次に、早川参考人にお願いいたします。早川参考人。
○参考人(早川悟司君) 子供の家の早川と申します。よろしくお願いいたします。
 今日は貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
 私、児童養護施設から唯一お招きいただいておりますけれども、初めにお断りしておきますけれども、私、業界団体の代表でも何でもありませんので、一施設長だということで。といいますのも、施設の中でも、今回、新しい社会的養育ビジョンが出て、それに対する反応は様々なんですけれども、そういったところで、まとまった見解ではないというところは御了承ください。
 スライドの資料がございますので、お手元の資料を基にお話をさせてください。
 初めに、右上のⅠの①、今申し上げた新しい社会的養育ビジョンですね、この中でいろいろ里親委託の数値目標が示されておりますけれども、ここの下の方に赤字で書いている、午前の質疑の中でも触れられておりましたけれども、永続的解決という言葉ですね、これが繰り返し使われております。パーマネントソリューションという、アメリカの方では二〇〇九年に、この後の資料に出てきますけれども、児童の代替的養育に関する指針というものがあります。その中でも繰り返し出てきている言葉です。
 ただ、これは日本でいうと里親委託を示すような、あるいはそれと地続きの養子縁組という形で強調されておりますけれども、そもそもパーマネントソリューションというのは、実親ですね、実親の元を離れずに、いかに親を支援して、地域の中で子供がパーマネント、永続的に生活をできるかということを示しているわけで、あくまでも里親とか養子縁組というのはもう代替的な手段でありますから、永続的解決というふうに言い切ってしまって特別養子縁組を位置付けるというのは私は非常に危惧をしております。
 次、Ⅰの②で増える児童虐待の相談というふうに書きました。
 これも例年、大体八月ぐらいになると、前年の児童虐待の相談件数の速報値が流れます。これはあくまでも相談件数です。これが毎回報道で、もう大手新聞各社が一面トップででかでかと大きく児童虐待過去最多とか過去最悪というような報じ方をするわけですね。これ、かつては私も一々新聞社に電話掛けてクレームを付けたりなんということをしたこともありますけれども、最近はちょっと諦めている節がありますが、これ非常にまずいなと思っております。虐待がとにかく増えた増えたというキャンペーンを張ることで、まあ少子化に歯止め掛かりませんよね。親になることを恐れる若者たちが非常に増えているなということを危惧します。言うまでもなく、増えているのは相談です。
 じゃ、右に行って、Ⅰの③で、本当に虐待は増えているのかということを考えたときに、一つの視点、客観的な視点として、虐待の死亡事例の推移というものがあります。ここに、御覧になっていただいて分かるように、かつては百件以上で推移していた時期もありますけれども、近年でいうと七十件前後ですね。こういった形で増えたり減ったりということで、減っていると断じることは決してできないんですけれども、少なくとも増えていないということは御覧になって分かるかと思います。
 めくっていただいて、参考までにということで、言うまでもありませんけれども、ハインリッヒの法則というのがありまして、一件の重篤な事故の背景には二十九件の軽微な事故、災害があって、その背景には更に三百件のインシデント、ヒヤリ・ハット、もう少しで事故になりそうだったというような事案があるという、こういう比例するものだというふうに言われていますけれども、これを虐待事案に置き換えて考えると、重篤な虐待である虐待死亡事例が増えているのであれば虐待も増えたということなんだと思いますけれども、虐待死亡事例がなくなっていないので、相変わらずこれだけの数のお子さんが命をなくしているということは非常にゆゆしきことではあるんですけれども、なので、決してそれを軽視するわけではありませんが、でも少なくとも増えていないということは認識しておく必要があると思いますね。
 続いて、社会的養護の家庭の状況ということで④ですけれども、水色で抜いているところで、実際に社会的養護の下に子供が預けられているという場合に、元の家族の状況はどうなっているかということを示したのがこの表になります。
