○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

今日は通信傍受の拡大の問題についてお伺いをしていきたいと思うんですが、ちょっと通告と順番違いますが、大臣に、まず対象犯罪の拡大、今回の法案でいいますと別表二の問題について、前回、四月二十八日の小川敏夫議員の質問に対して大臣がまとまった御答弁をされました。その部分について速記録から抜粋をして委員の皆さんにはお手元にお配りをしているところですけれども、この大臣の答弁の意味についてまず確認をしたいんです。

大臣は、本法律案で追加する対象犯罪は、現に一般国民にとって重大な脅威となり社会問題化している犯罪であって、通信傍受の対象とすることが必要不可欠なものに限定をしておりますと答弁をされました。

まずお尋ねしたいのは、この大臣の言う現に一般国民にとって重大な脅威となり社会問題化している犯罪とは何を指すのか。これを必要不可欠なものとして限定をしているとおっしゃっているわけですが、この対象となる犯罪というのは一体何なんでしょうか。

○国務大臣(岩城光英君) お答えいたします。

通信傍受は、憲法の保障する通信の秘密を制約するものである上、捜索、差押え等の従来の強制処分と異なり、継続的かつ密行的に行われるという性質を有するものであります。また、現行通信傍受法の制定時におきましても、通信傍受の対象犯罪は、捜査の実情も踏まえた上で、実際に組織的な犯罪等の捜査において通信傍受の必要性が高いと考えられるものに限定されたという経緯がございます。

そこで、このような通信傍受の性質や現行通信傍受法制定時の経緯などに鑑み、今般の法整備で新たに対象犯罪に追加する罪を選択するに当たりましても、その犯罪が通信傍受に伴う通信の秘密への制約に見合うほど重大なものであるか、目下の犯罪情勢を踏まえ、その犯罪が組織的に行われることが現実的に想定されるものであり、かつ、その犯罪の捜査において通信傍受が必要かつ有用な手段と言えるかという二つの要素をこれを考慮しまして、現に一般国民にとって重大な脅威となり社会問題化している犯罪であって、通信傍受の対象とすることが必要不可欠なものに限定しているものであります。

○仁比聡平君 私がお尋ねをしているのは、そうした大臣の認識の下で、あるいは政府の検討の上で限定している犯罪とは何かということなんです。

別表二に付け加える例えば詐欺あるいは窃盗というのは、これ自体は今大臣がおっしゃったような意味での現に一般国民にとって重大な脅威となり社会問題化している犯罪とは思えないんですけれども、この犯罪というのは何なんですか。

○国務大臣(岩城光英君) 新たに追加する対象犯罪でありますけれども、殺傷犯関係の罪、殺人、傷害、傷害致死、現住建造物等放火、爆発物使用などであります。それから、逮捕監禁、略取誘拐関係の罪、窃盗、強盗関係、詐欺、恐喝関係の罪、児童ポルノ関係の罪、これらを追加するものであります。

また、これら新たに追加する対象犯罪につきましては、他の捜査方法では犯人を特定することが著しく困難であることなどの現行通信傍受法の厳格な要件に加えまして、組織的な犯罪に適切に対処するという通信傍受法の趣旨を全うするため、その犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従い行動する人の結合体により行われたと疑うに足りる状況があることという要件を加え、それをも満たす場合でなければ傍受令状が発付されないこととしております。

これによりまして、今回の改正により対象犯罪に追加することとなる罪につきましても、一定の組織性を有し、解明困難な事件に限定されることとなります。

○仁比聡平君 大臣、私の問いにお答えにならないのか、あるいは問いがお分かりにならないのかのどちらかなんですけれども、今大臣が付け加えておっしゃった組織性の要件についてはこれ後ほど少し議論したいと思うんですけれども、大臣は前回の答弁で、追加する対象犯罪は現に一般国民にとって重大な脅威となり社会問題化している犯罪であると述べているわけですね。

この答弁は、小川議員の質問を私が正確に理解しているとするならば、窃盗、万引きというような事案に対して、それはそうではない、当たらないという趣旨でなされたものと思うんですが、今の御答弁だと、例えば殺人あるいは窃盗という罪名に当たる行為が疑われる、捜査機関がその罪名に当たる被疑事実があるのではないかと容疑を持てば全て傍受令状の対象になるのだという答弁になってしまうんですけれども、大臣はそういうつもりでおっしゃっているんですか。

○国務大臣(岩城光英君) より具体的にということでありますので、例えば殺傷犯関係の罪につきましては、暴力団等が、その意に沿わない、従わない一般市民を標的として組織的に敢行したと見られる事犯、それから窃盗等につきましては、組織的窃盗グループやいわゆる振り込め詐欺グループにより反復継続的に行われ、多くの被害者に多大な財産上の被害を及ぼしている、そういった事例を考えております。

○仁比聡平君 今、二つおっしゃいました。暴力団が組織的に、例えば組織的な犯罪の一つの手段として殺人だとかあるいは放火だとかいうことを行うということは現にあります。あるいは組織窃盗というお話もありました。特殊詐欺ということもこれに含まれるのかと思うんですが。

先ほど、児童ポルノの犯罪構成要件が別表二に挙げられていることをお述べになりましたけれども、今私が付け加えて申し上げた点も含めて、言わば四つの類型というふうに、警察庁そして法務省等、勉強レクで伺いますとおっしゃるわけですが、これは大臣もそういう御認識ですか。もしそうであれば、その四類型というのをもう一度大臣の認識としてお示ししていただきたいと思うんですが。

○国務大臣(岩城光英君) それでは申し上げますけれども、まず、殺傷犯関係の罪は、いずれも人の生命、身体に関わる極めて重大な犯罪であって、近時、暴力団等がその意に沿わない事業者等に対して報復、見せしめ目的で敢行したと見られる襲撃事件が相次いでおり、例えば現住建造物等放火の罪に関し、暴力団組長等数名が金銭要求等に応じない店舗経営者の見せしめとして飲食店店舗内にガソリンをまいた上で放火し、同店従業員ら三名を死傷させた事案。二番目に、殺人の罪に関し、路上において暴力団との間でトラブルがあったとされる漁業協同組合長が暴力団関係者と思われる者に拳銃で撃たれて殺害される事案。それから、傷害、傷害致死の罪に関しては、暴力団員の立入りを禁止する標章を掲示した飲食店の経営者に対し、暴力団関係者と思われる者が刃物で切り付け傷害を負わせた事案等がこれまでも発生しておりますので、そういったことを対象といたします。

それから、逮捕監禁関係、略取誘拐関係の罪は、人身の自由を保護法益とし、人の生命、身体にも関わる重大な犯罪であって、例えば逮捕監禁の罪については、検挙人員総数に占める暴力団構成員等の比率が約四八・四%を占める典型的な暴力団犯罪の一つであります。また、実際にも逮捕監禁の罪に関し、暴力団組員等数名と外国人数名が日本人女性三名及び外国人女性一名に対し、粘着テープ等で顔面及び両手足を縛って車両内に連れ込んで監禁するなどした上、現金等を強取した逮捕監禁、強盗の事案。略取の罪に関しましては、暴力団組員らが被害者に制裁を加えるとともに金品を得ようと企て、実行犯、見張り役、運転手役などの役割を分担した上で、被害者に対し多数回にわたって殴る、蹴るの暴行を加えた上で自動車内に押し込んで連れ去るなどした営利目的略取、監禁致傷の事案等が発生しておりますので、これらも対象になるものと思います。

