○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

安倍政権は、昨日、共謀罪法案を閣議決定し、四たび国会に提出をいたしました。断じて許されません。刑事法体系の基本問題であるにもかかわらず、三月八日の予算委員会で、私の質問に大臣が、成案を得てからと、答弁をされなかった問題について、今日は大臣に直接改めて伺いたいと思います。

政府は、総理を先頭にして、テロ等準備罪であって共謀罪とは全く異なるとか、このままでは東京オリンピックを開催できないと言っても過言ではないと強弁してきたわけですが、二月の二十八日に与党に示した政府原案には、案の定、テロの一言も書かれていませんでした。

法務大臣、なぜですか。

○国務大臣(金田勝年君) ただいま仁比委員の御質問に対しましてお答えをいたします。

政府が成案として国会にお出しをいたしますのは、閣議決定を経た法案のみでございます。成案を得るまでの案文の作成経緯の詳細についてはお答えを差し控えたいと、このように考えております。

○仁比聡平君 いや、天下に明らかでしょう。自民党、公明党の与党審査にかけられたのは、テロリズム集団その他のというのは書いていなかった。だから、政府が検討した上で与党に示したその原案にテロリズム集団その他のというのは書いていなかったことはもう明らかなんですよ。私はその理由を聞いているわけです。お答えにならない理由はないでしょう。

○国務大臣(金田勝年君) 仁比委員の御質問にお答えします。

成案を得るまでの過程における議論というのは、その過程で変更されることも多いわけでありますし、その詳細を明らかにすることで、率直な意見の交換が損なわれましたり、国民に混乱を生じさせるおそれがあるものと考えております。

○仁比聡平君 いや、詳細はおおよそメディアによって公開をされ、与党の審査の中で原案が、もちろんテロリズム犯罪あるいはその実行に結び付く計画や準備行為を定義して処罰するものではないと。これ提出された法案もそうですけれども、そのことに対して、これまでの答弁と整合性が付かないとか支持者の納得が得られないと次々と不満が上がった、だから政府はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団と書き込んだという経過はこれ明らかなんですよ。

大臣、違う角度で聞きますけど、これが通告をしております。テロリズム集団その他のと書き込んだことで、刑罰法規の意味は変わったんですか。

○国務大臣(金田勝年君) 改正後の組織的犯罪処罰法第六条の二の、ただいま御指摘いただきましたテロリズム集団その他の文言は、この部分の文言は組織的犯罪集団の例示であります。いかなる団体が組織的犯罪集団に該当するのかをより分かりやすくするためのものであります。

したがって、テロリズム集団その他のがある場合とない場合とで犯罪の成立範囲が異なることはないものと考えております。

○仁比聡平君 いや、つまり、あってもなくても意味は変わらないと、そういうことですね。

○国務大臣(金田勝年君) 変わらないと思います。

○仁比聡平君 結局、テロリズムというのは付け足しの話だということになりませんか。

しかも、一般人は対象になり得ないというふうに大臣も繰り返し言われるけれども、それは組織的犯罪集団というものの認定、これが当該事案の時点において判断される。この当該事案の時点においてというのがいつかということについては、前回この委員会で計画のことだと事実上御答弁されたと思うんですね、刑事局長が。

つまり、警察が計画合意が成立したとみなす時点でそのメンバーと見られるかどうか、これが一般人かどうかということですよね、大臣。

○国務大臣(金田勝年君) 犯罪の成否が問題となる時点でというものを申し上げていると考えております。

○仁比聡平君 であれば、その議論はもう一回別の機会にやりますが、犯罪の成否の時点でというのは、つまり当該事案の時点で、つまり条文に計画、つまり実行準備行為を伴う計画が犯罪だと書いてあるわけだから、だからその時点でということになる。古川部会長がうなずいていらっしゃるわけですが。

つまり、警察にとって、あるいは世の中にとって、あらかじめ判明しているテロ組織や広域暴力集団などに参加する、入る、それが構成員だというものじゃない。何か話合いがあっている、それが何か犯罪をたくらんでいるのではないかと、その警察の嫌疑と認定の中で一般人かどうかが判断されると、そういうことですよね。

○国務大臣(金田勝年君) その組織的犯罪集団の定義を先ほどの真山委員のときにも申し上げました。その結合関係の基礎としての共同の目的が一定の重大な犯罪等を実行することにあるという、その結合の目的がその時点でしっかりと確認されるんだと、このように考えております。