 抜いたところが実母のみなんですけれども、これ、実際数字は、児童養護施設でいうと四五%ということで、正直、私たちの現場感覚からすると非常にちょっと圧迫、数字が少なくなっているなという気がします。と申しますのも、近年の、先ほど年間、直近値でいうと十三万三千七百七十八件という虐待通報件数がありますけれども、通報段階では大半を占めるのが、近年でいうと面前DVを含む心理的虐待ですね。そういったことで、面前DV等で、母子で家庭を離れて逃げて、シェルターとかに入って、その後子供が来るというような、そういった事案もありますので、こういった場合には、戸籍上は婚姻関係が継続しているので、実父母ありというところ、二七%の中に含まれているんだと思います。その辺はさておきとして、要はシングルマザーの家庭が大半だということをお伝えしたいと思います。
 そして、左下ですね、入所児童等が受けた虐待ということで、じゃ、実際に児童が受けた虐待なんですけれども、先ほど申し上げたように、通告段階では心理的虐待が最も多い、二番目身体で、三番目がネグレクトなんですけれども、入所児童が受けた虐待というふうになると、ネグレクトが突出して多いんですね。ここで一位と三位が大逆転しているわけなんです。その理由は何かというのがなかなか解明されていないとは思いますけれども、私の推測ですけれども、それがこの横にある女性の貧困です。
 大半が、母子家庭から子供たちが来ているというふうに申し上げました。その母子家庭が、これもここで申し上げるまでもないかと思いますけれども、養育費の支払、これまでも審議されていると思います、支払を受けているのは二割なので、シングルの家庭の八割は就業している。平均年収は百八十一万円ということですけれども、これ四割弱の正規就労のシングルのお母さんが入っていて百八十一万円なので、六割を占める非正規就労のお母さんの平均年収でいうと、もう年収で百二十万を切るというようなデータも目にしたことがあります。そういった極めて貧困な状態でお母さんたちが子供を見ているということですね。
 一方で、これは非常に大きな問題かなと思いますけれども、生活保護の受給率は母子家庭、父子家庭共に一割ですね。捕捉率、必要な家庭あるいは世帯に生活保護の届いている率が二割しかいない。十人貧困で生活保護を求めている家庭があったら、二割しか届かないということですね。この辺り、非常に大きな問題だと思いますけれども、マスコミ報道等でしきりに問題になるのは、この八割の不受給の問題ではなくて、この二割の中にあるさらに一・六%の中のさらに一・八%と言われている不正受給の問題ですね。一・六%と一・八%を掛けるとどうなるのかと、まあ二%で掛け算しても〇・〇〇〇三二%みたいな数字が出るんですけれども、ほぼゼロに等しいようなところを針小棒大に報じて、それでこの八割の不受給の世帯を置き去りにしているという実態があって、ここの中には相当数の母子家庭があるというふうに推測されます。
 次めくっていただいて、そういった母子家庭とか女性の貧困をベースにしながら、この昨今取り沙汰されている子供の貧困があるというところは御承知おきいただければと思います。
 なので、この⑧に書いたように、児童虐待という言葉をまず捉え直す必要があるかと思います。最近、目黒や野田の事件の報道で、あれ自体は本当に痛ましい事件なんですけれども、ただ、先ほどから申し上げているように、昨今急に虐待死の事件が起きているわけではないんです。毎年ずっと起きています、数十件と。そういったものに対して我々世間は余りにも無知だったんじゃないかなというふうに思います。
 なので、でも一方で、先ほど言ったように、母子家庭の貧困からくるダブルワーク、トリプルワークで結果的に子供を適切に養育できない、結果的にネグレクトになっている、そういう事案と今回の報道のような虐待というのが一つの虐待、児童虐待という言葉でくくられてしまっている、これは非常に大きな問題だなと思っております。
 一方で、ちょっと視点を移しますけれども、国連の児童の代替的養護に関する指針というものがあります。
