第169回国会 参議院法務委員会 第8号
2008年4月15日 仁比聡平参議院議員
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
犯罪被害者は長らく、事件の当事者であるにもかかわらず捜査の行方あるいは判決結果さえ知らされない、そうした形で被害者として当然の要求さえ踏みにじ られてきたわけでございます。そのように置き去りにされてきた被害者の裁判関与の在り方の吟味ということは私どもも大変重要なことだと思っておりますけれ ども、昨年創設されました刑事裁判への被害者参加制度、この制度自体は、近代刑事訴訟が積み重ねてきた当事者主義的な訴訟構造を始めとした原則に反して、 国民的な議論も尽くされていないということを理由に、私ども反対をさせていただきました。しかしながら、創設されたこの制度を資力の有無にかかわらずだれ もが活用できるように保障するという施策は当然でございまして、今回の法案には賛成をさせていただきます。


そこで、この被害者参加制度の実施が見えてきている段階でこの具体化について少し伺っておきたいと思うんですけれども、まず、施行ないし実施の目途、めどがどのようになるか、当局にお尋ねしたいと思います。
○政府参考人(大野恒太郎君) 被害者参加制度は、本年十二月二十六日までの政令で定める日から施行することとされております。現段階で は、その施行期日につきまして具体的あるいは確定的なことは申し上げられないわけでありますけれども、犯罪被害者等の保護、支援を一層充実させるという観 点からはできる限り早期にこの制度を導入することが重要でありますけれども、一方で、新しい制度が円滑に実施されるよう制度の内容等について周知徹底を図 ることや、あるいは本法律案によります被害者国選弁護制度の関係を含む最高裁判所規則の整備など、あらかじめ十分な準備を遂げる必要もあると考えられるこ とから、こうした点を考慮して、関係機関とも協議しながら今後具体的な施行時期について検討してまいりたいと考えております。
○仁比聡平君 裁判員制度が五月二十一日に施行されるということが決まったようでございまして、この被害者参加制度の議論の際にも、裁判員 制度とそれからこの被害者参加制度、これがほぼ同時に始まることに結果としてなってしまったと。被害者参加制度が先に施行されるということになるのである から、その中での運用をよく見ていかなければならないという議論もあったところなわけですね。そういった意味では、今のような実施、それに向けての準備、 周知、ここは大変重要なものかと思います。
そこで、その参加制度の一つの議論として被害者参加人等による証人尋問というテーマがございます。情状に関する事項、犯罪事実に関するものを除く事項に ついての証人の供述の証明力を争うために必要な事項、これが法律上尋問できるということになっておるわけですけれども、この証人尋問の申出時期は、法律上 は検察官の尋問が終わった後直ちにしなければならないというふうにされています。ですけれども、刑事訴訟の裁判の実際を考えますと、なぜその証人をその法 廷において尋問をするのか、その必要性や尋問事項については、検察官あるいは弁護人それぞれからのその尋問の必要性についての整理というのは、その証人尋 問に入る前になされているのが当然でありまして、それは裁判員制度になればなおのこと、そのように整理が進んでいくものだと思うわけですね。ですから、法 律上の規定は規定なんですが、被害者参加人のあるいはその委託弁護士の尋問の申出もできる限り、できる限り事前に通告をされることが望ましいと思いますけ れども、いかがでしょうか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 今委員が指摘されましたように、法律上、被害者参加人等による証人尋問の申出が検察官の尋問が終わった後直 ちにとされておりますのは、証言がなされた後でなければ、被害者参加人による尋問を行うか否か、あるいはその尋問の内容について確定することができないと いう言わば建前論に立っているわけでございます。
ただ、実際の訴訟の進行を考えますと、今委員が指摘されましたように、あらかじめ情状に関する事項について証人が証言することが予定されており、しかも その具体的な証言内容が明らかになっているということも考えられるわけでありまして、計画的な審理を行うという観点、とりわけ裁判員裁判においてはそうな んでありますけれども、計画的な審理を行う観点からすれば、検察官においてあらかじめ被害者参加人による証人尋問の予定の有無やその内容を把握した上で、 公判前整理手続等において裁判所や被告人、弁護人に対してその旨を告げることがありますし、また運用上はそちらの方が望ましいというようなことも考えられ るように思います。