それから、窃盗、強盗関係、詐欺、恐喝関係の罪は、人の財産を侵害し、あるいは財産のみならず人の命、身体にも関わる重大な犯罪でありまして、例えば窃盗の罪に関し、密入国した外国人が日本国内に不法残留していた同国人から成る窃盗組織を構成した上で、複数の犯行グループを関東以西の西日本一帯に分散させ、三年以上もの間、被害総額約十億四千四百万円相当の侵入盗を敢行していた事案などが発生しております。詐欺の罪に関しましては、いわゆる振り込め詐欺等の特殊詐欺による被害はいまだ増加傾向にありまして、平成二十五年においては認知件数が一万一千九百九十八件、被害総額が約四百八十九億五千万円と極めて深刻な状況になっております。

さらに、爆発物取締罰則違反につきましてですが、爆発物の使用罪は不特定多数の人の生命に関わる極めて重大な犯罪であって、近時、暴力団等がその意に沿わない事業者等に対して報復、見せしめ目的で敢行したと見られる襲撃事件が相次いでおります。例えば、暴力団組長等が共謀の上、産業廃棄物処理会社付近において手りゅう弾を爆発させ同社の外壁等を破壊し、さらに同日、京都府内の同社のビルに手りゅう弾を投擲し爆発させ、同社ビル外の階段等を破壊した事案が挙げられます。

さらに、児童ポルノ関連の犯罪でありますけれども、法定刑の上限が懲役五年であって、その法定刑自体相当程度重いものであって、児童ポルノ等の不特定多数の者に対する提供等の事犯におきましてはインターネットが利用されるものが大多数を占めるところ、児童ポルノがインターネット上に流出すればその回収は事実上不可能となる上、被害者の約半数は低年齢の児童であるなど、その害悪は深刻であります。しかも、この種の事犯は、近年、検挙件数が増加の一途をたどっており、例えば暴力団構成員を含む犯行グループがホームページを移転しつつ児童ポルノDVD販売サイトを開設して組織的にDVDを販売し、約五千枚DVDが押収された事案などが発生しておりますが、こういった近年の犯罪行為の発生したことに伴いまして、今述べたような事例を対象にするということでございます。

○仁比聡平君 詳しく述べていただきましたけれども、つまり、殺人、放火や人身の自由の侵害、あるいは爆発物、あるいは児童ポルノ事案、これは、例えばという枕言葉を付けながらではありますけれども、今、大臣、暴力団が組織的に行うという事例を挙げられました。殺人、放火などの事案については、私、地元北九州市ですが、北九州で現に起こった絶対に許してはならない犯罪だと私も思うんですね。

この暴力団が行うそうした犯罪、それから組織窃盗と特殊詐欺というこの類型を挙げられたわけですが、これに限定されていると。大臣の前回の答弁はそういう意味ですか。

○国務大臣(岩城光英君) 新たに追加する対象犯罪につきましては、現行法上の傍受の実施要件である数人共謀の要件のみならず加重要件をも満たすことを要するものとすることによりまして、例えば偶発的に発生した複数の者による傷害事件で、相手方に対して共同して暴行を加える意思があったため数人共謀の要件を満たすものの、役割の分担がなされないままに行われたと認められる場合、あるいは、役割の分担はなされたものの、それが犯行時に定められたものであった場合などについては通信傍受を実施することができないこととなります。

○仁比聡平君 大臣、端的に私の問いに答えていただけませんか。

大臣は長い時間を使って、先ほど私が指摘をした、つまり暴力団が行う先ほど述べられた罪、それから組織窃盗、特殊詐欺という類型を挙げられたんですよ。勉強で伺うと、警察庁、検察庁というか法務省は、その四類型というふうにおっしゃるわけですよ。大臣は、その上で、四月の二十八日に、追加対象犯罪は、現に一般国民にとって重大な脅威となり社会問題化している犯罪であって、通信傍受の対象とすることが必要不可欠なものに限定しておりますと言っているわけです。

限定しているということは、それ以外にはないということなんですね。であれば、先ほど挙げられたような罪というのに限定をしていると、そういう御答弁ですか。

○国務大臣(岩城光英君) 御指摘のとおり、四つの類型に限定しているということでございます。

○仁比聡平君 警察庁、法務省、それぞれ、それでよろしいでしょうか。

○政府参考人(林眞琴君) 今回の対象犯罪の決め方、いかなる犯罪をその対象とするかということを、犯罪類型を選ぶときに、先ほど大臣から申し上げました様々な立法事実、四つの類型のそれぞれの立法事実がございますが、そういった観点から、この四つの類型の犯罪を対象犯罪としてまず限定列挙として選び取ったということでございます。

○政府参考人(三浦正充君) 警察といたしましても同じ考えでございまして、こうした犯罪はいずれも、現時点における犯罪情勢や捜査の実情等に照らしまして、通信傍受が必要かつ有用な捜査手法であるのみならず、通信傍受によってもたらされる権利制約を考慮してもなおこれを行って捜査する必要があるという意味での犯罪の重大性を満たしておりまして、悪質、凶悪化する組織犯罪に対処する上で通信傍受の対象とする必要性が特に高いものと考えております。

○仁比聡平君 今確認をした立法事実についての是非についてはいろいろ議論もありますけれども、ちょっとこれは別の機会に譲るとして、大臣、その上でお尋ねしたいのは、今確認をされた四類型に法文上限定されているかというと、私にはそうは思えないわけです。何しろ別表二には詐欺罪、窃盗罪というふうに裸で書いてあるわけですね。組織窃盗とか特殊詐欺という構成要件を特別につくったわけじゃない、一般の刑法の窃盗罪や詐欺罪というのを持ってきているわけですから。だから、この対象犯罪が今確認をした四類型に限定されているというふうになぜ読めるのか、法案のどこにそれが書いてあるのか、何をもって大臣が限定していると言うのか、ここをお尋ねしたいんですが。

○国務大臣(岩城光英君) お答え申し上げますが、これは補充性の要件や新たな加重要件などによりまして組織的な窃盗や振り込め詐欺などの組織的な犯罪に限定されることになるものでありまして、詳細につきましては刑事局長から答弁させたいと存じます。

○仁比聡平君 刑事局長に後ほど伺いたいと思うんですが、今の御答弁だと、対象犯罪として追加をする別表二だけで四類型に限定されているのではないというような御答弁なんですね。これに付け加えて、組織性あるいは補充性を、令状を裁判官が審査をする、ここで限定されるという意味に聞こえるんですけれども、二十八日の御答弁はそうではありません。

お手元にお読みいただくように、対象犯罪が、重大な脅威となり社会問題化している犯罪であって、通信傍受が必要不可欠なものに限定をしている、また、その罪について裁判官の令状審査が必要であって、その令状審査の中で先ほどの補充性の要件だとか組織性の要件が認定されるからという御答弁になっているわけですよ。この「また」という接続詞は、つまり令状審査の問題ではなく対象犯罪それ自体として限定されているという意味にも読めるんですが、これ、大臣、そういう理解ではないんですか。

○国務大臣(岩城光英君) 先ほどもお答え申し上げましたとおり、補充性の要件や新たな加重要件などによりまして、組織的な犯罪、これに限定されるということでございます。

○仁比聡平君 ということは、前回、川出参考人あるいは林刑事局長に確認をしましたけれども、法文としてはこれは限定はされていないということになるわけでしょうか。

例えば、林局長が二十八日の私の質問に対してお答えになったのは、本法律案の明文上は、この通信傍受の対象犯罪を暴力団等の関係する組織的な犯罪に限定はしていないが、実際、運用上は、厳格な要件を満たし得るのは組織的な犯罪に限定されるという認識というふうに述べておられるんですが、これ、大臣がおっしゃっているのもそういうことなんですか。

