○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平です。
会派を代表して、民法改定案について質問いたします。
離婚後共同親権を導入しようとする本法案は、親子関係と家族の在り方に関する戦後民法の根本に関わる改正であるにもかかわらず、国民的合意のないまま、まるで波風が激しくなる前にと言わんばかりに衆議院採決、本院に送付されました。
とりわけ、DVや虐待から逃れ、安心、安全な生活を取り戻そうとする方々や、行政、弁護士の支援に対し、裁判所の保護命令が出されたもの以外は虚偽DVなどと一律に非難する質問まで行われましたが、法務大臣、そうした非難は誤りではありませんか。
多くの一人親家族から悲鳴のような怒りの声が噴き上がっています。衆議院法務委員会採決の朝、十万筆に達したSTOP共同親権オンライン署名は、一週間で二十三万筆を超えようとしています。ある方は、裁判の尋問に立ち、震えながらしゃべるとき、一人きりで怖かった、でも、思った、私は一人じゃない、私たちだったとSNSに投稿されました。これまで沈黙を強いられてきた多くの方々がつながり、上げてきた声を正面から受け止め、丁寧な審議が尽くされなければなりません。
法務大臣、広がるこうした声をどう受け止めますか。
離婚後共同親権の導入がどのように子の利益の実現になるのか、伺います。
夫婦関係は破綻しても、父母間に子供の養育だけは協力して責任を果たそうとする関係性があり、親権の共同行使が真摯に合意され、それが子の利益にかなう場合には、離婚後も共同親権とした上でもろもろの規律を定めることはあり得ます。
しかし、本法案は、そうした合意がない、できない父母間にも、裁判所が共同親権を定め得るとするものです。
法務省は、父母の合意がないことのみをもって双方を親権者とすることを一律に許さないとするのは、かえって子の利益に反する結果となりかねない、子の利益のため必要なケースがあり得ると言いますが、それが一体具体的にどのような場合、類型なのか、今なお示しておりません。逆に、法制審委員の民法学者から、共同親権が望ましい場合と単独親権の方がよい場合の基準や運用について十分な議論ができなかったとの発言がなされたのは驚くべきことです。
改正法案によって新たな人権侵害の危険があってはならないのは当然です。父母間に真摯な合意がないのに親権の共同行使を求めれば、別居親による干渉や支配を復活、継続する仕掛けとして使われ、結果、子の権利や福祉が損なわれてしまう危険は否定できないのではありませんか。
同居親の不適切養育に対しては、現行法下でも児童相談所を始めとした支援が取り組まれ、民法上も親権者の変更や親権の停止、喪失などの対応が可能です。あえて非合意型共同親権を導入することが子の利益に必要だとする立法事実を、法務大臣、お示しください。
法務大臣は、私の質問に、両親が離婚をせずにその家庭の中で子供が育つ、これが一番子供の利益だと言い、離婚後においても父母双方が適切な形で子供の養育に関わり、責任を果たすことによって子供の利益を守ることができると述べましたが、それは大臣の家族観であって、立法事実ではありません。関係が破綻した父母の葛藤にさらされることこそ、子の利益を害するのではありませんか。
日本乳幼児精神保健学会は声明で、子供は離婚により傷つくと言われることがあるが、正確ではない、離婚に至るまでの面前DVによる心理的虐待など、父母のいさかいに伴う親子関係、離婚後の生活環境や親子関係の変化などの複数のストレス要因の絡み合いにより、身体的、心理的、社会的に大きなダメージを受けるのであり、子供の成長、発達にとって最も重要なのは、安全、安心を与えてくれる主たる養育者との安定した関係と環境が守られることと強調して、離婚後共同親権のリスクを厳しく指摘していますが、こども政策担当大臣、法務大臣、どのように受け止めますか。
さらに、日本乳幼児精神保健学会は、家庭裁判所で二〇一二年頃から鮮明になった原則面会交流と呼ばれる運用に対し、臨床現場では、家庭裁判所で面会交流を決められた子供たちが、面会交流を嫌悪し、面会をめぐる別居親との紛争にさらされ、あるいは過去のトラウマからの回復が進まず、全身で苦痛を訴え不適応を起こして、健康な発達を害されている事例が増えていると厳しく指摘しましたが、法務大臣、どのように受け止めますか。
