第170回国会 参議院法務委員会 第2号
2008年11月13日 仁比聡平参議院議員 ○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
私からは外国人研修生・実習生問題についてお尋ねをしたいと思うんですが、これは、建前は研修あるいは技能移転というふうに言われながら、現実にはパスポートの取上げや強制貯金、あるいは巨額の保証金やその担保のための田畑あるいは保証人という、こういった形で縛り付けられて奴隷のように酷使される、その中で、労働関係法令の違反はもちろんのこと、失踪者やあるいは自殺者まで相次いできたという、そういう実態があるわけでございます。


私も、前の国会で、こうした研修生を食い物にする国際的な人材派遣ビジネスを告発をいたしまして、元鳩山大臣とも随分議論をさせていただいたんですが、この外国人研修生・実習生問題の制度の見直しにかかわる議論がせんだっての三月の閣議決定も含めて様々行われているところなんですけれども、この見直しに当たって、現実に起こっている人権侵害の実態を直視することなしに実効性のある見直しはかなわないというふうに私は思います。
大臣にまずその基本的な認識をお尋ねをしたいと思うんですけれども、そういった研修生の実情の下で、さらに今の世界的な金融危機あるいは経済的な危機の下で、自動車関連産業を始めとして真っ先に実習先を失っているという事態がございます。例えば、愛知県のある自動車部品の下請、これはカーナビゲーションに貼るシールを印刷するというそういう工場のようですけれども、ここで研修をしてきた五人のベトナム人女性、二十二歳から二十五歳ですけれども、減産を理由に十月末までに解雇されているんですね。研修生の解雇というのが一体どういう事態なのかということもあるわけですが、今日そこを議論しようとは思いませんけれども、こうした相談が激増して、実際に失踪してしまうという、そういうケースも出ています。
この研修制度をめぐるこうした事態を法務大臣がどのように認識をし、今後どういうふうにすべきだと考えておられるか、お尋ねをしたいと思います。

○国務大臣(森英介君) 私は平成五年に労働政務次官を務めまして、また地元にも水産加工業あるいはいろんな分野で研修生が大勢おりまして、大変関心を持ってこの制度については見守ってまいりました。委員御指摘の点につきましては、研修生、技能実習生の保護の観点から極めて重大な問題であるというふうに認識をいたしているところでございます。
研修生、技能実習生はその受入れ機関が不正な行為を行った場合にその影響をもろに受ける立場にありますので、法務省としては、研修生、技能実習生に不適正な対応が取られている事業については不正行為に認定し、その受入れ機関については三年間の受入れを停止する措置を講じているところであります。
加えて、今委員の御質問の中にもございましたけれども、現在、研修・技能実習制度を改正して研修生を労働関係法令の保護の対象とすることなども検討しているところでございまして、それは現状の不都合な点を本当に十分しんしゃくした上でというふうに私は思いますけれども、検討しているところでございまして、これは次期通常国会で恐らくお諮りすることになろうかと思いますが、こういうことで、法務省としては今後とも適正な研修・技能実習の確保と研修生の保護に万全を尽くしてまいりたいと考えております。

○仁比聡平君 そこで、今日は政府所管の公益法人による研修生ビジネスというべき問題について取り上げたいと思うんですね。
厚生労働省政務官にわざわざおいでいただきました。といいますのは、お手元に資料をお配りしていますけれども、厚生労働省の労政担当参事官室所管の社団法人国際労働運動研究協会という公益社団法人が収益事業として行ってきた外国人研修生・実習生受入れ事業について、法務省入管局から、三月五日、不正裁定が下されていると思います。この労政担当というのは伺いますと労使関係の事業を担当するという部署だそうですけれども、そのひざ元で起こったこうした事態について厚労省がどのように受け止めておられるのか、お尋ねをいたします。

○大臣政務官(金子善次郎君) ただいま先生御指摘の点でございますが、当省が所管する公益法人でございますけれども、法務省から不正行為に係ります認定を受けましたことは誠に遺憾であると考えております。
そこででございますけれども、当省といたしましては、ただいま御指摘のありました社団法人国際労働運動研究協会でございますが、これを所管する立場といたしまして、本日と明日にかけまして同協会に対する検査を行う予定を元々立てておりまして、必要な調査を厳密に行った上で、その結果を踏まえてどう対応をするか、厳正な対応に努めてまいりたいと、このように考えております。

