○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

 今日は、司法修習生の貸与制移行の悪影響と給費制の復活という問題について、大臣及び最高裁と少し議論をさせていただきたいと思っています。

 私は、貸与制移行を前にした二〇一〇年の六月にこの委員会で質問したことがございます。給費制だった当時でさえ、既に司法修習生は、法科大学院の高学費、司法試験合格までの生活費など多額の負債を抱えて、深刻な就職難の下で弁護士登録後も収入の保障がない、あるいは弁護士登録さえできないと、こういった問題が現れていたわけですが、二〇一一年に六十五期司法修習生から貸与制が開始されて、私は、大臣、事態は急速に深刻化していると思うんです。

 お手元に資料をお配りしたかと思いますが、一枚目が貸与制の仕組みですね。修習生に従来の給与支給に代えて基本月額二十三万円を貸し付けるというものなんですが、この貸与の実情を最高裁に表にしていただきました。それがその裏の二枚目です。

 最高裁、まず、六十五期と六十六期について、貸与月額とその人数、貸与月額ごとの人数だけで結構ですから、紹介いただけませんか。

○最高裁判所長官代理者(垣内正君) お答えいたします。

 六十五期の司法修習生の貸与額別の人数でございますが、貸与最終日時点で、貸与月額十八万円が三十九人、二十三万円が千三百二十一人、二十五万五千円が三百三十七人、二十八万円が四十四人でございます。

 それから、同様に、六十六期の司法修習生につきましては、貸与月額十八万円が四十三人、二十三万円が千二百七十人、二十五万五千円が三百三十六人、二十八万円が四十二人でございます。

○仁比聡平君 ありがとうございました。

 御紹介いただきましたように、法曹となって二年目に入りました六十五期、二千一人いらっしゃるそうですが、このうち八七%が貸与を受け、この冬、法曹資格を得たいわゆる一年目の六十六期の皆さんは二千三十五人で、八三%が貸与を受けていらっしゃるわけですね。

 修習生に聞きますと、親が高収入で仕送りが受けられる方、あるいは配偶者の所得で扶養されている方以外はほとんど借りているというのが実感だそうです。

 晴れて司法試験に合格して司法修習生になったら、一年間収入はなくて、逆におよそ三百万円の借金を負うことになると。法科大学院の学費も合わせると例えば六百七十万円借金があるとか、中には大学の学費から一千万円を超える借金を負って法曹になるという人が決して珍しくなくなっているわけですね。私たちがよく考えなければならないと思いますのは、この借金の返済がこれからの司法を担う若手弁護士にとってどれほど重圧かということです。

 ある登録二年目の女性弁護士の声をちょっと紹介させていただきたいと思うんですが、家族が経済的な苦境に陥って一旦は司法試験を断念しかけながら、母親の強い支えで合格して三百三十万円の貸与を受けているそうです。その三百三十万円をためる自分に対するノルマを課して、これが達成できているかどうかということを通帳で確認することが癖になっているというんですね。それは五年据置きですから返済が四年ほど後に始まるわけですけれども、この四年後に返済が始まるけれども、一回でも支払を怠れば期限の利益を失って遅延損害金も含めて一括返済を迫られることになる。貯金のない自分にはそんなことは到底できないと。そういう不安があるからなんですよ。

 そこで、最高裁に、この貸付けの仕組みですが、貸与金の回収はこれ、指定金融機関が行うことになると思いますが、それはどこが委託を受けているのか、返済が一回遅れると直ちに期限の利益が失われ一括返済が迫られるという約定は本当か、それからその際の延滞利息、これが年利何%か、御紹介ください。

○最高裁判所長官代理者(垣内正君) 修習生であった者が返済をいたします相手は裁判所でございます。委員御指摘の機関保証、保証機関というのが保証をしております。保証人を二人付けることができない修習生は保証機関と契約をして保証していただくと、こういう仕組みになってございます。現在、保証機関はオリコでございます。保証機関が代位弁済をいたしましたときには、その元の修習生に求償をするということになります。そのときは所定の遅延損害金を請求するということになっております。

 よろしいでしょうか。

○仁比聡平君 その損害金の利息は、利率は。

○最高裁判所長官代理者(垣内正君) 六%でございます。年六%でございます。

○仁比聡平君 延滞利息は年一四・五%じゃありませんか。

○最高裁判所長官代理者(垣内正君) 裁判所に対する弁済についての延滞利息と、それから今申しました求償をする場合の延滞利息は別でございまして、今私の方で御説明申し上げましたのは、オリコが求償する場合の延滞利息でございます。

