○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
今日は、私がヘイトスピーチと在日韓国・朝鮮人の法的地位の問題についてお尋ねをしたいと思います。
昨年の十月十六日のこの委員会で当時の大臣に、行ってこられた外国人の人権保障についての啓発についてお尋ねをしました。それまで、外国人の人権を尊重しましょう、理解し合うことが大切ですというポスターを、数も極めて少なかったんですが、行ってこられて、それではヘイトスピーチを許されないという立場が伝わらないではないか、ヘイトスピーチを許さないんだという、そこを焦点にした啓発に変えるべきではないかと指摘をいたしました。
その後、省内で検討されたのだと思うんですけれども、一月以来、有田理事が取り上げ続けておられる、ヘイトスピーチ許さないというポスターやチラシを普及をされるようになりまして、その量については、私、有田議員と同じ問題意識を持っております、抜本的に拡大をすべきだと。これは今日は強く要望しておきたいと思うんですけれども。
この取組については私、高く評価をしておりますが、今日お尋ねをしたいのは、この許さないとメッセージを発しているヘイトスピーチとは何を意味するのか、言わば定義といいますか、許されない本質というのは何なのかという点についてなんですね。
まず、人権擁護局長にお尋ねをしますけれども、このチラシでも、特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動、こうした言動は人としての尊厳を傷つけたり、差別意識を生じさせることになりかねず、許されるものではありませんといった言葉がありますけれども、これはどういう意味になるんでしょうか。
○政府参考人(岡村和美君) いわゆるヘイトスピーチについて、その概念は必ずしも確立されたものではないと思われますが、当方がヘイトスピーチとして焦点を当てた啓発活動の対象として念頭に置いておりますのは、特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動であります。こうした言動は、人々に不安感や嫌悪感を与えるだけではなく、差別意識を生じさせることにつながりかねません。
国会における御議論を踏まえまして、法務省ではヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動を実施していく必要性が高いと考え、特に取り組むこととしたところでございます。
○仁比聡平君 そうしたお話について大臣の御認識を伺いたいと思うんですけれども、実際の現場でのヘイトスピーチ、ヘイトデモ、それをやめさせるカウンターの行動の現場の中から、あるいは全国各地の自治体で、このヘイトスピーチに対してどうするのかという、例えば議会意見書だったり、あるいは地方自治体としての条例制定の動きだったり、こうした現場の動きの中で、私、随分焦点がはっきりしてきたと思うんですね。
例えば、ある自治体の条例策定の取組の中で、人種又は民族などの特定の属性を有する個人又は集団に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力を扇動するということを明らかに目的としていて、それが権利、自由の制限をすることによって社会からの排除、先ほどの法務省の言葉で言うと排斥を目的とするもの、こうした特徴付けをされているところがあって、私そのとおりだなと思う部分があるんです。
特にこの社会からの排除というのは、単なる言葉ではなくて、個人の尊厳、権利、自由の基礎にあるアイデンティティーを否定してしまうということによって社会から排除する、ヘイトスピーチはそうしたものであるからこそ許されないというものだと思うんですが、大臣はいかがですか。
○国務大臣(上川陽子君) このヘイトスピーチに係るポスターも含めまして今取り組んでいるところでございますが、ヘイトスピーチという概念というものがどういう定義であるかということについての明確な定義規定というのはないわけでございますが、しかし、一人一人の人権、そして一人一人のアイデンティティーをしっかりと尊厳として守っていく社会、そして、その中で構成される共に暮らし合う社会ということを考えてみますと、特定の民族あるいは国籍の人々をその理由ゆえに排斥する、あるいは排除するというような、そうした差別的な言動につきましては、その尊厳を傷つけるということ、さらには差別意識を醸成することにもつながりかねないということで、大変重大な問題があるというふうに考えております。その意味では委員御指摘の認識と共有をしているところでございます。
あってはならないことでありますし、また、その取組につきましては、法務省といたしましてもヘイトスピーチという形で少し特出しをしながら掲げて取り組んでいこうと、こういうことの中で努力を重ねてまいりたいというふうに考えております。
