○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
今日、この裁判員制度の集中的な質疑ということが実現をしたということを改めて良かったなと思っております。(発言する者あり)午前中の参考人質疑も含 めまして、大変多様なテーマでの議論が今日は実現をしているわけですけれども、今も声がありましたように、今後も時期を見計らってこうした集中的な質疑を 実現をしていただきたいと思いますし、加えて、この制度の問題については大変多様な意見が私たちの社会の中にあるわけでございますから、そうした意見を十 分伺える参考人の質疑も引き続き検討をしていただきたいというふうに委員各位にお願いを申し上げておきたいと思います。
〔委員長退席、理事松村龍二君着席〕
裁判員制度は、死刑求刑事件を含む重大刑事事件について行われるわけです。こうした事件によって発生した被害が重大なものであるとともに、一方で我が国 では、四大死刑再審冤罪事件を始めとして、戦後の憲法、刑事訴訟法の下でも、虚偽の自白や違法な取調べによって警察、検察が獲得した供述証拠が裁判を誤ら せ、重大な人権侵害を繰り返してきたという痛苦の経験がございます。
午前中の参考人質疑でも、怖くないから来てくださいといったたぐいの宣伝は、裁判員となる国民の皆さんを誤らせるのではないかといった認識が共通に語ら れたと私は思っております。裁判員として参加する国民の常識あるいは多様な経験が、その良心に基づいて発揮されるためには、とりわけ虚偽の自白や違法な取 調べが真摯に争われる重大事案で、捜査機関の提出する証拠、中でも供述証拠には危険が潜んでいるということを十分認識した上で裁判員が審理、評議に臨まな ければ、良心を生かした判断はできないという問題があると思うんですね。これは大変重要な課題の一つだと思います。
そこで、この点についてお尋ねをしていきたいんですけれども、まず最高裁にお尋ねをいたします。
被告人の自白、あるいは共犯者の供述、目撃証言、こういった危険な証拠というふうに言われてきた供述というのがあるわけですけれども、こうした供述証拠 の証拠能力や信用性を判断するに当たって、どこに危険が潜んでいるのかを吟味していく上での注意則ないし準則について、裁判所はこれまでどんな問題意識で どんな研究をなされてこられたんでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) 今委員御指摘の自白の信用性、任意性を含めますね、あと例えば共犯者の供述の信用性と、それから、 目撃証言というのは犯人識別供述ともいいますけれども、の信用性、あとよく問題になるのが状況証拠の観点から見た事実認定、こういったものが事実認定に関 して実務上これまでいろいろな裁判例の中で特に問題となることが多かったということがございまして、司法研修所で裁判官が過去の裁判例を整理、分析してい るというものがございます。これは、その整理、分析の結果を一つの手掛かりとして、より良い審理、判断の参考にされることを目的にしたものであろうという ふうに認識しております。
○仁比聡平君 今御紹介があった司法研修所の研究というものは、それをそろえただけでこんなに積み上がるぐらい大部なものがございまして、 研修所以外の裁判官だとか研究者が研究したものも含めれば大変膨大な事実認定についての分析というのがあるわけですよね。それだけ事実に迫るというのは、 いろんな積み重ねがこれまで行われてまいりました。
その中で一つ、自白の問題について、司法研修所の自白の信用性という研究の報告をこちらに持ってまいりましたけれども、この自白について、人はやっても いないことをさもやったかのように供述する、正確には供述させられるわけですけれども、これがあり得るからこそ虚偽の自白というのが問題になるわけですよ ね。あるいは、あってもないことをさもあったかのように供述する、供述させられるということがあり得るんだという、この危険性を裁判所はどういうふうに認 識して供述証拠の吟味に臨んでこられたわけですか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
委員御指摘の点ですけれども、裁判所がどのように認識してと、こう言われまして、いろいろな多くの裁判官がどのように認識してということになろうかと思 います。それは、各裁判官がどのように認識しているかというのを今ちょっと私が一概に申し上げられるということではないんでございますが、委員が先ほど御 指摘になった司法研究、これなども参考にしながら各裁判官は審理に臨んでいるものと考えております。
○仁比聡平君 この自白の信用性の研究報告だけ見たって、これはもう膨大な角度、テーマでの研究があるわけです。実際にそれは具体的な生きた裁判の事件において争点になっているわけですね。