○国務大臣(岩城光英君) 仁比委員御指摘のとおりでございます。

○政府参考人(林眞琴君) まず、今回のその通信傍受の対象とする犯罪、これを必要不可欠なものに限定しておりますと、この点でございますが、この犯罪というものについては、ある構成要件を持った罪名、こういう形で今回どの犯罪をまず対象犯罪とするかという観点からは、現に一般国民にとって重大な脅威となり社会問題化している犯罪、これを選び取ったということでございます。

もとより、その犯罪というときに、例えば窃盗罪というのがございますけれども、あるいは詐欺罪というのがありますが、振り込め詐欺、特殊詐欺という罪名はございません。したがいまして、犯罪として選ぶときには、その詐欺罪というある構成要件が定められておる一定の犯罪を、先ほど申し上げました現に一般国民にとって重大な脅威となり社会問題化している犯罪、これについて選び取り、それに限定しているという趣旨でございます。その上で、個々の傍受令状が発付される厳格な要件がございますので、それぞれの要件によってこの傍受令状の発付要件を満たす犯罪というのは組織的な犯罪に限られるということになるということを申し上げているわけでございます。

○仁比聡平君 いや、私はそこが分からないんですよ。令状請求がされたときに、法文上は対象犯罪に言わば限定はないとなると、その令状請求が違法であるとして裁判官が却下する法的根拠は何になるのかということなんですね。

大臣、お読みだと思うんですが、現行通信傍受法の第一条にはこの法の目的について、「組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、数人の共謀によって実行される組織的な殺人、薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪において、」云々と、通信傍受を行う必要があるという規定になっているわけです。窃盗とか詐欺というのは、ここにはそもそも掲げられていないわけですね。

ところが、別表第二はそうしたものを一般的に含むことになってしまう、けれども、対象犯罪は先ほど確認した四類型に限定していると言う。けれども、法文上そうなっていなければ限定されなくなるじゃないか、限定されない運用、限定されない令状発付というのが行い得ることに法律上なるではないかという、この指摘に大臣はどうお答えになるんですか。

○政府参考人(林眞琴君) 今回、第一条の目的については改正を加えていないわけでございます。したがいまして、この目的の中で例示されている中の重大犯罪という中に今回の対象犯罪というものは入るわけでございます。そのことによって、この目的規定が、今回の追加される対象犯罪についてもこの目的規定が係ってくるという観点で、今回の対象犯罪の拡大があくまでも組織的な犯罪に対する対処ということの趣旨でこの追加がなされているということが解釈上明らかになるわけでございます。

その上で、先ほどの令状発付段階でいかなるものを組織的なものではないとして排除するかというその根拠でございますが、これは先ほど来言っている通信傍受令状の発付要件に例えば補充性の要件というものが法律上明記されておりますので、その判断の中で組織的な犯罪でないものが外される、排除されるということがございましょうし、あるいは、ある特定の通信手段について犯罪関連通信が、犯人による犯罪関連通信が行われると認めるに足りる、疑う理由があると、こういったことが要件となっておりますので、そういったものを全部満たすものについては実際には組織的な犯罪に限定されてくると、こういうことでございます。

○仁比聡平君 後段の方は後ほど議論しますが、まず冒頭におっしゃった一条の解釈なんですけれども、改正後の一条というのをどう読むのかと。元々、現行法というのは、暴力団が、暴力団と主体は限定はされていないけれども、暴力団が行うであろうという罪、配付資料の中で七枚目に現行の別表を示しておりますけれども、薬物、覚醒剤、武器、あへん、銃砲刀剣類など、こういう罪が現行法に限定されている別表一なわけですね、対象犯罪なわけです。その下で一条は、組織的な殺人、薬物、銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪と言っているわけです。

窃盗あるいは詐欺、傷害もでしょうけれども、一般的にそうしたものには限定されないというのは局長も先ほどおっしゃったとおりで、法律解釈として、そうすると、先ほどの御答弁だと一条が働いてくるということなんですね。どこにどう読み込んで働いてくるということになるんでしょうか。

○政府参考人(林眞琴君) この一条の中に「組織的な殺人、薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等」と書いてありますが、これらは例示でございます。例えば、現行法でも集団密航の罪というものも対象犯罪になっておりますけれども、この一条の中には明示的には出てきません。その意味でも、こういった重大な犯罪、数人の共謀によって実行される重大な犯罪、こういったものについては例示がなされております。この例示の中での重大犯罪というものについて、今回追加される対象犯罪もそこに含まれるということでございます。また、含まれるからこそ、この一条の目的というものが今回追加される対象犯罪に係ってくるということでございます。

○仁比聡平君 今の局長の御答弁等を別の角度でおっしゃっているのかもしれないんですが、私、必ずしも認識は一致はしませんけれども、川出参考人がこの通信傍受の合憲性の問題として、現在の四種類の犯罪、つまり現行法の四種類の犯罪は、犯罪の重大性を満たすものだということで合憲性が認められる、そうだとすれば、少なくともこれらの罪に匹敵するような重大性を持った犯罪に対象を拡大したとしても合憲と。

そうすると、匹敵しないものはこれを対象にすると違憲になるという認識だと思うのですが、これは局長、そういう理解でいいですか。

○政府参考人(林眞琴君) 犯罪の重大性というものをどのような意味のものとして受け止めるかによっても異なるとは思いますけれども、少なくとも最高裁の判例におきまして、この通信傍受というものが検証許可状によって行われたときの判例におきましてはやはり犯罪の重大性というものは一つの要件となっておりましたので、その要件として、今回も立案に当たりましては、この犯罪の重大性というものについて、現に重大であり、かつ一般国民にとって現に重大な脅威となっているか重大な脅威となるもの、こういったものを今回立案に当たって選び取ったということでございます。

○仁比聡平君 今の局長の答弁は、つまり、一条に言う「等の重大犯罪」ということが、これは川出参考人の言葉を借りてくれば、一条に例示されている罪に匹敵するような重大性を持った犯罪という意味として窃盗だとか詐欺だとかという構成要件に該当するという疑いがあるが、けれども組織的な犯罪ではないかもしれない、組織的な犯罪ではないという、ここを区分けする基準になるという、そういう意味ですか。

○政府参考人(林眞琴君) 組織的な犯罪に対処するというこの一条の目的をどのように実現するかということにつきましては、一つには、対象犯罪の選び方がございます。もう一つには、令状発付要件の定め方によると。この全体で今回のその一条の目的というものは達成されるというふうに考えます。

その意味におきまして、対象犯罪の選択、選び方ということに限って言えば、ここに例示されているものと同程度の意味でその重大性が認められる犯罪というものが今回選び取られているという理解でおります。

○仁比聡平君 まだちょっとよくはっきりしないと思うんですけれども、これ以上御答弁前に進まないように思いますので、別の角度で今のお話を伺いますと、大臣、今の議論も踏まえて、前回の二十八日の御答弁の続きには、その令状発付の要件の問題として、現行法上、裁判官がその罪が犯されたと疑う十分な理由があることなどという要件を挙げられているわけです。

裁判官が何らかの罪の疑いがあると認めなければそれはもちろん何の令状だって出ないわけですけれども、ここで通信傍受令状の要件としておっしゃっているその罪が犯されたと疑う十分な理由のその罪というのは何かと。これは一般的に例えば窃盗に当たるかもしれないという疑いという事実などではなく、組織窃盗という、そういう具体的な組織的な犯罪の事実というのが捜査機関から主張されて、それが証拠によって疎明をされなければ認められないと、構成要件が窃盗罪であるということじゃなくて、組織窃盗という犯罪の実態そのもの、そこへの疑いという意味なんでしょうか。

