○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
安倍総理は、日本版国家安全保障会議と特定秘密保護法案は一体となって機能すると述べてこられました。例えばイラク戦争への自衛隊派兵に多くの国民が反対の声を上げたように、国際情勢が緊迫したときに、国民や報道機関、また国会議員が政府の方針に疑問を抱いて、外交交渉や軍事的判断の根拠を明らかにすべきだと迫ることは民主主義社会において当然のことです。報道やインターネットを通じて、沖縄の米軍基地はどうなっているのかとか、知り合いの子供がいる自衛隊はどうなるのかとか、基地や部隊の運用を知ろうとすることもあるでしょう。
ところが、特定秘密保護法案によって懲役十年以下の重罰の対象とされるのは、限られた公務員の殊更な漏えい行為だけではありません。一般の国民も、特定秘密を保有する者の管理を害する行為により特定秘密を取得したとされるなら、たとえ秘密が漏えいされなくても、未遂、共謀、教唆、扇動と広く処罰をされるわけです。
そこで、総理にお尋ねしたい。
森担当大臣は、一般の国民が特定秘密と知らずに情報に接したりその内容を知ろうとしたりしたとしても一切処罰の対象になりませんと国会で答弁をされていますが、国民が特定秘密に近づこうとしたという疑いを掛けられたときに、特定秘密であると知っていたかどうか、これを最終的に判断するのは刑事裁判ですね。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 一般論として申し上げますと、本法違反の行為があった場合、その行為者に故意が認められるか否かについては、捜査段階においては捜査機関により判断されるべき事柄であり、公判段階においては裁判所により判断されるべき事柄であるというふうに承知をしております。
○仁比聡平君 総理もお認めになったとおり、つまり刑事事件として捜査や起訴あるいは裁判にさらされる危険を国民が負うことになるわけですよね。これがどれだけ深刻なことかと。国民にとっては何が秘密かも秘密なのですが、秘密指定されているかもしれないが秘密ではないはずだというつもりで行動しても、刑罰上は知っていたというふうにされます。しかも、人が何かを知って行ったか知らずにやったか、このことは、密室の取調べ室で本人の自白や関係者の供述を取ることによって認定してきたのが我が国の刑事裁判の現実なんですね。
そこで、谷垣法務大臣にお尋ねをしたいと思うんですが、この特定秘密保護法案が仮に成立をしたとして、この罰則として定められている刑罰法規の違反の容疑があり、その事件において必要であるなら、逮捕、勾留をして取り調べたり、必要な捜索、差押えを行うことはあり得ますね。
○国務大臣(谷垣禎一君) 強制捜査の必要性は個別的な事案で判断しなければなりませんので一概には申し上げることはできませんが、あえて一般論として申し上げれば、現在の刑事訴訟法上、捜査機関は、罪が犯されたと、犯したと疑うに足りる相当な理由がある場合には、もちろん裁判官の発する令状、逮捕状を取得して被疑者を逮捕することはあり得ますし、また被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があって、かつ罪証隠滅等のおそれがある場合には、裁判官の発する勾留状を発して被疑者を勾留することもあります。それから、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、同様に裁判官の発する令状によって捜索、差押えをする場合があると。これはあくまで一般論でございます。
○仁比聡平君 これまでも、乱暴な強制捜査が行われて、冤罪も後を絶たないということが現実なわけですね。
そこで、総理、何が秘密かも分からないのにそのまま被疑者扱いされ、最終的には刑事裁判で無罪とならなければ処罰の対象となるかどうか分からないと。そんな重罰法規が作られれば、それだけで民主社会の基礎である知る権利、言論、表現の自由は萎縮させられ、取り返しの付かない傷を負うことになるのではありませんか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 先ほど一般国民がというお話をされましたが、まず、一般国民の方が、特定秘密、我々がこれから指定をしていく特定秘密を知るということは、これはまずあり得ないわけでございまして、全く一般国民はですね。もちろん、例えばミサイルの軌道計算等を民間にこれはやってもらうということはありますよ。しかし、それは、その段階でそれが特定秘密になるということが明らかになって、何が秘密か秘密でないかということが明らかでないということをなくすというのがこの法律の趣旨でもあるわけでありますから、そこで特定されていくわけでありまして、当然それはそのことを念頭にその人々は仕事をしていく、そして、そこには守秘義務が掛かってくるということになるわけでありまして、一般の方々が突然何か特定秘密の保護にかかわる事態に巻き込まれるということは、それは通常なかなかこれは考えられないのではないかと、このように思います。
○仁比聡平君 何が秘密かというのを指定するのは、行政機関の保有している情報の中から行政機関の長が定めるんでしょう。国民は分からないんですよ。これは秘密には当たらないだろうなと思っていてもそれが秘密であるという場合、そうかもしれないなと思っていたら故意が認められるというのが日本の刑罰法規です。その下でこんな広範な処罰規定を作るなら、恣意的濫用を許すことになるんですよね。まして、一件でも現実に立件をされる、適用されるなら、その萎縮効果というのは極めて重大なものになるではありませんか。そうした深刻な教訓に立って人権保障を徹底したのが我々の憲法です。
この重罰の対象とされる秘密を取り扱う者も、公務員だけではありません。法案は、秘密を取り扱う者には秘密取扱いの適性評価も行うとしていますが、それは、家族、父母、子、兄弟姉妹、配偶者の父母、子、同居人の氏名、生年月日、国籍、住所に始まって、犯罪、懲戒の経歴、薬物の影響、精神疾患、果ては飲酒の節度とか借金などの信用状態まで、プライバシーを根こそぎ調べ上げるものになっているわけです。