○仁比聡平君 いずれにしろ、借りた修習生、元修習生の方が負う利息は一四・五%ですね、延滞利息は。それから、一回遅延をすれば期限の利益を喪失するというのは、これは私、裁判所の担当の方に伺いましたところ、そうですとおっしゃっておりましたが、そのとおりですか。

○最高裁判所長官代理者(垣内正君) おっしゃるような仕組みでございますが、請求をして期限の利益を喪失させるという形になっておりますので、こちらの方で請求をするかどうかと、延滞させるかどうかという、そういう、何というんですか、間にもう一手間といいますか、一つございます。

○仁比聡平君 払えればもちろん払うわけですから、請求を前に置いたからといって実際には何も変わらないわけですよね。つまり、オリエントコーポレーションの督促に弁護士がおびえるというような事態が冗談ではなくなりかねないんですよ。

 大臣、いそ弁ならぬ即独とか軒弁という言葉は御存じだと思いますし、この委員会でも何度か話題になったことがあると思うんですけど、携帯弁という言葉が今や若手弁護士の中で当たり前になっているそうなんですけど、御存じだったでしょうか。私、インターネットで検索をしたら、コトバンクなんかにぽんと出てくるんですけど、もし御存じだったら。

○国務大臣(谷垣禎一君) 今の携帯弁はちょっと存じませんでした。

○仁比聡平君 この委員会にも法曹の先輩方たくさんいらっしゃるんですけれども、つまり即独、事務所に所属できずに独立せざるを得なかった若手弁護士が、法律相談が入る見込みも立たないわけですよね。事務所も実質上ないわけです。ですから、携帯電話が連絡先。弁護士仲間のつてで、法律相談代わってくれないというようなメールだとか連絡だとか、そういうものを携帯で待つ、実質上待つしかないというような若手の困窮を示す言葉のようです、携帯弁と。

 資料を二枚、三ページ目といいますか、弁護士の事業所得階級別の人員の割合という資料が、これ最初、神戸新聞で報道されたのを私は拝見しまして、国税庁に確認をしたらこういう表を作ってくださいました。

 弁護士の中で、確定申告を二〇一二年行った二万八千百十六人のうち、七十万円以下であると、所得が。ちょっと考えてみていただきたいと思うんですが、弁護士活動をやり、事件の報酬などもあるんですが、経費を除いて所得が七十万円以下であるという弁護士が、二〇〇八年一一・三%、一番左側の棒ですが、二〇〇九年以降二〇%前後ですよね。つまり、二割の弁護士がこうした状況にある。

 これは、もちろん修習期別とか年齢別ということの要素は入っていない数字ですから弁護士全体を示すものなんですけれども、この中でも、私は、就職難と収入減、そして借金というこの三重苦が貸与制の世代にとって極めて深刻になっているんじゃないのか、こうした実態が当然、司法修習生や法曹志望者の意識に反映しているんじゃないのかと思うんです。

 そこで、ちょっと最高裁にお尋ねしますが、司法修習生の経済状態、どれぐらいの借金をしているかとか、それから法曹資格取得後の進路や就職について、今現在はどんな把握をしておられますか。

○最高裁判所長官代理者(安浪亮介君) お答えいたします。

 法曹の養成に関するフォーラム、これにおきまして、平成二十三年五月の中旬から六月中旬までの間に司法修習終了者の所得や奨学金などの経済的な状況に関してアンケート調査が行われたところでありまして、その結果については私どもも承知しております。

 それから、修習生の状況でございますけれども、これにつきましては、日本弁護士連合会の方で新六十五期修習生を対象にして行われたアンケートの結果について承知しておるところでございます。

○仁比聡平君 裁判所が修習生のプライベートなところまで踏み込んで継続的につかむみたいなことはなかなかやりにくいし、やることがどうかという問題もあるかと思うんですけど、ただ、今お話の出たフォーラムのときに行われた実態調査が、これアンケートによるものなんですが、これが本当にその時点での実態を反映、正確にですよ、つかめたものなのかと。実際は、そのフォーラムで行われた調査だとか、それを踏まえたいろんな議論だとか、その後取りまとめが行われたというのは、今日別の質問の中で大臣もお答えがありましたけれども、それが今現実の、とりわけ若手弁護士のその実情を本当につかんだものと言えるのかということについて改めて見直す必要があるんじゃないかと思うんですね。

