○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

三月二十六日のこの委員会の質疑に続きまして、刑事訴訟法等改正の名の下に盗聴拡大、司法取引法案を提出している大臣に、そもそも盗聴、つまり盗み聞きが、通信の秘密を始めとして憲法の保障する基本的人権と私生活の平穏を脅かすという認識があるのかとお尋ねをしたいと思います。

日本共産党の緒方靖夫当時国際部長宅盗聴事件について、前回も紹介しましたけれども、東京高裁判決は、通信傍受による盗聴についてこう言っています。その性質上、盗聴されている側においては盗聴されていることが認識できず、したがって、盗聴された通話の内容や盗聴されたことによる被害を具体的に把握し特定することが極めて困難であるから、それゆえに、誰との、いつ、いかなる内容の通話が盗聴されたかを知ることもできない被害者にとって、その精神的苦痛は甚大である。

大臣、この指摘についてどう考えますか。

○国務大臣(上川陽子君) 通信の秘密に関する御質問でございますが、いずれの当事者の同意も得ないで通信を傍受することは、通信の秘密、私生活上の自由に対して制約するものであるということでございますが、通信傍受法に基づく通信傍受につきましては厳格な要件と手続の下でのみ認められるものでございまして、当事者の通信の秘密、私生活上の自由を不当に制約するものではないというふうに考えております。

○仁比聡平君 大臣、問題をすり替えちゃ駄目でしょう。緒方事件というのは、通信傍受法が成立をするずっと前の話でしょう。何ら法的根拠のない明白な権力犯罪です。裁判所はそれを断罪している。裁判所は、本件は、憲法上保障されている重要な人権である通信の秘密を始め、プライバシーの権利、政治的活動の自由等が、警察官による電話の盗聴という違法行為によって侵害されたものである点で極めて重大であると断じているわけです。

私、この警察の盗聴についてお尋ねをしている。大臣、どんな認識ですか。

○国務大臣(上川陽子君) ただいまは個別の事件についての御質問ということでございますので、答弁を差し控えさせていただきたいと存じます。

○仁比聡平君 個別の事件についてじゃないでしょう。前回、大臣のお隣で警察庁は、盗聴と言われるようなことを過去にも行っておらず、今後とも行うことはないというふうに申し上げますと。つまり、裁判所から事実を認定され、断罪をされた事件について、反省して謝罪するどころか、事実さえ認めないという態度を明らかにしたんですね。こんな捜査機関に盗聴の自由を認めるなら、どれだけの人権侵害、恣意的な濫用が起こるか、それが問題です。

大臣、今資料もお手元に届いたようですけれども、御地元の静岡ですが、袴田事件の第二次再審請求事件、即時抗告審において、検察側から開示された当時の取調べ録音テープがあります。これ、昨日、弁護団が記者会見を行いましたが、段ボール箱二箱に収納されたオープンリールテープ二十三巻が開示されました。その一巻の外箱に、「八月二十二日 ナンバーツー 午後四時四十分から四十五分 岡村弁ゴ士」という記載があり、これを再生してみたところ、袴田被疑者、当時被疑者と、当時の弁護人であった岡村弁護士との接見時の会話が録音されていたわけですね。

これ、大臣、どんなふうに思いますか。

○国務大臣(上川陽子君) 御質問の件でございますけれども、現在、即時抗告審係属中ということでございます。所感を述べることにつきましては差し控えさせていただきたいと存じます。

○仁比聡平君 いや、検察が即時抗告審に開示した明々白々なこの盗聴の事実でしょう。

これ、大臣、警察にこうした盗聴を行う権限があるんですか。ちょっと一般論として聞きますと、身柄拘束を受けている、逮捕、勾留中の被疑者と弁護人の接見、これを秘密に盗聴する、そして録音する、こんな権限が警察にありますか。

