○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

まず、戸籍事務の民間委託問題について、資料をお手元にお配りをしております。昨三月三十一日付けで、戸籍事務を民間事業者に委託することが可能な業務の範囲についてという民事局民事第一課補佐官事務連絡が発されました。

私は、昨年の四月十七日、また五月二十二日のこの委員会での質問も含めて、戸籍実務の実際に鑑みれば、民間委託できない市区町村長の判断が必要な業務と、委託できるとする事実上の行為又は補助的行為の切り分けは非現実的であって、平成二十五年三月付けの三一七号通知は撤回すべきだと、必要な検討と対応を求めてきたわけです。ですが、今回の事務連絡は、三一七号通知を前提とはしながらも、民間委託が可能な範囲を明確に規定し、各市区町村の戸籍現場に対して重要な歯止めとなる法務省の基本姿勢が示されていると思うんですね。

そこで、ちょっとまず中身について民事局長にお尋ねをしたいと思いますが、この事務連絡の戸籍事務の民間委託に関するQアンドAで、委託事業者が処理すべきではない、あるいは委託すべきでないとする業務が詳細に明示をされております。その全ては聞けませんので、例えばこの三の一のところで、顔写真付きの証明がなく戸籍の窓口に来られた方について、聞き取りによって本人確認をする場合があります。あるいは、戸籍に記載されている者以外の例えばお孫さんなどが謄抄本の交付請求をする場合に、主体を確認しなければならない点について三の二の二、あるいは代理人又は使者の権限の確認について三の二の三などで、委託すべきではない、つまり権限ある職員によって行われなければならないとされておりますが、その理由は何でしょうか。

○政府参考人(深山卓也君) 戸籍事務につきましては、これまでいわゆる公共サービス改革法や内閣府の通知等によりまして民間委託が可能となる範囲が示され、民間委託が現に実施されてきたところでございますが、戸籍事務の中には、今のお話にもありましたように、公共サービス改革法の法文や内閣府の通知によれば、一見、民間委託が許される範囲に含まれるように見えても、裁量的判断が伴うために委託になじまないというものや、あるいは事務委託の在り方によっては労働法令上の問題が生じかねないというようなものも考えられるところでございます。

そこで、このような問題が生じないように、市区町村に対して民間委託が可能となる範囲を、今例に挙げられたようなものがその内容ですけれども、あらかじめ具体例を交えつつ一定の基準を示す、それが目的で今般の事務連絡の発出に至ったと、こういうことでございます。

○仁比聡平君 基本的には委託をしてもよいとされている事務についても、例えば四の三の三に、これはもう詳しくは申し上げる時間がありませんが、戸籍には移記事項の入力という大事な事務があります。これについて、ここにはこう書いてあります。民間事業者に対して移記事項の入力業務を委託する前段階、受理審査後において、法務局に処理照会などをすることが必要であるか否かを含め、移記事項の入力につき高度な判断を要するか否かについて市区町村の記載調査担当職員が判断するということがはっきり書かれているわけですね。

これは、移記事項の入力を委託してよいのかどうかというその可否については、全ての事件について権限ある職員が自ら判断をして振り分けなければならないということだと思いますけれども、そのとおりですか。

○政府参考人(深山卓也君) 移記事項の入力については、ここにも書かれているとおり、移記を要するか否かが法令等に照らして明白でなく、高度な判断を要する場合が例外的にございます。

そして、その移記事項の入力について、高度な判断を要するものであるか否かの振り分けにつきましては市区町村の職員が判断して行うべきものと考えられますので、結果としまして、委員御指摘のとおり、全件について市区町村の職員が事前に民間委託が可能な案件か否かについて確認をすると、そういう趣旨を書いたものでございます。

○仁比聡平君 ありがとうございます。

大臣、このように、今回の事務連絡で詳細に民間委託が可能な範囲を明確にしたというその根本には、公開原則の見直しや戸籍記載の真実性の担保という平成十九年戸籍法改正の趣旨がいささかも揺らいではならないという基本姿勢があるのだと思うんですけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(上川陽子君) ただいま平成十九年の戸籍法の改正ということで、その趣旨につきましては、個人情報保護の観点から戸籍の公開制度の見直しを行うと同時に、戸籍の記載の真実性の担保を行うということでございました。

今回、補佐官の事務連絡につきましては、あらかじめ一定の基準を示すということによりまして、民間委託が可能な範囲ということにつきまして明確にしたということでございます。この連絡におきましては、民間委託が可能な範囲と、そして裁量的な判断を行うため市区町村職員によって処理されるべき範囲というのを明確にするものでございます。その意味で、平成十九年戸籍法改正の趣旨に資するものというふうに考えております。

○仁比聡平君 五月二十二日にお尋ねをしたときに谷垣前大臣は、市町村が民間委託を行う場合であっても、戸籍法改正の趣旨に基づいて厳正かつ適切に処理される必要があるというふうに御答弁なさいましたが、これは大臣も同じお考えですね。

