりです。つまり、テロ企図者の実行の着手がなくても処罰をされるということですね。これ、ですから、その実行行為との関係でいうと、予備行為や予備行為の幇助、あるいは予備行為を幇助することを幇助する、そうしたことが今回の法改正によって処罰対象とされようとしているわけですけれども、それを独立処罰をしようとしている、今御答弁があったとおりです。
ですが、繰り返し、実行に資するとか、あるいは、後にちょっと議論させてもらいたいと思いますけれども、テロ企図者の実行を容易にする目的といった形で、テロ企図者の実行が具体的に意図されているなんていう御答弁も先ほど来ありましたけれども、このテロ企図者の実行あるいは公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行というのが局長の言う限定されるという概念の核になっているわけでしょう、中核に。なので伺いたいんです。
実行行為というのは、これは例えば構成要件的結果発生の現実的危険がある行為というふうに呼ばれますね。これはそうですね、局長。

○政府参考人(林眞琴君)
その実行に着手という概念については、そのとおりであろうと思います。

○仁比聡平君
つまり、このテロ犯罪が起こる現実的な危険がある、それが実行、それに着手されて結果が発生しなければ未遂であり、あるいはその現実的危険がある行為を実行するに至る段階、そこにはまだ行かないが準備をしているとか計画をしているとかいう段階は予備という、そういう段階であると。これは理解、そういうことでいいでしょう。

○政府参考人(林眞琴君)
何を本犯としてその実行の着手あるいは実行の予備ということかということによりますが、確かに委員が指摘されるように、テロ行為そのものというものをまず観念した場合、テロ行為というその犯罪行為、一条に限定列挙されているような公衆等脅迫目的の犯罪行為、これをまずベースに考えますと、それ自体の予備行為、予備的な行為というものが当然ありまして、これは非常に限定されておりませんが、その中の資金の提供という予備的行為が本犯、本法のテロ資金提供処罰法において処罰されるようになっているということでございます。

○仁比聡平君
今局長がおっしゃった資金だけでなく、その他の利益、なかんずく情報等まで客体に含まれるとおっしゃるので、あえてこうやって伺っているわけですね。つまり、テロ行為の現実的危険性はまだない段階をこの法による処罰というのは、改正による処罰というのは想定しているはずなんですが、その際に、実行に資するというのは、そうするとどういうことになるんですか。

○政府参考人(林眞琴君)
もとより、先ほど申し上げたテロ行為をベースに考えた場合に、そもそもテロ行為そのものが起こる現実的な危険性というものは、委員が先ほど言われているように、テロ行為に対する実行の着手をもってそういった現実的な危険性が生ずるわけでございます。当然、それに至るまでの間、まだそこまでの現実的危険性が生じていない場合の予備的な段階でどのような行為を犯罪化するか、処罰するかという問題でございまして、これについては、これまでの本法、現行法では、具体的にはテロリスト、テロを実行しようとする、企図する者に対して直接資金を提供する行為、この行為は、まだテロ行為の実行には着手していない段階であっても、やはりテロ行為の助長、促進という意味で非常に危険性が高いということで犯罪化されてきたものでございます。
それについて、さらに今回の改正法案におきましては、間接的な資金提供という形で主体が拡大され、あるいは客体、その場合の客体につきましても拡大されている、こういった理解でございます。

○仁比聡平君
私は、そのテロ企図者の行為が実行の着手に至らない段階での処罰、加罰性のある行為、あるいは処罰の必要性というのは、これは否定しているわけじゃないんですよ。その際の本改正案の構成要件の明確性について伺っているんですね。
先ほど来の質問の中で、議論の中で、テロ企図者が存在しない場合は罪とならないという趣旨の御答弁があったと思うんですね。対向犯であるという概念も示されたんじゃないかと思いますが、テロ企図者が存在しないと罪にならないというのは、これ法文上はどこに根拠があるのですか。

○政府参考人(林眞琴君)
例えば三条一項を前提といたしますと、改正法案三条一項というものは、テロ、公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとする者に対しという形で構成要件がつくられておりますので、この場合に、資金の提供が仮に外形的にあったとしても、それを、テロ行為を実行しようとする者というものが存在しなければこの三条一項というものは成立しないと、こういう意味において先ほど説明をさせていただいたものでございまして、ただ、これを対向犯であるとか、そういうことを申し上げているわけではございません。
少なくとも、この構成要件上要求されている事項に、例えば三条一項ですと、テロ行為の実行企図者というものの存在が構成要件上必要であるということを申し上げております。