○仁比聡平君 そう仰々しくおっしゃるんだけれども、結局はあらかじめ犯罪集団かどうかは分からないわけで、認定などされていないわけで、何か複数人の話合いがあっている、それが重大犯罪をたくらんでいるのではないかという嫌疑が掛かって、それを警察がまずは認定するというのがこれ組織的犯罪集団の認定ということでしょう。今、大臣、そういう趣旨をお答えになったわけですよね。

つまり、テロリズム集団が典型だなんていうふうに言うけれども、結局、テロリズム集団以外の様々な複数人の活動がそう認定され得るということです。

しかも、準備罪と言うんですけれども、テロ等準備罪と大臣おっしゃいますね。ここに言う準備というのは、例えば通貨偽造準備罪などに言う準備というのは、これは意味が全然違いますね。

○国務大臣(金田勝年君) ただいまの御指摘は、テロ等準備罪という呼称における準備罪と現行法上ありますいわゆる準備罪というものがどういう関係にあるのかという御質問かと思います。

テロ等準備罪における実行準備行為というのは、組織的犯罪集団が関与します一定の重大な犯罪の計画に基づいて行われる、計画をした犯罪を実行するための準備行為であります。計画に加えて実行準備行為が行われた場合に処罰の対象となるものであります。

一方、現行法におけるいわゆる準備罪というのは、準備行為はですね、その準備罪、現行法上の準備罪における準備行為というのは、犯罪の実現を目的として行われます実行の着手に至らない行為のうち、法律上その態様が一定のものに限定されているものでありまして、それだけで処罰の対象となるものであります。

その違いがあるわけでありまして、このように、テロ等準備罪における実行準備行為と現行法の準備罪における準備行為とは異なるものであるということは御理解していただけるものと思います。

○仁比聡平君 現行法の準備罪というのは、いろいろその構成要件ごとに議論はあるけれども、大臣おっしゃるように限定されているわけですよ。今度のテロ等準備罪に言う実行準備行為というのは、これは、大臣の今の御答弁、言い方換えると、予備でもないものを処罰しなきゃいけないと大臣はおっしゃってきた。予備というのは、客観的に相当の危険性がある行為。これにはならない行為、合意を処罰する必要があるというんだから、つまり危険性のない行為、それ自体は危険性のない行為をこのテロ等準備罪で言う準備と言っているわけでしょう。

○国務大臣(金田勝年君) お答えをいたします。

予備罪とテロ等準備罪、この関係について更に御質問なんですが、予備罪というのは、御承知のとおり、予備行為の危険性自体に着目をする、これを処罰するものでありますから、予備行為自体が客観的に相当の危険性を備えたものでなければならないというのは過去の裁判例から明らかであります。

一方、テロ等準備罪というのは、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団の団体の活動として一定の重大な犯罪を実行するための組織により行われるもの、組織的犯罪集団があって、これが計画したことに加えて実行準備行為が行われた場合に処罰されるものであります。

したがって、このように、テロ等準備罪は計画と実行準備行為について総体として危険性の高いものであることを根拠として処罰をするものでありますから、一概に委員が言われましたようなことにはならないわけであります。

○仁比聡平君 いや、総体として危険性が高いという、その考え方そのものが極めて危険ですよね。だって、話合いがあり、それ自体は危険性のない実行準備行為があると。これをひっくるめて見れば危険だというわけでしょう。その危険性を捜査機関が判断するわけでしょう。とんでもないですよ。そもそも対象はテロリズム集団に限定されないし、実行準備行為というのは従来の準備罪に言う準備とは全く異なると。典型どころか付け足しだと。これをテロ等準備罪と呼称する、呼ぶことは、これは国民を欺くものではありませんか。そうした考え方というのは、憲法が厳しく要求する罪刑法定主義を根底から覆すものであります。

条約三十四条の一項というのは、それぞれの締約国が国内法の基本原則に従って必要な措置をとることを求めているのであって、憲法が要求する罪刑法定主義をしっかり守って国際組織犯罪の犯罪化や捜査共助、犯罪人引渡しを進めるというのが、私、法務大臣の責任だと思うんですね。現行法ですぐ締結できるんだと強く申し上げてまいりました。ところが、政府は、このTOC条約の批准に不可欠だと言って条約をてこにしてきたわけです。

そこで伺いますが、大臣、TOC条約は、テロリズム集団を主体とした計画、この処罰を求めているのか。今度、テロリズム集団その他のと入れたわけでしょう。つまり、テロリズム集団の計画というのをこの処罰の対象にするんだと法案やっているわけですが、これはTOC条約が求めているものなんですか。

