193通常国会2017年5月9日参法務委員会『未払い賃金のみ時効が短いのは不当』

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

前回、被害者の権利救済と消滅時効について議論をさせていただいたわけですが、局長との議論が中心になりました。

そこで、大臣に今日冒頭お尋ねしたいと思うんですけれども、消滅時効というのは時の経過によって権利の行使を阻むということになるわけです。今度の改正案でも、五年、十年、二十年というこの時の経過によって、それぞれ要件は違いはありますけれども、不当に被害者救済が阻まれることになってはならないと思います。大臣は、これどのように被害者救済が図られているという御理解ですか。

○国務大臣(金田勝年君) 仁比委員からの御質問にお答えをいたします。

今回の改正法案におきましては、消滅時効に関しましては、現行法第七百二十四条後段の長期の権利消滅期間を消滅時効期間に改めまして、また、人の生命又は身体の侵害によります損害賠償請求権の消滅時効の特例に関する規定を新設をしております。これらはいずれも被害者救済に資することを期待をしているわけであります。

まず、前者の不法行為による損害賠償請求権の期間を定めました現行法第七百二十四条後段の二十年の権利消滅期間につきまして、判例は、時効期間よりも被害者にとって厳格であるとされる除斥期間を定めたものであるとしております。しかし、長期の権利消滅期間が除斥期間であるとすると、長期間にわたって加害者に対する損害賠償請求をしなかったことに真にやむを得ない事情があると認められる事案におきましても被害者の救済を図ることができないおそれがあります。このために、改正法案におきましては、長期の権利消滅期間を除斥期間ではなく消滅時効期間とすることとしておるわけであります。

また、二つ目の生命や身体の侵害によります損害賠償請求権につきましては、他の利益の侵害による損害賠償請求権よりも権利行使の機会を確保する必要性が高い、そして生命、身体について深刻な被害が生じた後、時効完成の阻止に向けた措置を速やかに行うことを期待することができないことも少なくないわけであります。そこで、改正法案におきましては、生命、身体の侵害による損害賠償請求権について、時効期間をより長期化することとしております。

○仁比聡平君 大臣が今の御答弁の冒頭の辺りで、私の聞き間違いかもしれませんけれども、七百二十四条の後段、つまりこれまで最高裁が除斥期間だと解釈をしたことがある条文ですね、ここを改めましてという表現をされたように私ちょっと聞こえたのですが、その意味は、後の部分に御答弁されたように、つまり現行法の解釈について最高裁とそうではない考え方がある、つまり除斥期間という考え方と消滅時効期間であるという考え方とあるわけですね。

その解釈に争いがあるわけですけれども、それを除斥期間とは解せないように、除斥期間であるというような余地はないようにしたというのが今度の改正案であると、そういう御趣旨でいいですか。

○国務大臣(金田勝年君) そのとおりと考えております。

○仁比聡平君 そうした形で前回、小川局長と議論させていただいたことも含めて、被害者救済がこの新しい時効制度の下でも十全に図られていくことが大切だと思うわけです。とりわけ、現行法の解釈に当たっても、もはや除斥期間と解して二十年の時の経過で権利を退ける、裁判所が門前払いをすると、こんなことはあってはならないと私は考えます。

そこでといいますか、ところがなんですが、前回小川委員も指摘をされたんですが、労働基準法に労働債権の短期消滅時効、百十五条ですけれども、この規定があるわけですが、大臣、これ、今回一緒に改正しなかったのはなぜですか。

○国務大臣(金田勝年君) 一括審議がされておりますいわゆる整備法案は、各省庁において民法の一部改正に伴う整備が必要であると判断した法律の改正規定を一本の法案にまとめる形で立案したものであります。すなわち、今回の民法の一部改正の趣旨を踏まえて、民法以外の他の法律の規律を実質的に変更する改正規定を整備法案に設けるかどうかは、その法律の所管省庁の判断によるものであります。

○仁比聡平君 所管省庁の判断とは、いかにも現代の安倍政権らしい言い方だと思うんですけれどもね。だって、大臣、百二十年ぶりの民法、債権法改正でしょう。

百二十年前、民法の現行百七十四条ですかね、これ、どんな規定か、ちょっと局長、御紹介いただけますか。

○政府参考人(小川秀樹君) 百七十四条は一年の短期消滅時効に関するものでございまして、月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権などにつきまして、一年間行使しないときは消滅すると定めるものでございます。

○仁比聡平君 ありがとうございます。

という規定、つまり、働く人の賃金は一年で時効で消滅するんだという規定が元々現行法、それこそ百二十年あるわけですよ。これ、おかしいでしょうということで、戦後、一九四七年ですが、労働基準法によって、労働者の賃金債権の時効は二年という趣旨の規定になっている。

