○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 岩城大臣、どうぞよろしくお願いをいたします。
 先ほどの就任の御挨拶で、大臣、この度任命されたとおっしゃったんですけれども、この度が三か月余り前かと。安倍改造内閣の所信表明演説、施政方針演説も行われず、法務大臣の所信を聞くこともできないまま今日に至っております。私ども参議院の法務委員会で申し上げますと、新大臣の所信を伺わずに法案を扱うというのは極めてまれなことでありまして、私は異常事態だと申し上げていいと思うんですね。この責任は、挙げて憲法五十三条に基づく野党の臨時国会召集要求を踏みにじってきた政府そして与党にあるということを厳しく申し上げなければならないと思います。
 そうした中で、大臣が就任されて、大きく動いています二つの点について、今日は大臣の基本認識をお尋ねしたいと思うんです。
 一点目は少年法についてです。
 自民党の政務調査会が、若年者に関する刑事政策の在り方について全般的に見直すことも視野に入れて、刑事政策上必要な措置を講ずるための法制的検討を行うことという成年年齢に関する提言を出し、大臣は就任されて、私から見ますと直ちにというふうに感じるんですが、大臣の下に若年者に対する刑事法制の在り方全般についての勉強会の設置を指示をされました。
 この問題について、お手元に「家庭の法と裁判」という雑誌で、少年法特集号の巻頭言として書かれました東京大学名誉教授の松尾浩也先生のエッセイをお配りをしています。
 松尾先生は法務省の特別顧問もお務めになっておられるわけですが、このアンダーラインの部分ですね、そのまま読みますが、「選挙権の年齢引き下げは歓迎すべきこととしても、当該年齢層の国民全員に国政参加の権利を与える選挙法の場合と、極く一部でしかない非行少年を対象としてその健全育成をはかる少年法とでは、視点は異なるのが当然である。二十歳未満までを対象とする戦後改革によって、日本の少年法は刑事政策上の成功を収めており、その成果は維持されなければならない。」と。これは、松尾先生は無論、オール法律家の認識と言ってもおかしくないと私は思うんですが。
 そこで、大臣、選挙権年齢と少年法の適用年齢を連動させるという見解にお立ちなんでしょうか、それとも違うんでしょうか。
○国務大臣(岩城光英君) お答えいたします。
 公職選挙法の選挙権年齢が満二十歳から満十八歳に引き下げられたことによりまして、論理必然的に少年法の適用対象年齢を同様に引き下げなければならないものではないと考えております。
 もっとも、昨年の公職選挙法改正法の附則においては、選挙権年齢が満十八歳とされたことなどを踏まえ、少年法について検討を加えるものとされていることなどからいたしましても、少年法の適用対象年齢を検討する上では選挙権年齢も考慮すべき要素となると考えられます。
○仁比聡平君 つまり、論理的に引き下げることにはもちろんならないわけで、したがって、十八歳、十九歳のこの年長少年に対する少年司法、刑事政策、この積み重ねをきちんと評価、検証をする、その上でないと議論は始まらないわけですね。
 そこで、平成二十七年度版の犯罪白書を見ますと、再非行少年、この人員は平成十六年から毎年減少している、再入院率も減少傾向にあるということが明らかです。
 この中で、少年院における矯正教育の成果について大臣はどんな御認識でしょう。
○国務大臣(岩城光英君) 少年院を出院した後、その出院の年ですね、その出院年を含む二年以内に再入院した者の数は、平成十七年が五百六十一人であったのに対し、平成二十五年は三百六十二人となっており、減少傾向にあります。また、平成二十五年の出院者の二年以内再入院率は一〇・五%でありまして、刑事施設における平成二十五年の出所者の二年以内再入率一八・一%に比べますと、低い水準にあります。
 少年院では、これまでも対象者一人一人の性格、年齢、経歴、心身の状況及び発達の程度、非行の状況、家庭環境、交友関係その他の事情を踏まえた矯正教育を行ってまいりました。出院者の再入院率が刑事施設に比べ低い水準にあることは、少年院における矯正教育に一定の効果が認められることを示すものと考えられます。
 さらに、今般の少年院法の改正を機に、在院者の個々の問題性や課題に応じた各種プログラムの実施や就労・修学支援等の円滑な社会復帰支援の充実に努めております。これからも、したがいまして、個々の在院者の問題性に柔軟に対応しつつ、きめ細かい矯正教育に努めてまいりたいと考えております。
○仁比聡平君 一定の効果をと大臣今述べられましたけれども、そんな謙遜をする必要はない。世界に本当に誇るべき少年処遇の成果をこの日本では積み重ねてきたと。大臣の下で、現場の矯正あるいは保護に携わる皆さん、それから少年福祉や教育に携わる皆さん、地域や家庭の皆さん、みんなの力がそうした成果をつくっているということに私たちは誇りを持つべきだと、そう思うんですね。
 大臣が今お話しになったような言わば人間諸科学に基づく個別的な処遇、これを充実させようということが少年院法改正の大きな柱でもあるだろうと思います。
 そうした中で、少年非行や犯罪学などの研究者の中で、日本の非行の特徴として男子の七割、女子の八割が初発の非行で収束し再犯をしないと、このことが大きな特徴として述べられています。欧米諸国では初発非行の年齢と累犯化との関係が著しい。つまり、幼い頃に非行に走った場合にそれが累犯化してしまうと。ところが、日本ではそれは逆なんだと、初発非行への適切な介入、初犯の段階で適切な介入が行われていることが大事なんだと、そうした大変重要な指摘があるわけですが、我が国の矯正あるいは保護の観点からこの認識はとても大事だと思います。