別居親との面会は原則よいこととし、子供が別居親を拒否すると、根掘り葉掘り拒否の理由を尋ねたり、どういう条件なら会ってもよいかという聞き方で直接の面会交流が実施されるように誘導し、あるいは子供が別居親を拒否するのは同居親の刷り込みであると評価して子供の意思を尊重しない扱いは、子供の意思を否定することに等しい、それは逆に親子関係の改善を困難にし、大人不信、社会不信を募らせるリスクを持つとの指摘は、そのとおりだと思います。法務省は、最高裁判所とともに、この間の面会交流を含む子の監護をめぐる家庭裁判所の運用の実態について検証すべきではありませんか。
本改正に当たっても、子供の人格を尊重するというだけでなく、子どもの権利条約、こども基本法の精神に立ち、子供の意見表明権を明記すべきです。答弁を求めます。
子供の意思に反する強制は子供を傷つけることになります。戦前の家制度を引きずるかのように親の子に対する支配権という認識が色濃く残る親権という用語、概念を改め、子供を主体に親子関係を捉え直し、子供が安心、安全に暮らせるようにするための親の責務であり、社会による子供の権利と福祉の保障であることを明確にするときです。法務大臣、どう取り組むのですか。
法案では、既に離婚し単独親権となっている親子に対して、別居親が共同親権への親権者変更を申し立て、合意できないのに裁判所が共同親権を定めることもあり得、その後、約定の養育費が払われないことがあり得ることになります。
盛山文部科学大臣は、高校無償化の就学支援金について、共同親権で二人の親であれば合算、親権者二人分、二名分の収入に基づいて判定を行うということに当然なると述べましたが、共同親権になって高収入の別居親が授業料、養育費を払わないとき、無償でなくなるのは子の利益に反することは明白ではありませんか。
法務大臣、親の資力、収入などが要件となっている各省庁の主な支援策は、児童扶養手当や日本財団のまごころ奨学金など、昨日までの調べで少なくとも二十八件あります。親の同意や関与が規定されている法令も多数に上っています。離婚後共同親権の導入がこれらにどのような影響を及ぼすか、関係省庁ときちんと協議し、当該施策の基準と運用、課題と検討の見通しを国民が一覧できるよう、速やかに示すべきです。
子を監護する者が誰かなどの混乱をなくすためにも、少なくとも、非合意型で裁判所が共同親権を定めるというなら、監護者の指定を必須とすべきではありませんか。
さらに、省庁横断的な連携協力体制の構築について、衆院では与党の質問に対し、構築に向けて具体的な検討を進めてまいりたいと逃げ道を残す答弁にとどまっていますが、一体どう進めるのですか。
養育費の国による立替払と求償制度も具体的速やかに検討すべきだと考えますが、いかがですか。
法務大臣の明確な答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣小泉龍司君登壇、拍手〕
○国務大臣(小泉龍司君) 仁比聡平議員にお答えを申し上げます。
まず、DVの主張に対する非難についてお尋ねがありました。
DVの主張の当否は、個別の事案における具体的な事情に即して判断されるべきものであり、保護命令が発令されていないことのみをもって、DVの主張を虚偽と評価することはできないと考えております。
次に、本改正案に関する様々なお声についてお尋ねがありました。
本改正案については、改正に慎重なお立場からも様々な御意見があることは承知をしております。真摯に受け止めるべきものと考えております。
今後の国会審議においても、国民に不安が広がることなく、本改正案の趣旨、内容について正しく理解されるよう丁寧に説明をしてまいります。
次に、別居親による干渉や支配の危険性についてお尋ねがありました。
本改正案では、離婚後の父母双方を親権者にできることとしているのは、本改正案で離婚後の父母双方を親権者にできることとしているのは、離婚後の父母が適切な形で子の養育に関わり、その責任を果たすことを可能とすることで子の利益を確保しようとするものであります。