○国務大臣(岩城光英君) 仁比委員御指摘のとおりです。

○仁比聡平君 その下で、この令状発付の要件について少し、ちょっと細かいようにも思いますが、法文に沿ってお尋ねしたいと思うんです。

お手元の二枚目以降、新旧対照表をちょっと私が手書きで傍線を入れてお配りをしております。

傍受令状が出されるためには、法案三条において、当該各号に規定する犯罪の実行、準備又は証拠隠滅等の事後措置に関する謀議、指示その他の相互連絡その他当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信が行われると疑うに足りる状況があり云々という定義にまずなっているわけですね。これが、つまりその対象犯罪が疑われるということになるんだと思うんですが。

これ局長、実行、準備、事後措置というのはそれなりに犯罪の流れとしてそうだろうなというイメージがあるわけですが、その謀議、指示その他の相互連絡ぐらいにまでなってくると相当広いなと思うんですが、法案はさらに、その他当該犯罪の実行に関連する事項というふうに一般化しているわけですが、この謀議や指示、相互連絡にも当てはまらない関連する事項というのはどんなものなんですか。

○政府参考人(林眞琴君) まず、ここで掲げております委員御指摘の犯罪の実行、準備又は事後措置、こういったものは、一つの通信の対象となる内容でございますが、それについて、謀議といいますのは、これは共犯者相互間による共犯者相互間の謀議でございます。指示といいますのは、例えば共犯者の一部の者から他の者に対する指示をいいます。その他の相互連絡というのは、それら以外の共犯者間の意思の連絡というものをいうものと考えております。これらが犯罪の実行、あるいはその準備、あるいは事後措置に関して行われる、これがまず一つの対象でございます。

そして、委員御指摘の、それではその他当該犯罪の実行に関連する事項とは何かということでございますが、これは、そのほかの犯罪の実行に関連する事項、情報を内容とする通信というものでございまして、例えばでございますが、ここで犯罪の実行に関連するとなっておりますので、犯罪の実行した者が第三者に対してその犯行を告白する内容、これらがこの通信に当たるものと考えます。

他方で、例えば、被疑者の一般的な交友関係でありますとか生活態度等の一般的な情状に関係する犯罪は、これは犯罪の実行に関するものではございませんのでこれには当たらないと考えられます。

○仁比聡平君 情状に関するものは当たらない、犯行告白は当たるというお話のようなんですけれども、これで本当に限定されるのかと。ここに先ほど確認した四類型という意味での組織性というのは、この文言そのものの中では限定はされないわけですね、局長。

○政府参考人(林眞琴君) 先ほど申し上げた四類型というのは、これは犯罪の類型、いわゆる罪名でございますので、この罪名は前提としてはその対象犯罪というところで最初の段階では関係しますが、その上で、今申し上げているところのこの犯罪関連通信が行われると疑うに足りる理由があるということについては、これは令状発付の要件でございます。

○仁比聡平君 その上で、その対象犯罪が行われると疑うに足りる状況というのは、これはどのような状況を指し、何をもって疎明をされるんですか。

○政府参考人(林眞琴君) この通信傍受法第三条第一項に規定します犯罪関連通信が行われると疑うに足りる状況といいますのは、犯罪関連通信が行われる蓋然性があることを認めることができる客観的、合理的な根拠があるということを意味しております。

この場合、この根拠、客観的、合理的な根拠というものは疎明をしなくてはいけないわけですが、この要件に関する疎明の方法はもちろん事案ごとにございますので一概に申し上げることは困難でございますが、一般的には、この傍受令状の請求する事件の具体的事情に即しまして、その当該事件の被疑事実の内容や、それに関与していると疑われる被疑者、そしてその被疑者らの行動、またそれらの者の相互間、相互連絡の方法、状況、これらにつきまして、それらの事情を明らかにします別の者の供述調書、あるいはその通話状況、通話の発信履歴等の通話状況に関する捜査報告書、こういったことなどを裁判官に提出することによりまして、この犯罪関連通信が行われる蓋然性が合理的な根拠を持って認められることを疎明することになると考えられます。

○仁比聡平君 いや、よく分からないですよね。そうした疎明によって、先ほど確認しているような組織犯罪というものを裁判所が審査をすると。その疑いを審査するというのはよく分からない。

前提としての組織性の要件をちょっと先に聞いておこうと思いますけれども、資料に組織的犯罪処罰法の団体性、組織性の要件と呼ばれている規定の一部をちょっと抜粋して掲げました。六枚目なんですが、暴力団を典型とした組織犯罪を刑法上、法定刑を加重するという規定としてこの法律の三条一項あるいは二項があります。

御覧いただきますように、ここに言う団体というのは、団体の意思決定に基づく行為であってその効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するもの、そうした団体の活動として当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときに刑を加重すると。これ、法律家ではなくても、この文言というのは暴力団を典型的なものとして規定をしているのであろうなと思われると思うんですよね。

二項は、同じように加重する要件として、不正権益というのを挙げています。これは、いわゆる暴力団において言えば縄張やシマと言われるものですよね。団体の威力に基づく一定の地域又は分野における支配力であって、当該団体の構成員による犯罪その他の不正な行為により当該団体又はその構成員が継続的に利益を得ることを容易にすべきものというような不正権益を得させ、維持し、拡大する目的で罪を犯した者というふうになっているわけで、こうした団体の規定というのが組織的犯罪処罰法においてはあるわけです。

こうした犯罪に限定をするんだと、先ほどの四類型に限定をするんだというその確認というのはそういうふうにも聞こえるんだけれども、実はこの組犯法に言うような要件というのはこの改定案には一切出てこないわけですよね。

これ、局長、この組犯法の三条の一項だけでいいですが、この団体の意思決定に基づく行為とか、実行するための組織により行われる罪とか、これ、どういう意味なんですか。

○政府参考人(林眞琴君) この組織的犯罪処罰法第三条、例えば第一項の団体の活動として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたとき、こういった要件がございます。これは、委員も御指摘にあったように、刑を加重するための要件でございます。そういった意味で、通信傍受の実施要件とは異なる趣旨で設けられたものでございます。

その上で、例えばこの要件を満たすためには、団体となりますと、これが共同の目的を有する多数人の継続的結合体がまず存在すること、その内部に組織というものがある、そしてその組織が指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体が存在すること、こういった要件がございます。さらに、その団体の目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織によって反復して行われる、こういった要件が満たされなければ組織的犯罪処罰法第三条第一項の団体の活動として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときということの要件は満たさないということになります。

一方で言えば、ここまで様々証拠を収集して最終的にこの要件を満たすことができるならば、この組織的犯罪処罰法によって、ある一定の類型の犯罪の刑が加重されるという関係になるわけでございます。

○仁比聡平君 今のような組犯法の団体についても、これが広域暴力団などに限られずに、つまり犯罪集団に限定されずに、労働組合や広く市民団体、あるいは政党も例外ではないのではないかということがずっと問題になり続けてきました。ところが、今度の改正案は、こうした組犯法の規定どころか、先ほど来言われている組織性の要件、これはその条文の三条の一項一号の最後の行からありますが、当該罪に当たる行為が、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものという要件で絞られるというふうに大臣も政府も言い続けてきて、ところが、この組織性の要件というのは、数人共謀で、現場での示し合わせる現場共謀は入らないけれども、あらかじめ役割を分担するものであれば二人でもそれは含まれると言っているわけですね。広域暴力団のような団体性あるいは継続性というのは必要ないというふうにおっしゃっているわけです。

となると、ここに含まれるのは、つまり盗聴の対象とされるのは組織的犯罪集団に限られない。捜査機関が容疑があると判断すれば、そして裁判所が令状を出しさえすれば市民団体でも対象となるのではないかと、そうした指摘が出てくるのは、これ私当然だと思うんですね。これ、市民団体でも同じことになっちゃうんでしょうか。