総理、その対象には、公務員のほか、例えば国からの事業の発注を受け特定秘密の提供を受けた民間企業やその下請で働く労働者、派遣労働者も含まれますね。
いや、総理、総理。総理、立とうとしているじゃないですか。総理の認識を聞いているんですよ。
○国務大臣(森まさこ君) 事実関係だけ御説明申し上げます。
今、仁比委員が飲酒についての節度や精神疾患などのプライバシーに関する条項も調査の対象に入るという御指摘がございましたが、これは取扱者本人だけでございます。家族等については……(発言する者あり)ええ、住所等の、ここに限定されている事項に限ります。
そして、今御質問の下請企業の従業員やこれらの企業に派遣される派遣労働者も、特定秘密を、取扱いの業務を行うことが見込まれることとなったときには適性評価の対象となります。
○仁比聡平君 結局入るわけですよ。広く労働者がその対象とされるということを私は申し上げている。
武器の開発だとか製造の発注を受けた軍需産業、あるいはその関連企業はその典型です。例えば、大田区とか東大阪市などのように、そこで作られるバルブ一本、これ一つなかったらロケットも飛ばないというような高い技術を持っている町工場で働く人たちも対象にされ得るでしょう。基地建設にかかわる建設労働者だってそうではありませんか。嫌でもそうした適性評価に同意をしてプライバシーをさらけ出すか、断って仕事を奪われるか、そうした理不尽な二者択一を迫られることになるのではありませんかね。
原発の情報はどうか。森担当大臣は、原発の警備の実施状況は特定秘密たり得ると答弁をされました。今でも、原発の構内に入って構内の建屋にカメラを向けますと、我々国会議員でも核防護のためといって制止をされるわけですね。
総理、テロ防止のための警備ということであるなら、当然、テロリストにとって効果的な攻撃や破壊対象となり得る原発構内の脆弱なところや侵入しやすいところ、破壊対象に最短距離のルートなど、テロリストが知れば資する情報は特定秘密とされることになるのではありませんか。
総理、総理。テロ防止、総理でしょう。NSCやるんじゃないんですか。
○国務大臣(森まさこ君) 今御指摘の事項は特定秘密に指定されません。
○仁比聡平君 されない。されないとは驚きですよね。どうやってテロ防止をやるんですか、そうしたら、総理。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 例えば、原発の中の、発電所の中の地図があったとすると、これは特定秘密ではありません。しかし、そのときに、テロに対してどういう警備配置をするかということを、例えば警察官の人員の配備を書き入れたものは、これは秘密になり得るわけでございまして、つまり、例としてはそういう例を挙げさせていただきましたが、そういう言わばこれは認識で我々は対応するべきだろうと、このように思っております。また、対応することになっているということであります。
○仁比聡平君 なり得るじゃありませんか。
警備の編成、体制というのは、何を守るのかということが前提になって組まれるわけでしょう。それがないまま、単に何人どこに配置するなんというようなことを決めるわけがないじゃないですか。だから、原発の構内の情報も、そういうテロリストが知れば資する情報というのは特定秘密になるでしょう。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) もう既にこれは大臣から答弁しているように、特定秘密にはなりません。一方、これは、別の例えば会社において、別の定めによって秘密になることはあると思いますよ。しかし、これは特定秘密ではないと、こういうことであります。
○仁比聡平君 内閣審議官、それでいいんですか。
○政府参考人(鈴木良之君) お答えします。
原子力発電所の中の見取図等の内部構造については特定秘密の対象でございません。
○仁比聡平君 あなたの下におられる法案説明の担当者が、今のような情報は特定秘密たり得ると私に昨日説明をしましたが、一体あなた方の見解というのはどうなっているんですか。
○政府参考人(鈴木良之君) お答えします。
原発の警察の警備等に関する情報はなり得ますが、原発の施設等の情報は特定秘密の対象になりません。
○仁比聡平君 施設の様子にかかわる情報がなかったら警備の体制組めないでしょう。違いますか。
○政府参考人(鈴木良之君) 施設に関する情報は慎重に取り扱われる必要はございますが、特定秘密の対象ではございません。
○仁比聡平君 驚くべき話です。こんなでたらめな説明と審議で何でこんなことをやれるのかと。それでテロ防止できるんですかね、本当に。どうなんです。そこまで原発情報についてテロ防止のためでも特定秘密にならないと言い張るわけですか。おかしな政府だと。総理。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 先ほど申し上げましたとおり、言わば原子力発電所の機能あるいはその配置状況ということについては、これは特定秘密にはならないということは明確であります。しかし、他方、テロに対してどういう体制で臨むのかということについては、それは特定秘密になり得るということであります。
○仁比聡平君 例えば福島第一で四号機の使用済核燃料のプールだとか、そういうのを守らなきゃいけないじゃないですか。それを守らなきゃいけないでしょう。それを、どんなふうな状態になっているかということをどうするのか。今御覧いただいている方々にとってみても、政府の答弁信じられないということだと思いますよ。
国民の皆さんの普通の仕事や生活の日常に洗いざらいの監視が入り込み、家族でもうっかり秘密を漏らしたり、原発の不安から当然の疑問を明らかにしようということが処罰対象とされかねない、そんな人権侵害法案を断じて許すわけにはいかない。少々の修正で今国会強行なんてあり得ないと断固として申し上げて、私の質問を終わります。