 大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(岩城光英君) 少年矯正におきましては、初めて少年院に入院した者や低年齢の者に対しては特に心身の発達の程度を見極めつつ、規則正しい生活習慣の習得や他者への思いやりの涵養、義務教育における教科指導など、いわゆる育て直しのための基本的な矯正教育を重点的に実施しております。
 さらに、保護観察におきましては、保護観察官と保護司が共同して、交友関係の改善指導、就学、就労の助言等を行いつつ、日常的な見守りを実施をしております。これらを通じまして、保護観察処分少年、少年院仮退院者のいずれについても約八割の者が再非行なく保護観察を終了しております。
 したがいまして、少年の健全な育成や改善、更生を目的として実施するこうした少年矯正や保護観察は、再非行の防止と立ち直りに一定の機能を果たしているものと認識をしております。
○仁比聡平君 いや、だから、一定の機能ではなくて、誇るべき成果だと、大臣、そうやっぱりこの戦後七十年積み重ねられてきた少年司法を私はしっかりと評価をするべきだと思うんですね。少年法があったればこそ、少年院を退院した少年に二十歳までの保護観察があるわけですから。やっぱりこの制度、これまでの少年法の大きな成果、これが犯罪の少ない社会をつくる基盤となっているということをきちんと共通認識にして議論を進めていきたいと思うんです。
 今日はもう一点お伺いをしたいと思っておりまして、それは性暴力に関わる刑法改正についてです。
 法制審の刑事法(性犯罪関係)部会が強姦罪、強制わいせつ罪等の抜本的見直しについて今審議を行っております、松島大臣が提起をされたものですけれども。
 我が国の刑法は、一九〇七年、明治四十年以来、抜本的な改正は行われてきませんでした。いずれの時期に保護法益などの歴史的な議論もさせていただきたいとは思いますが、今日、性犯罪が個人法益に対する罪であるということは講学上はされながら、刑法の条文上は変わらず、捜査や裁判においてもジェンダーバイアスにとらわれて被害届が受理されないとか起訴もされないとか、そうした被害者の苦しみが後を絶たないわけですね。
 今回の刑法改正に当たって、我が国の刑法の性犯罪の根本的な捉え方、そして水準を真に個人の性的自己決定権を保護する、保障するというものとしていくこと、このことが私は求められていると思うんです。
 そこで、国際社会から、国連関係の様々な人権委員会から、身体の安全及び尊厳に関する女性の権利侵害を含む犯罪として性犯罪を定義すること、あるいは配偶者強姦が明示的に犯罪として定義されていないことに対する懸念、いわゆる性交同意年齢の引上げや、強姦罪の構成要件、これは今抗拒不能な暴行、脅迫を要件としているわけですが、これを見直すこと、こうしたことが求められてきました。
 大臣、法制審への諮問事項というのはこれらの勧告に応えるものになっていますか。
○国務大臣(岩城光英君) 法務省において開催いたしました性犯罪の罰則に関する検討会、ここにおきましては国際機関からの様々な御指摘についても当然幅広く検討を行ったものと認識をしております。そして、その検討会におきましては、それらの指摘事項のうち、性犯罪の非親告罪化、強姦罪の対象行為の拡張、法定刑の引上げ等について法改正をするべきであるとの御意見が多数を占めました。
 今回の法制審議会に対する諮問はそのような検討結果を踏まえたものでありまして、国際機関からの指摘を適切に考慮したものであると考えております。
○仁比聡平君 勧告に正面から応えていないし、今御紹介のあった検討会、この議論を踏まえたというのも一面的なのではないかと私は思うんです。
 実際、先ほど申し上げたような諸点に加えて、公訴時効の停止あるいは撤廃も含めて検討会で、被害者、支援者、あるいはジェンダー視点に立つ刑法学者や弁護士の皆さんからの非常に重い内容の意見陳述が行われました。ところが、そこで提起された問題が諮問に含まれていないんですね。
 例えば、被害当事者の小林美佳さんは、暴行、脅迫の要件について、カッターの刃を突き付けられる前から、車に引き込まれた時点で死の恐怖を感じ、殴られたり脅かされたりしていなくても抵抗することも大声を出すこともできなかったと、そうおっしゃっています。
 さらに、内閣府の調査によりますと、異性からの無理やりの性交被害に遭った八割近くは面識のある加害者なんですね。配偶者や交際相手、知り合い、そして実父や兄弟も含めた家族、こうした現実に目を覆わずに、真剣に向き合うことなしに性暴力の実態をしっかりと踏まえた刑法改正というのは私できないと思うんですよ。
 こうした現実の被害を前にして、支援者や研究者の皆さんが、もう紹介する時間がありませんが、様々な意見を述べられています。こうした被害者、支援者、学識経験者らの要望を法制審においてしっかりと聴取をしてもらう、しっかりと議論をすると、こうしたことが望まれると思いますが、大臣の認識を問うて、質問にしたいと思います。
○委員長(魚住裕一郎君) 時間ですので、答弁は簡潔に願います。
○国務大臣(岩城光英君) 先ほど申し上げました性犯罪の罰則に関する検討会におきましては、御指摘のような性犯罪被害者等のヒアリング、これは当然行っているものと承知しております。そして、その結果は法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会においても資料とされていると考えております。法制審議会の部会でどういったヒアリングを更に行うか否かは部会において判断されるべきものであると考えております。
○仁比聡平君 議事録だけじゃ駄目ですよ。
 終わります。