○仁比聡平君
そうすると、典型的には、五条一項、二項のいわゆるその他協力者の構成要件においては、今日繰り返し議論が出ています容易にする目的というのも要件ではないし、実行しようとする者に対しという要件もありませんから、今のような限定は働きませんよね。

○政府参考人(林眞琴君)
五条につきましては、これを実行しようとする者に対しというような要件はございませんので、その限りにおいては、五条においては、その五条の犯罪を成立させるためにテロ行為の実行企図者が特定されている必要はございません。

○仁比聡平君
そうなると、どこまで広がってしまうのかということになるんですけれども。
ちなみに、五条についてもう一問、客体の問題で聞くと、先ほど来、限定する要件だという実行に資するという文言は五条の客体にはないんですね。五条には資金又はその他の利益としか書いていないんですが、これ、局長、どうやって限定されるんですか。

○政府参考人(林眞琴君)
確かに、その三条、あるいは二条、三条、四条、これについては、「実行に資する」という形が限定として「その他利益」に掛かっております。
他方で、五条については、もとよりこれは「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行のために利用されるものとして」という要件がございますので、この中で、当然、二条から四条までの間で実行に資するという限定を付する必要があったものに対して、五条については、そもそも実行のために利用されるものとしてという要件がありますので、ここではあえてこの限定を不要と考えて、ここに掲げていないものでございます。

○仁比聡平君
つまり五条、つまり、その他協力者における行為の客体というのは、利益も限定がない、その他、実行に資するという限定もないということになると、どこまで広がるか分からないでしょう。で、その故意として、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行のために利用されるものとして」というこの文言を限定の根拠としておっしゃっているんですが、先ほど、テロ行為が現実に実行される可能性が存在している状態の認識といった御趣旨の答弁があったと思うんですが、そうかということと、その可能性というのは何か、お尋ねします。

○政府参考人(林眞琴君)
この五条のテロ行為の実行のために利用されるものとしてということのこの条文からまず必要とされる要件といたしましては、実際に提供に係る資金等が利用されるような公衆等脅迫目的の犯罪行為、いわゆるテロ行為が現実に実行される可能性がまず必要でございます。
その上で、利用されるものとしてというためには、例えば五条で、資金等を提供した者について、そういった状況の下で自らの資金等がテロ行為に利用されるという認識、これが必要でございます。

○仁比聡平君
私は可能性とは何かと伺ったんですけれども、それは、先ほどの実行行為の概念で言う現実的な結果発生への危険性というものとは違うでしょうと、お話しになっている用語そのものが。当然なんですよ。テロ企図者の実行行為からはこのその他協力者の行為というのは極めて離れているんです。極めて裾野が広いんですよ。
例えば、教会にある方が転がり込んできて、夜半、大変な高熱を発している。いや、ちょっと危ない人かな、テロリストかもしれないなというふうな認識はあったけれども、教会であるし、介抱したというような場合は、このその他協力者に言う資金又はその他の利益の提供に全く当たらないという構成要件ですか。

○政府参考人(林眞琴君)
今の事例で、五条との関係でいえば、先ほど申し上げたように、テロ行為の実行が現実的な可能性がまずそこに存在するのかどうか、そしてさらに、実際にその場合に、何らかの役務あるいは資金等を提供した側からとって、実際にそれが、自分たちのその行為がテロ行為の実行のために利用されるものとしてという、この認識があるかないかということに関わってくる問題であると考えます。

○仁比聡平君
つまり、個別の事案における判断であって、構成要件には該当し得るという御答弁なわけですよ。
そうした判断を、主観的要件についても客観的要件についてもそうなんですが、どうやって判断をするのかと。もうこれまでお話がありましたけれども、本人あるいは関係者の供述、本人の供述となればなかんずく自白、あるいはメール、日誌などの文書というようなお話ありました。そういう証拠の収集がどうやってされるかなんですが、先ほども取調べの可視化の問題で御質問がありましたけれども、法制審の報告との関係でいいますと、通信傍受法、盗聴法の対象犯罪としてこの公衆等脅迫目的の行為に対する処罰、この刑罰法規、これが入っていますよね。当然、今回改正になるとなれば、このその他協力者などの行為もその対象になるという理解で、局長、いいですか。