つまり、民法の百七十四条と労基法の百十五条というのは、これは言わば不可分一体ですよ。その民法を改正する、債権法を改正すると提案をしておられながら、この労基法の百十五条を残すかどうか、それはもう所管省庁、つまり厚労省が判断したんだと、私は知らないんだと。おかしくないですか。

○政府参考人(小川秀樹君) 一括して審議されております整備法に関するものだと思いますが、基本的には債権に関する民法の規定の見直しが行われることに伴って、それに伴って改正を要するかどうかということについては、これは所管の省庁で判断することでございます。もちろん、それぞれ立法趣旨、立法の理由があるわけでございますので、その点については、基本は所管省庁の判断をベースとするというのが私どもの手法でございます。

○仁比聡平君 今局長がおっしゃった、特則にそれぞれの立法理由があるというのは私も了解できるところなんですよ。つまり、民法の原則がある、一般法としての原則がある、けれども、ほかの法律関係には特別の状況があるから、特則として私が今申し上げている件で言えば労基法の百十五条を置く、それの立法趣旨は所管する省庁がしっかりつかんでいきますよということは、それはそうでしょうねと思うんですよね。

だから、私が大臣に尋ねているのは、つまり民法の短期消滅時効と特別法、労基法の百十五条というのは、これの特別法の関係になるんではないですかと。つまり、現行民法の一年では労働者保護に欠けるから賃金債権の時効は二年にするという、そういう関係になっているんじゃないんですかということなんです。

○政府参考人(小川秀樹君) もちろん、一般法の民法に対比する形で特別法として労働基準法なりなんなりで定められているということだろうというふうには理解しておりますが、一般法が変わったことによって必然的に改正が特別法についても必要となるかどうか、この点については一定の判断が必要であろうというふうに考えております。

○仁比聡平君 一般、特別の論理関係だけから言うとそういう局長のおっしゃるようなことがあり得るかもしれないけれども、厚生労働省においでいただきましたが、お尋ねしたいと思いますが、つまり労基法の百十五条というのは労働者の保護規定ですよ。民法の原則どおり百七十四条のままということにしておくと、一年で未払の賃金が時効に掛かってしまうことになる。これ、明々白々に、一年以上前に働いていたし、けれども賃金が未払であると、幾ら未払であるということの証拠を労働者が持っていても、不当な使用者が一年前のものなのだから払う必要はないと言えばこれ泣き寝入りしなきゃいけなくなっておかしいじゃないかと、だから労基法二年にしている、そういう意味での労働者保護規定だということなんじゃないんですか。

○政府参考人(土屋喜久君) お答え申し上げます。

お尋ねの賃金債権等の消滅時効が二年とされている趣旨につきましては、お話ありましたように、現行の民法では月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権は一年間の短期消滅時効とされているところ、基準法制定当時におきます議論の中で、労働者にとって重要な請求権の消滅時効が一年ではその保護に欠けるという点があり、その一方で十年になると使用者には酷に過ぎ、取引の安全にも及ぼす影響も少なくないということから二年とされたというふうに承知しております。

○仁比聡平君 そのときに二年と定めた経過なり趣旨はちょっと長くなる議論なんで私もちょっと別の機会に譲りたいと思いますけれども、そもそも二年で未払賃金の消滅時効が完成してしまうということ自体が私は極めて不合理だと思っています。だって、五年前の未払賃金を、明々白々な徴憑を持っている、証拠があるという、そういう労働者、あるんですよ。本当に小さい小企業なら別として、大企業でありますから、十五年前の未払賃金というのを払ってもらえていないという労働者は現にいるわけです。それを不当に未払にしてきた使用者側が、二年前のもの以上は払わないと、この消滅時効を援用することができること自体が私は極めて不当だとこれまで考えてきたわけですが、そこはちょっと今回はおきますけれども、何にせよ、そういう問題状況の下で二年としているわけですよ。民法の原則だったら一年、けれども、これでは余りにひどいでしょうというので二年にしているわけでしょう。

これ、今回の債権法改正法案が成立して施行されたら一体どうなるかと。原則に対して特別に労働者を保護するはずの、してきたはずの労基法百十五条の規定が、何しろ今度は原則五年に統一されるわけですから。短期消滅時効といいますか、時効期間の原則は、権利行使ができることを知ったときから五年ということが原則的になる、ここに統一された。労基法はあえて労働者の賃金債権だけは二年で消滅させるんだと。全く逆転しているということになりませんか。

○政府参考人(土屋喜久君) お尋ねの賃金債権等の消滅時効の取扱いにつきましては、法制審議会での検討が大詰めを迎えた段階で、労働政策審議会においても状況報告をいたしまして審議を行ったところでございます。