○国務大臣(上川陽子君) 戸籍事務というのは大変重要なものでございますので、そういう意味では谷垣前大臣のおっしゃったこと、そのとおりでございます。

○仁比聡平君 そこで、これまで三一七号通知には、職員が関与する体制があれば判断業務も委託してよいかのように読まれかねない部分もあったんですけれども、今回、総論ということで一の二におきまして、市区町村長の判断が必要となる業務については、その判断そのものは職員が自ら行う必要があると明示をされたことは極めて重要だと思います。

その職員体制についてなんですが、この事務連絡のかがみ文のところで、戸籍事務の一部を民間事業者に委託する場合であっても、それにより市区町村の職員の執務能力が低下することのないよう十分な対策を講じる必要があると明示をされました。これは大臣、執務能力、これはつまり戸籍実務を通じて培われる職員の知識、経験の蓄積、継承がいささかも揺らいではならないということだと思うんですが、いかがでしょうか。

○国務大臣(上川陽子君) そもそも、この戸籍事務につきましては、人の親族的身分関係を登録、公証するという極めて重要なものであって、民間委託が許されるのは事実上の行為又は補助的行為である、裁量的判断が必要となる業務は職員が行う必要があるということでございます。

したがいまして、民間事業者への委託によりまして職員の執務能力そのものが低下することにつきましては避けるべきであるということでございますので、執務能力の維持の必要性についてこの補佐官事務連絡にしっかりと明記をし、その担保をしたところでございます。

○仁比聡平君 そこで、局長、例えば現場の一つの例でいいますと、先ほどの聴聞による本人確認、三の一の場合ですけれども、このQアンドAにあるとおり、質問に対する請求者の答えぶりや挙措動作などが判断の要素として挙げられていますとおり、私は、職員が公務員としての権限と責任に基づいて日々の戸籍実務を担うからこそ、その判断能力が培われ磨かれていくのではないかと思うんですけれども、局長、いかがでしょうか。

○政府参考人(深山卓也君) 今御指摘のQアンドAの三の一に書かれている、本人確認を戸籍謄抄本、写真付きの身分証明書で確認するのではなくて、質問に対する答えで本人確認をするという場合には、答えぶりであるとか挙措動作の確認をして、様々なやり取りの中で本人確認を行うというような裁量的な判断でございます。こういった判断を行う能力は、あらかじめ定められたマニュアルのようなもので機械的に実践すればそれで付いていくという能力とは思われませんので、御指摘のとおり、その意味では、市区町村の職員が日々の実務の中で培っていくべき能力だろうと思っております。

○仁比聡平君 こうした考え方を全国の市区町村に徹底するということが極めて重要だと思います。

まず、一の五のところに、委託契約締結前に仕様書案あるいは具体的な事務処理工程案を示した上で法務局に相談すべきであるということが明記をされました。これは局長、なぜ重要なんでしょうか。

○政府参考人(深山卓也君) 今お話があったとおり、管轄法務局に事前に相談すべき旨を記載しております。これは、戸籍事務を民間事業者に委託する場合に、一般的には、戸籍法施行規則八十二条というのがあるんですが、戸籍事務の取扱に関して疑義を生じたときに当たると考えられますので、委託の範囲が適正なものとなるよう管轄法務局等に相談すべきことになっております。

しかし、これまでその旨を明示した通知等々がございませんでしたので、改めてそこの部分を明示したと。これによりまして、個別の民間委託の在り方について管轄法務局等が事前に指導する機会が得られますので、本来委託してはならない範囲の事務まで委託されることが事後的に判明して混乱してしまうというような事態を防ぐことができると思っております。

○仁比聡平君 そうした手続によってこの事務連絡に反する委託がこの先行われないようになるのはもちろんのこと、局長、既にこれに反する委託が行われている場合、これは速やかに正されなければならないと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(深山卓也君) 法務局におきましては、管轄の市区町村について定期的に現地指導を行っているところでございますが、御指摘のとおり、既にこの事務連絡に反する委託が始まっているというようなことがあった場合には速やかに是正されるべきものと考えておりますので、法務局を通じて適切に指導してまいりたいと思っております。

○仁比聡平君 この事務連絡の趣旨を文書として各市区町村には通知をされているようなんですが、それにとどまらず、市区町村の現場に徹底をするために、会議だとかあるいは研修だとか、そうしたもの、あるいはいろんな機会を得ての講演だったり雑誌への論文掲載だったり、こうした取組は極めて重要だと思いますけれども、局長、どうでしょう。

○政府参考人(深山卓也君) この事務連絡、三月三十一日に発出したものでございまして、法務局、地方法務局を通じて既に管轄の市区町村に伝達されているものと認識しておりますが、ただ、その際、内容の重要性に鑑みて、その周知が重要であるというのは御指摘のとおりですので、委員の御提案も踏まえながら、必要に応じて更なる周知の方法を考えていきたいと思っております。

○仁比聡平君 大臣が先ほどおっしゃったように、戸籍は身分関係を登録、公証するというとても重要な事務であって、プライバシーの塊です。その実務が市区町村の権限ある職員、公務員によって発展させられていくということが私本当に大事だと思います。今後も、民間委託の問題点について徹底してただしていきたいと今日は申し上げて、次の質問に移りたいと思います。