○国務大臣(上川陽子君) ただいま一般論ということでの御質問でございますけれども、刑事訴訟法の第三十九条第一項の接見交通権ということでございますが、身柄の拘束を受けている被疑者等が弁護人又は弁護人になろうとする者と立会人なくして接見等をすることができる権利ということでございます。これは接見時の秘密を保障したものであるということでございまして、弁護人による弁護を受ける権利の保障の基本を成すものというふうに考えております。十分に尊重すべきものというふうに考えます。

○仁比聡平君 私の問いに答えないですね。十分に尊重すべきものって、侵してはならないものでしょう、まずね。

接見交通権というのは、秘密交通権とも呼ばれますけれども、今御紹介のあった刑訴法三十九条一項、そして憲法三十四条や国際人権規約の弁護を受ける権利の根幹です。それは、弁護人と被疑者、被告人の意思疎通が決していささかも萎縮することなく有効な防御活動を行うために不可欠の基本的権利であって、最近、捜査機関が弁護人と被疑者の接見の内容を事後的に被疑者に例えば取調べ室において質問をするということ自体が違法とする判決が出ているほどですね。

これを、侵してはならないこの秘密交通権を警察が盗聴して録音する、そんな権限がありますかと言っているんです。

○国務大臣(上川陽子君) 現在、即時抗告審係属中の刑事事件に関わる案件ということで、所感を述べることは差し控えさせていただきますが、一般論ということで申し上げたいというふうに存じます。

身柄拘束を受けている被疑者等が弁護人又は弁護人になろうとする者と立会人なくして接見等をすることができる権利ということ、これにつきましては接見時の秘密を保障したものであるということでございます。弁護人による弁護を受ける権利の保障の基本を成すものということでありますので、十分に尊重すべきものであるというふうに考えます。

○仁比聡平君 刑事局長、刑事法制で、刑事訴訟法で弁護人との接見を警察が盗聴して録音する、そんな権限がどこかに書いてありますか。

○政府参考人(林眞琴君) ただいま大臣からの答弁にもありましたように、この三十九条一項というのは接見時の秘密を保障したものでございます。これは、保障は侵されてはならないものでございます。

○仁比聡平君 はっきり言いなさいよ、刑事局長。侵されてはならない秘密交通権なんだから、警察がその接見の内容を盗聴し録音する、許されないでしょう。

○政府参考人(林眞琴君) 接見の秘密というのは保障するものでございますので、そういった形でその秘密を侵害することは許されない行為でございます。

○仁比聡平君 警察庁、来ていただいていますけれども、この袴田事件で盗聴を行った、録音を行った、これはもう法廷に証拠として出ているわけですから明白な事実でしょう。こんなことをやったんですか。何の権限でやったんですか。

○政府参考人(三浦正充君) お尋ねの件につきましては、即時抗告審係属中の刑事事件に関わる事柄でございまして、お答えを差し控えさせていただきます。

○仁比聡平君 警察庁が、先ほど紹介したように、三月二十六日、緒方盗聴事件について、警察としては盗聴と言われるようなことを過去にも行っておらず、今後も行うことはないと言ったんですね。ここに言う盗聴と言われるようなことというのは何ですか。

○政府参考人(塩川実喜夫君) お答えします。

盗聴と言われるようなこととは、違法な通信の傍受を指しているものでございます。

○仁比聡平君 袴田事件についてのこの接見の盗聴、録音、これ違法でしょう。何か法的根拠が示せますか。警察庁。

○政府参考人(三浦正充君) 個別の事件のお尋ねということでございますれば、即時抗告審係属中の事件に関わる事柄でございますので、お答えを差し控えさせていただきます。

○仁比聡平君 何で聞かなきゃ分からないんだ。

一般論として聞きますよ。身体拘束中の、逮捕、勾留中の被疑者が接見室に出ていく。立会人なくして接見は認めなきゃいけない。それをあなた方は秘密盗聴をして録音した。そんな権限がどこにあるんだと聞いている。

