○参考人(伊藤由紀夫君) 非行克服支援センター相談員の伊藤です。このような機会をくださり、心から感謝申し上げます。
 私は、昭和五十五年に家庭裁判所に奉職し、昨年、平成三十年三月に定年退職後の臨時的任用職員を退職するまで三十八年間、家庭裁判所の調査官として働いてきた者です。その後、非行少年やその家族の立ち直りを支援するNPOで活動をしております。また、被害者と司法を考える会の運営委員として、犯罪被害者の方への支援などにも関わらせていただいています。
 家庭裁判所調査官、家裁調査官といいますが、としては、家庭裁判所における様々な少年事件や家事事件について、裁判官、時に裁判官を含む調停委員会の命令を受け、多くの少年審判や家事審判、家事調停の中で調査活動を行ってまいりました。
 ただ、私は、地方裁判所における強制執行などの実務に直接関わった経験はありません。ただ、強制執行の前段階となる家庭裁判所の事件、すなわち離婚事件、あとは様々ありますけれど、特に子の監護に関する事件といったところ、又は虐待に関する児童福祉法二十八条や三十三条に関わる親権停止などの事件、そうしたものについての実務経験は積んでまいりました。ただ、学者、研究者というわけではなくて、一介の裁判所職員だったにすぎません。この民事執行法の改正に関するこのような国会の場にふさわしいのか、内心とても苦しい思いで現在います。ただ、そうした実務経験からの立場からの意見として御理解をいただければと思っております。
 私の話を焦点化するために、家事事件における養育費の事件と子の引渡しの事件、この二つに絞って御報告したいと思います。
 まず養育費の事件ですが、離婚事件、家庭裁判所では夫婦関係調整と呼ぶことが多いです、夫婦関係調整事件の中で決められることもありますが、この事件とは別に養育費事件として申し立てられることもあります。多くは、調停の中で当事者双方から経済的な資料を提出していただき、算定表、これは最高裁のホームページにももう載っていると思いますが、それに基づいて大枠の養育費が算定され、それぞれの家庭事情において加算若しくは減算が話し合われて、調停の合意に至ります。
 ただ、家裁調査官としては、そうした調停に立ち会っているわけですけれども、解決困難な事情、例えば財産分与や慰謝料等について対立、非難応酬が激しく、それに伴って養育費の合意も進展しないといった場合には、事件に応じて問題を切り分けつつ、婚姻関係の破綻の経過や離婚原因、子供の実情、経済事情の背景などを調査する活動を行います。時に家庭訪問なども必要となります。私が一番に考えるのは、問題が発生している中で、一番の弱者である子供の権利ができるだけ守られているかどうかにあります。調停での話合いでは合意できない場合、養育費については裁判官の審判によって決定されることになります。
 こうして決められた養育費ですが、調停や審判の後、それが支払われないということが起こります。こうした場合に家庭裁判所でなされるのが、履行勧告という事件です。
 履行勧告事件は、家庭裁判所の調停で決まった調停条項、審判で決まった決定条項について、その義務者、家裁では義務者と呼びますが、民事執行法は債務者ということになるんだと思いますが、に履行を求めるものです。具体的には、養育費の支払が決まっていたのに支払わない場合、権利者からの申出により、養育費の支払を確実に履行してもらうよう義務者に勧告をする手続で、これも家庭裁判所調査官の調査活動の一つです。紛争後の修復手当てといいましょうか、家庭裁判所のアフターケアというべき活動で、ただ、事件数としては少なくないものがあります。
 具体的には、義務者に履行勧告書を送付し、その回答を待ち、支払わなくなった、支払えない事情等を確認し、なおできる限りの養育費の支払の履行を求めるといったことになります。電話で接触するということも多いと思います。離婚紛争に伴う感情的な遺恨や怨念といったようなもの、それを乗り越えて、子供の成長、発達のための養育費の支払ということを説得し、対応を助言することもしばしばあります。そして、義務者の回答内容を権利者に伝え、当面の理解を促すことになります。当面、少し減額した状態でしか支払えないというようなことに御理解をいただけるかどうかというようなことも確認していきます。それで御了解いただければ、じゃ、取りあえず今回の履行勧告は少し待って、またしばらく様子を見ましょうというような形になることが多いと思います。