また、本改正案では、父母相互の協力義務等に関する規定を新設し、親権は子の利益のために行使しなければならないことを明らかにしております。
このように、本改正案は、別居の親権者に同居親による養育への不当な干渉や支配を容認するものではありません。
次に、父母の合意がない場合に離婚後の父母双方を親権者とする必要性についてお尋ねがありました。
父母の協議が調わない理由には様々なものが考えられるため、合意がないことのみをもって父母双方を親権者とすることを一律に許さないのは、かえって子の利益に反する結果となりかねません。
そこで、本改正案では、裁判所は、親子の関係、父母の関係その他一切の事情を考慮して実質的、総合的に判断するべきこととしております。
どのような場合に父母双方を親権者とすることが子の利益に資するかについては、一概にお答えすることが困難でありますが、例えば、親権者変更や親権の停止又は喪失に至らない事案においても、同居親と子供の関係が必ずしも良好ではないケース、同居親による子の養育に不安があるために別居親の関与があった方が子の利益にかなうケースがあり得ると考えております。
次に、父母の葛藤が子の利益に与える影響についてお尋ねがありました。
お尋ねについては、父母の意見対立の状況等によっても異なり、一概にお答えすることは困難ですが、例えば、父母の感情的問題等により、親権の共同行使、これが困難である状態は子の利益を害すると考えています。
次に、離婚後の子の養育の在り方に関する日本乳幼児精神保健学会の声明に対する受け止めについてお尋ねがありました。
子の利益を確保するためには、父母が離婚後も適切な形で子の養育に関わり、その責任を果たすことが重要であり、また、その安全、安心を確保することも重要であります。
本改正案では、DVや虐待のおそれがある場合のほか、父母の感情的問題等により親権の共同行使が困難である場合にも、裁判所が必ず、場合にも、裁判所が必ず単独親権としなければならないこととしており、御指摘の声明で指摘されている御懸念にも対応したものとなっていると考えております。
次に、親子交流事件の運用に関する、同じく日本乳幼児精神保健学会の声明に対する受け止めについてお尋ねがありました。
親子交流の実施に当たっては、その安全、安心を確保することが重要であると考えています。親子交流を実施する旨を定めるかについては、個別の事案における具体的な事情を踏まえて家庭裁判所で適切に判断されるべき事項であるため、法務大臣として具体的にお答えすることは差し控えます。
その上で、一般論として申し上げれば、家庭裁判所では、親子交流の安全、安心を確保するとともに、子の利益を確保する観点から適切な審理が行われることを期待しております。
次に、子の監護に関する事件をめぐる家庭裁判所の運用の検証についてお尋ねがありました。
法務省としては、親子交流に関しても、協議離婚に関する実態調査や未成年期に父母の別居や離婚を経験した子に対する調査などの調査を行ってまいりました。もっとも、お尋ねについては、裁判所の運用に関わる事項であるため、そのような検証を行うかどうかも含め、裁判所において適切に検討されるべきものと考えております。
次に、子の意見表明権についてお尋ねがありました。
子の意見聴取は、現行の家事事件手続法で定められています。子の意見表明権を民法上明文化することについては、離婚の場面で子に親を選択するように迫ることになりかねず、かえって子の利益に反するとして慎重な意見もございます。
本改正案では、子の意見表明権を明文化してはおりませんが、父母が子の人格を尊重すべきことを明確化しており、ここに言う子の人格の尊重は、子の意見、意向等が適切な形で考慮され、尊重されるべきであるという趣旨を含むものであります。
次に、親権の用語、概念についてお尋ねがありました。
親権は、子に対する支配権ではなく、また権利のみではなく義務としての性質を有しており、子の利益のために行使しなければならないものと理解されています。