○仁比聡平君 この情状証人に対する被害者参加人の証人尋問がどのような事項にわたり得るのかと、これ広範にわたってしまいはしないのかと いう懸念も法案審議の中で指摘をさせていただいたところなわけです。現実の運用の中で、言わば無用の混乱といいますか、そういったことを引き起こさないた めには、できる限り整理をされていくことが望ましいということを申し上げておきたいと思います。
この情状証人に対する尋問の尋問時間、国会議員的に言うと持ち時間と言った方が分かりやすいかもしれないんですけれども、ここについてどんなふうに考え るのかという点なんですけれども、実際の訴訟の実務の経験からいたしますと、検察側あるいは弁護側がそれぞれどの程度この証人にお聞きになりますかという ことを裁判所から確認されるということがよくあることでございまして、そうでなければ審理計画というのは立たないと思うんですけれども、この被害者参加人 の証人尋問についてはどのようにお考えですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 被害者参加人による証人の尋問は、情状に関する事項について、証人が既にした証言の証明力を減殺するために 必要な事項についてのみ許されるということで、尋問が許される事項が限定されております。したがって、通常は被害者参加人側の尋問が長時間にわたって行わ れるということは想定し難いというふうに考えております。
実際、事案における審理の状況等を踏まえまして、必要がある場合には、裁判長が訴訟指揮権によりまして尋問の予定時間を区切ったり、あるいは仮に尋問が不当に長時間に及ぶというような場合にはこれを制限することもあるというように考えております。
○仁比聡平君 この、今の同じ、つまり尋問の申出時期と持ち時間という問題について、被告人質問の場合、まあ被告人質問ですから質問の申出時期という話になるんでしょうが、ここについてはどのようにお考えでしょう。
○政府参考人(大野恒太郎君) これも、被告人質問におきまして被告人が弁護人等の質問に対してどのように供述するのかということを踏まえ ないと、被告人に対して質問するかどうか、仮に質問する場合にどういう事項について質問するかという点は確定し難いと思われますので、被告人質問におけ る、被告人質問終了後といいましょうか、当該期日中に申出が行われることも少なくないと思われるわけであります。
ただ、先ほども証人のところで申し上げたのと同様でありますけれども、計画的な審理を行うという観点からいたしますと、あらかじめ被告人が供述する具体 的な内容が予定、想定されるというような場合には、検察官において被害者参加人等による被告人質問の予定の有無、その内容を把握した上で公判前整理手続等 において裁判所や被告人、弁護人に対してその旨を告げることもあるというように考えられます。
なお、これも付け加えますと、被害者参加人が被告人質問を求める場合であっても、検察官が当該事項について自ら質問することも大いに考えられるだろうというように考えております。
○仁比聡平君 その被告人質問について、法案の審議のときに問題になったもう一つのテーマに、証拠能力にかかわる争点、分かりやすいもので 言いますと自白の任意性。これが公判廷で争われている際に、創設された制度でいいますと、被害者参加人がその証拠能力にかかわる事実関係について問うては ならないということにはなっていないということなんですね。ですけれども、改めて考えてみましても、例えば自白の任意性を始めとして証拠能力というのは、 これは検察官に立証責任があるのであって、検察官の立証責任が尽くされずに、そこが部分的に被害者参加人にゆだねられるなんていうようなことは理屈上もあ り得ないし、検察のお立場としてもあり得ないというふうに思うんですけれども、そのような、例えば自白の任意性の質問、これを被害者参加人がやるというこ とについてどのようにお考えですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 個別具体的な事件において被害者参加人等による被告人質問を許すかどうか、これはその事件が係属している裁判所が判断することであります。
ただ、今委員が指摘されましたように、自白の任意性を立証するために被告人に質問するということになれば、通常は事柄の性質上、立証責任を有している検 察官が自ら質問するだろうと思われるわけでありまして、その場合には被害者参加人等が質問することにはならないと考えられるわけであります。
ただ、意見陳述をするために必要があると認められる場合で、審理の状況を質問する事項の内容等を考慮して裁判所が相当と認めるときには、その許可を得て 被告人に被害者参加人等が質問することはできるわけでありますので、理屈の上ではそういう場合が全くないとは言えないということだと考えております。その 場合も、しかし、その質問の時期等が審理の流れに照らして適当でないというような場合にはこれが許されないということになるのだろうというふうに考えてお ります。
