○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
広島サミット首脳コミュニケでは、難民保護、難民及び避難民の人権や基本的自由の完全な尊重確保が再確認されました。
私は、我が国の出入国管理と難民行政について、総理の御認識をお尋ねしたいと思います。
総理、今日は傍聴席に、名古屋出入国在留管理局、名古屋入管で二年前亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの妹、ワヨミさんとポールニマさんが来られています。お二人から総理宛てのメッセージをお預かりしましたので、読ませていただきたいと思います。
内閣総理大臣岸田文雄様。
私たちは、二〇二一年三月六日に名古屋入管で死亡したウィシュマの妹です。
姉は、入管に収容され、飢餓状態になり、職員に病院に連れていって点滴をすることをお願いしたのに聞き入れられず、そのまま死亡しました。私たちは、姉は入管に殺されたと思っています。姉の死から二年三か月が過ぎようとしていますが、姉の死の真相は明らかにならず、入管は誰も責任を取っていません。
今、国会では、入管制度を変える法案を審議していると聞いています。入管制度について議論をするなら、まず、私たちの姉の死の真相を明らかにして、入管の責任をはっきりさせてください。それがないと、まともな制度はつくれないと思います。私たちの声を聞いていただけませんか。
二〇二三年五月二十五日。ワヨミさん、ポールニマさんのサインがあります。
後ほどお届けしたいと思いますけれども、まず、総理の受け止めをお尋ねいたします。
○内閣総理大臣(岸田文雄君) まず、改めて、お亡くなりになられたウィシュマさんに、心より哀悼の意を表させていただきます。そして、今日おられます御遺族の方々に対してお悔やみを申し上げさせていただきます。
その上で、御指摘のこの事案について、法務省において、ビデオ映像を含め可能な限り客観的な資料に基づき、外部有識者からの意見もいただきつつ調査を行い、そして改善策を進めてきたものであると承知をしております。
このような事案、二度と起こさないために、法務省においてしっかりと改善策に取り組んでもらいたいと考えております。
○仁比聡平君 若く健康だったウィシュマさんがなぜあのような亡くなり方をしなければならなかったのか、その答えはなお出ていないんですね。
ウィシュマさんが急激に衰弱していった二年前の二月、名古屋入管は、ウィシュマさんの仮放免、不許可をいたしました。仮放免申請を却下したんですね。その理由がこのパネルですけれども、(資料提示)御覧のとおり、仮放免を許可すればますます送還困難となる、一度仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国説得する必要ありと、そうわざわざ書いているんですよ。
ウィシュマさんは最後、亡くなる三日前の朝からバイタルが取れなくなっても漫然と放置されました。点滴も救急搬送もされず亡くなりました。その根源には、こうした送還ありきという我が国の入管収容あるいは行政の人権侵害の構造があると私は思います。
総理、こんなことが許されますか。
○内閣総理大臣(岸田文雄君) 先ほども申し上げましたが、この事案については、法務省において、ビデオ映像を含め可能な限り客観的な資料に基づき、外部有識者から御意見をいただきつつ調査を行い、改善策を着実に進めてきたものであると承知をしております。
そして、委員の方から幾つか何か御指摘がありましたが、これ以上の詳細については、国家賠償請求訴訟が係争中であることから、私からの答えは差し控えさせていただきたいと思いますが、いずれにせよ、このような事案を二度と起こさないために、引き続き法務省においてしっかりと改善策に取り組んでもらいたいと考えております。
○仁比聡平君 裁判がどうであろうが、適切な医療措置がとられなかった、そして、一度仮放免を不許可にして立場を理解させなきゃいけないと、そう当時名古屋入管が判断したということは、総理も言われる調査報告書そのものに記載があることですよ。
入管が不許可判断したその日の尿検査で、ウィシュマさんは飢餓状態でした。議場の皆さんには、ウィシュマさん自身が懸命に適切な医療を求めた申出書をお配りしていますが、一月二十七日、しっかり端正な筆跡で、検査の結果を教えてくださいという日本語も書かれています。それが日を追うごとに崩れていって、とりわけ二月の十五日以降、プリーズドクターという記載以外のところって、皆さん読めないでしょう。どんどん筆跡崩れていって、最後、三月四日の、衰弱した、本当に衰弱し切ったときの記載って、何にも、何が書いてあるか分からないじゃないですか。
このパネル御覧いただきたいと思いますけど、入管施設内で発生した死亡事案は二〇〇七年以降十八件に上ります。ウィシュマさんの事件はたまたま起こったものではなくて、様々な事情で帰国できない非正規滞在者を一くくりに悪質な送還忌避者と呼んで縮減を進める入管庁、その判断だけで収容が上限なく行われ、帰国する意思を示すまで自由が奪われ続けると。一度仮放免を不許可にして立場を理解させるというのは、そういうことじゃありませんか。まるで拷問のような人権侵害の構造の中で、同様の死亡事件や不適切処遇が繰り返されてきました。