 大臣、以前、谷垣大臣ではございませんが、法務省は、修習を終えれば、判事、検事、弁護士の法曹に進むわけで、修習を終えた後は経済的には特に困窮するということがない、安定した収入が得られる、法曹になった後は返済能力は十分にあると答弁をされたことがあるんですね。

 実態は、そういう認識をはるかに超える、余り使いたくない言葉なんですけれども、経済的困窮が進行しているのではないかと。大臣、いかがでしょう。

○国務大臣(谷垣禎一君) 私の手元にある資料ですと、これはいろんなばらつきはあるんだろうと思いますが、これはフォーラムでの調査、私はフォーラムでの調査を見ているわけですが、例えば修習の返還が開始される弁護士六年目の平成二十二年分所得額は平均値が千七十三万円、中央値が九百五十七万円であったと。それから、弁護士六年目から十五年目まで、十年間で返すことになっていますから、修習資金の返還を行う期間、この間の平成二十二年度分所得額分布は六百万円以上が七九%を占めていたと。他方、二百万未満は五・五%、二百万以上四百万円未満が六・七%であったというのが手元にございます。

 私どもは、今、それが良かった、きちっと実態を反映していたのかどうかということをおっしゃったんだと思いますが、私どもは一応この調査というものを前提として考えてきたということでございます。

○仁比聡平君 これまでの議論がその調査を前提として行われてきたこと、あるいはそのときにそういう調査が行われたこと自体も私は否定するものではないんです。

 実感として、これ、私も詳細な調査を自ら行えるわけではありませんから、だから大臣にこうした議論をしているわけですが、実感として、返済五年猶予して、十年間この支払は続けられますよとか、あるいはフォーラムで今出たそういう所得の中央値が、今弁護士になりたてだったり、あるいは司法修習中のこうした世代に、そういう道が開けているかと、先輩たちのように自らを自己研さんしていけば、事件に向き合っていけば、そういう道が開けていますというふうに保証ができるかというと、なかなかそれは難しいというのが現実じゃないかと思うんですね。

 ちょっとここで紹介するつもりなかったんですけれども、資料の一番最後の裏に、修習期別の弁護士の数のピラミッドを日弁連の資料でちょっと紹介させていただいたんですが、今大臣が紹介されたフォーラムのアンケートの対象になっている弁護士たちはもちろん貸与制世代ではないわけですね、現実に稼働している弁護士ですから。

 ちなみに、私、四十六期なんですけれども、この四十六期の辺りまでと、その後、司法試験の合格者数や修習生が増加する特に六十期以降の数というのは、これはもう全くボリュームが違いますですよね。先ほどの七十万円所得が二〇%かというような実情もこの辺りに起こっている出来事なんですよ。その前の先輩たちの世代、フォーラムのアンケート調査の対象になった世代の弁護士たちは、その下の分布の中で司法試験に合格して、弁護士登録をし、その中で事件を通じて、あるいは同僚たちと共に鍛えられながら、そういう弁護士としての生活、人生をつくっていくわけですけれども。

 私が問題にすべきだと今改めて思うのは、今の若手弁護士や修習生に、あるいはロースクール生に、法曹志望者に、この道が本当に開けていると言えますかと、自信持って。そこに、本当に自信持って、いやいや、そんなことはないと、頑張ればやれるというふうに言えないのならこの貸与制も含めてやっぱり見直すべきだし、すぐにそうした結論を大臣がお述べになることにはならないかもしれないけれども、やっぱり少なくとも日弁連とも連携をしながら、現時点に立った、本当にどうなっているのかという詳細な実態把握をする必要があるんじゃないかと思うんですよ。大臣、いかがでしょう。

○国務大臣(谷垣禎一君) あのフォーラム以来いろいろ確かに議論がございまして、その議論を重ねまして、去年六月に法曹養成制度検討会議で、これは貸与制を前提としているわけでありますが、司法修習生の経済的な対応をもう少し変えられないかという議論の中で、昨年十一月修習開始の六十七期ですが、その修習生から、分野別実務修習開始時の移転料の支給等の措置を実施すべきであるとまとめられまして、七月の関係閣僚会議で認められたと。

 それで、六十七期からこういうことが行われたところでございますので、最高裁とも連携しなきゃいけませんが、こういった取組を着実に進めていくということが今の段階であろうと思います。もちろん、実情がどうかということはよく見ていかなければいけませんが、現段階ではこういうことをしたというところでございます。

