○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 まず、大臣に、新しい社会的養育ビジョンとこの本改正との関係についてお尋ねをしたいと思うんですけれども、平成二十九年の八月二日に厚生労働省の所管でこの養育ビジョンが策定をされました。この中で、特別養子縁組がどう位置付けられているかということを説明資料をそのまま読みますと、家庭養育優先の理念を規定し、実親による養育が困難であれば、特別養子縁組による永続的解決、パーマネンシー保障や里親による養育を推進するなどとなっておりまして、この文章だけ見ると、何だか特別養子縁組の要件拡大が決め手であるかのようなふうにも読めるわけです。
 ですけれども、実際、我が国におけるこの社会的養護、あるいは養育をどう取り組むのか、現状にどんな課題があるのか、どうすれば子の利益を実現していくことができるのか。この政策的な問題については、相当大きな議論があるわけですね。実際、この新しい社会的養育ビジョンの下で、今日も議論ありましたが、数値目標が掲げられています。おおむね五年以内に現状の約二倍である年間千人以上の特別養子縁組成立を目指し、その後も増加を図っていくというのですけれども、その根拠というのがどこにあるのかということを厚生労働省と随分議論しましたけれども、結局よく分からない。言ってみれば、えいやっとスローガンを掲げたというようなところになっているわけですね。
 実際、法と、それから特別養子縁組成立の審判という言わば個別の事案を考えましたら、この特別養子適格の問題でも、それから養親との関係で、本当に実親との関係を断って、その養い親との親子関係ということを成立させることがふさわしいのかどうか、この判断というのはとっても重大な、かつ慎重に行わなければならないものだと思うんです。
 この数値目標を掲げて特別養子縁組を永続的解決の決め手にするような、そういう考え方でこの法改正をしているのではないんだと思うんですが、いかがですか。
○国務大臣(山下貴司君) 御指摘の社会的養育ビジョン及びそれを受けて厚生労働省が策定した都道府県社会的養育推進計画策定要領では、平成二十八年改正後の児童福祉法において家庭養育優先原則が掲げられたことを受けて、特別養子縁組について、おおむね五年以内に年間千組以上の成立を目指すこととされたものと承知しております。これは、この数値目標というものは、家庭養育優先原則をより徹底するために、まずは特別養子縁組の成立件数を現状の二倍にすることを目指したものと私どもは認識しているところでございます。
 法務省としては、社会的養護の状況下にある子供のうち、家庭における養育をすることが適切な者について、そのような機会を提供することは重要であると考えております。本法律案による養子となる者の上限年齢の引上げにより、特別養子がより広く適切に活用されるものと期待しておるところでございます。
 そうした意味においては、本法律案は、御指摘の新しい社会的養育ビジョンと目指す方向を同じくするものであると考えてはおります。
 他方で、やはり委員御指摘のとおり、個々の特別養子縁組の成否につきましては、個別の十分な配慮と関係者の思いや覚悟等が必要なものでございます。そういったことからすると、切り札としてこの法律を作るというよりは、まさに私が改正の目的で申し上げたように、児童養護施設に入所中の児童等に家庭的な養育環境を提供するために特別養子縁組等の成立要件を緩和することによって制度の利用を促進するというもの、子の福祉のために家庭的な環境で養育する選択肢を広げるものというふうに認識しております。
○仁比聡平君 今大臣が最後におっしゃった選択肢を広げるという対象としても、これまで法案の策定過程で実情として示されているものとしては、今日も議論があっています二〇一六年の厚生労働省の調査が一つあるんですが、上限年齢の引上げに関わって言えば、現行法の原則六歳未満という年齢要件が差し障りになっているものというのが四十六件という数字ですし、パブリックコメントで、大阪府中央子どもセンターにおいての聞き取りなどで年齢超過で断念という児童は六人という数字だと思うんです。
 そうした子たちに、現行法の年齢要件が障害になって家庭的な養育の機会がつくることができないということは打開をしようと、私、選択肢を広げるというのはそういう意味ではないかと思うんですが、いかがですか。
○国務大臣(山下貴司君) 年齢要件の引上げということに関しましては、そういった機会を設けることによって選択肢を広げるというものであろうというふうに考えております。
○仁比聡平君 現実に子の福祉を考えてその子供をどうするかと目の前に問われたときに、例えば、児童相談所で児童養護施設がもうどこも空きがなくて定員がいっぱいと、だから、言わば押し込むような形でその子を託す、そのために子供が育ってきた町あるいは通っている学校から遠く離れてその施設に送らざるを得ないと。本当だったらば、親とは離れた方がいいんだけれども、だけれども学校には通い続けられた方がいいんだけど、そういう条件が現実にはないというような状況が日本の施設における養護ということを期待する中では現にあるんだと思うんですよね。
