○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 まず、三条の二項について私からも引き続きお尋ねをしたいと思うんですけれども、前回の参考人の皆さんの御意見を伺って、私、大変得心したところがございます。それは、立法の技術的な問題というのは法律家だとかあるいは法務省だとかというところではあるかもしれないが、患者さんや医療者、医師にとっては、この法案のように病気というふうに書かれるのか、病気の症状あるいは病気による症状という記載になるのかという、この違いというのは決定的なのだということなんですね。この病気の症状というふうな修正が可能になるなら懸念は解決をするのでしょうかという私の質問に三野参考人が、大きく改善すると思いますとお話しになりました。
 要点四つほどあると思うんですけれども、一つは、症状という形で、的確に運転に危険を及ぼすような症状にポイントを当てれば、病気そのものが全て危険であるという偏見や差別はなくなると。二点目は、その症状が出れば医療機関に通って、医師との関係あるいは治療関係の中で解決することもできるだろうと。三点目に、患者さん御本人もそれに向けて努力するという、自己管理の中核の部分ですね、ここの努力に向けられるだろうということ。そして四点目に、こういう症状が事故を来すおそれがあるのだから、それは危ないからやめようということが法律で規定されるなら、的確に法が運営されることになるであろうと。いや、それはごもっともだなと私は思ったんです。
 この今回の法案の規定ぶりが法制審などでも議論を経た立法技術的な問題、今日も道交法を始めとした他法で病気という用語がどういう意味合いで使われているかなどのお話があっているわけですけれども、そういう立法技術的な話はあるとしても、現場の患者さんや医師、専門家にとってこの病気による症状という書きぶりに変えれば懸念が大きく改善するというのであるなら、それは十分検討に値すると私は思うんですが、大臣の御感想をお尋ねします。

○国務大臣(谷垣禎一君) 先ほどの真山委員に対する御答弁と繰り返しになってしまうかもしれませんが、私はこういう御懸念があることも参考人質疑を記録を拝見しましてよく存じているつもりでございます。
 しかし他方、今までの法律の書き方ということも一つあることはございますが、もう一つは、重罰を科していく上で、症状ということで、病名でこういう症状が出てきたというような書き方をしないで果たして限定できるのかどうかということがあるんだと思います。それは立法技術的な問題だと仁比委員はおっしゃるのかもしれませんが、私は、そこのところがきちっと明確になっていないと刑罰法規としては欠陥の多いものになってしまうと思います。
 したがいまして、今私が感じておりますことは、そういう前提の下で専門家によく御意見を伺って誤解の生じないような規定の仕方をしていく。症状に着目した表現というのも、当然先ほど御答弁申し上げたように出てくると思います。そういう規定の政令を作っていくということではないかと考えております。

○仁比聡平君 この病気による症状と運転技能や交通事故との関係ということをどう法的にとらえるのかというのは、医学的な知見と、それから今大臣が御答弁にあった構成要件の明確性ということでの法的な観点、立法的な観点ということを併せて解決をしなきゃいけないと。しかも、医学的な知見は日々進歩をしていくということだろうと思いますし、個々の患者さんやその症状ごとに大変多様な現象なのだろうと思うんですね。そうした意味、観点をしっかり持って今後臨んでいかなければならないと思うんですが。
 この法案の仕切りにちょっと沿って今度、刑事局長に伺いたいと思うんですが、先ほど、この政令の定め方についても医師始め専門家の御意見を聞いていくのであるという大臣の御答弁がありました。この政令の定め方についてもというのは、もう少し具体的に言うとどういうふうになりますか。

○政府参考人(稲田伸夫君) 法案の三条二項でありますとおり、その病気、これは症状に着目して定めるものでございますが、この内容を政令で定めなければならないわけでございます。
 これにつきましては、私どもの考え方といたしましては、道路交通法において運転免許の欠格事由の対象とされている病気の例を参考としながら、その症状に着目して自動車運転に支障を及ぼすおそれがあるものに限定することにしておりまして、基本的にはその運転免許の欠格事由を踏まえたものとする予定ではございます。
 ただ、いずれにいたしましても、今後、その政令を定めるに当たりましては、対象とする病気やその症状などにつきまして専門的な意見を聞いた上で、本罪の対象とすべきものを適切に規定したいというふうに考えているところでございます。

○仁比聡平君 道交法の欠格事由にかかわる政令の定めというのは、これはつまり運転免許の申請とその拒否という制度上の問題でありまして、これを参考にするという上で特に注意をしなければならないなと思いますのは、本罪の、法律が政令に委任するというその内容は、重く処罰するという刑事法上の構成要件であるということなのですよね。
 今日も御答弁に少し出てきていますけれども、例えばてんかんについて、この道交法の欠格事由がどんなふうに政令で定めているかというと、てんかんという病名を挙げた上で、「発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く。」という規定ぶりにどうやらなっておるようでございまして、つまりてんかんという診断を受けていると一般的にはどうやら当たるのかなと、欠格事由に。だけれども、今紹介したような症状が出るおそれがないものを特段除くと、そういう規定ぶりになっているんですね。
 これは、道交法上の問題はちょっとおいておきますが、そこに道交法上の運用についての懸念があるのだろうと私は思いますけれども、刑罰法規として考えたときには、この重く処罰される構成要件に該当しないという挙証責任がまさか被疑者、被告人の側、運転者の側に転換されるなどというようなことはあってはならないわけで、これはもちろん処罰をしようとする検察の立証責任なわけです。ここを明確にする形での規定がどうしても必要だと思いますが、局長、いかがでしょう。