 ただ、実情としては、義務者も経済的に困窮していることも少なくありません。しかし、全く回答書にも反応がない、返信してこないといった場合も少なくありません。そうした後、強制執行は最終的な手段であり、そうならないように調査、調整活動を調査官としては行っているのですが、それでも支払わず、養育費の確保が必要となれば、権利者に強制執行手続について説明し、家庭裁判所としては事件を終了するということになります。
 とはいえ、こういう説明をしながらでもありますけれども、権利者の方にとって離婚後の義務者の財産がどこにあるか特定することは相当に困難だなという、強制執行ができない、進まないといった事態も考えられたところで、とてもやっぱり心苦しいというところが実務家としてはありました。
 そこで、実務の現場としては、当事者の双方の方に再度養育費調停、養育費の減額調停といったことになりますが、を行いませんかというふうなことを説明したり、促すようにしてもいました。しかし、離婚紛争を経た当事者双方にとって再度養育費調停を行うこともまたできる限り忌避したいということで、再調停が申し立てられることはありますけれども、多くはないというのが実情です。
 こうした実情から考えて、今回の民事執行法の改正における債務者の財産の開示制度の実効性を上げる方策、特に第三者からの情報取得手続の創設は必須のものと考えます。子供の権利である養育費の履行確保の滞留、停滞といったものが解消、改善される方向に動くと考えられるからです。なお、義務者の様々な理由での経済的困窮もまた実情としてあることは事実であり、債権者の最低生活保障についての配慮も当然必要なのかなというふうに考えます。
 次に、子の引渡事件ですが、多くの場合、その前提として離婚事件等の調停があり、それに伴う親権、監護権や養育費の調停、審判、面会交流に関わる調停、審判などがなされた後、なお、非親権者の親が子供を手放さないといった場合に起きる事件ということが多いと思います。子供の年齢、成長発達段階にもよりますが、離婚紛争中、若しくは離婚後に親権者でない親が子供をいきなり奪取し、他方の親に会わせない、若しくは親権者に指定された親に引き渡さないというような緊急事態に対する解決を求めての場合、そういう場合に強制執行がなされるということも考えられます。いきなり奪取といった場合、その紛争性の高さとはいえ、法的解決を尊重、遵守しないといった行動自体が子供への虐待とも言えるような場合もあると思っています。
 付け加えるなら、夫婦間の子供の数が少なくなり、また、父親の育児参加が求められる中、この十年から十五年ほど、親権者、監護者の指定や面会交流など子の監護に関する事件の紛争性は高くなり、解決困難になっていると言わざるを得ません。
 そして、通常の場合、離婚等の調停、審判での解決においては、家庭裁判所の調停、審判の段階で、家裁の調査官は、子供の実情調査、親権者、監護者の適格性に関する調査、試行的面会交流等を命じられ、当事者双方の主張を聞き、家庭訪問を行って直接子供に面談し、場合によっては子供の祖父母の意見を聴取し、当事者の実家の動向が実は鍵を握っているということも少なくありません、また、子供が在籍する学校等への照会や学校訪問なども行って、それぞれの家庭事情や親子関係、子供の成長発達状況を調査し、調停や審判での早期問題解決を図ることになります。
 その調査は、関係諸科学の知見に基づく客観的、科学的調査が求められますが、その調査に伴って、調査というだけではなく、問題解決に向けた調整活動や説得活動も不可欠になります。具体的には、父母の紛争下にあって、子供が不登校や引きこもりになっていたり、学校不適応を起こしているといったことも少なくありません。そうした子供への心理的な手当て、立ち直りを配慮しながら調査することもございます。
