第169回国会 参議院災害対策特別委員会 第3号
2008年4月23日 仁比聡平参議院議員
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
昨年秋に、阪神・淡路大震災以来の悲願でありました住宅本体の再建への公的支援を中心とする被災者生活再建支援法の歴史的、画期的改正が実現いたしまし た。そこで今日、私は、原点と言ってよい阪神・淡路の被災者が十三年を経てなお抜け出せないでいる過酷な苦しみについて泉大臣の所信をお伺いしたいと思い ます。


お手元に資料を今お配りしていると思いますが、これは阪神・淡路大震災にかかわります災害援護資金の償還状況について厚生労働省で調べていただいたもの を私の方で整理したものでございます。この災害援護資金は一般金融機関から借りられない低所得者層を中心とした貸付けでございまして、御覧いただきますと おり、貸付件数五万八千百六件のうち、もう返済期限が過ぎているわけですが、三割を超える一万八千八百六十一件に当たる被災者が未償還で、今なお返済に追 われる。この間の自己破産は三千人、借受け御本人が亡くなられた件数は二千七百人を超えているという、そういった調査もあるわけでございます。未償還の内 訳がどうなっているかという点を厚労省から各自治体に問い合わせてもらったそのケース、類型と数字が下の表でございますけれども、少額償還ケースは八割を 超えて、死亡など徴収不可能になっているケースが四・二%、行方不明や生活保護の受給で徴収が困難になっている件数が一四・四%。けれども、免除はされて いないんですね。
実際にはどんな方か。Aさんの件を御紹介したいと思うんですが、この方は独り暮らしの七十六歳になる女性です。震災で木造アパートが全壊して、靴も靴下 もなくて、パジャマ姿で小学校に避難されました。支給された毛布だけでは寒くて眠れずに、京都にお住まいになっていた次男の方がオートバイでお母さんを必 死に捜しに来られたわけですね。その次男に連れられて、京都の次男のお家で少し身繕いをして改めて避難所に戻ろうとしたら、一度出た方は入れないというふ うに結果としてなってしまったといいます。その後仮設住宅を申し込んだんですけれども、何回も落選されているんですね。仮設住宅にも入れないということ で、仕方なく神奈川県川崎市の長男を頼って、その近くまで来られて毎月七万七千円の家賃を七年間、六百四十六万円支払い続けて、八年後ようやく神戸の市営 住宅に当たって戻ったと。ですから、その間、災害援護資金、お借りした三百五十万円はもう完全にもちろん底をついて、年金は五万三千円しかありません。返 済は不可能ですから、今生活保護を受けていらっしゃるわけです。
厚生労働省にお尋ねしたいと思うんですけれども、阪神・淡路のあの当時、その当時、政府や自治体が住宅確保の努力をされた、苦労されたということについ ては私は分かっているつもりでございます。だけれども、本当にたくさんの被災者が、それだけ多くの被災者が路頭に迷って、結果として仮設住宅を求めながら 入れなかった方々がおられるというのは、これは事実だと思いますが、どうでしょう。
○政府参考人(宮島俊彦君) 委員の今のお話のようなことで、旧仮設住宅、あの当時の被害の状況に応じて、量的な整備の問題あるいは建設場所が町の中心から離れていたとかいろんなこともあって、必ずしも被災者の方たちが入居できなかったというふうなことも聞いております。
あの当時の方々に大変御苦労をお掛けしたというふうな思いでおります。
○仁比聡平君 ひょうご福祉ネットワークという被災者支援の市民団体があるんですけれども、阪神・淡路以来、ずっともう十三年間、今も生活相談、法律相談の活動を続けていらっしゃいます。本当に貴い活動だと思いますけれども、このAさんのような相談が今も後を絶たないわけですね。
もう一人、Bさんを紹介しますと、この方も市営住宅で独り暮らしの六十六歳になられた女性です。自宅が全壊して加古川のお姉さんのお家に避難をして、神 戸の災害復興、市営住宅ですが、を申し込んだんですけれども、七回、十年間にわたって落選し続けているわけです。飲食店を自営して頑張ってきましたけれど も、〇六年の一月に脳梗塞で倒れて、左半身が麻痺して要介護度が二と認定をされています。以来、生活保護で暮らしておられ、年金は全くないんですね。災害 援護資金は到底返済できないわけです。そんな中で、御長男が交通事故で頭蓋骨骨折をして入院をされたんですけれども、このひょうご福祉ネットワークに、そ の病院代が払えないということで相談に来られた。この方は、もう死んでいた方がよかったというふうに相談員の方に泣いて訴えられたそうです。