○政府参考人(林眞琴君) 先ほども申し上げましたこの組織的犯罪処罰法の定義というものは、ある犯罪事象につきまして刑を加重するための要件でございます。この要件として、この組織的犯罪処罰法におきましては、こういった要件を満たす場合には法定刑が加重されると、このような枠組みで組織犯罪に対処しようとしたものでございます。

今回の通信傍受法の中でのこの対象犯罪の追加に当たって組織性の要件をどのように組み入れるかということについては、当然この組織的犯罪処罰法の規定も一方で頭に入れながら、最終的には、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものという要件を追加する組織性の要件として掲げたものでございます。この部分につきましては、組織的犯罪処罰法の規定と重なっている部分があるわけでございますが、他方で、継続的結合体であるという要件までは今回通信傍受の要件としては入れておりません。したがいまして、臨時的に形成されたものであっても足りるということになっております。

また、組織によりというものが、指揮命令に基づきというものが組織的犯罪処罰法の要件でございましたが、これにつきましては、その役割を分担して行った行動が上意下達型の指揮命令に基づくものまでは要求しておりません。そういった意味で、この刑を加重する要件としての組織的犯罪処罰法の要件というものの中で、これをそのまま今回通信傍受の対象犯罪の拡大に当たっての組織性の要件に取り入れているのではなくて、今回は、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動するという点の要件を今回取り入れたわけでございます。

その上で、組織的な犯罪に限定する要素といたしましては、やはり令状発付要件、これが厳格であること、このことから、結果として、令状発付がされる犯罪につきましては組織犯罪に限定されるということになると考えております。

○仁比聡平君 大臣、恐ろしい話だと思いませんか。

大臣は先ほど、限定した対象犯罪というのは、つまりさっきの四類型だとおっしゃったでしょう。ところが、大臣がその根拠の一つとして挙げておられる組織性の要件というのは、今局長が答弁をされているような性格のものだというわけでしょう。つまり、臨時的に集まった複数の者であればいいと、暴力団のように組長なり黒幕が上意下達で命じ実行させるような組織じゃなくていいと。ということになると、平たいネットワークであっても、複数人が共謀したと疑われてしまったら盗聴の対象にされるということになるじゃありませんか。

だから、二十六日の参考人質疑で渕野参考人は、この要件は、指揮命令系統の存在及び結合体の継続性を求めていないなどの点で、適用を限定する効果をほとんど持たないというふうに言わざるを得ません、詐欺や窃盗など必ずしも組織犯罪とは関わりのない、通常の市民が日常生活を送る中でうっかり関わってしまう可能性のある犯罪が含まれており、現行の通信傍受法と比べて飛躍的にプライバシー侵害の可能性が高まりますと、そう指摘をしているわけですが、大臣は先ほどの四類型に限定されているとおっしゃっている。けれども、要件はそうなっていないし、厳しいこうした指摘がある。これにどうお答えになるんですか。

○国務大臣(岩城光英君) 本法律案の新たに対象犯罪に追加される罪につきましては、当該罪に当たる行為があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものとの加重要件を設けていることは先ほども申し上げたとおりであります。

これは、御指摘のとおり、指揮命令系統が存在することや継続的結合体であることを要件とするものではないものの、この加重要件によって、現行通信傍受法の数人共謀の要件を満たしたとしましても役割の分担がなされないままに行われたと認められる場合、役割の分担はなされたもののそれが犯行時に定められたものであった場合などについては通信傍受を実施することができないこととなります。

したがいまして、新たに追加する対象犯罪について通信傍受を行うことができる事件の範囲は、他の要件とも相まって十分に限定されることになると考えております。

○仁比聡平君 いや、甘いですよ、大臣。だって、何人かが集まって、こういう別表二に記載する犯罪が語られただろうというふうに捜査機関が、警察が疑えば、何らかの証拠で令状が出るかもしれない、出ちゃうかもしれない。それが限定されていると本当に言えるのか。

しかも、補充性の要件については後で聞きますが、この組織性の要件を今のようなものにした理由について、昨年の三月二十六日のこの委員会で私の質問に林局長は、組織的な犯罪の形態は多様であって、組犯法のような要件を満たさないものも多くて、本来通信傍受によって事案の解明を図ってしかるべき対象が除外されてしまうことになって相当ではない、また、令状を請求したときに組犯法のような要件を疎明するということになると、これは構成員相互のやり取りを明らかにする必要性が極めて高いけれども、通信傍受を実施しようとする時点においてあらかじめ収集するということは実際上不可能に近いから、組織性の要件というのはそんなに厳しくできないという趣旨の答弁をされたと私は理解しているんですが、つまり捜査の必要を強調しているだけなんですよね。

通信傍受の必要がある、これまでの現行法では使い勝手が悪い、だから組織性の要件はこういうようなものにするというだけでは、これは国民のプライバシーは本当に裸にされてしまうじゃありませんか。対象犯罪の要件として、一般の窃盗あるいは一般の詐欺というのも含まれ得る規定になってしまっている。これが、大臣が、いや、限定されている、四類型に限定されているとおっしゃるんだったらば、その限定されている法的な根拠をきちんと示すべきなんじゃありませんか。

○国務大臣(岩城光英君) 新たに対象犯罪に追加される罪についても、捜査機関が通信傍受を行うためには裁判官が発付する傍受令状が必要であります。この傍受令状は、その罪が犯されたと疑う十分な理由があること、他の捜査方法では犯人を特定することが著しく困難であることなど、先ほど来述べてまいりました厳格な要件を満たしていると裁判官が認めた場合に発付されるものであります。

また、新たに追加される罪につきましては、現行法の厳格な要件に加えまして一定の組織性の要件を課し、それをも満たす場合でなければ傍受令状が発付されないこととしております。その際、裁判官は、犯罪関連通信に用いられる疑いがある通信手段を電話番号等によって特定し、傍受令状を発付することとされております。

そういったことから、御指摘のような犯罪に当たると疑われる行為が発生した場合であっても、罪が犯されたと疑う十分な理由があるか否かを含め、ただいま述べました厳しい要件につき裁判官による厳格な審査を受ける必要がありますので、これを満たすとして傍受令状が発付されることは通常考えられません。

したがいまして、対象犯罪として追加されたとしましても、これによって市民団体等の適法な活動においてなされる通信、これが傍受されることは考えられないものと思っております。

○仁比聡平君 私は、これまでの議論では、厳格な要件と、大臣がおっしゃるような厳格な要件には到底理解ができないんですよ。厳格な要件で縛っているんだと、捜査機関の通信傍受令状の請求は許されないし、裁判官はそれを却下しなきゃいけないんだとおっしゃるのであれば、その法的な根拠を明確にするべきですよ。

その下で、これまで何度か出てきている補充性の要件についてお尋ねをします。

補充性の要件というのは、三条の「かつ、」の後にある「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難である」ことだと思うんですが、これは、林局長、この補充性が認められるかどうかというのは、どんなふうにしてこれ、つまりこの定義の意味ですよね、他の方法によっては著しく困難と。これ、捜査機関が例えば張り込みをしました、尾行をしました、参考人を調べました、けれども分かりません、だから著しく困難ですと捜査報告書を出して疎明すれば、主張すれば、そうしたら、一体どう裁判官は、いや、違うでしょうという議論をすることになるんですか。

法案提案者として、どんな場合に限定されるというふうにおっしゃっているのか、どんな場合は否定されるということなのか、その状況はどう疎明されるというのか、どんなお考えなんでしょうか。

○政府参考人(林眞琴君) この補充性の要件、他の方法によっては犯人を特定し又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であると、このことを捜査機関、令状を請求する側としては疎明しなくてはならないわけでございます。したがいまして、まずは、一般的に言えば、これまでに行った捜査経過、こういったものを全て明らかにした上で、それでもなお犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにするには至っていないと、このように捜査機関が考えられる理由、また、通信傍受以外の捜査方法を今後捜査継続したとしても、犯人を特定したり、その犯行状況若しくは内容を明らかにするには至らないと考えられる理由、こういったことを具体的に事情に即して明らかにしていかなければ令状が出ないということになります。