○仁比聡平君 今大臣が後段で、もちろん実情はよく見ていかなければならないと、そこをおっしゃったことが私は大事だと思うんですよね。三つの方策が定められて進められているというのは私も承知しておりますし、抜本的に問題を解決することにはならないと思うけれども、それぞれはニーズがちゃんとあるわけですから、それはしっかり進めていきたいと思うんですよね。

 制度や法曹養成制度全体、あるいは司法のこれからということを考えたときに、私たちが問題としなきゃいけないのは、貸与制が前提だという結論で本当に問題が解決するのかということなんですね。

 給費制が維持された六十四期までは、就職の不安はありながらも、少なくとも修習中の生活の不安はなくて、修習と進路選択に専念することができたと思いますけれども、六十七期の修習生と話をしていて、私はこの貸与制が修習そのものに深刻な悪影響を与えているんではないのかと痛感をしています。実際の修習生の言葉として言うと、生活費を確保するのにいっぱいいっぱいで、ロースクールまでの奨学金の返済もある。だから、二十三万円貸与を受けるんですけれども、そのお金をなるべく使わないで貯金をしようとしてしまう、できたらバイトしたいという、そういう意識が自分から離れないというわけですね。

 しかも、深刻なのは、僅か一年間しかないわけですよ。大臣や私たちの世代とは違う。この一年間の司法修習の期間中に就職活動に焦り続けるというのが現実の実態なんですよね。修習の期間がもう僅か一年ですからどんどん進んでいきますけど、これ、どんどん進む間にその焦燥感というのは募るばかりでしょう、どんどんどんどん強い不安感が迫ってくるでしょう。だって、このまま決まらなかったらと、収入がなかったらと。やっぱりそういう不安というのは夜も眠れないような思いなんじゃないかと思うんですけれども、これで修習に専念ができるでしょうかということなんです。

 私は、戦後の法曹養成制度の法曹一体、統一修習という理念は大事なことだと思うんですね。法曹三者、自分の希望進路と違う別のそれぞれの立場にも立ってとことん事件に取り組む、事件に向き合うと。目の前にある証拠を見極め、供述をしっかり聞いて、事実を見抜いて、権利の実現のためにという法と良心をしっかり鍛えていく、先輩実務法曹や同僚の修習生と徹底して議論をして実務法曹としての修練を積んでいくと。修習に専念するというのはそういうことなんじゃないでしょうか。修習先によるでしょうけれども、ですから、決め付けるわけじゃないんですよ。

 だけど、ちょっと現場の様子を聞きますと、例えば裁判修習で、かつては記録の検討だとか、判決の起案だとか、裁判官との合議だとか意見交換だとかで裁判所に私もかなり居残っている方でした。けれども、そういう居残る修習生というのは随分減って、指導官の中には、お金ももらっていないんだからそんなに残る必要はないよと口にする方もあるそうです。二か月しか裁判修習ないんですけど、法廷傍聴は一か月だけで、あとの一か月は、課題は出るけれども好きにしておいてというようなところもあるそうなんですね。そのことを、先輩で実務法曹のお一人は修習が薄まっているというふうに表現をされましたし、ある修習生は、修習生はお客さんなんでしょうかと、こういうふうにおっしゃいました。

 もしこういう実態が広くあるとするなら、私は、修習の理念そのもの、法曹養成の理念そのものが壊れてしまうのではないかという懸念を我々持つべきだと思うし、その一因として貸与制というものもこれやっぱり役割を買って出ている、そういうことになっているんじゃないかと思うんですよ。

 私、こういう観点も含めて、実態を是非とも大臣に調べて、給費制の復活、貸与制は見直すという方向を打ち出していただきたいと。時間がなくなりましたから、強く要望をさせていただきたいと思います。

 いずれにしても、先ほどお示しをしたこの貸与制に、これから今のままではなっていくこの世代が我々日本の司法を担っていく世代です。この一人一人がどんなふうに自らを磨いていくことができるのかというのが日本の司法の将来の質を決めるわけですよね。私は、どんな権力からも自由で、事実と証拠に基づいて権利を実現する、社会正義を実現をするために法と良心を働かせるという、そういう法曹として、全ての志望者がそうした道をたどれるように、やっぱり私は抜本的に今考え直すべきだと思います。

 そのことを強くお願い申し上げまして、質問を終わります。