○仁比聡平君 私、昨日、事前に通告の段階で、たまたま今日、あした、実地検査をする予定だったというふうに事務方の方から伺ったんですけれども、政務官もそんなふうな御説明を聞かれたのかもしれませんが、私が国会で取り上げる今日、あしたに実地検査をたまたま予定していたというのはあきれた弁解じゃないですか。国会議員から調査が始まったので慌てて形を整えているというふうに正直におっしゃったらどうかと思うんですが、金子政務官の率直な御感想を伺いたい。

○大臣政務官(金子善次郎君) 当省といたしましては、この公益法人にかかわらず所管の公益法人、団体につきましてはこれまでも実地の検査をするということで対応しているわけでございまして、この件につきましても、先生御指摘のようなことの流れで今日、あしたということではなくて、この予定で進んでいた、進めてきたというふうに私としては認識をいたしております。

○仁比聡平君 ならばお尋ねをしたいと思うんですが、処分は、不正裁定はこれは今年の春のことなんですよ。厚労省は、あるいは参事官室は、その処分が行われたという事態、つまりおひざ元の公益法人で外国人研修生制度について不正裁定を入管から下されたというこの事態について知ったのは一体いつなんですかと。今政務官おっしゃったように、過去、社団法人ですから、これは事業報告がございますし、それに対して実地の検査というのも一定の期間ごとにはおありのようです。その中でこうした不正やその端緒があるということに気付いたことがおありですか。

○政府参考人(荒井和夫君) お答え申し上げます。
今回の法務省の不正だということに関する処分につきましては、私ども実は承知しておりませんで、先生からの御指摘を受けまして知ったということでございます。その後事実関係を調べたということでございます。
先生今おっしゃいましたように、事業報告などは私どもちゃんと必要な審査をした上で指導をしているわけですけど、そこからはそういう状況は分からなかったというふうに考えております。

○仁比聡平君 それでいいのかということを私は今日申し上げたいんです。
つまり、青年たちが、外国人労働者が食い物にされているということがこれだけ大問題になり、法務大臣も冒頭基本的な認識はお示しになられたわけですけれども、実際には事業はほとんどこれ認可されると、これ県だったり経産省だったりしますけれども。その後、まともな監督というのは行われないんですね。かかわっている方に言わせると、認可するだけで監督は全くしないと。これは一体どこが責任を持っているのかという議論になると、法務省も含めて、厚労省も含めてですが、五省の共管の事業ですから、これは一体どこが責任持っているのかさっぱり分からないという事態の中で、私は言わば野放しの状態になっているんじゃないかと思うんですよね。
この言わば野放しのような状態になっている中で、この制度そのものは廃止するべきではないかという強い意見もあるわけですが、私はこの野放しのような状態を制度の見直しを含めてせめて変えるべきではないかということの問題を提起をしたいと思うんです。
その点についてきちんとお答えを伺う前に、この社団法人の関連でどんな事態が起こっているのかということを少しお尋ねしたいと思うんです。
お配りをしています資料の一枚目から三枚目までは、この社団法人が各地の支部と称する事業者との間で契約を結んでこの事業の一部を担わせるという、こういう契約書のひな形だろうと思うんですが、厚労省から提出いただいたものです。一枚目の契約書の柱書きのところを御覧いただくと、この社団法人の方が本部、甲とされ、もう一方の契約の相手方も社団法人という冠が付いていますですね。けれども、この契約の相手方になる支部と称するところは、設立されている社団法人の支部でもなければ、つまり機関でもなければ独自に社団法人の許可を受けている団体でもないわけです。これはそのとおりですね。審議官で結構です。

○政府参考人(荒井和夫君) この支部と称するところは今先生おっしゃられたように独立して法人格を持っているところではございません。また、組織上は、少なくとも定款上、この支部が本体の法人の一部であるという、そういうことにはなってございません。