選択的夫婦別姓の実現に関わって、通称使用の拡大についてお尋ねしておきたいんです。

例えば、昨年十月二十八日に、私の質問に大臣は、安倍政権の女性が輝く社会を目指す観点から、旧姓使用が認められないために被っている社会生活上の不便の是正に向けた措置について、関係省庁と協議をしながら前向きに検討していきたいという答弁をされました。

この御答弁の具体化についてなんですけど、これは、法務省、例えば民事局が政府全省庁の音頭を取って具体化をしているわけですか。

○国務大臣(上川陽子君) ただいまの御質問にございました旧姓使用ということにつきまして、私、回答をさせていただいたことにつきましては、まず法務省の中で積極的に取り組んでいきたいという思いでございました。そこで、法務省の中におきましては、商業登記簿の役員欄に、戸籍名に加えて婚姻前の氏をも併記することを可能とする旨の商業登記の規則等の改正というのを行いまして、二月二十七日から施行しているということでございます。

様々な士業につきましても、通称使用の規定が、それぞれの士業の中で取り組んでいらっしゃるということもございますので、そういう意味で、まず法務省から始めようということで積極的な取組をしているところでございます。

○仁比聡平君 法務省として商業登記簿の旧姓併記を実現をされたのは、それは一歩前進なんですけれども、元々でいうと、九六年の法制審答申に基づいて民法改正をすべき法務省が、それはやらずに通称使用だけというのは元々が何だか変な話なんですよね。

内閣府審議官においでいただいていますが、政府全体の男女共同参画の取組の中では、この通称使用の拡大ということについて、例えば男女共同参画局で各省協議や取りまとめというのが行われているんですか。

○政府参考人(久保田治君) お答え申し上げます。

まず、第三次の男女共同参画基本計画におきましては、婚姻適齢の男女統一、選択的夫婦別氏制度の導入等の民法改正について、引き続き検討を進めると記載しているところでございますが、お尋ねの通称使用の拡大については記載がないところでございます。

また、内閣府におきまして、通称使用の拡大に向けて関係省庁と今協議を進めているということはございません。

○仁比聡平君 つまり、政府全体としての協議とか取組というのがないのじゃないかなと思うんですよね。

大体、氏の問題というのは個人の尊厳やアイデンティティーの問題であって、不便、利便の問題ではないのだと思うんですけれども、通称の拡大でそうしたら一切の社会生活上の不便を解消することができるのかというと、例えば通称での銀行口座はつくれない、国民健康保険証もつくれない、明らかに限界があるんですね。

今日、外務省審議官においでいただいています。例えば旅券、パスポートの発行について、通称併記が認められる場合というのはこれ極めて限定をされています。国際学会だったり出張だったり、通称のパスポートをもらうためにはどんな資料が必要ですか。

○政府参考人(鈴木哲君) お答えいたします。

旅券に記載される氏名につきましては、戸籍に記載されている氏名に基づいて表記されることとなっておりますが、例外として、外国において旧姓での活動や実績が、招待状あるいは査証関係書類、あるいは外国で出版された著書、論文等の書面で確認できる方、あるいは、職場で旧姓使用が認められている方については、業務により外国に渡航する必要があることが書面で確認できる場合、旧姓の併記が認められております。

○仁比聡平君 そのように極めて限定されているんです。

例えば、一旦国際学会などで通称のパスポートを発行された方が、有効期限間近に、今度は家族で旅行に行くというので切替えが必要だというときは、通称でのパスポートが出されるのかというと、現場では出してもらえないという相談を伺うんですよ。これ、外務省、どうなのか。実際、全く知られていないんですね、どうなのかということが。

これ、何で周知、案内しないのか。二点、いかがですか。

○政府参考人(鈴木哲君) お答えいたします。

御質問のありました切替えの件につきましては、引き続き海外で当該旧姓の使用が必要であるということを申請していただいた場合には、至近の渡航目的にかかわらず、業務でない家族旅行についても旧姓使用の併記が認められております。

広報につきましては、あくまで原則は戸籍に基づいた氏名の記載ということであって、旧姓併記については例外的に認められるべきものであるということから積極的には広報はしておりませんが、例えば、実際に併記を希望される方がおられるということに配慮しまして、外務省ホームページ等で、別名併記が可能である旨、一定の広報を行ってきておるところでございます。

○仁比聡平君 時間が参りましたので終わらざるを得なくなったのが残念なんですが、それぞれ、個々の制度についてはその根拠があり限界があるわけですよね。その使用の拡大を行っても、通称を使う側も二つの姓を使い分ける煩雑が付きまといますし、会社や自治体などの側でも、給料明細と振り込み口座の名義が違うといった、そんな管理上の苦労が増えるばかりなんですよ。

その通称使用の拡大が私は選択的夫婦別姓をやらない理由には全くならないと思います。壁があるなら乗り越えるのが大臣の責務だということを強く申し上げまして、今日は質問を終わります。