○仁比聡平君 私は特に、単なる言葉だけではなくて、権利、自由を制限しようとする、傷つける、損なおうとする、ここが大事なのではないかと考えるようになりました。
このヘイトスピーチに関して、各地で扇動をしている排外主義的な団体、在特会は、こうしたマイノリティー集団があたかも隠された特権を享受しているかのように差別を扇動すると、そうした論理を使っています。
そこで、入管局に、お手元にお配りをいたしました入管特例法、いわゆる、に基づく特別永住資格の特徴について表を作っていただいたんですけれども、この在特会はヘイトをあおるビラの中で、特別永住資格、平和条約国籍離脱者等入管特例法によって認められた資格である、もちろん、他の外国人にはこのような資格は与えられておらず、在日韓国人・朝鮮人を対象に与えられた特権と言える、紛れもない外国人でありながら、日本人とほぼ変わらぬ生活が保障されていると宣伝して、扇動して、この在日コリアンの排斥をあおっているわけですね。
入管局長に伺いますが、在特会のこう言うような意味においての特権なのでしょうか。
○政府参考人(井上宏君) 特別永住者と申しますのは、日本国との平和条約の発効によりまして本人の意思に関わりなく日本の国籍を離脱した者で、終戦前から引き続き我が国に在留している者及びその子孫であって、我が国で出生し引き続き在留している者のことでございますが、日本の国籍を離脱することとなった歴史的経緯でございますとか我が国における定着性に鑑みて、いわゆる入管特例法におきまして一般の外国人とは異なる措置が特例として定められたもので、そのような法的な地位でございます。
○仁比聡平君 そうした趣旨で定められているのであるから、これは特権ではないですよね。局長、もう一回。
○政府参考人(井上宏君) この特例措置は、特別永住者の法的地位の安定を図るために法律により特に設けられたものでございまして、このような措置を根拠として日本社会から排斥するようなことは、これはあってはならないことだというふうに理解しております。
○仁比聡平君 外務省においでいただいています。といいますのは、この入管特例法というのは一九九一年に定められたわけですが、これは日韓関係の外交上の重要な節目で行われたものでもあります。一九九一年の一月十日に当時の海部首相が在日韓国人問題に関するメッセージというのを発しています。
その中では、我が国には、特別な歴史を有し、私たちと社会生活を共にされてこられた在日韓国人の方々が数多く住んでおられます、その特別な事情からいろいろと苦労を重ねてこられており、日本社会において安定した地位と待遇を必要としておられます、私は、これらの方々ができる限り安定した生活を営めるようにすることが重要と考えます、少しはしょりましたが、指紋押捺を行わないこととするなど幾つもの分野で抜本的な施策を講じる方針を表明したところであり、今後、これを誠実に実施に移すよう所要の措置をとってまいりたいと思いますなどのメッセージを発しているわけですね。
その後、この入管特例法が制定をされ、その後の一九九八年、小渕恵三総理と金大中大統領との間で「日韓共同宣言 二十一世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」という高らかな宣言が発せられています。
ここでは、小渕総理が、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対し、痛切な反省と心からのおわびを述べたという部分を始めとして、これを機に両国間の関係を発展させよう、そうしたメッセージが確認をされるとともに、在日韓国人についてこうした宣言を出しています。両首脳は、在日韓国人が、日韓両国国民の相互交流、相互理解のための懸け橋としての役割を担い得るとの認識に立ち、その地位の向上のため、引き続き両国間の協議を継続していくということなんですね。
外務省にお尋ねしたいと思いますのは、こうした二国間関係を発展させていくのだと、在日韓国人の懸け橋としての役割、本当に大切だと、この認識は今ももちろん変わるところはないと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(下川眞樹太君) お答え申し上げます。
在日韓国人に関しましての政府の基本的な考え方は、今御指摘のございました在日韓国人問題に関する海部総理のメッセージ、そして、当時、そのとき同時に確認いたしました一九九一年の在日韓国人の法的地位に関する韓国との覚書、さらに、御指摘がありました一九九八年の日韓共同宣言に表れているとおりでございます。
○仁比聡平君 大臣、改めて確認したいと思うんですけれども、こうした日韓関係において、首脳同士で共同宣言もしてきた、こうした立場を言葉だけでなく行動に示していくこと、そしてその姿勢が日本の政治全体の中で貫かれること、これが私は大切なことだと思うんですね。