○国務大臣(金田勝年君) まず、委員の御指摘は条約の解釈に関する事柄でございますので、本来は外務省から答弁すべきものであると考えておりますが、お尋ねでありますのであえてお答えをいたしますと、テロ等準備罪はTOC条約の第五条一の(a)の(i)が定めます重大な犯罪の合意の犯罪化義務に従い設けるものであります。重大な犯罪の合意の犯罪化義務、同罪におきまして、TOC条約第五条が許容する範囲内で実行準備行為があったときに初めて処罰の対象とするとともに、犯罪主体を組織的犯罪集団に限定をしたところであります。そして、国内外の犯罪実態を考慮しますと、組織的犯罪集団の典型例がテロリズム集団であると、このように考えております。

したがいまして、テロリズム集団を含む組織的犯罪集団による重大な犯罪の合意で実行準備行為を伴うものをテロ等準備罪の対象として処罰することは、条約上の義務であると理解をする次第であります。

○仁比聡平君 いや、私が聞いているのは、テロリズム集団を含む組織的犯罪集団ではないんです。テロリズム集団の計画、これを処罰することは条約上の義務ですかという問いです。組織的犯罪集団の計画を処罰するというのが条約上の義務だと、大臣、今ごまかしておっしゃったでしょう。私が昨日通告した問いは、テロリズム集団による計画、この処罰は条約上の義務ですかと聞いているんですよ。

私の手元に、条約交渉当時の我が国の交渉団が本国に宛てた公電がありますけれども、二〇〇〇年七月の条約起草委員会第十回会合第一週の報告の中には、大臣、条約の交渉過程で、テロ行為を含む対象犯罪をリスト化すべきというエジプトやトルコの提案が大きな議論になったのを御存じでしょう。その議論についてこうした報告があるわけです。つまり、エジプト提案に我が国を含め十八か国が反対を表明した。米、英、ドイツ、ベルギー、スペイン、スウェーデン、オランダ、南アフリカ、イタリア、フィンランド、中国、ノルウェー、ポルトガル、マダガスカルなどが反対表明をしているわけですが、このうちカナダは、テロリズムは別個の問題であるので適当でないと理由を言っています。パキスタンは、テロリズムについては非同盟諸国会合やイスラム諸国会合などにおいて首脳レベルでこれが民族自決闘争と区別されるべきことが合意されており、本条約でテロリズムについて扱うことは非常に危険であると、そう述べています。フランスは、本条約の対象にテロリズムを含めることはテロに関する既存の条約に悪影響を及ぼしかねないと述べているんですね。そして、日本は、これら諸国と同様の理由で、リスト化には反対であること、テロリズムについてはほかのフォーラムで扱うべきであり、本条約の対象とすべきでないことを主張したと記されているわけですよ。

国連総会決議などが言うように、国際的組織犯罪の収益が例えばテロ組織の収益源になる、資金源になるというのは、それはそうでしょう。だけれども、そのことをあたかもTOC条約がテロ犯罪の処罰を義務付ける条約であるかのように、先ほども大臣、意図的に混同されたでしょう。これ、許されないじゃないですか。

条約はテロ犯罪の処罰化を義務付けているものではない、そのことはお認めになったらいかがですか。

○国務大臣(金田勝年君) ただいまの御質問にお答えするとなりますと、先ほども申し上げましたように、外務省がより、条約のことでございますので、あると思いますが、私から申し上げますと、国際的な組織犯罪とテロ活動との間には強い関連性があって、TOC条約については起草段階からテロ活動を対象に議論が行われてきたものでありまして、テロを含む国際的な組織犯罪を一層効果的に防止するための枠組みであると、このようにTOC条約については私どもは承知をしている次第であります。

○仁比聡平君 実際にはテロ集団以外の複数人の活動が広く対象になるのに、テロリズム集団のテロ準備罪であるかのように国民を欺く。それは国際条約の義務付けではないのに、これがあたかも義務付けの対象であって必要不可欠であるかのように言う。大臣はそこをごまかして今のような御答弁をされました。

条約の義務付けだから共謀罪が不可欠だという政府の説明自体が、私、そもそもごまかしだったと思うんですよね。そんなやり方で右往左往する、共謀罪をつくらんがために支離滅裂になる、そんなこそくな姿を国民が納得するわけがない。

条約をてこに共謀罪の正体をごまかすテロ等準備罪という呼び名、呼称は直ちにやめるべきだと強く申し上げて、今日は質問を終わります。