例えば、暴力団による組織的な拳銃の発砲事件におきまして、実行犯を逮捕して捜査を行う中で、防犯カメラ映像でありますとか実行犯の使用する携帯電話に関する捜査から、この組織の関与であるとか、また、現在もその使用した拳銃が組織において保管されていることがうかがわれるものの、実行犯を含めて本件に関わっていると考えられる人物が供述を拒否していたりあるいは曖昧な供述に終始するなどの状況があって、他の捜査を継続しても、首謀者等の共犯者、あるいは犯行の状況、あるいはその拳銃の保管状況、こういったものの特定に至る可能性が乏しい場合、こういったことについては、やはりそれまでに捜査によってどのような証拠物が得られているのか、また、どのようなものが供述調書として存在するのか、あるいは、これまでの捜査機関における捜査経過を全て明らかにする捜査報告書、こういったことを裁判官に提出することによって初めてこの補充性要件を疎明することができるということになると考えております。

○仁比聡平君 今のようにおっしゃるけれども、それが本当に大臣のおっしゃるような限定の要件として、言ってみれば、対象犯罪は一般の犯罪が対象になっている。組織性の要件というのは数人が共謀すれば足ることになっているということになると補充性の要件しかないんだけれども、補充性の要件というのも今のようなお話だということになると、これ本当に大臣が言うような場合に限定してしか令状が出されないようになるんだというためには、私は、これはその対象とされる被疑者あるいはその関係者がこの令状そのものを争うということができなければ、その個別の事件についても、それからその後の令状発付についても適正たり得ないと思うんですね。

ところが、小川議員が繰り返し議論をしてこられたとおり、盗聴というのは盗み聞きですから、相手に伝えたら、盗聴の対象者に伝えたら意味がないわけですから、捜査機関にとっては。だから密行するわけでしょう。令状請求はひそかに行われ、裁判官はひそかに令状を発付し、ひそかに通信が傍受をされ始めるわけですよ。それが終わっても、犯罪関連通信が傍受記録に記載をされるということがなければ、通知もされないわけですよ。という下で、誰も知らない間に膨大なプライバシー侵害が行われ得るという仕組みになっていて、現行法の二十六条に不服申立ての規定がありますが、それが働くことは、それは本当に、言ってみれば、逆にまれなケースかもしれない。

これ一般的に、同僚議員の皆さんはお分かりだと思いますが、物を差し押さえるとき、これはガサを入れるわけですね。これは捜索差押許可状というものを裁判所が発付して行われますが、これ昼間にしかやっちゃいけない。で、立会人を求めなきゃいけない。もちろん令状は示さなければなりません。だから、少なくとも被疑者、関係者にとってみれば、その捜索差押えが行われたということは明々白々の事実であり、これが不当だと考えれば断固として争うことができるわけです。その権利があるわけです。

ところが、通信傍受は元々本質上そうなっていない。その対象犯罪を、極めて緩やかな組織性という要件で一般の日常的と言われる犯罪に対象犯罪を広げてしまえば、これは関わる市民のプライバシー侵害というのは極めて膨大なものになる。ここで犯罪に関連のない情報もどんどんどんどん警察に蓄積されていくということになる。私は、そういう懸念が指摘されていると思うんですよ。

大臣、仁比の言うようにはならない、私が言うようにはならないという根拠を是非示していただけませんか。

○国務大臣(岩城光英君) 重ねてのお答えになりますけれども、新たに対象犯罪に追加される罪については、これまで同様に、捜査機関が通信傍受を行うためには裁判官が発付する傍受令状が必要でありまして、その傍受令状は、その罪が犯されたと疑う十分な理由があること、他の捜査方法では犯人を特定することが著しく困難であることなど厳格な要件を満たしていると裁判官が認めた場合にのみ発付されるものであります。

そして、新たに追加される罪については、現行法の厳格な要件に加えて一定の組織性の要件を課し、それも満たす場合でなければ傍受令状が発付されないものとしております。ですから、そういったことで、委員のような御指摘は当たらないものと考えております。

○仁比聡平君 大臣、繰り返しの御答弁しかお立場上できないのかもしれないんだけれども、本当にそれで限定されますか。

今の補充性の要件の後のところに、第三条の一項に、どんな通信手段を傍受の対象とするのかという定義があります。ここには、被疑者が契約して使用している電話ではないものも対象になるんですね。犯人による犯罪関連通信に用いられると疑うに足りるものというものも傍受できるようになっています。

例えば、ちょっと誰か、よその人を例に挙げると失礼に当たるので、例えば私がこの対象犯罪を犯していると警察が疑ったとします。私がその犯罪関連通信を自分の携帯電話ではなくて私の秘書の携帯電話で行うであろうというふうに警察が判断をし、裁判所にこの令状請求をして、私も私の秘書も知らない間に私の秘書の携帯電話が常時通信傍受をされると、これもあり得るわけですか、局長。

○政府参考人(林眞琴君) この委員御指摘の事例というものが少し理解できておりませんが、いずれにしても、犯罪関連通信に用いられると疑うに足りるということにつきましては、犯罪関連通信がそこで行われる蓋然性があることを肯定できる客観的な、また合理的な根拠を裁判官に対して疎明しなくてはならない、そのように考えております。

○仁比聡平君 否定されないですよね。

つまり、私が契約している携帯電話あるいは固定電話だけではなくて、私と密接でもいいし社会的に一体でもいいけれども、そうした疑いを捜査機関が持てば、私にも、私の秘書にももちろん通知はなく、ひそかに私の秘書の電話を傍受するということがこれあり得るということか、あり得ない場合はどんな場合なのかということを聞いているんです。

○政府参考人(林眞琴君) 一つは、まず犯人が、被疑者が通信事業者等の間で契約に基づいて使用しているもの、これについては通信手段としてまず特定が可能でございますが、そうでないものにつきましては、犯人による犯罪関連通信に用いられると疑うに足りるということを疎明しなくてはなりません。ここでは、ですから、当該通信手段が、まず犯罪関連通信が行われるということだけでは足りませんで、それが犯人による犯罪関連通信に用いられると、こういったことが、これに疑うに足りるということを疎明しなくてはならないわけでございます。

そうしますと、一般的にはその疎明の方法といたしましては、その当該事件の被疑事実の内容やそれに関与していると疑われる被疑者らの行動あるいはそれらの者の間の相互連絡の方法、状況につきまして、それまでに既に捜査を遂げて、その中ででき上がりました供述調書でありますとかその通信手段についての通話状況、通信履歴、こういったものの状況を捜査を遂げた上で疎明資料を作ってから、それでなければ裁判官に対して、当該通信手段を用いてその犯人による犯罪関連通信が行われる蓋然性というものを合理的な根拠を持って疎明することはできないと考えております。

○仁比聡平君 ということになると、今おっしゃっているようなことで厳格に行われるとおっしゃりたいんでしょうけれども、私に対象犯罪の疑いを掛ければ、私が例えば秘書の携帯電話を使っていないかどうか、そこで犯罪関連通信を行っているという疎明ができないかどうかを通信履歴などを不正に、不正にというかひそかに取得して、その令状請求の検討をするみたいな、そんな話にもなりかねない。

これ、私がというふうに言っているから警察庁も含めて首かしげていますけど、だけど、捜査手法としてはそういう段取りですよ。恐ろしくありませんか。

私は、そういう盗聴という捜査手法が日常的な犯罪に対する一般的な捜査手法になりかねない、さらには、国家が敵視する市民あるいは市民運動に対する監視手段に濫用されかねないという危険性というのは、これまでの議論の中でも私、払拭されないと思いますよ。