その審議においては、本件の取扱いについて、専門家も含めた場において多面的に検証をした上で更に議論を深めるべきとの結論に至ったことから、今般の民法改正の整備法案には労働基準法第百十五条に定める賃金債権等の消滅時効の取扱いについては盛り込まれなかったところでございます。

厚生労働省としては、国会におきます民法改正案の御議論を踏まえつつ、労使の意見もよく聞きながら、この消滅時効の在り方についてしっかりと検討してまいりたいと思います。

○仁比聡平君 私は厚生労働省がそんな答弁をしているからおかしいと言っているんですよ。

だって、一般法に対して、労働者を特別に保護するために強行規定として労基法がある。その中で二年という短期消滅時効の期間を定めた法文があるわけでしょう。この前提になっている民法の一年という規定がなくなることがはっきりした、そうしたらば、これと同時に改正するというのが当然であって、いや、法案審議が、債権法案の審議が事ここに及んでいる今の段階で、一体何を検討するというわけですか。

○政府参考人(土屋喜久君) お答え申し上げます。

債権の消滅時効に関する法律的な論点の整理のほかに、例えば労働基準監督官の業務など労働関係の実務への影響、あるいは企業での実務への影響など様々な観点が存在すると考えておりまして、これらについて多面的な検証をした上で議論を深めるということで今後対応していきたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 今おっしゃった労働基準監督官の体制などの検討というのは分かります。それは労基官、労基署を抜本的に体制強化して国民の権利を守るべきだと私たちは思うんですが、企業実務への影響ともう一点おっしゃった点、これ企業実務への影響というのは、これ具体的にどんなことがおっしゃりたいわけですか。

○政府参考人(土屋喜久君) 賃金債権の存在に関する関係書類の保全等があるかと思っております。それらについても議論をした上で、今回のこの改正に関する議論を踏まえまして、労使の意見も聞きながらしっかりと検討してまいりたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 厚労省は、今どき、二年で全ての労務関係書類を、資料やデータを、もう何だかどこに行ったか分からなくなるような時代だとでも思っていらっしゃるんでしょうか。百二十年前あるいは戦後直後の一九四七年、その時期と現代とでは、労務管理の技術的な手段とか、あるいはそのデータを正確に保管していく上での技術的なコストとか、全く状況は違うでしょう。小企業でおかみさんが付けていたメモがどこかになくなってしまうかもしれないと、そういう世界では全然ないわけですよ。その下で巨額の未払残業が行われているでしょう。その現実に対して、企業の関係書類の保全の問題というのは、結局企業側が未払残業、未払賃金を発生させても結果払わないで済むという、結局コストの問題だけということになりはしませんか、賃金コストの問題だけということになりはしませんか。

○政府参考人(土屋喜久君) 御指摘の点も含めまして、労務関係についての労使の御意見をよく踏まえながら検討をしてまいりたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 おかしな話なんですね。先ほど厚労省がお話しになった労政審の労働条件分科会にこの債権法の消滅時効の改正問題が報告をされて、つまり表の場で議論をされたのは二〇一五年の二月の十七日のことです。これは債権法案が閣議決定して国会に提出される言わば直前の時期なんですけれども、債権法改正に当たって消滅時効の期間を、いわゆる今統一と言われている、こういうふうな時効期間の問題を大きく変えようというテーマは、ぎりぎりになって、法案提出のぎりぎりになって出てきた話じゃないんです。もう法制審に諮問がされた当初の頃から大テーマとして議論になって、その当時から、労働法制に関わる様々な方々から、民法の原則規定を改定するんだったら労基法を改正するのは当然だという声が次々と、そうした労働法の世界の著名な雑誌だとか論者が物を言っているじゃないですか。だから、厚労省がそれ全く知らなかったとか労政審のメンバーが知らなかったなんてあり得ないんですよね。

それだけ、言わば諮問から法案提出までは六年間の期間がありました。その法案提出されてから今この審議の時点までもう何年もたっているというときにですよ、一体何で、これから先いつになるか分からないみたいな議論をするんですか。

○政府参考人(土屋喜久君) 御指摘の労働政策審議会におきます議論は、平成二十六年八月に民法改正案の要綱仮案が取りまとまった後に、この審議会において状況報告をし審議を行ったものでございます。

今後、検討を行うに当たりましては、この国会における民法の改正案の御議論を踏まえつつ、その動向を踏まえつつ、あるいは施行期日等を踏まえながら、しっかりと検討してまいりたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 その施行期日のことをしきりに労政審で村山労働条件政策課長がおっしゃっているので確認したいんですが、労働条件政策課長は、施行までの期間は相当の期間取られるのだろうと、法務省からも繰り返し施行までの時間は相当期間確保したいという意向が表明されていると、こういう発言がございます。