大臣に、今もこういう方々がたくさんいらっしゃるということを御存じだったかどうか、そして、そのような方々のことを今聞いていただいてどのようにお感じになっているか、お尋ねします。
○国務大臣(泉信也君) 具体的に挙げられました、Aさん、Bさんのような内容については私は承知をいたしておりませんでした。ただ、阪 神・淡路の災害から十三年たつ中で、一応表面的には人口も過去に戻った、震災前に戻った、域内総生産も震災前に戻ったと、こういう復興の足取りは確かなこ とだと私は思っております。
しかし、もう一つ細かな見方をすれば、今おっしゃいましたように高齢者の方あるいは身体の不自由な方々が、この災害援護資金についての償還残額がなおま だ達成できていない方がいらっしゃる、あるいは日々の暮らしにも困っておられる高齢者の方がいらっしゃる、こういうことを承知をいたしておりまして、町の にぎわいの陰で今なお災害の苦しみを引きずって生活をしておられる方がいらっしゃることは承知をいたしております。
○仁比聡平君 大臣が今おっしゃった阪神・淡路十三年のその陰、被災者の苦しみの部分にしっかり私たちが目を向けて、その解決のために今政治の役割を果たすということが私は今求められていると思うんですね。
この災害援護資金の問題でお尋ねをしますと、こうした方々が生活保護を受給しながら返済をしていくということは不可能なんですね。返済困難な被災者について少額返済の取扱いがされてきて、そのことは私はいいことだと思っております。
だけれども、二点申し上げたいんですが、月千円という返済をしてこられている方、誠実に続けてこられている方たちがたくさんいます。だけれども、年三% の金利が掛かるわけですね。残高が三百万円だということになると金利は年十万円になりまして、そうしますと、生きている間誠実にずっと返済をし続けても残 高は逆に増え続けて、亡くなった後は子供にあるいは連帯保証人に迷惑が掛かる。この返済義務の精神的な負担が生きる力を奪うことになっているという声が強 くございます。
さらに二点目は、大変人情の厚い地域ですから、連帯保証人になったという方がたくさんいらっしゃるわけですけれども、被災者同士で連帯保証人になってい る。その方が亡くなって、借受人とは全くかかわりがなかった方々、その連帯保証人のお子さんたちなどが相続だといって巻き込まれていって内容証明で督促を される、裁判まで起こされるという本当に新たな悲劇が今現在起こっているわけです。
私は、せめてこうした生活保護世帯やそれに準ずる世帯、あるいは利息によって逆に債務が増加をしていくというような少額償還世帯、このような方々の債務返済は免除をするべきだと思いますけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(宮島俊彦君) 委員の御指摘でございますが、現在の災害援護資金の償還免除ができる場合、これは法律によりまして、債務者が 死亡したとき、それから重度の障害で償還することができなくなったときのみを定めております。これによって今債務免除は行っておりますが、委員のおっ しゃったような著しい生活困窮などの経済的理由による免除は認められておらないで、実際のそういった場合、償還が困難だという場合には市町村は償還金の支 払を猶予できるということがあって、この猶予が行われているということではあります。
ただ、委員のおっしゃるように、その債務が残っているというような状態にあることは事実でございます。
○仁比聡平君 弔慰金の債務免除にかかわる法十三条というのがございまして、そこには今厚労省審議官がお答えになったように読めるような字 句が書いていないわけではないんですよ。だけれども、この弔慰金というのは被災者の支援のために苦労をされて議員立法で作られたものというふうに伺ってお ります。死ぬまで債務に縛り付けると、そんな趣旨で作られたものではないということはもう私ははっきりしていると思うんですよね。今、私が紹介をしている ような事案を想定して、それでも貸した金は返せというようなつもりで私たちの国会がこんな法律作っているはずがない。