そうした下で、蓄積されるプライバシー、情報がどのように利用されるのか、され得るのかということについて、これまでの質疑の中でも少し出ていますけれども、ちょっと確認をさせてもらいたいと思うんです。

通信傍受を行って、この中で捜査機関が情報を得ますよね。この情報をこのように使わなければならないという利用の仕方についての法の規定というのは、林局長、あるんでしょうか。

○政府参考人(林眞琴君) 通信傍受法につきましては、まず現行の二十二条第一項で傍受記録を作成すると。これは、傍受の実施を中断し又は終了したときは、その都度、傍受記録を作成するということになっております。その後の捜査や公判手続においては、この傍受記録が使用されることとなります。

一方で、この傍受記録に載っていないものにつきましては、これを、傍受記録に記録されたもの以外のものにつきましては、現行の通信傍受法二十二条第五項におきまして、その内容を他人に知らせ、又は使用してはならない旨規定をしております。

このような形で、通信傍受によって得た情報については通信傍受法により使用の規定が置かれております。

○仁比聡平君 そのような使用の規定が置かれているというふうにおっしゃるけれども、実際に得た情報を警察の活動あるいは捜査活動に使うということは、いろんな場合が想定できるわけですね。つまり、裁判の有罪証拠に使う場合以外の場合。

例えば、渕野参考人は、取調べにおいて通信傍受で傍受した内容を、こういうふうにおまえ、もうしゃべっているじゃないか、だからもうここで自白してしまえというふうに、取調べで当てて自白を迫るというような手法も生み出しかねないのではないかというふうに危惧を表明をされましたが、通信傍受で得た情報を取調べで、これ被疑者に対しても参考人に対してもあり得ると思いますが、司法取引の場合だってあると思いますが、これを当てて確認をする、聞くというのは、これ、あり得るでしょう。

○政府参考人(林眞琴君) まず傍受記録、先ほど、法律が定め、作成すると決めております傍受記録につきましては、これ自体は傍受した通信の内容を刑事手続において使用するために作成される記録でございまして、令状に基づき適法な手続により得られた証拠でございます。したがいまして、この証拠につきまして、例えば捜査官が取調べ等において必要に応じて傍受記録の内容を被疑者等に告げるということは当然に許されるものと考えております。

他方で、この傍受記録に記録されていない通信につきましては、これにつきましては、先ほども申し上げましたが、その内容を他人に知らせ、又は使用してはならないと規定しております。したがいまして、捜査官は、この傍受をした通信のうち傍受記録に記録されていない通信の内容を被疑者の取調べ等において告げて使用するというようなことは許されないものでございます。

○仁比聡平君 では、後者の方をちょっと先に確認しますが、許されないとおっしゃるけれども、許されないことをしたら一体どんな制裁があるんですか。

○政府参考人(林眞琴君) この点につきましては、現行の通信傍受法三十条におきましては、捜査官がその職務に関し通信の秘密を侵したとき、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する旨を規定しております。また、こういった罪について告訴、告発をした者が検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、刑事訴訟法二百六十二条第一項の付審判請求をすることができる旨を定めております。

先ほど罰金について十万円と言いましたが、百万円以下の罰金となっております。

もとより、こういった通信傍受法に違反している行為は違法でございますので、当然懲戒処分の対象ともなるということでございます。

○仁比聡平君 部分録画の問題で、あるいは違法な取調べを行った捜査官が懲戒された例が一体どれだけあるというのかと申し上げてきましたけれども、今の局長の答弁、もう本当に極めて空虚ですよ。そんなおっしゃるんだったら、実際に違法な捜査を行ってきた警察官を全て処分をしてからおっしゃいなさいと申し上げたいと思うんですが、そういう制裁しかない。

実際、密室の取調べで、録音、録画も行わずに、そうやって通信傍受で得た情報を当てて自白を迫るということをされたときに心を折られてしまうという、そうした事例は数々あるということを浜田参考人もこの場でお話しになられました。そういう使われ方があるということなんですよ。加えて、通信傍受で得た情報を疎明資料にして、例えばその犯罪を立証するためのブツがあるのではないかというところのガサ入れをやる令状を取る、あるいは逮捕状を取る、こういう令状請求の資料に使うということも、これできるでしょう。

○政府参考人(林眞琴君) 一般に正当な強制処分により適式に得られた証拠を他の事件において正当な捜査・公判活動に用いることは許されていると解されております。ゆえに、通信傍受法の傍受令状により傍受した通信の内容を記録した傍受記録につきましても同様でございまして、この通信の傍受記録に記録された通信の内容を傍受令状が発付された事件以外の事件の捜査における令状請求の際に用いることも許されることとなります。

他方で、先ほども申し上げましたが、この傍受記録に記録されていないこと、これについて、その通信の内容については使用が禁止されておりますので、そのようなことで、傍受令状の請求に当たって記録されていないものを使うということは当然違法ということになります。

○仁比聡平君 実際、これまでの現行法も根本的には同じ問題があるんだけれども、けれども、対象犯罪が限定され、立会いが行われる、必要とされるということで、警察にとって使い勝手が極めて悪かった。ところが、これを対象犯罪を窃盗や詐欺も含めた一般的なものにまで拡大すれば、ここに関わる犯罪と関係のない市民というのは莫大に増えるわけです。そこで取り交わされる通信というのは膨大な量になるわけです。しかも、スポット傍受だ、それから犯罪関連通信だと判断したといって行われて得られる傍受というのは、これは極めて膨大な情報量になるわけですよね。

今度は、立会いをなくして伝送してもらって、警察署においていながらに、誰の目もない、第三者の目も一切ない、言わば第三者の目によって監視されることのない盗聴の実施、これが警察による秘密処分と言うべきそうした手法が日常化するのではないのかという、それが今度の大改悪の中身なのではないでしょうか。

前回、四月の二十一日の質疑で、私の質問に警察庁三浦局長が、傍受をする場面において、犯罪関連通信等を傍受しそれを記録していくという、こういう作業を行いますので、当然その過程で様々なメモでありますとか、そういったものが作られるということはあるのだろうというふうに思いますというふうに御答弁になりました。これは捜査報告書などを作っていく上でも、傍受をして、その音が消えてしまった、聞きっ放しでしたというわけにいかないわけだから、警察官、取調べ官としてはちゃんとメモを作りますというふうにおっしゃっているわけですけれども、これ、メールを傍受するその該当性判断のときも同じようにやるわけですかね。

○政府参考人(三浦正充君) 基本的には、通話を傍受する場合又はメールを傍受する場合、手続としては同様でございまして、例えば傍受日誌でありますとかあるいは通信傍受法の定める傍受実施状況書、こういったものについては作成をしていくということになります。また、傍受記録を作成するためのメモでありますとか、そういったものも作成をすることがあろうかと思いますけれども、傍受記録作成をした際には、その通信の内容に係る部分につきましては、その犯罪関連通信に該当しないようなものなどにつきましては全て消去をする、全て廃棄をすると、このような定めとなっております。

○仁比聡平君 廃棄をするとか、それから新しい方式で消去をするとか言いますけど、スポット傍受も含めて、聞いたことを皆さん忘れますか。追いかけている重大な容疑者ですよ。それが、その関係者とこういう通話をしていた、こういう人間関係だったのかということを初めてそこで得たと、これは重要だと判断をしたことを、仮にそれ自体が犯罪関連通信でなかったとしても忘れますか、忘れませんよ。忘れるようなら捜査官として失格でしょう。