本改正案では、親権という用語自体は見直しておりませんが、このような親権の性質を明確化しているところでございます。
次に、親の資力等が要件となっている各省庁の支援策についてお尋ねがありました。
本改正案が御指摘の支援策に影響を及ぼすかなどについては、第一次的にはそれぞれの法令を所管する各省庁において検討されるべき事柄であると考えていますが、その上で、衆議院法務委員会の附帯決議では、本法の施行に伴い、税制、社会保障制度、社会福祉制度等への影響がある場合には、子に不利益が生ずることはないかという観点に留意して、必要に応じ関係府省庁が連携して対応を行うこと等とされました。
本改正案が成立した際には、その趣旨を踏まえ、円滑な施行に必要な環境整備を確実かつ速やかに行うとともに、国民への周知広報の在り方の検討も含め、関係府省庁等と連携してまいりたいと思います。
次に、監護者の定めについてお尋ねがありました。
父母の離婚に直面する子の利益を確保するためには、父母が離婚後も適切な形で子の養育に関わり、その責任を果たすことが重要です。裁判所の判断で離婚後の父母双方を親権者と定めた場合に、父母が子の身上監護をどのように分担するかは、それぞれの事情により異なると考えられます。そのため、離婚後の父母の一方を監護者と定めることを必須とすることは相当ではないと考えております。
次に、省庁横断的な連絡協力体制の構築についてお尋ねがありました。
お尋ねについては、衆議院法務委員会の附帯決議でも、子の利益を確保するための措置が適切に講じられるよう、関係府省庁等が連携して必要な施策を実施するための体制整備を進めることなどとされております。
本改正案が成立した際には、その趣旨を踏まえ、円滑な施行に必要な環境整備を確実かつ速やかに行うべく、関係府省庁等との連携協力体制の構築に向けて取り組んでまいりたいと思います。
最後に、養育費の立替払と求償制度についてお尋ねがありました。
お尋ねのような仕組みの導入については、期待するお声がある一方で、回収手続に要するコスト、給付型社会保障制度との関係の整理、モラルハザードの問題など、様々な問題、課題があり、慎重な検討が必要です。
その中で、一人親の方が養育費を請求するために民事法律扶助を利用した場合の償還等免除の要件を緩和する取組が既に開始されています。
本改正案では、法定養育費を新設するなど、養育費の履行確保に向けた改正を行っており、行おうとしており、まずは、その施行後の養育費の履行状況等を注視したいと考えております。(拍手)
〔国務大臣加藤鮎子君登壇、拍手〕
○国務大臣(加藤鮎子君) 仁比聡平議員の御質問にお答えいたします。
離婚の際の面前DVなどによる子供への影響についてお尋ねがありました。
婚姻状態であるかを問わず、子供の健やかな育成のために、面前DVなど、子供に対する虐待になり得るような身体的、精神的な暴力は防がなければなりません。
こども家庭庁としては、引き続き、離婚前後の親への支援や、虐待の未然防止のための支援などを行い、子供の健全な育成に努めてまいります。(拍手)
〔国務大臣盛山正仁君登壇、拍手〕
○国務大臣(盛山正仁君) 仁比議員にお答えいたします。
共同親権の場合における高等学校等就学支援金の取扱いについてお尋ねがありました。
高等学校等就学支援金は、親権者等の収入に基づいて受給資格の認定が行われるため、今般の民法改正後に共同親権となった場合には親権者が二名となることから、基本的には親権者二名分の収入に基づき判定を行うこととなります。
他方で、親権者が二名の場合であっても、親権者である保護者の一方がドメスティック・バイオレンスや児童虐待等により就学に要する経費の負担を求めることが困難である場合には親権者一名で判定を行うこととしており、これは共同親権となった場合においても同様の取扱いとなります。
御指摘のような場合も含め、これらの判定に当たっては、認定を行う都道府県等において個別のケースに応じて柔軟に判断することとなりますが、文部科学省としても、適切な認定事務が行われるよう、法務省とも連携しながら、都道府県等に対する丁寧な周知に努めてまいります。(拍手)