この司法研修所の自白の信用性についてという研究報告の中で、裁判官の共著によるものですけれども、こうしたくだりがあります。適正かつ妥当な事実認定 をしたいということは、我々実務家の永遠の願望であり、終生の目標であると。この職業裁判官、あるいはこれは検察官や弁護士も同様かと思うんですけれど も、こうした今日プロという言葉で表現されている実務法曹は、この証拠からどう事実に迫るのかという、ここについて大変な、言わば生涯を懸けた研究を続け ているわけですね。
〔理事松村龍二君退席、委員長着席〕
一方で、裁判員は、生涯に一度だけだとしても、多様な経験と市民としての常識を持って裁判に参加いたします。これは、これまでもこの委員会で刑事局長と も議論してきたように、職業裁判官と裁判員は全く対等にこの事実に迫るという、その活動をするのであります。そのときに、裁判員がその良心を発揮して事実 に迫れる審理や評議にならなければ、裁判員制度はその根幹を失ってしまうことになるわけですけれども、一方で、供述証拠の危険性というのは、これまで人類 の中で、あるいは我が国の刑事訴訟の中で積み重ねられてきた基本的な認識だとかその評価に当たっての注意則というのがあるわけですが、これはどういうふう に今後生かされるようになるわけでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) 裁判員裁判になれば、職業裁判官とそれから一般の国民から選ばれた裁判官、それは裁判についてはこれまでになじみがない方ではありますけれども、そのそれぞれの協働、双方の協働で審理に臨むわけでございます。
それは、裁判官は裁判官の経験に基づいた、今注意則とおっしゃいましたけれども、いろんな物の見方や視点というものを議論の中で当然話すことにもなると 思いますし、それから裁判員は裁判員で、それは様々な社会経験を持っておられますから、そこから出てきた見方だとか視点だとか感覚も述べられまして、それ らがうまく議論の中に入って、そしていい結果が出てくるだろうというふうには思っております。
ただ、その前提としてよく分かる充実した審理が行われなければいけませんので、そこはまず検察官、弁護人においてきちんとしたかみ合った的確な立証が行われないといけないと思うわけですね。
そういう中で、検察官に立証責任があるわけでございますから、検察官の主張、立証を、弁護側の反証、反論を踏まえて評価していくという形で、そういう今おっしゃった事実認定にしても、そういういい結論に到達できるのではないかというふうに考えているわけです。
○仁比聡平君 申し上げている供述の持つ危険性や、それを吟味する上での注意則というのは、今の刑事局長の答弁で伺いますと、まず当事者である検察官、そして弁護人、被告人による争点の設定と、主張、立証によって明らかにされるということなのかなと受け止めたわけですけれども。
公判審理はそうした争点が十分裁判員に理解され、心証形成ができるように組み立てられなければその役割を果たせないということになろうかと思うんですね。具体的にはどういう運用が考えられるわけでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
まず、公判前整理手続の段階で争点が適切に整理されなければいけませんし、それから提出される証拠も、これは適切に選ばれなければいけないんだろうと思います。
もちろん、これはあくまでも当事者がイニシアチブを取るといいますか、当事者がまず、当事者追行主義でございますから、当事者の主張、立証を尊重して やっていくことになると思いますけれども、そこできちんと、つまり真相の解明に十分必要な主張、立証ができるような整理、そして審理計画が立てられないと いけないと思います。まずそれが第一だと思います。
○仁比聡平君 確認になりますけれども、そうしますと、検察官がどういう形で有罪を立証しようとするのか、その証拠がどうなのかと。一方 で、弁護人が被告人の防御権を体してこういう形で防御をするというような形の争点ということになると思うんですが、それは供述証拠の何らかの問題点が争わ れるということになれば、その法曹はこれまで過去積み重ねられてきた注意則に沿った争点の設定をしようとすると思うんです。そういう意味では、そういった これまでの経験を踏まえた公判審理が組み立てられるんだということなんでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) おっしゃるとおりだと思います。
○仁比聡平君 加えて、個別の裁判で、これは必要かどうかというのは、それはもちろん個別の裁判の判断だと思うんですけれども、ですから法 務省の刑事局長にお尋ねした方がいいのかもしれませんが、当事者が請求をして、その裁判で必要だとされた場合、一定の条件の下での供述の危険性だとか信用 性、これを判断する上での注意則について、専門的な証人、専門家証人、例えば供述心理の分野の方、そういった方を採用して意見を聞くということも、この裁 判員制度の制度上はあり得ると思いますけれども、いかがですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 今、特に自白供述の評価等についてなかなか難しい問題があるという御指摘がありまして、それはもう誠におっしゃるとおりであります。