 そうした調査活動の中で、親権者、監護者の適格性を判断し、非親権者と子供の面会交流が円滑に実施されるように、試行的に家庭裁判所内にある児童室といったところを使って面会交流を実施したり、当事者間での面会交流の実施に助言指導を行ったりして、子供の不安や葛藤を可能な限り減らし、当事者双方の理解や情報交換の改善を向上させていくことになります。具体的に言うと、面会交流をいつやるかというようなことについて当事者双方がうまく連絡を取れないというようなこともたくさんありますので、そういったことについて円滑にできるようにということで助言をしていくというようなことがございます。
 父母の感情的葛藤や対立が鎮静化すること、父母の精神的安定性を増すことが、子供の不安や葛藤を少なくする最大の鍵だと思います。より具体的に言えば、親権者、監護者になりたいと主張しつつ、一方、他方の親への面会交流を激しく拒否したり、一切の接触を遮断しているといった場合、さらに、子供を自分だけの支配下に置くように心理的に操作するといった、あえてですが、虐待に準ずるような問題行為を行っている場合、そうした親に対し、子供にとって面会交流が必要であり、大切であることを説明し、調整していくことが大きな課題となります。
 問題となる子の引渡し事件は、こうした家庭裁判所での経過、働きかけを経た上でなお子供を引き渡さない場合になされるものであり、さきに述べましたように、紛争性が極めて高く、それは紛争下にある子供にとっては極めて苛烈な葛藤状態が想定される事件だと思います。
 そこで、今回の民事執行法の改正における子の引渡し及びハーグ国際条約に基づく子の返還の強制執行に関する規定についての明文化、見直しは必要なものと考えます。従来、子の引渡しの強制執行の規定がなかったことが大きな問題であり、特に子の引渡しに関して、執行補助者の必要性などが明示されたことは子供の権利保護に資すると考えられるからです。父母の激しい対立、葛藤が続く中、子の引渡しという最終的な現場に直接立ち会い、子供の不安定な心情に寄り添って助言できる法律的な素養と心理援助的な素養を兼備した専門家が必要であり、その人材確保が重要になってくるというふうに思っています。
 家裁調査官の実務経験からいうと、虐待事案でない限り、家事事件、少年事件を問わず、子供たちは可能な限り、どちらの親も大切で、どちらの親も愛したい、そういうふうに思っていると思います。ですから、家庭、家族の機能がうまく働かず、家庭内に紛争や葛藤が満ちている中では子供たちはとても苦しいです。成長発達年齢に応じて、子供たちの言葉で意思表明は様々ですが、本当に苦しい。様々な懸念の海の中で思ったことを言えなかったり、時に逸脱行動や問題行動で内面を表現したりします。不幸なケースでは、それが少年非行に至ることもあります。
 ですから、私は、個々の家庭機能がうまく働かない場合は、それに代わって国や社会が一定の後見的機能を果たす必要があり、それが子供の権利、子供の成長発達権を保障することになると思っています。少年法の理念で言ういわゆる国親思想、パレンス・パトリエであり、この国親思想は、家事事件の紛争下にある子供たちにも必要なものではないかと思います。
 民事執行法の中では、養育費の問題も子の引渡しの問題も債権者と債務者の問題とならざるを得ないのですが、重ねて言うと、養育費は債権者の権利だけではなくて、子供の成長発達権を保障する子供の権利であり、子の引渡しについても、子供がより良い環境で成長発達できることを保障するための制度であるべきだと思っています。子供の成長発達権の保障ということを基本に置いて法律が検討され、運用が構築されることを願っています。
 以上でございます。清聴ありがとうございました。

○仁比聡平君 三人の参考人の皆さん、ありがとうございました。日本共産党の仁比聡平でございます。
 冒頭の意見陳述で、伊藤参考人、とても謙虚にお話を始められたんですけれども、やっぱり今日おいでいただいて本当に良かったなと思っております。
 そこで、まず伊藤参考人にお尋ねしたいと思うんですが、先ほど元榮議員もお聞きになっておられましたけれども、子の葛藤ですね、あるいは子への葛藤といいますか。御意見の陳述の中で、いきなり奪取といった場合のお話がありました。法的解決を尊重、遵守しないといった親の行動自体が子供への虐待と言えるような場合があると。あるいは、他方の親への面会交流を激しく拒否したり遮断している場合、さらには子供を自分だけの支配下に置くように心理的に操作するといった行動というのは、これは虐待に準ずる問題行為なんだという御指摘は、子供の福祉の立場に立った極めて率直な御意見なんだと思うんですけれども、少し敷衍して、どんな問題意識なのか、お話しいただけたらと思います。