 そもそも、国連がとにかく家庭養護優先だということを言っているので、それに沿ってビジョンは出されたという言説もありますけれども、冒頭申し上げた二〇〇九年に出されている国連の代替的養護に関する指針、通称ガイドラインというふうに言っていますが、そこでは何を言っているかというと、パラグラフの三で、冒頭の方になりますけれども、国は、家族がその養護機能に対する様々な形態の支援を受けられるよう保障すべきであるというのが、まず冒頭、子供を引き離す前にまず家族を支援するべきであるということが書かれています。十一番、原則として児童の通常の居住地のできるだけ近くで養護を行うのが望ましい、簡単に見ず知らずの土地に子供を連れていかないようにということを言っているわけです。
 次のページに行って、貧困のみによる家族からの離脱の禁止ということを書いているわけですけれども、ここでは、経済的な理由だけで、貧困ということを理由に子供を家族から引き離すべきではないということが書かれています。
 次、非公式な養護の下の児童の福祉ですね。これ、非公式な養護というと、日本では親族の下である養護等を指しますね。先ほどの林先生のお示しになった新聞で、親と、実親と離れて暮らす子供の九割が施設と書いてありますが、あれも誤報です。実親と離れて暮らしている子供のほとんどは親族が見ています。地縁、血縁で見ています。東日本大震災のときに震災孤児、二百四十一人いましたけれども、そのうちで施設で暮らした子供は三人です。残り二百三十八人は地縁、血縁の下で引き取られています。なので、九割が施設、親から離れると九割が施設というのは大きな間違いですね。
 ⑤家庭復帰の妨げの禁止ということがありますが、ここには、あらゆる追跡の努力が失敗に終わるまでというふうに書いてあります。この追跡の努力というのは、家庭復帰のための努力です。これらが、あらゆる努力が失敗に終わるまで、養子縁組、氏名の変更又は考え得る家族の所在地から遠く離れた土地への移動を含めて、最終的な家族への復帰を妨げるような行為を行うべきではないということを書いてあるわけです。そういったことを考えれば、数値目標を掲げて特別養子縁組を倍に増やしましょうと言う前に先にするべきことがあるでしょうということだと思います。
 あとは、ちょっと時間がないのでささっとですけれども、日本が施設が多いのはうそと書きましたが、これは数字を見ていただければ分かると思いますので、飛ばします。
 ちなみに、これ、日本は社会的養護全般が少ないので、施設が多いんではなくて里親が少ない。里親が少ないのはなぜかというと、アメリカなんかだと大半がキンシップケアといって親族における養育とかを優先している、国連もそれを推奨しているわけですが、日本は、先ほど言ったように、親族における養育があっても、親族里親という制度はあるんですけれども、ほとんど使われていない。東京でいうと、一%ぐらいしか使われていないんですね。これ、ほとんどの市民が知らないですよね、親族里親って。だから、本当に里親を増やそうと思ったら、親族における養育をきちんと親族里親として追認していくといったことも検討すべきだと思います。
 最後、③のところで、ちょっと飛びますけれども、Ⅲの③、最後のページで、特別養子縁組に関わる懸念ということで、経済状況を養育能力の要素として捉える不合理。
 まず第一に、実親に関して養育能力を検討するということがありますけれども、そこに経済状況というふうに書かれているわけですね。そういったところで経済状況がこういった要素として捉えられるというのは、先ほど言ったことからも不合理だということですね。
 あと、実親に強いられる同意。
 同意撤回とかという話もありますけれども、社会的養護の下で子供を預けている親御さんは、かなり子供に対しても施設に対しても世間に対しても負い目を負っている親御さんが多いですね。そういったことで、児童相談所や周囲の方から養子縁組を勧められたら、渋々同意せざるを得ないという案件は容易に想定されます。
 あと、子供自身の地域生活での連続性や主体性の剥奪、実親を失うことでのアイデンティティー形成のつまずき、アタッチメント形成に課題がある子を一般市民が家庭に迎えるリスク、養育里親以上に公の目や手が届かず密室化をしてしまうだろうということ。
