○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
今日も先ほど国民民主党の櫻井先生の質疑でも焦点になっていましたけれども、養育費の履行の確保というのは、これ、子の福祉のために必要不可欠、極めて重要なものだと。とりわけ、近年一人親世帯の生きづらさとか、その下で、貧困あるいは虐待というような問題がこれからの子供たちの福祉にとって本当に重要な社会問題にもなってくる中で、今回の改正において、これからの手続を担っていく担い手、特に家庭裁判所の果たすべき役割というのは私とても大きいと思いますので、今日その点についてお尋ねしたいと思います。
最高裁家庭局から資料をいただいて、家庭裁判所の調停事件において養育費の債務名義が成立した場合、これ調停調書などが中心になると思いますが、子の養育費が実際には払われなくなったときに履行勧告という手続があります。今回の法案勉強している中で意外にこれ議員にも知られていないなというふうに思いましたので、まず家庭局長に。
この五年ほどを見ますと、大体四、五千件ほどの取組があっていると思うんですが、この動向と、それから養育費の履行確保をする上で、この家庭裁判所の履行勧告が果たしている役割について御認識をお尋ねしたいと思います。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) 御説明申し上げます。
養育費請求調停事件で調停が成立したものに係る履行勧告の終局件数は、委員御指摘のとおり、過去五年間で申しますと年間四千件から五千件で推移をしております。
このうち、勧告の結果、養育費の全部が支払われたもの、これ全部履行というふうにこの表では書いてございますが、は千五百件から千七百件の間で、また一部が支払われたものは六百件から九百件弱の間で推移をしておりまして、これらを合わせますと全体の約五二%の事案で何らかの支払に至っていることになるところでございます。
○仁比聡平君 この履行勧告というのは、夫婦関係調整とか離婚とかいうことで家庭裁判所の手続になって、そうしますと、その子供さんがどんな実情にあるのかとか、あるいは監護をしている側の親あるいは親権を求めているその両親の状況についてもよく調査をするとか、一定のやっぱりプロセスの中で子の意思も確認をしながら試行的に面会交流を実現をするとか、そのプロセスで家庭裁判所の調査官が家庭訪問に出かけるとか、いろんなプロセスとその報告も踏まえて債務名義ということになるわけですよね。
ですので、そこに関わった調査官を中心にした裁判所職員が、養育費を定めたのに払わないという親に対して、払うべきだ、この子のために頑張って払うと約束したんじゃないか、あるいは審判事件の場合は、そういう争いがあったけれどもそれを決めたんじゃないか、その子のためじゃないかと、あるいは何で払えないのというような状況も聞きながら履行を求めていくというのはとても大事なことだと思うんですよね。
この調査官とかあるいは書記官の役割についてはどんな御認識でしょう。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
この履行勧告の制度につきましては、今のこの養育費の履行の勧告という前提でお尋ねをいただいているところでございますが、履行が遅滞したり、それから支払われないという原因につきましてはいろいろなことが考えられるところでございます。ちょっとしたきっかけで履行が遅れているということもございますので、これについて簡易な申出で、これは手数料も必要ございませんし、口頭での申出、電話での申出も可能なところでございます。このような形で、その家庭裁判所が、若しくは家庭裁判所からの命令を受けました家庭裁判所調査官等が間に入って、なぜその履行が遅れているのか、そういったことを聞き取りをし、必要に応じて書面等で履行の勧告をすることによって、このような形で一定の履行の確保が図られているところというふうに承知をしております。
○仁比聡平君 そうした家庭裁判所の一件一件の事件についての取組というのをもっともっと私たちがつかんで光を当てて、解決を進めていってもらうという応援もするということがとても大事なんじゃないかなと思うんですけれども。
そうした履行勧告といいますか、家庭裁判所の役割って、調停、審判の事件に最初からなった事件だけではなくて、今日も協議離婚で養育費を始めとした協議事項が約束がされたというのがおよそ六割ではないかというようなお話もあっていますけれども、それが払われないとか、約束どおり払うのが難しくなったなどというような件が家庭裁判所に相談があったら、これ自体が調停事件になるというようなこともあり得ますよね。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
そのような申立てをしていただくということになりますが、そういうことはございます。
○仁比聡平君 そのようにしてしっかりと子の福祉のために取組を進めていくということがとても大切だと思います。
ですが、残念ながら、そのような履行勧告を行っても、およそ半分くらいがその他、履行状況不詳というところに類別されるように、この強制執行という残念な形、残念で、しかも究極の場面になってしまうということが今回の法改正の場面なわけですけれども、その強制執行について、特に子の引渡しの強制執行というのは、今日もお話のあっているとおり、当該の子に極めて厳しい葛藤を強いることになる、その手続によって厳しい葛藤に言わばさらすことにもなるという極めてデリケートな場面だと思います。
