諫早湾干拓事業をめぐって3月2日、最高裁判所は、潮受け堤防の開門を命じた確定判決を覆す不当決定を漁民ら原告に送りつけた。

 これに野村哲郎農水相は、「よかったの一言」と手放しで大喜びし、そのコメントはネットや新聞で日本中を駆け巡った。ほんらい農漁民を守り農林水産業の発展を担うべき農林水産省が「よかったの一言」とはなにごとか。自らおしすすめた巨大開発事業で苦しむ国民の声と生活はそっちのけという本音がここにある。

 かつての諫早干潟の姿を思い出す。どこまでも広大でどこまでも深い日本一の泥干潟。足元にはムツゴロウやトビハゼ、貝やカニが無数にうごめき、シチメンソウが群生し、渡り鳥が群れる。地球環境がつくりだした奇跡を前にしたときの畏敬の思い。

 日本一のノリ養殖やタイラギ、アサリやアゲマキ、竹崎ガニ、ウミタケやワラスボなど希有の生物多様性を支えてきたのが、有明海の奇跡のシステムである。

 そこに落とされた「ギロチン」――1997年4月の潮受け堤防閉め切りから四半世紀余、漁民の苦しみは累積し続けている。入植した干拓営農者たちも他に例のない調整池ゆえの冷害や悪水質に苦しみ離農が相次いでいる。

 2004年、佐賀地裁が干拓工事中止の仮処分命令を下した時のふきあがる喜びを思い出す。ところが農水省は10年の福岡高裁の開門確定判決にさえ従わず、おりしも復活した第2次安倍政権は、開門差止判決を控訴もせずに確定させ、さらに開門判決を覆す裁判を起こして、今回、最高裁判所はそのいいなりになった。「分断」をつくりだしたのは、ほかならぬ安倍政治である。

 7日、やっと面談に応じた副大臣に佐賀県大浦の大鋸武浩さんは、「ノリは去年50万円。今年はゼロ。今さら『ともに頑張りましょう』とは何だ。やってないのは開門調査だけ」と怒りに声を震わせた。

 働き盛りの彼の背にそっと手を添えた。被害ある限り絶対にあきらめない。今こそ共同を誓い合おう。(しんぶん赤旗 2023年3月8日)