○政府参考人(林眞琴君)
法制審議会での取調べの録音、録画の対象事件の……

○仁比聡平君
いえいえ、通信傍受の対象とされているか。

○政府参考人(林眞琴君)
通信傍受、ちょっと今、定かに対象となっておるかどうか、お答えはできません。申し訳ございません。

○仁比聡平君
通告をきちんとできていなかったかもしれませんから、その点は調べていただきたいと思いますけれども、結局、その主観面を捜査機関が判断するということになっていけば、恣意的な捜査というのは、つまり起訴されるかどうかではなくて、実際にそうした、任意であったって、あるいは密行ですよね、盗聴というのは密行ですよ、本人には知らされないわけですから。その下で、メールだってあるいはSNSだって傍受できるというのが警察庁に以前御答弁いただいたことなんですけれどもね。
そうした下で、かつて四万人ものムスリムの皆さんに対して、都内在住の、洗いざらいの調査が行われてきた。それが流出して大問題になってきました、その情報が流出して。例えば、モスクの礼拝参加者に的を絞って、洗いざらい調べ上げて、誰と会ったかとか、誰と連絡を取っているかとか、面割りまでやっているというのがその事実なわけですが、この事実そのものを警察庁はこれまで認めてこられませんでした。
私は、こんなやり方は絶対に許されない行為だと思うんですけれども、改めて伺います、警察庁。

○政府参考人(塩川実喜夫君)
警察においては、警察法第二条に定める公共の安全と秩序の維持という責務を果たすために、必要な情報について収集及び分析を行っており、国際テロを未然に防止するための情報収集、分析もその活動の一つでございます。

○仁比聡平君
という答弁をずうっと繰り返しておられて、洗いざらい、犯罪が発生しているわけでもないんですよ、それをテロ対策という名目でこんな調査をやっているし、その事実さえ認めないし、まして謝罪はしない。となると、これから、例えばこの改正法に基づく構成要件を口実にして本当にひどい人権侵害的な調査をやらないという保証に何にもならないじゃないですか。FATF勧告がそんなことを求めているのかと。これ、国際的な刑法あるいは捜査の国際会議では、テロ対策は大事だけれども、それは人権保障に立って行われなければならないと、そういうふうに宣言をしていますよ。
その下で、FATF勧告について、先ほど来御議論があるように、六月に声明があるんですけれども、ここで問題にされているのは二〇〇八年の十月に採択された第三次相互審査報告書ですよね。ここの中を見れば、FATF勧告が求めているのは、日本語で言うシキン、現行法に言う資金、これは資金、資本を意味しており、現金や簡単に現金に換えられる物に関連している、それゆえ、テロ資金処罰法の資金という単語は、簡単に現金に換えられるものだけでなく、あらゆる種類の資産を含むとする特別勧告Ⅱの全ての局面を対象とするのに不適切であるとなっているんですね。
先ほど議論をした客体の土地、建物、物品はここに入るでしょう。だけれども、役務だとか、まして情報だとか、こんなのFATF勧告が求めているものじゃないんじゃないですか。大臣、そこどう考えているんですか。
実際、もうちょっと御答弁はいただけませんが、このFATF勧告関連で今国会に掛かっている三つの法案のうち、テロリスト財産凍結法案については、安保理制裁委員会だとか安保理決議に基づいて各国が指定するテロリスト、この限定された特定の者に対する財産凍結ということでFATF勧告を満たしているわけでしょう。何でこの処罰法規についてはFATF勧告が言いもしていないものをこんなに拡大して、どこまで広がるか分からないと。何でこんな法案出すんです。

○委員長(魚住裕一郎君)
上川法務大臣、時間ですので答弁は簡潔に願います。

○国務大臣(上川陽子君)
FATFからは、客体にあらゆる種類の財産を含めるべきであるという旨の要請がなされているということでございまして、この財産等の中に情報も含めてその財産に該当するというふうに考えております。

○仁比聡平君
情報は財産じゃないでしょう。
終わります。