検察官といたしましては、公判に至る前に、捜査段階でまずそこを正しく評価しなければいけないということで、大変その点については今後も強い、何といいましょうか、関心といいましょうか、問題意識を持って臨んでいこうというふうに考えておるわけであります。
じゃ、実際に公判でそれがどういう形で問題になってくるのかという点につきましては、検察官が自白調書を証拠請求する場合には、当然、その任意性、信用 性を前提とするわけでありましょうから、そういう場合に、これに対してそこに問題があるという問題点の指摘、これは基本的に公判前整理手続においてまず弁 護側から具体的に主張していただくことになるんだろうというふうに考えております。それに応じて必要な立証を、どういう立証をしていくのかということを計 画していくことになると思うわけであります。
専門家、心理についての専門家を例えば証人として調べる余地はないのかと、こういうことでございますが、学識経験のある者が供述心理等について鑑定を命 ぜられるような場合が法律上全くないわけではないだろうというふうに思うんでありますけれども、しかし、実際に何をその要証事実にしてどういう証言を求め るのかというのは個別事件あるいはその際の主張によっても変わってくるわけでありまして、一律になかなかどうかというふうには言いにくいように思います。
また、自白を含めまして、その任意性あるいは信用性の判断、これは、裁判員を含みます裁判側、裁判官等の自由な判断にゆだねられているわけであります。 今特別な法則というようなお話もありましたけれども、これも最終的にはしかし常識といいましょうか、に照らして納得できるかどうかというような辺りにもな るように思うわけでございます。
○仁比聡平君 今、大野局長、大分長く御答弁をいただきましたけれども、制度上、私が申し上げたような専門家証人の採用というのはあり得な いわけじゃないと、あり得ることと。それが必要かどうかは、それはもちろん個別の裁判の話ですからそれは結構なんですけれども、これまで職業裁判官が判断 権者であった事件、しかも重大な事件、ここについて真摯に供述証拠の信用性、任意性が争われたときに裁判員がどういうふうに考えるべきなのかということを しっかりはっきりさせながら臨んでいくというのは重要なことだと私は申し上げたいわけです。
模擬裁判を振り返ってみましても、六百回ほど行われたというんですが、昨日勉強でお尋ねしましたけれども、その中で、四大死刑再審事件で問題となったよ うな別件逮捕下での自白だとか、拷問による自白だとか、あるいは鑑定書が偽造ではないかというような争点が争われた模擬裁判というのはないわけですね。事 件においてそういう争点が争われたときに、しかも結果は重大な事態が起こっているわけですから、そこで市民の裁判員が争点を理解して判断していく上でどの ような問題点があるのかというのは、これは模擬裁判においては検証されていないことなんです。
今日、松野委員からも関連した御質問がありましたけれども、私は、こうした問題が争われる重大事件でこそ国民の皆さんの常識と経験に基づく事実認定とい うのが期待もされていると思いますし、審理期間の問題はもちろんのことですが、公判廷での十分な審理、そして裁判員が裁判官と対等に臨む評議、ここの重要 性というのは幾ら語っても語り過ぎることはないというふうに思っております。
そこで、ちょっと検証という問題について少し聞いておきたいと思うんです。
この委員会の三月二十四日の質疑の際に、木庭理事の方から、最高裁そして法務省がどのような検証に向けた取組をしているのかということが詳しく聞かれて おりますので、会議録としてはそちらを参照していただきたいんですが、端的、そういう意味では短く、最高裁が設置された有識者懇談会の役割というのは何で すか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
裁判員制度の実施に当たりましては、実施前に十分な準備を進めるとともに、実施後もその実施状況を不断に検証して、社会に根差した制度になるよう育てて いく必要があるというふうに思っています。裁判員法百三条が裁判所に毎年実施状況に関する資料の公表を義務付けているのも、このような趣旨に基づくものと 認識しているところです。こうした趣旨を全うするためには、制度実施状況を実証的なデータに基づき分析し、幅広く国民的な視点から裁判員裁判の運用の在り 方を検討することが不可欠です。
そこで、裁判所がこのような分析、検討を行う際に適切な助言、御意見をいただくための機関として、裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会を設置したところでございます。