 最後に、そういったことを踏まえて、特別養子縁組を進めるのであれば、その前提として、一番、縁組検討以前に、生活保護を始めとする実親への支援を拡充すること。二番目、社会的養護の下で生活する全ての子供と保護者のためのアドボカシー制度を確立すること。三点目、養子、養親、実親三者に対する縁組の継続的な相談援助体制の確立ということで挙げさせていただきました。
 時間になりましたので、終わります。

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 参考人の皆さん、本当にありがとうございます。
 私からも、今回の改正、とりわけ上限年齢の引上げの下で特別養子縁組を成立させることが子の利益になるというケースというのは、これはどんな場合なのかという角度でお尋ねをしたいと思うんです。
 先ほどのやり取りで早川参考人から、とりわけ学齢期を超えた児童について、里親を希望するという養親さんも基本いらっしゃらないというのが現実ではないかと。
 今回の法案で原則六歳までというのを引き上げるというニーズは私はあると思うんです。この点は、棚村参考人が先ほどおっしゃったとおりだと思うんです。必要なケースに選択肢をしっかりつくるという改正は私も大事だと思っているんですけれども、先ほどの早川参考人の御意見もお聞きになった上で、学齢期とかあるいは中学生とか、そうした年齢層でのどんな場合があり得るとお考えかという、棚村参考人、いかがですか。
○参考人(棚村政行君) 結局、先ほどの統計でもお分かりのように、赤ちゃんというか乳幼児が対象の特別養子というのは現行の制度の枠の中ではやっぱり多いわけですよね。もちろん、そういう赤ちゃん養子、実子型の養子というのがかなりニーズがあって、そういう意味では、生殖補助医療とかそういうことで不妊治療をやってお金を掛けて、なおかつそれがなかなか難しいということになると、里親さんとか、養子、特に養子を求めてやる方たちが年齢も上がってきています。
 そういう中で、特に中学生とか思春期とかというのは、逆に言うと、非常に赤ちゃんとは違って実親の存在も知っていたり、あるいは実親のところでかなり傷ついたり、いろんなことを経験しています。そのためにはかなり支援が必要で、特に子供の意思とか子供の思いということを考えると、実親に対しても非常に気遣って、それからやっぱり子供って実の親を慕う傾向がすごくあります。他方で、里親さんのところで幸せにとはいっても、何か問題があると、実の親でもないくせにとかそういう反発をしたり、いろんな問題が実は起こってきます。
 だから、中学生とか思春期というのは実は子供の気持ちも揺れ動いていて、どっちにしたらいいんだというのが、十五歳ぐらいになると遺言もできる、それから自分で普通養子縁組の当事者にもなれる、それから認知もできるというか、結婚外で生まれた子供、それぐらい民法では大人として十五歳を扱いましょうという方向も一方であるわけですね。
 だけれども、今の子供たちを見て、置かれた状況においては、本当に、じゃ、その子供たちが自己決定というか、自分できちっとした判断ができるかというと、置かれた環境とかいろいろなものでやっぱり気遣いをし、しかも問題を抱えていれば、里親さんとして育てている人たちも、この子に本当に、何というか、どういう形で自分たちは接したらいいのかというのは迷ったりもされます。
 そういう意味では、特別養子縁組というものが普通養子縁組とやっぱりどういうふうに違って、何が一番いいのかという議論が本当はできれば、一番、むしろ普通養子というのを緩やかにしたりチェックを少し厳しくしたり、いろんな受皿として柔軟性を持たせれば、特別養子よりもむしろ柔軟な選択肢として用意できるんですけれども、今回は残念ながら、特別養子をどういうふうに緩めたり修正をすればつながるかということで、まさに思春期の子供とか中学校ぐらいの子供たちに対しても少し広げていくべきではないかということで、十五歳の上限年齢ということが決まりました。
 ただ、十八歳というのは限りなく、なかなか想定しづらいというか、申立てをすることについてやむを得ない事由というのはなかなか限定をされていて、ほぼ認められないのかなというぐらい、やはり十八歳になれば、成人年齢も二〇二二年からなりますので。だから、中学生、思春期というのは非常に難しいときなので、本人も揺れ動くし、それを扱っている里親さんやあるいは養親になろうとする人たちも、やっぱりなかなか申立てだとかその決断ができないというんですかね、そういう中で、やっぱり必要な支援みたいなものを与えながら、御本人の気持ち、それから養親になろうとする人たちのやっぱり選択肢を用意しようというのが今回の改正になりました。