○仁比聡平君 この支部を称する企業がどういう事業者かということで、私のところに直接御相談がございます中日本統括支部というところを御紹介しますと、この支部を称している企業、Tと仮に申し上げておきますが、ここは労働者派遣業を営んでいる会社です。この労働者派遣業を営んでいる会社が研修生、実習生の、私の手元に残業手当明細というのがございますから、ちょっと紹介をいたしますと、これ、その派遣会社が研修生、実習生を受入れ企業に送って、そこから恐らく対価をもらった上で残業手当として払っているわけですね。ある月のものを見ますと、研修生というのは残業は本来してはならないのに、させてはならない、あってはならないのに、残業が七十一時間もなされた上に、その単価は時間当たり六百円。これ、最低賃金がその当時で恐らく六百九十四円だと思いますから、これの以下であるとともに、割増しも全くないわけですね。しかも、去年の十月二十日まではAという会社に研修をしている、同じ研修の期間中に、十月の二十一日からはBという会社にその研修先が移っている、そういう状況なんですよ。
これ、結局、受入れ会社の方の人手の需要に応じて、最も安上がりの労働者としてあっちに行けこっちに行けといって出し入れをしている、実質日雇派遣のようなものじゃありませんか。こうした派遣というのが一体研修ですか。
それに、こうした事業を安上がりの労働者を確保して行うために社団法人の名義を借りているんじゃないのか、この契約の実態というのはそういった名義貸し、名義借りにほかならないんじゃないのかと私は思いますが、政務官、いかがですか。

○大臣政務官(金子善次郎君) 御指摘の点も踏まえまして、先ほど私からも御答弁申し上げましたように、どういう対応をするかというのを詳しく今日、明日調べてまいりますので、その結果も踏まえて厳正に対応していきたいと、このように思っています。

○仁比聡平君 今日調査に入っているところですから、今日のところ政務官としてはそのような御答弁しかできないのかもしれないんですが、その調査の中身についてはこの委員会に御報告をいただけるでしょうか。

○大臣政務官(金子善次郎君) そのように取り計らいたいと思います。

○仁比聡平君 もう一点申し上げたいのは、つまり、現場で行われているのは外国人研修生を対象にした労働者派遣事業にほかならないのではないのかという疑いを私強く持っているんですね。その事業をなぜ公益法人を隠れみのにするのか。公益法人ということですぐ私どもの頭に浮かびますのは、優遇税制があるということです。一つには、厚生労働省の認可を受けていますということで大宣伝をできますから、この政府の看板を着てそういった事業ができる。その税制の優遇は、収益事業であっても、一般なら三〇%の税率であるところが二二%の税率で済む、八%の減税対象になるわけですね。
これちょっと今調査をしているところですけれども、どうしてその二二%の税率になるのかということの根拠は、この研修事業が請負というふうに判断をされているからだというふうな、今の段階での調査はそういうことなんですが、それ自体私よく納得がいっていないんですけれども、何にせよそういった減税効果がある。
こうした形で、今、そこで学んできた、実質は働かされてきたその労働者たちが路頭に迷っているわけですね。こういう事態を本当に起こしていいのかということが正面から問われているのではないかと思います。
大臣、こうした実態をどのように認識をしておられますか。

○国務大臣(森英介君) 一部の受入れ機関でやはり不適切な受入れが行われているというのは残念ながら事実だと思います。入国管理局では、不適正な受入れの疑いがある受入れ機関に対しては積極的に実態調査を実施して、不適正な受入れの事実が確認できた場合には、不正行為認定し、研修生、技能実習生の受入れを三年間停止する措置を講じております。
今後とも、受入れ機関に対する実態調査等を一層強化して、研修・技能実習制度の適正化に努めてまいりたいと思います。また、あわせまして、研修生、技能実習生の保護の強化の観点からの研修・技能実習制度の見直しの検討も進めていきたいと考えております。

○仁比聡平君 前国会のやり取り以降、特に入管の皆さんの、現場の皆さんの頑張りには私も感謝をしている部分が大変ございまして、事後の不正裁定というここの部分については、今大臣おっしゃられた、もちろんのことだと思うんですね。
今日私が提起をしている問題は、事後の不正裁定はもちろんなんだけれども、未然にこうした事態を防止すると。特に団体管理型における受入れ機関が事実上野放しにされるというそういう実態は、これは制度見直しを含めて変えるべきではないのかと。監督や指導、これを日常的に一体どこがきちんとやるのかということ、せめてそれぐらいはっきりさせなかったら、この研修生事業というのは本当にもう廃止せよというほうはいとした声が起こるんじゃありませんか。