まして、そうした歴史的な経緯の中で入管特例法によって定められた在留資格を特権だなどと非難して我が社会から排斥しようとする、そうした根拠に持ち出すなんというようなことは絶対に許されないと思うんですが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(上川陽子君) 特別永住者の方々の法的な地位をめぐりまして、この間の様々な努力、そしてそのためのことをしていかなければいけないということでございまして、今のような状況になっているということでございます。歴史的な経緯を踏まえた上で、日韓両国の中での取決めが様々な形で行われ、また、入管特例法においても、そうした趣旨をしっかりと踏まえた上での今があるというふうに思っております。
それゆえに、その意味で排斥するというような言動につきましてはこれは許されることではないというふうに考えておりますので、そうした趣旨をしっかりと踏まえた対応をしていくということが求められていると、そう思っているところでございます。
○仁比聡平君 これから政治的な責任を持って根絶し、孤立をさせていくという、そのためにまた議論を進めていきたいと思うんですけれども。
ところが、一九六五年に、日韓条約が国民的な大議論の中で行われている当時、法務省の幹部がとんでもない認識を示した論文があります。一九六五年の「国際問題」という雑誌の五月号に、当時の入国管理局長が「在日韓国人の待遇問題について」という論文を書いています。
そこでは、終戦当時に日本内地に在留していた朝鮮人の数は二百万人を超えた、その引揚げを触れた中で、自己の意思によることなく、日本に移住を余儀なくされた朝鮮の人々は、この引揚げでほとんど全てが帰国したことを留意しなければならないなどと根拠も示さずに決め付けた上、引き揚げた朝鮮人の中には、経済再建が思わしくないための生活苦から、日本での生活の方がまだましであるとの考えを抱く者が出て、次第に日本に逆航する者が増えてきた。さらに、終戦後の混乱に乗じて、日本において、あたかも戦勝国民かのごとき傍若無人な振る舞いで、暴利を貪ることに味をしめたやからが少なくなかったことは、いまだに我々の脳裏に鮮やかに残っているところであり、これらの者たちは、日本政府の再三の引揚げ勧告にもかかわらず、引揚げを準備した者も思いとどまる傾向を助長し、結局、大部分が日本国内に居座ってしまった。が、韓国人は外国人である。外国人にいかなる法規上の取扱いを与え、自国民に対するのといかに異なる処遇を行うかというような事項は、本来、我が国が自由に決定すべき事項であることは論をまたないなどと入管局長の肩書で論文に書いているんですね。
入管局長、まさか同じ認識だとは思いませんけど、一言いかがですか。
○政府参考人(井上宏君) 御指摘の文章は、当時の法務省の入国管理局長を執筆者として雑誌に掲載されたものと承知してございますが、ちょうど今から五十年ほど前の、私のかなり前の先輩に当たるわけでございますけれども、どのような状況や経緯で掲載されたかについて今日においては不明でございまして、直接のコメントは差し控えさせていただきますが、私といたしましては、憲法や入管特例法等の法律等に従いまして、入国管理局長として適正に職務を行ってまいりたいと考えております。
○仁比聡平君 時間が迫りましたので、終戦直後の一斉に在日韓国人の国籍を奪った民事局を中心にした経緯について次の機会に質問は譲りたいと思うんですけれども、大臣にお尋ねをしておきたいと思うんです。
一九一〇年に韓国併合、その後、苛烈な植民地支配、この下で内地と呼ばれるようになった日本への徴用や強制連行も含めて、その子孫の方々も含めた生活がある、既にその下で日本に生活の本拠があり朝鮮半島にはないという方々もある中で、一斉に国籍を奪って、在留資格はないが在留はとにかくしていいよという出入国管理令だけ出して、結局、この九一年の入管特例法といえばもう戦後五十年が迫るかという時期でしょう。そこまで指紋押捺も含めた本当に深刻な人権侵害を行ってきた。それを言わば総括をして、日韓関係、アジアの中での平和的な発展の土台になってきたのが、いわゆる九五年の村山談話や、先ほどの確認をした日韓共同宣言にも示されている認識だと思うんです。
韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対し痛切な反省と心からのおわびを述べる、ここを土台にしてこそ二国間関係や在日朝鮮人の法的地位と共生という問題も進んでいくことができるのであって、ここを壊すというような逆流は許されないと思うんですが、時間が参りました、一言だけお願いしたいと思います。
○委員長(魚住裕一郎君) 上川法務大臣、答弁は簡潔に願います。
○国務大臣(上川陽子君) これまでのあの歴史的経緯も踏まえて、入管の業務につきましても、しっかりと、またこれまでの経緯も踏まえた形で法にのっとって適正にしてまいりたいというふうに思っております。
○仁比聡平君 今日は終わりにします。
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