○仁比聡平君 やっぱり、お話改めて伺って、とてもレアなケースになるかなというふうにも思うんですけれども、参考人もうなずいていらっしゃるんですが。
 林参考人に同じ問い、どんなケースが、特に上限年齢を引き上げた上でというのはいかがですか。
○参考人(林浩康君) 先ほども早川委員の方からもありましたように、私は、社会的養護で暮らして成人した人にインタビューしているんですね。彼らの中に、里親家庭で暮らしていたときに、やはり、入れ替わり立ち替わりいろんな里子が来たり出ていったり、そこに実子さんがいたり養子さんがいたりという、複雑な子供が多様に一家族で一緒に暮らしているというケースはあるんですね。その子は軽度の知的障害を持っている子なんですけど、五歳のときから養子縁組という言葉を知っていて、里親さんに対して僕は縁組してくれないのということを言っていたと。やはりそこにはお金の問題もあって、里親さんとして受託している子をなかなか縁組できないというふうな状況もあって、そして結局、成人になってから縁組されました。
 子供というのは自分の置かれている状況をよく理解しています。そういうことを考えたときに、主に里親家庭で何らかの理由で申立てが遅れたというケースであるとか、あるいは施設の中でもやはり子供の意思というのはやっぱり環境に左右されるんですよね。ずうっと施設で暮らしていて、施設職員が、里親さんのところ行きたいか、縁組してほしいかと言うと、やっぱり現状維持を子供は望むんですね。
 そこに、先ほどからあった支援された意思決定システムという一環の中で、やっぱり独立型のアドボケートのような、子供に寄り添う、施設の職員でもない、児相の職員でもない人が関わる中で思いは変わるかもしれない。あるいは、嫌やと言っていた子が、一回体験して意向を変える場合もある。だから、いっときの子供の意向だけでもって、この子は家庭に向かないんだということは、最低限我々は考えなければならないことではないかなというふうにも思います。
 今現実に、養護施設なんかでも八年以上入所している子が二割を占めています。そういうお子さんというのは、家庭委託も難しいし家庭復帰もあり得ない、本来的には養子縁組を考えるべきだったけど、遅滞化する中でどんどんそういうチャンスが失われていく、そういうお子さんは少ないだろうけど、やはり数的にはいるというふうにも思います。
○仁比聡平君 今の棚村参考人、林参考人の御意見を伺った上で、早川参考人、いかがですか。
○参考人(早川悟司君) 私、冒頭から、家庭、学校、地域の三本柱というふうに申し上げましたけれども、ここはやはり重視すべきだと思っています。
 私たちの施設にいる子供たちも、もうやっぱり学童期以降の子供にとって地域というのは本当に世界そのものですよね、学校を中心としたですね。電車に乗ることもめったになく、基本は本当に徒歩圏内の中で友達との関係を築きながら生活をしているわけですね。学校での友人関係というのはすごく本当に子供にとって大きくて、これを築き上げたものを、今、虐待の通告、保護なんかもそうなんだけれども、ある日突然児童相談所の職員がやってきて、今日から児童相談所へ行くよといって、ある日突然地域からも学校からも引き離されて、それで児童相談所に行って保護されて、それで施設に来る、里親に行くという状況なんですね。これが子供に与えているダメージというのは相当なものがあると思うんです。愛着形成期に親との関係がうまくいかなかった上に、なおかつこのアイデンティティーの形成も根っこを断ち切られるみたいなね。
 ここの部分、家庭を家庭をと言うがゆえに、地域や学校といった子供のアイデンティティーの基盤さえも奪ってしまうということに対して、私は非常に慎重になるべきだと思っています。
 だから、子供たちのやっぱり先ほどからもありますけれどもアドボカシーというか、子供の意向を、十五歳未満で合意の必要はないということになっていますけれども、その辺りを本当に慎重に、子供の意向を酌むといったことが大前提になるかなと思っています。