 家庭的な養育を大切にするという理念はそれはそれとして、実際に子のそれぞれの状況、あるいは親との関係、あるいはその子の福祉に沿って本当は役立てるべき社会的な資源がどんなものがあるかということを考えたときに、今の我が国の児童福祉の現状というのは全く不十分と。施設がいっぱいだから里親さんに託せばいいというような単純な話では全くないはずで、施設における、児童養護施設における養育ということがふさわしい子ももっといる可能性もあるし、そこの議論はちゃんとしなければいけないと、つまり、今回の法改正とはこれ別にちゃんと議論しなきゃいけないし、必要な政治の責任を果たさなければならないと思うんですが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(山下貴司君) もちろん児童福祉の観点から、児童養護施設に入所している児童のほか、家庭的な環境が必要な子供に対してどのような環境を与えるかということは、これはやはり政府を挙げて考えなければならないであろうというふうに考えております。
 そういった中で、今回の特別養子制度につきまして、上限年齢の引上げであるとかあるいは手続の二段階化などによって、この制度の選択肢を広げるあるいはより適正化を図ろうというところでございます。
○仁比聡平君 その上で、今回の法改正なんですが、そもそも特別養子縁組とは何かと、どんな要件で特別養子縁組を成立させるかについて、民法八百十七条の七という条文があります。これは今回も改正はされません。
 この八百十七条の七によれば、「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。」となっておりまして、これ、裁判の手続との関係でいうと、審判の対象というのはこの民法の規定ということになるんだと思うんですが、民事局長、それでよろしいですか。
○政府参考人(小野瀬厚君) 御指摘のとおり、この特別養子縁組の成立は変更するものではございません。
○仁比聡平君 今回の改正は、その審判を、これまでは成立の審判ということで一本で行っていたんですが、そこに特別養子にふさわしいかどうか、その子が特別養子の適格を有するかどうかについての審判を導入すると、そのことによって審判が二段階になるということなのではないかなと思うんですが、先ほども議論のあったように、実の親との関係を絶って、法的な関係を絶って、その子に特別養子とすることが本当にふさわしいのかという、これを判断するのはとても大変なことだと思います。
 児童養護施設に入所をしている、例えば、今度は十五歳までということになるわけですから、学齢期あるいは中学生ということも対象の子として考えられることになるわけですが、そうなると、幼い頃から児童相談所がずっとその子に関与していると、あるいは児童福祉の様々な施設が関与しているということも考えられる。そうした資料を重視することも当然大切だけれども、けれども一方で、その児童相談所や児童福祉に関わってきた人たちの判断が本当に的確なのか、正しいのかということも、これは分からないわけですよね。
 これ、家庭裁判所はどんなふうにして判断していくことになるんでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(手嶋あさみ君) お答え申し上げます。
 今委員御指摘のような要件の判断につきましては、一般的なことをまず御説明をさせていただきたいと存じますが、主として家庭裁判所調査官が申立人から申立ての実情等を聴取いたします。また、養子となる子の監護の状況についても調査を行っております。また、家庭裁判所調査官が養子となる子の実父母から養子となる子を養育できない事情などを聴取すると。この事情としましては、例えば子を手放した時期ですとか理由ですとか手放した際の状況ですとか、そういったことを聴取するとともに、特別養子縁組の効果について説明をした上で実父母の同意を確認しているというのがこれまでの一般的な実務かと承知しております。
 これ、改正法が成立をいたしますと、養子となる子の年齢が高い事案について申立てがされることも出てくるというふうに思われますけれども、この際には、委員御指摘のとおり、児童相談所が関わっている場合などに関しましては、当該児童相談所から実父母による養子となる子の監護の著しく困難又は不適当であることなどに関しての資料を取り寄せるなどいたしまして、こうしたものを総合して特別養子縁組を成立させることが子の利益のために特に必要かどうかという観点から成立の可否を判断していくということになるかと存じます。
○仁比聡平君 まだ御答弁は一般的かなという感じがするんですけれども。
 最高裁が、平成二十八年の四月から平成二十九年の三月までの特別養子縁組の成立の審判事件等の実情についてという調査をされたようで、その資料をいただきますと、これまで特別養子縁組の成立を認容した子の方の平均年齢というのは一・五歳なんですね。一方で、却下、取下げということになった子の平均年齢は四・三歳、四・二歳と、比較的認容例よりも高いという形になっている。一方で、養い親との関係でいうと、年齢差ということがこの実情調査の中でも着目をされているようなんですけれども、これまでの特別養子縁組の成立が図られてきたケースにおいて、どのような調査とそれに基づく判断が子の利益のためにという形で行われてきたのか。これが、上限年齢が引き上げられる、それから審判が二段階になるということの中でどのようにこれから行っていくのかということについて、先ほど来お話のある家裁調査官の調査のありようも含めて、ちょっともう少ししっかりした議論が必要ではないかと思います。次回にまた引き続き質問させていただきたいと思います。
 ありがとうございました。