その場面において、子の福祉や心理状態を重視すべきではないかという問いに対して、衆議院の段階でも、大臣、法案で見ますと百七十六条を改正法の考え方として示していらっしゃるわけです。「執行裁判所及び執行官は、」「子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、できる限り、当該強制執行が子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮しなければならない。」という、ちょっと割愛して飛ばしましたけれども、その配慮という義務を執行裁判所及び執行官に持たせるということなんですが、これ、配慮しなければならないといいましても、執行裁判所や執行官というのは、執行の申立てがあって初めてその事件に接するわけですよね。債務名義がありますと、それだけで執行を申し立てられたときに、はい、そうですかと言って何の材料もなく強制執行に及ぶということは、これはあり得ないわけで、まず、どのような資料によってこの子に対する配慮というのを判断をするのでしょうか。
○政府参考人(小野瀬厚君) お答えいたします。
執行官が、今委員御指摘の配慮をするためには、子の発達状況などの事情を十分に把握することが重要であると考えられます。そのための資料の収集の方法は事案によって様々であると考えられますけれども、一般論としましては、例えば、申立人から家庭裁判所調査官の調査報告書を含め、本案の記録の写し等の提出を受けるですとか、あるいは事前の打合せの際に家庭裁判所調査官から情報の提供を受けることなどが想定され得ると考えられます。
○仁比聡平君 先ほど、公明党の伊藤議員の質問の中で、実際に実務としても、これまで年間百件ほどの事件においてそういう取組がされているんだというのが最高裁民事局からの御答弁だったと思うのです。
その事前のミーティングの取組の一つのポイントなんですけれども、例えば、調停が成立して、あるいは審判が成立して一定の年数がたっているということもあり得ると思うんですよね。家裁でのその記録を取り寄せ、そのプロセスでの家裁調査官の調査というのはもちろん把握するし、当該家庭裁判所との情報交換、ミーティングは行うんだけれども、以来数年たっていると。だから、調査の時点では三歳だった子供が小学校の二年生になっているというようなことがありますよね。その間、監護している親と親権者との間でどんな紛争になってしまったのか、なぜ強制執行に至ったのか、その下で子供がどんな心理状態に置かれているのか、あるいは両親以外の、例えば祖父母などの関係者がどんなふうな状況になっているのか。
そうした、再調査と言うと語弊があるかもしれませんけれども、現在の子供がどう置かれているかということをしっかりつかんで準備をしたいと執行者は思うと思うんですよ、執行官や執行裁判所は。いかがでしょう。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) 具体的な事案としてそのようなものがあるというのを認識しているわけではございませんけれども、お尋ねの事例の一般論としては、やはりどういうふうになっているのかというのは非常に気になるところかと思います。
具体的には、債権者の方から事情をお聞きするなどして、まずはその思考する端緒を考えるのかなというふうに思います。
○仁比聡平君 私は、先ほど伊藤議員も提案をしておられましたけれども、その際に、当該事件を担当してきた調査官が執行事件についてもしっかりその専門性を発揮できるように考えていくべきではないかなと思うんですけれども、今の現状というのは決してそんなふうにはなっていないと思うんですよね。
現状での執行の補助者、これ家裁OBのFPICという団体がありますけれども、そこに補助を頼むということもあると思うんですが、実際の報酬というのは、これ、どんなふうになっていますか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) お答えいたします。
執行補助者に対する手当てですけれども、これは実費の額というふうにされておりまして、具体的な額につきましては執行官と執行補助者との間の個別の合意により定められているというところでございます。
個別の合意に係るものですので幅がございますけれども、旅費も含めまして、おおむね一万円から二万円の範囲が多いというふうに聞いております。
○仁比聡平君 実際の担当する事件の重さ、とりわけその子の心情や福祉ということを本当に専門性を生かして調査をした上で執行の補助に当たるということを考えますと、一日一、二万円くらいの報酬ということでは、事前のミーティングだったり、あるいは実際に現場に臨んで起こっていることをどう捉えてその次に生かしていくのかというようなことでは、これは専門性が蓄積されていかないのではないか。結局、ボランティア頼みのようになってしまうのではないか。それでは、今後のこの子供たちをめぐる問題においての、せっかくの家裁調査官たちの積み重ねというのが生かしていけないのではないかなと、もったいないんじゃないかなと思うんですね。
そこで、ちょっと山下大臣に最後、日本の家庭裁判所の取組というのは、これ世界に類例がない先進性を持っていると思います。戦後、この子供や家庭の問題について特別の裁判所を置いた、その中で調査官が専門性を積み重ねてきたと。これを今後生かしていくことができるように私はすべきじゃないかと思うんですが、制度の改革も含めて御感想を伺いたいと思います。
○国務大臣(山下貴司君) まず、仁比委員御指摘の百七十六条、この法律案による改正後は、執行補助者を適切に活用することを含め、この百七十六条の趣旨を十分に生かす運用がされることを期待しております。
現役の家庭裁判所調査官の知見の活用場面や子の引渡しの強制執行に関与する執行補助者の確保の在り方については、今後ともこの法律案施行後の実務の状況等を踏まえつつ、様々な観点から検討していく必要があると考えております。
○仁比聡平君 家裁調査官を先頭にした、これまで頑張ってきた人たちにしっかり頑張ってもらえるように、制度の前進と、それから何より、定員は増やさないと駄目ですから、裁判所自らが増やさないみたいなことをやっているようでは駄目ですよということを最後に申し上げまして、質問を終わります。