実際、少し場面は違いますけれども、国の債権の管理などに関する法律、債権管理法というふうに呼ばれている法律がございまして、ここの三十二条には、債 務者が無資力又はこれに近い状態にあり、かつ、弁済することができることとなる見込みがないと認められる場合には、当該債権並びにこれに係る延滞金及び利 息を免除することができるというふうにしてあるし、そう書いてあるし、実際そのように運用されてきたんですよ。
この法の、このというのは弔慰金のですね、この法の運用もこの債権管理法のようにはっきりさせればいいと思いますし、困っている被災者の方々に過酷な取 立てをするなんていうふうなことはやめるべきだと思います。この点について大臣がどのようにお考えか、改めてお伺いをしたいのと、もう一点併せて、今日、 大臣は、そのような方々が個別こういう形でおられるというのを初めて承知になられたとおっしゃいました。この阪神・淡路の十三年間の中で、特にこの災害援 護資金の未償還の問題でこうして御苦労をされている返済が困難な生活保護世帯や準ずる世帯、少額償還世帯の窮状、これを政府としてしっかり調査をするべき だと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(泉信也君) 私がこの法律の有権的な解釈をする立場にはないわけでございます。ただ、恐らく当時、この資金を貸してさしあげる 方もお借りする方も、その後の状況が、十三年の間にその状況が変わってくることを恐らく想定をしない中でお借りをされるし、返還もできるだろう、返済もで きるだろうと、そういう思いでいらっしゃったと私は思います。
三%の利子が高い、確かに今日の状況からすれば私は高い、そう思います。こういうことが、何らかの形でもう少し金利を下げることができないかというようなことも現実的には対応しなきゃならないことかもしれません。
そして、そういう実態がどれほどあるのかというのは、まさに委員御指摘のように、調査をしなければ今私自身が持ち合わせていないわけでありまして、これ まで具体的な調査をいたしておりませんけれども、この震災の復興に関しましては兵庫県あるいは神戸市と定期的な連絡協議をやってきております。そういう中 で果たして問題提起がなされたのかどうか、そこは私もまだ確認できておりませんが、こうした場で、もし地元の方、自治体から被災者の現状について解決策を 国としてやるべきであるというような御意向があればお出しをいただいて、その上で厚生労働省を中心に御検討いただく、そしてしかるべき対応ができるんであ ればしてさしあげるということが大切だと私は思います。
○仁比聡平君 ありがとうございます。
私は自治体も苦労していると思うんですよね。こういう被災者を前にして、国から三分の二ですか、補助金が出ていますから、これは返さなきゃいけないとい うことになってきて、自治体の担当者は、払えない被災者に取り立てなきゃいけないという、そういう立場に立たされてしまいますから、それは本当に苦労して こられていると思うんですよ。ですから、国の側から実際に実情を聞かせてくれという態度で臨めばいろんな実情を調査することは十分できると思いますので、 今の大臣の答弁を大切にして調査に臨んでいただきたいということを強く求めておきたいと思います。
支援法の改正の中で、私は、目の前にいる被災者にしっかりと手を差し伸べる、苦しんでいる方々に手を差し伸べるのが政治なんだということは、もう与野党 を超えてこの委員会の共通の認識になったと思います。そういった意味で、歴史的な改正を果たした私どものこの参議院の災害特別委員会がこの災害援護資金の 過酷な取立てをやめさせて免除をするという点においても、各党同僚議員の皆さんのこれからの検討を心から呼びかけまして、私の質問を終わりたいと思いま す。
○国務大臣(泉信也君) 誤解があってはいけませんので一言だけ、恐縮ですが申し上げておきたいと思います。
この問題、委員が指摘されましたこの問題は、基本的には私は自治体がきちっと調べて、その上で国への対応を求めてくるのが筋だと思います。ですから、私 ども国が、あえて言いますと厚生労働省がそれを受け付けないというような姿勢があれば、私の方から是非話を聞いてほしいということは申し上げますけれど も、基本的には自治体がこの状態をしっかりと受け止めてほしいということを申し上げておきたいと思います。
○仁比聡平君 国に聞く耳を持っていただきたいということを申し上げておきます。
終わります。