○政府参考人(三浦正充君) あくまで一般論として申し上げれば、捜査機関がひそかに弁護士との接見を録音するといったようなことは許されないことであるというふうに考えております。

○仁比聡平君 にもかかわらず、こういうことが次々と出てくるわけですよ。

大臣に事前に通告でお読みいただいたんじゃないかと思うんですが、緒方事件について。当時、検事総長であった伊藤栄樹さん、「秋霜烈日」というエッセー集の中で、警察の一部門で治安維持の完全を期するために法律に触れる手段を継続的に取ってきたが、ある日これが検察に見付かり、検察は捜査を開始した。やがて警察の末端実行部隊が判明した。ここで、この国の検察トップは考えた。末端部隊による実行の裏には、警察のトップ以下の指示ないし許可があるものと思われる。末端の者だけ処罰したのでは正義に反する。さりとて、これから指揮系統を遡って次々と検挙してトップにまで至ろうとすれば、問題の部門だけでなく警察全体が抵抗するだろう。その場合、検察は警察に勝てるか。どうも必ず勝てるとは言えなさそうだ。勝てたとしても、双方に大きなしこりが残り、治安維持上困った事態になるおそれがあると心情を吐露しているわけですね。

これは、警察がどんな違法行為を行っても、検察は警察の刑事責任を追及しないと言っているに等しい暴論だと私は思いますけれども、大臣、どんな御感想ですか。

○国務大臣(上川陽子君) ただいま先生の方から読み上げていただいたところでございますけれども、この著述につきましては伊藤栄樹元検事総長が個人の資格で執筆されたものということでございまして、その内容につきまして論評をする立場にございませんので、その限りでございます。

○仁比聡平君 盗聴を拡大する、大改悪をするという法案を提出をされておられる大臣だから、その認識を問うている。日本を揺るがしたこの明白な権力犯罪について、当時の検事総長がこのように述べている。検察は警察に勝てるか、どうも必ず勝てるとは言えなさそうだというふうに述べている。このエッセーのサブタイトル、御存じですか。検察の限界というんですよ。こういう警察にこんな盗聴の拡大あるいは盗聴の自由を認めたらどうなるかと。その濫用ということについて、大臣は全く認識がないんですか。

前回も申し上げましたが、一部可視化、極めて不十分ですけれども、こうした法案と、それからこの通信傍受法の改悪や司法取引の導入、こうした問題を一括して提案して一括して審議を求めようなんというのは、これは考え直すべきじゃありませんか、大臣。

○国務大臣(上川陽子君) 現在の捜査、公判でございますけれども、取調べ及び供述調書に過度に依存をした状況にあるということでございます。この状況につきましては、取調べにおきましての手続の適正確保が不十分となりましたり、あるいは事実認定を誤らせるおそれがあるということでございます。

この今回提出させていただく法律案につきましては、これを改めるために、証拠収集手段の適正化、多様化と、そして公判審理の充実化を図るものであるということでございます。したがいまして、この法律案に掲げる諸制度につきましては、それぞれがこの目的に対して大変必要であるということでございまして、これら全てが一体として法整備されるということによってこそ初めて取調べ及び供述調書に過度に依存した状況が改められるというふうに考えているところでございます。

○委員長(魚住裕一郎君) 仁比君、時間です。

○仁比聡平君 捜査権力というのはそんな甘いものじゃない。明白な権力犯罪、何の根拠もなく盗聴を行っておきながらその事実さえ認めないというこの捜査機関に対して、元々は冤罪根絶の改革を諮問しながら、提出は断念せよと、せめて分離せよと、そうした袴田事件を始めとした冤罪被害者の訴えに耳を塞いで一括提案し成立を求めるなど、私は言語道断だと思います。

こんな法案について、このまんまの審議入りを私たち国会がするわけにはいかないと同僚議員の皆さんに心から呼びかけて、今日は質問を終わります。