○仁比聡平君 今のお話の上で、冒頭、早川参考人が国連の児童の代替的養護に関する指針を引いて、言わば理念を示された上で、特別養子縁組に関わる懸念ということをお話しにもなったし、今ほどの御意見もそれを膨らますもの、敷衍するものだと思うんですけれども、この国連の指針については棚村参考人、林参考人はどんな御意見でしょうか。
○参考人(棚村政行君) これ、加盟国も今百九十を超えておりますし、いろんな地域、それから文化、宗教、そういうものがあるところで、十八歳未満のお子さんで代替養育とかあるいは養子縁組についても、児童の権利に関する条約は作られたり、あるいは国連の指針みたいなものも示されています。
 もちろん、これグローバルスタンダードの面もありますけれども、ただ、それについては多様性とか文化とか伝統とか、そういうところの、何というんですか、との調和というんですか、そういうようなことも言われていますので、私自身は、子どもの権利条約もそうですし、国連の指針もそうですけど、グローバルに普遍的に妥当だという共通の考え方と、それからやはり国の国情とか伝統とかそれから今の法体系の在り方とか、そういうことをバランスを取りながら実際の制度化とか在り方みたいなのを検討する必要があると。
 だから、目安であり、ある意味ではそれに留意する必要はあるんですけれども、これで全部枠付けられて、日本の制度が全部決まってしまうということではないという理解をしております。
○参考人(林浩康君) 文化を越えて子供が育つ場のユニバーサルなデザインみたいなものも一方で必要かなと。その一つの指針になるのは、この国連の指針かなというふうにも思っています。
 子供の喪失感をできるだけ緩和する上で、子供にとってどういう選択肢をどういう優先順位でもってまず考えていかなければならないかという優先順位を、ある意味、グローバルなスタンダードとして提示してくれているというふうに思います。
 これを踏まえまして、私は、社会的養育ビジョンを作るときの検討会のメンバーにさせていただく中で、ここにある優先順位ですね、先ほどから出ていますように、まず親族で、あるいは生みの親に育てられる、それが無理ならば身近な、より身近なところで親族を、それが無理ならという一応の区別化、優先順位をビジョンの中で意見として取り入れられました。
○仁比聡平君 早川参考人、そうしたお話しいただいたような理念、あるいは懸念も持ちながらこれまでずっと児童福祉の分野で取り組んでこられて、その特別養子縁組を取り組まれたというか関わろうとしたケースというのは、先ほど、有田さんでしたっけ、二歳の子供が八回も不適合だったという大きなダメージを与えてしまったというケースのことをお話しになりましたけど、ほかに特別養子縁組はこういうようなときには有効だというような御経験がおありでしょうか。
○参考人(早川悟司君) 正直なところ、私は、やっぱり立場上、ある意味偏った立場にいるわけですよね、うまくいった子たちは私たちのところに来ないというようなところもあって。ただ、若干、縁組ではないですけれども、里親委託で今うまくいっているケースは見ています。そういったケースがもう学童期になっているので、それで縁組になるとかという可能性は、今回の法改正で可能性としては開けるのかなという気はしますね。
 なので、やはり私の実感としては、施設にいる子を縁組というよりは、早期に里親委託になった子が一つの選択肢としてということで広がりがあるのかなと。
 ただ、正直、一個、矛盾というか引っかかりというか、私の中で解消できていないんですけれども、里親さんの中にも縁組志向が強い里親さんがいて、それは私は非常に課題だなと思っているんです。社会的養護の担い手として、実親を尊重しながら里親として実親を補完するという制度だったと思うんですけれども、今回の法改正でなおのことそこが少し不明確になってしまわないかなという懸念があるので、その辺りはまたちょっと課題として検討していただければと思います。
○仁比聡平君 ありがとうございました。最後おっしゃった点が逆に課題にならないように、ちゃんとしていかなきゃいけないなと思います。
 ありがとうございました。