○政府参考人(稲田伸夫君) 申すまでもございませんが、刑事裁判におきまして犯罪の構成要件に該当する事実があることの挙証責任は検察官が負っているものでございます。
 本法律案の三条二項に基づく政令におきまして仮にてんかんで道路交通法施行令と同様の定め方をしたといたしますと、先ほどから御指摘のように、てんかん、被告人が罹患していたてんかんのうち括弧、括弧を除くものということになるわけでございまして、そういたしますと、検察官といたしましては、被告人が罹患していたてんかんが、発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するもの以外の症状であることをまさに検察官において立証する責任があるということにおいては、これはもう当然そういうふうになるものというふうに考えております。
 この点、ほかの刑罰法令におきましても何とかを除く、何々のほかなどと規定している例はございますが、構成要件に該当する事実は検察官が挙証責任を負うということから、検察官がこれこれを除くという部分に当たることを挙証責任を負っていると考えられてきておりますので、そもそもこれこれを除くと規定することが不適切であるというふうには考えておりません。
 今後、その規定ぶりについては検討していかなければいけないと思いますけれども、例えば今例に挙げておりますてんかんについて、その除かれる症状を規定するという道路交通法施行令の定め方とは異なりまして、三条二項に基づく政令におきまして構成要件に該当することとなる症状を定めていくということにいたしますと、道路交通法施行令の規定する症状と実質的に異なることとならないのかという問題も生じるのではないかというふうに懸念しているところもございます。
 いずれにいたしましても、今後、政令を制定するに際しましては適切な規定ぶりとなるようにしたいと考えております。

○仁比聡平君 規定ぶりについて、除くという形で規定をされていても検察官が挙証責任を負うのは当然であるというのは、それはもちろん当然であると。私がこの法案について特に申し上げているのは、病気による症状という大臣も繰り返し述べられておられる観点が、政令上あるいは法文上明確でないと偏見を助長することになりかねないということなんですよね。
 ですから、その点も含めて医師を始めとして専門家の定め方についても御意見を聞いていきたいというのが、大臣始め法務省の元々の御趣旨、今後の取組の基本姿勢なのではないかと思うんです。その点の確認と、これから施行までおよそ半年という形でこの政令を検討していかれるわけですけれども、これ、その時々において、私ども国会の方で求めれば当然御説明はいただけると思うんですが、二点いかがでしょうか。

○政府参考人(稲田伸夫君) これまでもこの政令の定め方については累次御議論があったところでございまして、その点については私どもも十分踏まえた上で対応していきたいというふうに思っておりますし、その政令を規定するに際しましては、対象とする病気やその症状などにつきまして、運転免許の欠格事由を定める道路交通法令を所管する警察庁と必要な協議を行うとともに、これらの専門家の方などから御意見を聞く必要があるものというふうに考えております。
 それで、この政令の制定の状況につきましては、先ほども御答弁申し上げましたけれども、施行日が公布の日から起算して六か月以内で政令で定める日ということになっておりますので、それまでに当該政令を定めることとなります。それまでに所要の検討を経て制定作業を行うものでございますが、御指摘のような検討状況について国会におきまして御質問がありましたら、その時点における検討状況をお答えしていくことといたしたいと考えております。

○仁比聡平君 時間が迫ってまいりまして、あと一問だけ伺いたいんですが、無免許運転に関する参考人からの御意見への御感想なんですね。
 亀岡の事件の御遺族の方から、運転免許は車を動かす技術と安全に車を運行できる知識があって初めて与えられるものであって、それがないのになぜ法律上技能を有していると評価をされてしまうのか、無免許運転を繰り返せば繰り返すほど重い処罰の対象から外れるというのはおかしいじゃないかと。無法を繰り返せば重い処罰の対象から外れるというのは不条理であるという指摘は、私は受け止めなきゃいけないと思うんですね。
 この点について、法務省としてどんなふうにお考えなのか聞きたいと思います。

○政府参考人(稲田伸夫君) 今御指摘のような無免許運転について、危険運転致死傷罪に該当しない場合についての御指摘を受けているところでございます。
 ただ、これも御答弁申し上げてきたところでございますが、現行の危険運転致死傷罪というのは、あくまで暴行に準じるような特に危険な運転を故意に行い、その結果人を死傷させた者を傷害罪、傷害致死罪に準じて処罰するものとして立法されたものでございます。そういう意味での故意犯でございますし、危険な行為という具体的なメルクマール、客観的に危険な行為というメルクマールについて、故意に認識して行う行為によって死傷の結果を生じるという作りになっているところでございます。
 そこで、無免許運転一般の取扱いについて、今回の法律案の立案に先立って法制審議会でも御議論いただきましたけれども、暴行に準じるような危険性を類型的に有するとまでは言えないのでないかということから、危険運転致死傷罪の対象とすることは現時点では困難な問題もあるのではないかというような御指摘を受けたという結論になったというところでございます。
 ただ、さはさりながら、無免許運転というものが抽象的には危険な行為でもございますし、そのような無免許運転の機会に人を死傷させたという事実は反規範性が極めて高いわけでありますし、その抽象的かつ潜在的な危険が顕在化、現実化したと評価できるところから、その事案の実態に即した処罰ができるようにということで、今回、六条に無免許運転による加重規定を新設し、無免許運転であることと人の死傷との原因関係の有無を問わず、従来より重く処罰できるようにしたところでございます。

○仁比聡平君 今後、議論が必要だと思います。
 終わります。