次のパネルを御覧いただきたいと思いますけれども、今回の入管難民法、政府案は、その根本的な反省なしに、難民認定申請中でも三回目以降は原則強制送還しようとしているわけです。
このパネル御覧いただくとおり、政府は、二〇一八年以降、入管本省が設定する縮減目標、つまり送還忌避者縮減のための重要業績評価指標というのを作成する。本庁が設定する目標を達成するために、各入管ごとに、項目ごとに達成目標を定めさせ、毎月達成状況を報告させ、その達成度を重要な業績評価の指標にしてきたと、これが明らかになったんですね。これは送還ありきのノルマです。
私は、この設定目標と報告項目を墨塗りする法務省に対して、これ全部明らかにせよと求めてきて、与党の皆さんも、それは法案審議の根幹に関わるということになって、今週火曜日、やっと法務委員会に開示をされました。
入管庁、二〇一八年末の縮減目標と達成状況はどうでしたか。
○政府参考人(西山卓爾君) 二〇一八年末時点で送還忌避者数を三千四百人まで縮減する目標を設定し、達成したというふうに記載がございます。
○仁比聡平君 二〇一九年度末はどうですか。
○政府参考人(西山卓爾君) 二〇一九年度の送還忌避者数を二千七百五十人まで縮減する目標を設定し、達成する見込みとなっていることが記載されております。
○仁比聡平君 ノルマでしょう。ところが、その後の目標値などは明らかにされていないんです。
法務大臣、二〇、二一、二二、二三年度、この目標や達成度というのはこれどうなっているんでしょうか。
○委員長(末松信介君) 齋藤法務大臣。(発言する者あり)じゃ、西山次長。
○政府参考人(西山卓爾君) 委員から令和二年度末以降の目標値についてお尋ねでございますけれども、年度末までの目標値は年度当初に設定いたしますところ、令和二年度以降、コロナ禍における航空便の減少等により円滑な送還実施が困難となっていたため、送還忌避者数を何人まで縮減するという目標の設定は行っていなかったものでございます。
○仁比聡平君 そうですか。令和四年、令和五年については、この通知文書そのものがないんですけれども、出されてないんですけれども、これ、今もこれ目標を決めて毎月報告させているんでしょう。
○政府参考人(西山卓爾君) 委員御指摘のとおり、通知文書、もう発出しておりませんけれども、送還忌避者の縮減につきましては引き続き重要課題として取り組んでいるところでございまして、令和四年度以降も、失礼、令和四年以降も各地方官署から本庁への報告等は行わせております。
○仁比聡平君 二年前、令和四年というのはですね、ウィシュマさんが亡くなって、今回と同じ骨格の入管法案が廃案に追い込まれたときなんですよ。その中で、ノルマを課すという取組が明らかになる、明るみに出る、それを恐れたんじゃないですか。
これ、今日、目標、大臣、あるんですか。
○国務大臣(齋藤健君) まず、多くの皆さんがお聞きになっていると思うので、ちょっと前提をお話ししたいと思うんですが、退去強制令書が発付された者は、退去強制手続において在留特別許可の判断を経るとともに、難民該当性を主張する場合にはこの難民認定手続も経た上で、難民に該当せず、かつ在留を特別に許可する事情も認められないために我が国からの退去が確定した者なんですね。したがいまして、退去強制令書の発付を受けた者は速やかに我が国から退去すべき方であるんです。
そこで、法務省におきましては、退去強制令書が発付されたにもかかわらず退去を拒んでいる者全体をまあ送還忌避という言葉を使って言っているわけであります。
その上で、入管庁は、退去強制が確定した者ですから、これを速やかに送還先に送還しなければならないという入管法の規定に基づく行政上の義務を負っているんです。退去が確定をしている送還忌避者の縮減につきまして一定の目標を設定するなどして取り組むこと、これは私は行政機関として当然であると認識をしています。
○仁比聡平君 与党から大臣を応援する声も出ているんですけどね。
総理、よく聞いていただきたいと思うんですけど、今回の法案に関しても、入管庁あるいは法務省は送還忌避者問題が大変としきりに強調しているんですね。そこで、私は、一くくりに送還忌避者とお呼びになるけれども、その中には、様々な事情で日本社会に根差し、暮らしている方々が含まれているのではありませんかと。審議の前提として、具体的にどんな人たちが送還忌避者とされているのか、その内訳や時期的な推移、その数字を明らかにするべきだと求めてきましたが、入管庁は、業務上統計は作成していないと拒んできました。けれど、これもやっとこの間の火曜日に一部が示されたんですね。
そこで、入管庁、令和三年末に送還忌避者とした者のうち、その後の一年間で在留特別許可、難民認定、あるいは人道配慮の在留資格を得た人はそれぞれ何人ですか。