○仁比聡平君 いずれにしても、その制度上、理屈上あり得るかもしれないけれども、それが実際の刑事訴訟の上で無用の混乱をもたらすというようなことにならないように運営が期待されるということかと思うんですね。
最高裁の刑事局長においでいただきました。
この参加制度の具体化については最高裁の規則にゆだねられる部分も一定部分あろうかと思うんですけれども、今日、二点だけちょっとお尋ねしたいんです が、一つは、この参加制度の中でいわゆる論告と言われてきた意見陳述の持ち時間の問題なんですけれども、これについては、現行行われています意見陳述につ いては刑事訴訟規則の中で持ち時間を決めることも定められているわけですが、そのような方向でこの新たに導入される意見陳述についても規則でそのような定 めを置くということもあり得るのかという点が一つ。
もう一つも併せてお聞きしますが、被害者参加人の委託を受けるいわゆる私選弁護士ですね、この私選弁護士がどのような委託を受けているのか、あるいは一 人の被害者がどの弁護士に委託をしているのか、複数の場合もあり得るでしょうし、被害者が多数で委託弁護士が単数のこともあるかと思うんですけれども、そ のような手続を明確にする上では書面によってそれを確認するということも必要かと私は思うんですけれども、その二点、いかがでしょう。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
今委員御指摘の第一点でございますけれども、現在これは、裁判長は、被害者参加人等が事実又は法律の適用について意見の陳述に充てることのできる時間を定めることができる、こういう旨を最高裁規則で定める方向で作業を進めているところでございます。
それから、第二点の委託弁護士の関係でございますが、この点につきましても、現在のところ、弁護士に委託した被害者参加人は、あらかじめ委託した旨を当 該弁護士と連署した書面で裁判所に届け出なければならない旨を最高裁の規則で定める方向で作業を進めているところでございます。
○仁比聡平君 ありがとうございました。
この規則とそれから実際に実施が始まった後の運用でこの被害者参加人制度というのは本当に厳しく試されていくということになると思いますので、法曹三者 の中での協議ももちろん十分行っていかれるのだろうと思いますけれども、国民の声をよく聴きながら具体化を図っていただきたいとお願いをしておきます。
この法案につきまして少しお尋ねをしますけれども、第一は、その被害者への公的支援をどのように拡充していくかということでございます。
今度導入されようとしているこの被害者参加人国選弁護というのは、対象になる犯罪被害者というのは本当に限られた一部の方々で、それも公訴が提起をされ た後のことなわけですね。この対象になる方々に対しても、重大な事犯なわけですから、裁判が始まる前の段階、とりわけ被害の直後、事件が発生した直後から 被害者としての尊厳をきちんと保障されて扱っていかれなければならない。そうでなければ、これまでの被害者の皆さんの置き去りにされてきたという事態は変 わらないということになりかねないと思うんです。
加えて、この対象とならない事案につきましては、刑事裁判に至らない、あるいは事件性はないというふうに捜査当局からされた被害者の方、あるいは犯人が 特定されていない、特定されていても身柄が確保されていない、不起訴になった、あるいは公判請求されないというような、様々な形で被害者の方々は置かれて いくわけです。その被害者、すべての被害者の方々にどのように公的な支援をしていくのかということが私は政府を挙げて取組が求められているところだと思う んです。
先ほど、この法務の分野で法テラスに対する期待が大臣からも語られたわけですけれども、その被害者全体の、事件発生直後から、裁判はもちろんですが、そ の判決、あるいはその執行を経て、被害者の方々がずっと続くその苦しみをどう公的に支援体制をつくっていくのかということについて、法務当局の御見解を伺 いたいと思います。
○政府参考人(深山卓也君) この法案の被害者参加人のための国選弁護制度のほかに、今委員御指摘のとおり、犯罪被害者の方のいろいろな支援のニーズというのは犯罪直後から様々なものがあると思っております。
現在、日弁連の委託事業として、先ほどもちょっと申し上げましたが、法テラスの方で犯罪被害者の法律援助事業というものを行っております。これは、犯罪 被害に遭われた方がその直後から様々な法律問題について相談をする、あるいは刑事告訴をしたいというときにその援助をする、あるいは法廷傍聴とかあるいは 取調べに同行してほしいという場合に弁護士さんが同行する、さらにはマスコミ対応等々についても弁護士さんが代わっていろいろ行うというような、様々な支 援について弁護士費用の援助を行うというものでございます。また、民事的な問題につきましては、御案内のとおりですけれども、法テラスの民事法律扶助制度 がございまして、これによって資力の乏しい方には必要な弁護士費用等の立替えを行っております。これらの各制度、この今回の制度も含めてですけれども、実 施する上で個々の犯罪の被害者の方のニーズに合った連携がされていくことが重要だというふうに思っております。
