○仁比聡平君
私は、日本共産党を代表して、公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案に対し、反対の立場から討論を行います。
国際社会と協力してテロリストの弱体化を図り、国際的な信用を獲得、維持しなければならないのは言うまでもありません。
我が党は、二〇〇二年の現行法制定については、テロリスト及びテロ組織の活動を弱体化するものとして賛成いたしました。しかし、本改正案は、現行法そもそもの問題である資金及びテロリストの定義の不明確さによる恣意的な濫用の懸念が解消されないばかりか、処罰する主体、客体を大幅に拡大し、恣意的な濫用の懸念をますます拡大するものであり、人権侵害のおそれを増幅するもので反対です。
まず、主体の拡大は、公衆等脅迫目的の犯罪行為、すなわちテロの実行を容易にする目的という曖昧な主観的要件の下、テロ企図者と意思の連絡のない一次協力者の行為や、一次協力者の行為を容易にする目的という更に曖昧な要件での二次協力者の行為、さらには、そうした目的による限定さえなく、テロ企図者や一次、二次協力者の犯罪実行のために利用されることを明確には認識していない、いわゆる未必の故意、かもしれないという行為をもその他協力者の行為として犯罪構成要件には該当することとなり、その裾野はどこまで広がるか全く不明確です。
次に、客体を資金、資産のみならず、公衆等脅迫目的の犯罪行為、すなわちテロの実行に資する利益に拡大し、利益とはおよそ人の需要、欲望を満たすに足りるものといいますが、そこには何らの限定がありません。政府は、利益には情報をも含むとし、爆弾や武器、アジト、侵入経路などに関する情報を例示しますが、そうなら、テロ実行を具体的、現実的に容易ならしめる危険性を有するものに法文上限定することは可能です。
実行に資するという文言は極めて曖昧であり、刑罰法規としての明確性を著しく欠くものであります。こうした著しく不明確な刑罰法規を作るなら、その可罰性の判断は、まず目的、故意という主観的要件の捜査機関の心証に左右されるところとなり、勢い被疑者の供述、なかんずく自白の強要、電子メールを含む通信傍受、盗聴の拡大など、恣意的な捜査権限濫用の懸念は大幅に増幅されることになります。現実に、公安テロ情報流出事件で明るみに出たムスリム狙い撃ちの調査のような広範な人権侵害を拡大する危険が強まるのです。現行法にこれまで適用例はありません。
FATF勧告が具体的に求めるのは資金及びその他の財産をカバーすることであり、それを大きく超える本改正には立法事実はありません。テロ対策を名目にした許されない人権侵害のおそれを増幅させる広範かつ曖昧な改正案、まして、そうした運用は到底許されないと強く申し上げ、反対討論を終わります。