実際、メモも含めてそうやって蓄積されていく情報がどんなふうに使われるか。お手元の資料の最後のページに、今や憲法の議論の中で極めて重要な判決として伝えられている堀越事件という事件の簡潔に分かる記事を付けました。

最高裁判決で、国家公務員法違反だと疑われたこの堀越さんが無罪という判決を受けた事件ですが、私が今日、国家公安委員長にお尋ねをしたいのは、この堀越さんを長くにわたって尾行し、四六時中そのプライバシーを暴き続けた、それもひそかに、この警察の手法です。

その記事にあるように、少なくとも二〇〇三年の十月から十一月にかけて、二十九日間で延べ百七十一人の警察が堀越さんを尾行し、ビデオ五台から六台、ワゴン車三台から四台、こういうものを使って、実に十か月にわたって尾行と張り込みを続けるわけですね。私の手元に、これ、裁判上明らかになった警察の行動確認記録がありますけれども、これを見ても、もう二十四時間、堀越さんの行動をずっと分刻みで書き込んでいるわけですよね。

その雑誌にあるように、自宅から出勤する堀越さんを待ち伏せ、登庁から退庁までを確認し、そば屋で食事したこと、観劇したこと、東京駅で百三十円の切符を買ったこと、冷凍食品を買って自宅に戻ったこと、果ては女性と手をつないでいたことまで分刻みに克明に記録していた。監視されていなかったのは自宅内にいるときだけだった。国家公務員法違反だというなら、公務の中立性が害されたということを捜査するのならという意見もあるかもしれないが、警察はその部分には全く関心を示さずに、専ら私生活を追いかけている。ここまで市民のプライバシーを暴く必要はどこにあったのかと記事は書いていますけれども、そうした捜査の挙げ句、堀越さんは無罪なんですよ。

ところが、この捜査手法、これはテレビの特集番組でもその盗撮ビデオが再現をされるなど、大きな大問題、社会問題になりましたが、なお何の反省もない、謝罪もない。これ、河野国家公安委員長、こういう捜査手法、これ大臣も何の反省もないんですか。

○国務大臣(河野太郎君) 今御指摘のありました事件は、厚生労働事務次官が国家公務員に禁じられた政治的行為をしたとして、国家公務員法違反により逮捕、起訴されたものであります。平成二十四年十二月七日、最高裁判所において、被告人が管理職的地位になかったことなどから構成要件該当性が認められず、無罪判決が下されたものと承知をしております。本件の公判では、警察の捜査が違法と判断されたものではないというふうに承知をしております。

捜査が適正に行われることは当然のことであり、警察がきちんと適正に捜査をするよう今後とも指導してまいりたいと思います。

○仁比聡平君 最高裁判決が直接その捜査の違法を弾劾したものではないというのは、そのとおりかもしれません。大臣が私のこの趣旨の質問、つまり警察によるこんな卑劣な捜査が許されるのかと問うている質問に対して、違法と断罪されたものではありませんという御答弁をされるということは、つまり、このような捜査というのが行われる、こういうことは何の問題もないと、そうおっしゃりたいんですか。

○国務大臣(河野太郎君) 済みません。先ほど厚生労働事務次官と言ったようですが、厚生労働事務官でございました。

警察の捜査は法にのっとって適切に行われなければならないというのは言うまでもないことでございまして、今後ともそのように法にのっとって捜査が行われるように警察を指導してまいります。

○仁比聡平君 先ほど小川議員も指摘をされました我が党当時国際部長の緒方靖夫さんのおうちの盗聴事件にしろ、せんだって国家公安委員長に尋ねた北海道警の平成の刀狩り事件に関しての大問題にしろ、どれだけ卑劣で違法なそういう捜査が暴露をされても、事実も認めない、反省もしない、謝罪もしないというのが権力犯罪を繰り返してきた日本の警察の現実じゃないですか。そうした警察に、先ほど確認をしてきたような極めて緩い要件でこんな盗聴の拡大というような手段を与えることが、大臣、どうして刑事司法改革なんですか。

大臣に最後お尋ねしたいのは、この刑事司法改革の出発点、原点というのは何だったのかということです。村木事件を始めとして冤罪が繰り返されてきた、それも検察や警察のこの権力犯罪がそういう冤罪を生み出してきた、これをなくすんだというための出発点というのが今回の改正なんじゃないですか。その濫用が国民的に弾劾をされてきた捜査機関に、この通信傍受を始めとして、ひそかに、知らせずにプライバシーを根こそぎ持っていくような、そういう捜査手段を与えるということが何で刑事司法改革なのか。私はこの出発点をすり替えるものにほかならないと思うんですが、大臣はいかがですか。

○国務大臣(河野太郎君) 冤罪はあってはならないことでございますし、警察を始めとする捜査が法にのっとって適正に行われなければならないというのは言うまでもないことでございます。

通信傍受法は極めて厳格な要件、手続を定めているもので、平成十二年八月の施行以来、傍受令状の請求が認められなかった例はほとんどなく、裁判で違法な傍受が行われたと判断された事例もございません。

警察は今後とも法にのっとり適切に捜査するようしっかりと指導してまいります。

○仁比聡平君 今の河野国家公安委員長の答弁で令状が認められなかった例はほとんどないとおっしゃっているのは、つまり裁判官による令状審査は機能していないということです。被疑者、関係者の異議申立てを認め、徹底して争う中で、その令状発付が間違っていたではないかと弾劾が尽くされて初めてその運用というのが適正だったと大臣、河野さん、言えるんだと思いますよ。そういう仕組みじゃないんですから。

最後に、岩城大臣に改めて伺いたい。刑事司法改革の原点というのは、捜査機関のそうした権力犯罪、濫用を警戒するために、冤罪をなくすために行うという出発点だったんじゃないのか。これ盗聴を、これ部分録画の対象犯罪とも全然関係ないですからね、一般的な手法にする、逆行じゃありませんか。

○国務大臣(岩城光英君) 厚生労働省元局長無罪事件及びこれに関する一連の事態が発生したことを受けまして、法務大臣の下に設けられた検察の在り方検討会議の提言や法制審議会の諮問でも指摘されているとおり、現在の捜査、公判は取調べ及び供述調書に過度に依存した状況にあると考えられます。そして、このような状況は、取調べにおける手続の適正確保が不十分となったり事実認定を誤らせるおそれがあると考えられます。

この法律案は、このような状況を改め、より適切な証拠によってより適正に事実認定がなされる刑事司法とするため、まず、捜査段階で、取調べのみに頼らずに、取調べを含む捜査の適正を確保しつつ、取調べ以外の適正な捜査手法を整備する、すなわち証拠収集手段を適正化、多様化するとともに、公判段階では、必要な証拠ができる限り直接的に顕出され、それについて当事者間で攻撃防御を十分に尽くすことができるようにする、すなわち公判審理を充実化するものであります。

この法律案における通信傍受法の改正は、暴力団による殺傷事犯や特殊詐欺などの組織的な犯罪について、手続の適正を確保しつつ、犯罪の全容を解明するための直接的かつ客観的な証拠を機動的かつ効率的に収集することを可能とするものでありまして、取調べ以外の適正な捜査手法を整備するものであります。したがいまして、通信傍受法の改正等、本法律案における他の法整備と相まって誤判等の防止にかなうものであると、そのように考えております。

○委員長(魚住裕一郎君) 仁比君、時間です。おまとめください。

○仁比聡平君 公判を適正化するどころか、ひそかな盗み聞きあるいは司法取引による密告、部分録画とその実質証拠としての利用によって冤罪を逆に生み出すという大きな問題がこの審議を通じて私は浮き彫りになってきていると思います。それを防ぐ法律上の根拠というのも今日も明らかにされない。

私は、徹底してこの法案の問題点について更に審議を尽くしていくべきだということを強く主張して、今日は質問を終わります。