○参考人(伊藤由紀夫君) ありがとうございます。
 私は、パレンス・パトリエということを言いました。ただ、それも、基本的に時代によってその考え方は少し違うだろうと思っていて、やっぱり今は子供の、本当、意見表明権とか成長発達権ということ、それが大事だというところを中心に、要するに、介入するときも必要かもしれないけれど、その子供に寄り添った形でパレンス・パトリエの考え方が進んだらいいなというふうに思っているというところが一つです。
 ただ、実務経験からいうと、やっぱり一生懸命なんです、監護している親は、抱え込んでいると。そのことも分かってあげながら、ただ、やっぱり社会的な公平感とか子供にとって双方の親が大事だと、やっぱりそのことが子供の心情とか成長のためになるというようなことについて、やっぱり、全く排除してしまう、そういう可能性を見ないというか、やっぱりそこを検討してくれない、そのことがやっぱり子供をかなり不自由にしていると思います。
 やっぱり、そういうことについて、子供のためにこういうふうな形で考えましょう、相手の親との接触についても整理しましょうというようなことを本当に丁寧にやっていかなければいけないと思っていて、それがなかなかできないというところで苦しいところがあります。
 ただ、現実的には、その思いが強過ぎて、もう本当に、いきなりもう住んでいたところから移されてしまう、若しくは通っていた学校にも行かなくなっちゃう、保育園にも行かなくなっちゃう、それは子供は意見としてつらいというようなことを明確に言うわけではありません。ただ、やはりそこが、不登校になっていくとか、やはり、園には、別の園には行ったけどそこで顔つきが暗いとか、いろんなことがあります。やっぱり、そういうことを丁寧に調査していく中で、子供にとって何が一番いいのかというのを考えたいというふうに思っています。
○仁比聡平君 今お話があっているような、専門家として家裁調査官の皆さんが本当に頑張っていけるように、あるいはこの法改正のテーマ、養育費の履行確保だったり、そして子の引渡しだったりというその家庭の紛争における問題の解決というのが専門性が本当に生かされていくようにということを強く思うわけですけれども、伊藤参考人の御意見の中で、法律的素養と心理援助的素養を兼備した専門家が必要であり、その人材確保が重要になってくるというお話ありまして、私なりに端的に言うと、親やその実家も含めた法的紛争が子供の心理や発達を傷つける、これ愛の名の下に傷つけるということが現にあるんだと、そこの専門家が必要だと。謙虚に、家庭裁判所の調査官がとはおっしゃいませんでしたけれども、私は、それは家裁の調査官でしょうと思うんですね。
 臨床心理士さんとか、それから児童相談所の児童福祉司あるいは社会福祉士など、様々な方が虐待だったり子供の事件に関わりますけれども、その中における家裁調査官の特質といいますか、家裁調査官だからこそやらなければならないと思っておられることというのがありますか。
○参考人(伊藤由紀夫君) ありがとうございます。
 もう現場を離れましたので、現場の人たちが負担が増えたらということを思うので。ただ、今先生が御指摘になった、やっぱりその法律的な考え方、枠組みとやっぱり臨床的な枠組みと、両方併置しながらいろいろ考えていけるという、それはやっぱり家裁調査官の果たすべき使命だというふうに思っています。
 ただ、こんなことを言っては、臨床心理士の方の研修なんかに呼ばれることもありますし、その中で確かになかなか法律については余り考えていなくて、臨床心理療法みたいなことを、だけど、そういう、先生たちにも、例えばスクールカウンセラーで働くときにはというような形で法律的な枠組みのことをお伝えする、それが大事だ。やっぱりそれは児童心理の専門の方たちの全体の問題で、そこをやっぱり取り組んでいくというようなことが必要かなというふうにも思います。