これちょっと併せて考えると、法務省は相当の期間施行期間を取ると、までの期間を。厚労省は労政審の議論も踏まえてそれまでには必ず改正すると、そういう意味ですか。

○政府参考人(土屋喜久君) 厚生労働省としては、先ほど申し上げましたように、今回の改正案の議論の動向やその施行期日等を踏まえながら、しっかりと検討してまいりたいということでございます。

○仁比聡平君 ここまで具体的に時間使って聞いてもはっきりお答えにならない理由が何かあるんですか。

その審議会での政策課長の発言で、多面的な検証をした上で、労働基準法等の議論の必要があるということになれば、三者構成のこの場で議論を詰めていただくプロセスに入ると発言しているんですね。

これ一般法、特別法の関係に、申し上げてきたように不可分一体であるならばですよ、つまり、現行労基法百十五条の趣旨が労働者保護にあるんだということを先ほどお認めになったということであれば、労働基準法等の議論の必要があるということはこれははっきりしている。

この今の労基法の二年を何年にするのかという議論はもしかしたらあるのかもしれないけれども、これ五年に債権法統一しているわけでしょう。商事債権、商法の規定は今回一緒に改正して、これも民法に統一されるわけでしょう。なのに、労働基準法上、労働者の賃金債権だけがそれよりも短いなんというようなことあり得ないじゃないですか。厚労省、そうは思っていないんですか。

○政府参考人(土屋喜久君) 先ほど来申し上げて恐縮でございますが、既にこの問題については労働政策審議会に状況報告をし、一旦の御審議をいただいているところでもございまして、今後、今回のこの法案の議論の動向を踏まえまして、しっかりと検討してまいりたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 本当は公正証書問題についても質疑をしたいと思っていたんですが、時間がなくなってきてしまったので、今回この問題で質問を終わらざるを得ないので、少し大臣に聞きたいと思いますけれども、ヤマト運輸の未払残業問題、未払賃金問題というのが発覚して、国会でも大きな議論になってきましたし、報道されているということは、政治家としては当然御存じでしょう。

そのヤマト運輸の労働者の中で、未払の残業代あるいは休日出勤の分、これどんなふうに今されているかというのは御存じですか。これ、まずもって、会社からは、過去二年間にサービス残業があれば裏付けの証拠を示してほしいなどと言われているわけです。つまり、支払は過去二年分に限るということが何だか当然の前提のようになって、で、本当にサービス残業があったかどうかの証明というのは社員の側に立証責任があるというわけですよね。

この会社でも、近年の話ではなくて、二十数年前からそういう未払残業は横行していたと。帰宅時間になるとタイムカード押すけれども、その後に残って仕事をするとか、休日に出勤してタイムカード押さずに仕事をするとか、そんなようなことが横行していると。これ、未払残業、サービス残業、長時間労働が蔓延している日本の企業社会において、言わば残念ながらよくあることですよ。

その下で私が尋ねたいのは、賃金債権、この未払債権、未払になる賃金の請求が二年たったら今は消滅時効だと言われている。だけど、民法を改正して、どの債権も原則五年というわけでしょう。民法よりも労働者が保護されないなんというのは、これおかしいじゃないですか。そのことを民法改正案、整備法改正案を提出している主管大臣としてちゃんと厚労省に物を言うと、塩崎さんにちゃんと物を言ってくださいよ。

それは、労政審で労使の意見をちゃんと聞いて、法律的な整理もするというのはそれは分かります。だけれども、これ、民法、債権法の、改正債権法の施行の後にも労基法百十五条がそのままなんというのは、これ逆転じゃないですか。法律によって労働者を特別に短くすると、消滅時効を。労働者だけは特別に消滅時効期間が短くて早く権利を失うと、そんなことを許すわけにいかないと、法務大臣としての決意を伺いたいと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(金田勝年君) 今回の民法の一部改正の趣旨を、これを厚生労働省にお伝えすることは、ただいまの御質問の趣旨を踏まえて、所管省庁である厚生労働省に対してその趣旨を踏まえてその趣旨をお伝えすることはできようかと思います。そして、一方で、土屋審議官がただいま答弁を申し上げていたようですが、しっかりと検討をしていきたいというお話がございました。したがって、それを踏まえて、その対応を私どもとしては見守っていくということになろうかと考えております。

○仁比聡平君 今の答弁を聞いても、安倍内閣の働き方改革なんというのは本当に口先だけだと厳しく指摘をして、今日は質問を終わります。