○政府参考人(西川克行君) 委員の御指摘を踏まえまして数点、これからの研修・技能実習の在り方について入国管理局としての意見を申し述べたいというふうに思います。
まず、委員の意見を踏まえまして感じましたのは、入国管理局と公益法人等の受入れ団体を所管する省庁との連携の強化という点でございます。このような観点から、これは公益法人ではございませんけれども、団体管理型で最も研修・技能実習生の受入れが多い事業協同組合については、中小企業庁との間で、本年四月に、当局が不正行為認定を行った場合は設立を認可した地方自治体等にその旨の情報を提供するというところから開始しております。そのような形で始めて、より連携を強化して、所管官庁からの監督もより強く求めていくという、そういう体制をまずつくりたいというふうに思っております。
第二点は、団体管理型における第一次受入れ機関の管理体制の強化という点でございますが、第一次受入れ機関が研修を管理することが団体管理型の研修ではその要件ということになっておりますが、残念ながら企業単独型と団体管理型を比べると不正行為の発生件数は圧倒的に団体管理型の方が多いと、こういう実情になっております。入国管理局としましては、委員の御指摘を踏まえまして、第一次受入れ機関の管理体制の強化についても制度の見直しを検討してまいりたいと、このように思っております。
以上でございます。

○仁比聡平君 今日初めてそういった御答弁をいただきましたので、よく私も吟味をして今後よく議論をしていきたいと思うんですけれども、そうした見直しを検討していく上でも、こうした不正問題は公益法人であろうがそうでなかろうがこれは同じことなんですけれども、どちらでも同じなんですが、この際、政府として、少なくとも所管の公益法人、ここを隠れみのにして研修生を食い物にするような不正が行われていないか、これはすべてを調査するべきだと私は思います。
法務大臣それから政務官、それぞれ法務、厚生労働の関係について是非そうした決意をお伺いしたいと思いますし、他省庁の所管のものについてもそうした公益法人の調査をやるべきだというリーダーシップを是非、とりわけ大臣、取っていただきたいと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(森英介君) 確かにそういった公益法人で不適切な受入れがなされるというのは極めて遺憾なことでございまして、かつ五省庁相乗りということであります、共管でありますから、そこのところは相互に連絡し合って、自分の持ち場の公益法人についてはしっかり調査し、そういった不適切なことがないように努力をいたしたいと思います。

○大臣政務官(金子善次郎君) ただいま大臣が御答弁なされた趣旨に沿いまして厚生労働省といたしましても対応していきたいと、このように考えております。

○仁比聡平君 時間がなくなりましたので、最後に大臣ないしは入管局長にお答えいただきたいと思うんですが、先ほどの局長の答弁にありましたように、不正裁定を公表するかどうかということが大きな問題として今の現行の運用にはあるわけですけれども、そこに大きな問題があると私思っているんですね。
といいますのは、この社団法人は、厚生労働省が提出をいただいただけで平成十九年度で全国に約三百人の、研修生だけでですね、実習生を入れたらもっとたくさんの人数になると思うんですが、を受け入れているんですよ。
ところが、この社団は、あるいは支部と称する業者も、不正裁定を受けて在留資格が更新できなくなる、現実に八月一日で出国準備ビザに切り替えられているということを研修生にも受入れ企業にも話していないんですよね。研修生の側が十月の中旬になって初めてそれを知って労働組合に相談に来たときには、その出国準備ビザの在留期間というのはもう切れるぎりぎり。ですから、雇用保険の手続もまともにできない、住むところもどうにもならない。
早く分かっていれば、その不正をやったところ以外の受入れ企業を探せないのかという、そこの調整は今、入管や様々な関係者が前向きに取り組んでいただいているところなわけですけど、そういう段取りができたかもしれないのに、それもできずに強制帰国される、かねないという事態なわけです。
これ、結局、見ましたら、不正を受けても、ぎりぎりまで働かせてそして強制帰国させるという、そういうやり方にほかならないんじゃないのかと。こうした事態が起こらないように制度の見直しをしっかり含めて検討するべきじゃないかと思いますが、局長、いかがですか。

○政府参考人(西川克行君) 不正行為認定自体を社会一般に公開するかどうか、これは先生もおっしゃられたとおり、なかなか難しい問題はあろうというふうに思います。ただ、一つ言えることは、そこにいる研修生、技能実習生については全く責任がない、それにもかかわらず在留期間ぎりぎりになってしまうというふうなことであろうと思います。
今現在は、ほかの機関を探してそちらの方に移すという形にしておるというわけでございますけれども、もしその研修・技能実習生に全く責任がなくて、かつ在留期間の残りがないという場合については、入国管理局としては在留期間の更新等の配慮において柔軟に対応したいというふうに考えておりますが、不正行為の発表自体については、社会一般に公表するのはいかがなものかという意見もございますので、更に検討させていただきたいというふうに思っております。

○仁比聡平君 まだ不十分だと思いますが、時間が終わりましたので、終わります。