 以上です。
○仁比聡平君 ありがとうございます。
 そうした家庭裁判所調査官の調査を中心にした家庭裁判所の役割がこの法改正のテーマにおいてもとても重要じゃないかという問題意識で、今津参考人、松下参考人の順でお尋ねしたいんですが、まず今津参考人から、先ほど執行裁判所が決定によって執行の方法を定めるという、ここが極めて重要という問題提起がありまして、私もそのとおりだと思うんですね。
 その執行裁判所がどんなふうに定めるのか、何が判断の資料になるのかということで、午前中、最高裁と法務省から、それは家庭裁判所を中心にした本案の記録ですと、特に家裁調査官による調査ですという御答弁があっているわけですが、そのことが、お話しになった百七十四条と、それから百七十六条の執行裁判所及び執行官の配慮という義務、ここに関わるお話になるんだと思うんです。
 そこで、その問題がはっきりする場面かなと思うんですが、間接強制前置の例外として、百七十四条の二項二号に「債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき。」、これは直接強制執行だということになるわけですが、その判断というのは、これ家庭裁判所が役割を果たさないとそんな判断できっこないと思うんですが、いかがでしょうか。
○参考人(今津綾子君) この点については、私も法制審の議論、資料で拝見しまして、裁判所サイドからは、こういった例外を設けることはあり得るとして、これどういうふうに判断するんだと、何を基準に判断するのか。仮に、こういった条文できたとして、この判断が緩いかきついかによって、原則間接強制前置とされているものが結果的に全然間接強制なしでどんどん行ってしまうという可能性もなくはないので、非常にこれ難しい問題だと思います。
 監護を解く見込みがあるとは認められないというこの条文だけを見ると、どの程度の、じゃ、見込みならいいのかというのははっきりしませんので、この辺りは、ただ、条文でこれ以上詳しく、じゃ、どういうふうな状況であればと書くのは難しいと思いますので、運用上やっていただくということを期待するというか、そこまでしか私の方ではちょっと申し上げられないんですけれども。
○仁比聡平君 ということだと思うんですね。
 それで、松下参考人にお尋ねですけれども、そもそもこの百七十四条で執行裁判所が決定で定めるという方法というのは、これ今、今津参考人お話しのような個別のケースに対して、どんな方法で、つまり同時存在は不要とするという法になったけれども、だけども、それを現実にどうするのかというのはそれぞれの個々のケースごとなんだと思うんですよね、債務者の同時存在の問題にしても。どの場所で執行するのかとか、あるいはその立会い者や執行補助者をどういうふうに求めるとか求めないとか、執行官任せにするんじゃなくて執行裁判所が、今、今津参考人もお話のあったような、検討もして定めるという、そういう理解でいいんでしょうか。
○参考人(松下淳一君) おっしゃるとおりだというふうに思いますし、法制審での議論でもそういうことが前提になっていたと記憶しております。
○仁比聡平君 その方法を定めていく上で、審尋と法律用語で言うんですが、記録を読んで、裁判所、裁判官が一方的に自分の頭だけで決めるんじゃなくて、当事者を中心にきちんと話を聞いて決めると、それを審尋という手続でこの百七十四条の三項に定めているわけですが、子の引渡しの強制執行を行うには審尋を原則しなきゃいけないというふうにした趣旨は何でしょう。
○参考人(松下淳一君) 現在、いわゆる代替執行という手続でこれ審尋が原則必要的になっているんですけれども、発想はそれと並びかと思います。つまり、金銭執行などと違って人が関わることですので、裁判官が直接こう情報を取得するということが重要だということで原則は審尋が必要で、ただし、まあ、そんなことをしている時間もない、危ないような場合には例外的に審尋しなくていいと、そういう立て付けになっていると理解しております。
 以上です。