○政府参考人(西山卓爾君) 令和三年末時点の送還忌避者三千二百二十四人おられますが、そのうち令和四年末時点で在留を認めた者は合計百二十人おりまして、その内訳は、在留特別許可をした者十六人、難民と認定した者三人、難民と認定しないが人道配慮により在留を認めた者百一人でございます。
○仁比聡平君 つまり、大臣があえて説明したいとおっしゃったような直ちに送還どころか、政府が自ら保護した人だけで百二十人が含まれている数字なんですよ、送還忌避者というのは。
もう一点、令和四年末に四千二百三十三人とおっしゃるんですが、そのうち、退去強制令書発付後、五年以上日本に滞在する人、そのうち十年以上の滞在の人はそれぞれ何人ですか。
○政府参考人(西山卓爾君) 令和四年末時点の送還忌避者四千二百三十三人のうち、退去強制令書が発付された後、令和四年末までの期間が五年以上の者は千八百五十六人、十年以上の者は八百九十人でございます。
○仁比聡平君 つまり、五年以上の方というのは千八百五十六人で、全体の四三%に上るんですよ。四割を超える方々が、もし、全員とは言いませんけど、早くに難民認定されていれば永住資格につながるような定着性の高い方々だということなんですね。
そうした様々な事情があるのに、一くくりに送還忌避者呼ばわりして、迅速に送還しなければ社会に不安をもたらすかのように言うのは、それは難民条約や自由権規約、子どもの権利条約などから求められる我が国の義務を損なうものだと思います。
総理、日本で育ち学ぶ十八歳未満の子供たち二百九十五人いるんですけれども、この二百九十五人もこの中に含まれているんですね。今、政府法案の送還停止効の制限で、強制送還されるのではないか、家族がばらばらにされるのではないかと恐怖にさらされています。
私は、我が国で家族とともに、安心して働き、暮らしていけるようにすることこそ、私たちの国の義務ではないかと思いますが、あるいは責務ではないかと思いますが、総理、いかがですか。
○国務大臣(齋藤健君) まず、幾つか御指摘いただいていますので、是非発言をさせていただきたいんですが。
退去強制令書が発付されたにもかかわらず退去を拒んでいる者全般を指してまあ送還忌避者という言葉を使っているわけでありますが、その中にはいろんな方がおられるということは、それおっしゃるとおりだと思いますが、ただ、その一くくりにして用語としてはお使い申し上げていますが、一くくりにして犯罪予備軍のように評しているものではなくて、単に退去強制令書が発付されたにもかかわらず退去を拒んでいる者を全般指してそういう用語を使っているということですので、御理解をいただきたいと思います。
それからですね、(発言する者あり)いや、でもやっぱり重要な御指摘なので、テレビを見ている方もおられますので、それははっきり申し上げておく必要があるかなと思っています。
それから、いろんな数字ありましたけど、おっしゃるように、ある時点で送還忌避者に該当する者が、その後も在留資格がないまま事実上滞在を続けた結果として、事情の変更があって難民認定や在留特別許可を受けて在留を認められるに至ること、在留期間が長期化するに至ること、我が国で子供が育つことなどもあり得るので、退去強制令書の発付後に保護するべき事情が生じた場合には、これを適切に考慮して、在留を認める余地を否定するものではないということで、そういう数字が入っているということです。
それで、お子さんの話ですけど、これについては仁比委員が大変熱心に取り組まれていることはよく承知をしておりますし、私も大事な問題だと思っておりますが、この子供の扱いにつきましては、一刀両断でこうすべきだという結論が今直ちに出せる状況ではないと思っていますが、私は真剣に前向きに検討していきたいというふうに考えています。
○仁比聡平君 最後、大臣がおっしゃった、その真剣に前向きに検討していきたいという言葉を私疑うわけじゃないんですよ。なんですけど、法案を、政府案を通してしまったら、三回目以降の難民申請中の方以降、以上の方は、これ強制送還の対象にされてしまうんですよ、法的に。それでは駄目でしょう。
真剣に検討しているとおっしゃるんだったら、この様々な方々の事情をしっかり実態を国会にも出していただいて、野党は、独立した難民保護委員会を創設する、収容に上限と司法審査を求めるという対案を出して徹底審議を求めているわけですから、この国会でしっかり審議をする、あるいは政府がもっと時間が必要だというんだったら政府案棚上げすると、それぐらいが当然なんじゃないですか。
総理、いかがです。
○内閣総理大臣(岸田文雄君) まず、お尋ねは在留資格のない子供とその家族に対する在留特別許可に関するものであると思いますが、これ、法務大臣から今答弁がありました。これは、法務大臣において、家族関係や人道上の配慮の必要性等を考慮した上で適切に判断するものであると考えております。
そして、法案の取扱いについては、これは当然国会の法務委員会においてお決めいただくべき課題であると認識をいたします。
○委員長(末松信介君) 時間が来ました。
○仁比聡平君 政府案の立法事実はもう崩れていると思いますよ。法案の撤回、野党対案の実現を強く求めて、質問を終わります。