○仁比聡平君 今もお話がありますように、実施後も実施状況を不断に検証することが必要だと。不断にというのは、つまり五月に実施されると すれば公判前整理手続始まるでしょうし、七月には公判も始まるのではないかというふうな見方もあるわけで、そうした経過に沿って不断に検証するということ だと思うんですね。それも実証的データに基づいて分析する、幅広く国民的な視点から在り方を検討するというふうにおっしゃっておりまして、これをどうやっ て、どういうデータ、実証的なデータとは何ですかということが問題になろうかと思います。
これは、どういうふうにしようとしているんですか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
選任手続の状況とか、それから審理、評議、判決の状況などを始めとする裁判員裁判の実施状況を示す各種の統計データ、これございます。これはもちろんで すが、数値的な要素のみでは十分に把握できない国民の負担感とか裁判員制度に対する認識の状況等については、裁判員等を経験した国民を対象とするアンケー トを実施するなどして把握、分析していくことを予定しておりまして、そのようなデータを基に議論を進めることになると思われます。
○仁比聡平君 今日も朝の参考人質疑からずっと問題になっています。共通認識に恐らくなっていると思うんですが、裁判員を経験した方のその 事件とのかかわりでの意見、これ極めて重要だということだと思います。懇談会でもある委員から、アンケートの結果はどのような事件に参加したかによって異 なってくるのではないか、事件の内容などを抜きにして単純にアンケートを取っても有意義な結果が得られない可能性があると、こういう指摘がされているとお りだと思うんですね。
私、前の質疑でも想定いたしましたケースですけれども、そこで問題になるのが守秘義務ということで、今日もずっと議論があっているわけですが、評議の在 り方について、これ不断に検討する、あるいは、こちらは法務省の所管ということになると思いますが、三年後の見直しについてどうするのかということを議論 するときに、評議の在り方についての検証というのは、裁判員がそこでどのような体験をし、意見を持っているのかということ抜きにはこれは語れないと思うん ですよ。
評議の秘密にかかわる部分がその裁判員にとって最も重大な問題意識であるというときに、いや、そこはアンケートにも書いちゃいけませんよとか、どういう 場でも話してはいけませんよということになったら、その人の意見というのは聞きようがないでしょう。どうするんですかね。最高裁、どうですか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) 守秘義務は、その守秘義務にかかわるところを聞かなければ目的を達しないのではないかという委員の 御指摘でございます。その点についてちょっと私、コメントは控えたいと思いますが、守秘義務は法律上の義務でございますので、裁判所としてはそれを尊重し て行うことになろうと、それは思っておりますけれども。
○仁比聡平君 私は、守秘義務を解除することなしにその評議の在り方も含めた検討というのを検証、これをするというのは、これはやっぱり現 実問題として不可能なのではないかなというふうに思います。これ、守秘義務を解除するべきではないのか、少なくとも検証するに当たってはそうすべきではな いのかという今日議論があっておりまして、大野局長からも答弁がありましたから、今日それ以上の御答弁されないんでしょうから、時間もありませんので答弁 はもう求めませんけれども、私は、これ大臣にも強く申し上げておきたいんですが、守秘義務の規定を削除するということも含めて三年後の見直しに向けて真剣 に検討するべきだし、裁判員を経験する方々の意見を率直に文字どおり聞いていくべきだというふうに思っております。
最後に、これは最高裁。
昨日、勉強の中で、今お話のあったアンケートの分析なんですけれども、これ民間の業者に委託するかのようなお話が耳に入りました。地裁が取りまとめて業 者に分析を依頼すると。こんなことあり得るんですかね。守秘義務がというふうにおっしゃりながら、民間の業者にその自由記載欄の取りまとめなんかをさせる なんというのは、こんな変な話はないと思いますが、この点についての答弁を伺って、終わります。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
アンケートの実質的な作業については、業者に委託することを予定はしております。アンケート項目の設定とか結果の分析等に当たって専門的な知見を活用す べき部分も多く、またアンケートを中立的に実施するためにも業者に委託するのが相当というふうに考えているからでございます。
○仁比聡平君 だったら守秘義務の削除をするべきですよ。
終わります。