○仁比聡平君 家庭裁判所の本案の記録だったり、あるいは調査官、その事件を担当している調査官なんかの意見も共有しながらそうした審尋が充実して決定がされていくということがどうしたって必要だと私は思うんですけれども、そこで、その審尋もない、なくて行っていい場合というのが法案に規定されているわけです。無審尋での強制執行と。それが、「子に急迫した危険があるときその他」という場面なんですね。この、子に急迫した危険があるときに直接の引渡しを、直接執行を急がなきゃいけないという状況がある、これが妨害されるようなことがあってはならないという一般的な趣旨は分かるんですね。
 けれども、これ無審尋でやるということになれば、その判断を担保するものというのはとても大事だと思うんですけれども、それは私が申し上げているような債務名義を成立をしたプロセスでの家庭裁判所中心にした資料ということにしかならないと思うんですが、いかがでしょう。
○参考人(松下淳一君) 全くおっしゃるとおりだと思います。私の理解もそのとおりです。
○仁比聡平君 そうした中で、個々のケースを本当に適切に扱っていくということに加えて、今日も深掘りをされている子の福祉とか子の心理状態ということを考えたときに、今日、今津さんや松下参考人から現実的な方法としてというふうに言われている今回の法改正に日本の、我が国の制度がとどまっていていいのかと、そうではないんじゃないかと私は思うので、松下参考人、今津参考人の順にお答えいただければと思うんですが。
 私は、養育費の問題についても、扶養義務の行使というのを超えて国あるいは行政による立替えという考え方を軸にした制度改革ということを考えてもいいと思うんですよ。あり得ると思うんですね。それから、執行の問題についても、今津さんから、手数料によって執行官は支えられていますからというお話のとおり、つまり執行費用は当事者負担という考え方の下で成り立っているわけですよね。けれども、子供の幸せというのはそうじゃないでしょうと。だったらば、家裁調査官を生かすというやり方も含めて抜本的に制度を考えるということもあっていいと思うんですが、いかがでしょうか。
○参考人(松下淳一君) 現在では、養育費というのは民事の問題と整理され、当事者間での紛争解決に委ねられていますし、執行費用についても基本的に受益者が負担するということで、最終的には債務者負担になるという立て付けになっているんだと思います。ただ、養育費に限って言っても、諸外国の立法例では国が取り立てるというような仕組みを取っているところもあるので、現在の日本の制度が論理必然的に唯一の制度であるとは私も全く思っておりません。
 私、研究者なので自戒を込めて言えば、民事の問題だったから理論的にこうしかないという思考停止をするのではなくて、諸外国の立法例なども参考にしながら、まさに子の福祉、子供の福祉のためにどういう制度がよいかということを考える必要があり、今後も不断に制度の改正、改善というのを検討すべきであるというふうに考えております。
 以上です。
○参考人(今津綾子君) まず、養育費の問題につきましては、今、松下参考人からもありましたように、日本の制度だけが唯一のものではないと。諸外国の例でいいますと、先ほどおっしゃっていただいた立替えの制度もありますし、あるいは給与を天引きして、債務者の給与を天引きしてそれを渡すというやり方を取っているところもありますので、そういった仕組みを取るということも一つの案ではあります。
 ただ、例えば天引きの方法を取るということになりますと、今度は天引きされる側の、先ほどもお話出ましたけど、差押えの下限を設定する必要があるんじゃないかとかいう問題にも派生しますので、子と暮らす親と子と暮らしていない親とどちらの生活も守りつつ、最終的に子が一番幸せになるような形というのを考えていく必要あるかなと思います。
 もう一点、執行官の費用の問題につきましては、現在その手数料収入でやっているということで、その最終的な費用負担、当事者になりますけれども、今現在、子の引渡しの強制執行、件数自体もそんなに多くないということですので、もし仮に可能であれば、当事者負担という制度を維持した上で、その費用について、例えば国なり公的な団体からの支援という形で当事者に最終的な負担が行かないようにするとか、そういった形を考えるということも一つの案かなと思っております。
○仁比聡平君 ありがとうございました。