法務省といたしましても、こういった支援センターの連携の取組につきましては、予算的な面も含めて体制の整備に十分努めてまいりたいと思っております。
○仁比聡平君 大臣にお尋ねしたいと思うんですけれども、今お話があったような、そういう当局と法テラスの努力の中で、政治が果たさなけれ ばならない役割というのはやっぱり大きいと思うんです。犯罪被害者の皆さんに対する公的支援の在り方というのはまだこれからということだと思うんですね。 簡潔に大臣の決意をお尋ねしたいと思います。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 民事、刑事にかかわらずトラブルがある、民事でもそれはいろんな被害というのもある、そういうときに法テラスが 中心となってどんなときにでも相談ができる、できれば余り費用が掛からないで相談ができるということが望ましいし、刑事における被害は被害発生直後から、 それこそ犯人が捕まっていない、場合によっては犯人が捕まったと思ったら不起訴だったかもしれない、そういうときでも被害というのは確実にあるとするなら ば、これを公的に援助していくということは必要だろうと、そういう意見が世の中に広くあることは私もよく分かっております。
今、司法法制部長が御答弁申し上げましたように、現行の仕組みとして法テラスがこれこれのことをやりますということを申し上げた、あるいは日弁連が法テ ラスに委託をしてくれていて、資力の乏しい犯罪被害者等に対し弁護士による被害直後からの犯罪被害者相談、刑事告訴、法廷傍聴同行、マスコミ対応等の各支 援に関する費用の援助をやってくれていると、こういうようなことですが、国ができるだけ被害を受けた方々にきめ細かく被害発生直後から対応あるいは援助で きるように、今後仕組みを整えていく必要があるだろうと。これは、今回の被害者の訴訟への参加、その場合の国選という考え方は、まだその第一歩にすぎない だろうと思っております。
○仁比聡平君 是非、十分に進めていただけるように、私も努力をしていきたいと思うんです。
最後にもう一問だけ聞いておきたいんですが、そういった公的支援、特に専門家の支援を拡充していく上で、犯罪、刑事司法にかかわる専門家である弁護士の 国選の報酬をどうするのかということは極めて重要だと思うんですね。先ほど木庭理事からも、人数の少ない単位会のところで精通弁護士を確保することが今の 到達としてどうなのかというお話がございましたけれども、犯罪被害者にしっかり向き合って弁護士がその務めを果たしていくという上でも、完全なボランティ アにはならない報酬が保障されるということは、私大事だと思います。
これは、刑事被告人、被疑者の国選弁護報酬について昨年の秋に大臣にもお尋ねをしたところでもあるんですけれども、衆議院のこの法案についての会議録を 拝見しますと、どうやら被害者国選弁護士の報酬については、被告人国選弁護士の現在の報酬規定との比較で考えられているやの御答弁もあっておりまして、そ のこと自体をどうこう言いませんが、私は、被告人の国選弁護も、これから導入される被害者の国選弁護も、共に大幅に抜本的に増額されるという、それが当然 だというふうに思いますけれども、当局、いかがですか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 私、この部屋の中におられる弁護士先生からは一言も言われておりませんが、法務大臣になったときに、国会議員で あり弁護士である先生方から、皆さんから異口同音に言われたのは、鳩山君ね、国選弁護というのは完全なボランティアみたいな扱いになっているのを知ってい るかという話をさんざんされまして、基準の引上げについて、ここにおられる方々は全然そういう話をされませんでしたけれども、随分言われたんで、基準は やっぱり上げないといけないのではないですかと役所にも言っている。
それから、日弁連の先生方がお見えになりますと、これは私にはよく分からないんですが、事務所の規模にもよるんでしょうが、大体弁護士というものは一時 間にこれぐらいの稼ぎを出さないと維持できないと、弁護士事務所が。それが今の国選弁護の基準ではとても満たされないということで相当言われておりますの で、是非先生方の御協力をいただいて予算面の獲得にも頑張っていきたいと思います。
○委員長(遠山清彦君) 質疑時間終局しております。
○仁比聡平君 はい。是非、大臣に頑張っていただきたいということを強く申し上げまして、質問を終わります。