○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平です。
私は、日本共産党を代表して、法務委員長杉久武君の解任決議案に賛成の討論を行います。
賛成の理由は、昨日の法務委員会において、入管難民法改定政府案と野党対案一括審議の終了後、再開した理事会で、職権で質疑終局、採決を決めたことに尽きます。
五月十二日の本会議代表質問以降、委員会審議を通じて、衆議院では明らかにされてこなかった法案の根幹に関わる重大問題が次々と明らかになっています。にもかかわらず、それらの問題に蓋をし、これまで入管行政の闇の中で繰り返されてきた人権侵害をただすことなく政府案を成立させるなど、断じて許されません。今、熟議、再考の府たる参議院に求められているのは、更なる徹底審議です。
審議を尽くすべき問題の第一は、我が国に難民はほとんどいないとする誤った認識を正し、国際水準へ転換する、立法府としての責任を果たすことです。
入管庁の一次審査で難民として認められなかった人が、それをただす不服申立てに関与する難民審査参与員の役割は重大です。ところが、焦点の柳瀬房子参与員を始め一部の参与員は、難民はほとんどいないなどの発言を繰り返し、それが政府案の説明資料や国会答弁で援用されてきたことに、多くの参与員から、あり得ないという抗議の声が広がっています。
法務大臣は、政府案の土台となった専門部会の委員だった柳瀬氏の発言を我が国の現状を的確に表しているなどと擁護してきましたが、先日三十日、閣議後記者会見の発言を夜になって訂正するという異常な経過で、柳瀬氏の言う回数の対面審査を行うことは不可能であることを認めるに至りました。
参院審議になって初めて、入管庁は、年間審査総数の四分の一、千二百件以上もの審査を柳瀬氏が担当したと説明する一方で、他の参与員からは、二年間一件も配分されなかったとか、入管の不認定を覆す意見を述べたら配分を大きく減らされたなどの告発が相次いでいます。難民認定上、極めて重要な当事者へのインタビュー、口頭意見陳述も行わせず、書面審査のみで大量の案件の迅速処理を特別に担う臨時班が存在することも明らかになりました。
難民参与員制度が送還ありきのベルトコンベヤーに組み込まれているのではないか。迫害の危険を示す出身国情報をまともに参照せず、予断を持って難民ではないと決め付けて強制送還してきたのではないか。一次審査を含む入管の難民認定の実態を徹底して明らかにし、政府案が臨時班なるものを担う一部の参与員の声だけを立法事実として主張する偏りをたださなければなりません。
柳瀬参与員は、柳瀬参与員問題は、日本に難民などいないどころか、入管庁による難民認定審査がどれほどずさんかを明らかにしつつあります。政府の立法事実は大きく崩れ始めていると言うべきであります。
提出された資料は、まだごく一部です。極端に偏った事件配分はどのように行われてきたのか。チェックされるべき入管が自ら行ってきたのではないか。それがUNHCRガイドラインや難民法裁判官国際協会の基準など国際水準からいかに遠いか。資料を委員会に提出させ、審議を深めようではありませんか。
第二は、様々な事情で帰国できない非正規滞在者を一くくりにして送還忌避者呼ばわりする入管庁のごまかしを明らかにし、人権と人道を尊重する保護と共生への転換を実現することです。
入管庁は、送還忌避者が、令和三年末で累積三千二百二十四人、令和四年末、四千二百三十三人に上るとしきりに強調してきました。ところが、その内訳や、一年の間に新たに送還忌避者とした者は何人か、一方で、送還や難民認定、人道配慮、在留特別許可を受けるなど送還忌避者ではなくなった者は何人かと聞いても、業務上統計を作成していないので答弁は困難と拒んでまいりました。法案審議の根幹に関わるという法務委員会の求めで開示された一部の数字だけを見ても、送還忌避者の中に日本社会に根差して生きる多くの人たちがいることが明らかになりつつあります。
とりわけ、そこには日本で育った十八歳未満の子供が昨年末時点で二百九十五人含まれていること、その両親、兄弟姉妹は二百九十六人、計五百九十一人に上ることがようやく明らかにされました。しかし、そこには含まれていない日本人家族、在留資格が得られた家族、祖父母やおじ、おばなどの実情や、子供たちの教育や将来に立ち塞がる深刻な壁の実態はいまだに明らかになっていません。調査や集計に時間が必要なら、十分な資料提出を受けるまで待ち、審議を尽くすのが当然ではありませんか。
政府案は、難民認定申請が三回目以上になれば、子供たちもその家族も法的に原則強制送還の対象にするものです。
委員会でラマザン参考人は、日本ではまだ守られるべき人たちが保護されていません、彼らは今度の政府案が通ったら送還されるのではないかとおびえていることを知ってください、私も家族が送還されてばらばらになるのではないかと不安でとても怖いですと訴えました。
法務大臣は、同じ思いだ、真剣に前向きに検討していきたいと答弁していますが、施行までに検討するというのでは入管庁任せになりかねません。法案の審議を通じて方針を定めるのは立法府の責任であります。入管庁に白紙委任などできるはずがないではありませんか。
最後に、二〇〇七年以降だけで十八件に上る入管収容中の死亡事件、繰り返される不適切処遇の真相解明、徹底検証はこれからであります。
ウィシュマさんの死亡事件は、たまたま起こったものではありません。入管庁が、非正規滞在者を一くくりに悪質な送還忌避者としてその縮減を進め、入管の判断だけで収容が上限なく行われ、帰国意思を示すまで自由を奪い続ける、拷問のような人権侵害構造の中で引き起こされたものにほかなりません。
ところが、政府案にその根本的な反省はないではありませんか。
二〇一八年以降、入管庁は、本庁で縮減目標を設定し、各入管に達成目標を定めさせ、毎月その状況を報告させ、達成度を重要な業績評価の指標にしてきたことが明らかになりました。これは送還ありきのノルマにほかなりません。
その下で入管庁は、非正規滞在者の様々な事情を顧みず、在留資格の制限や取消し、仮放免取消しによる再収容など、耐え難い長期収容や、生活の糧を奪ったまま放置する仮放免を送還促進の道具としてきました。
難民条約三十三条が定めるノン・ルフールマン原則は、難民及び庇護希望者の重要な経済的、社会的権利を否定し、迫害のおそれある国に自ら帰還せざるを得ない状況に追い込むことをも禁ずる原則です。
入管庁が人権侵害の構造をつくり出してきたあらゆる通達を明らかにさせて廃止を求め、根本的に入管のブラックボックスを打破すべきではありませんか。
法務大臣が国会で、ウィシュマさん死亡事件の教訓を踏まえ、改善策に誠実に取り組むなどと答弁を繰り返すその陰で、大阪入管の常勤医師が泥酔し、患者への暴言、不適切な投薬を行ってきたことがスクープ報道されて初めて発覚し、法務省は問題をいつ把握したのかと質問されても答えられないなどという隠蔽体質をそのままにして、政府案の採決に及ぶなど、全くあり得ません。この週末、国民の怒りの声は更に大きく広がるでしょう。
杉委員長と自民、公明、与党の猛省を促し、法務委員会において更に徹底審議を尽くすことを強く求め、法務委員長解任決議案に賛成の討論を終わります。(拍手)