○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、ヘイトスピーチ根絶に関するいわゆる野党案の質疑を突如終局し、直ちに採決に進もうとするこの委員会運営に強く反対の意見を表明するものです。

我が党は、民族差別をあおるヘイトスピーチを根絶するために、立法措置を含めて政治が断固たる立場に立つことを求め、社会的包囲で孤立させる運動の発展に努力するとともに、立法措置の在り方については、国民の間に様々な意見がある中で、国会内外で大いに議論を尽くすことを通じた合意形成を大切にして審議に臨んできました。

とりわけ、昨年八月の野党案の実質審議入り以降、今年三月に実現した参考人質疑、続けて行った川崎市桜本の現地視察など、当委員会の取組に当事者と国民の強い関心が寄せられてきましたが、ここにはヘイトスピーチ根絶の実りを上げるという国会の重い政治的責任が示されています。四月、いわゆる与党案が提出されたのは、何よりヘイトスピーチによる被害の深刻さと根絶を求める当事者と国民の声に与党も対応を迫られたからにほかなりません。

今求められているのは、ヘイトスピーチ根絶への一歩前進を実らせるために、より良い法案に向けた協議を尽くし、できる限り全会一致で成立させることであり、野党案の採決に臨むなら、改めて野党案に対する十分な質疑と野党案をたたき台にした協議を行うべきであります。

野党案に対しては、ヘイトスピーチ規制への期待が寄せられる一方で、ヘイト根絶を求める市民、学者からも、禁止される不当な差別的言動について、嫌がらせ、迷惑を覚えさせるなどの定義の不明確さ、それが行政による差別の防止施策と相まって濫用される危険はないのかなどの疑問が示されてきました。

どのような行為がなぜ許されないか、ヘイトスピーチの焦点を十分に議論し、定義として明確にすることが根絶の大きな力になるとともに、恣意的な解釈による濫用のおそれをなくすために重要です。その重要性については、昨年八月六日の私の質問に小川発議者が、そのとおりと答弁された上で、例えば不特定の者に対しての表現禁止など、法案作成の苦労話を語られたとおりです。

この間の修正協議は、与党案をたたき台に、民進党と我が党の修正要求について附帯決議を含めできる限り全会派が一致できるよう行われてきました。野党案をたたき台にした協議は一切行われておらず、この間の修正協議を踏まえたとき、野党案の意味内容がどのようになるのか、その立法者意思は明確ではありません。にもかかわらず、昨日まで全く提案もされていなかった野党案の質疑終局、採決を強引に行うことは、政党間の信頼関係にも禍根を残すものです。

以上の理由から、野党案の質疑終局には強く反対し、このまま採決に進むこととなれば、賛否を表明する前提を欠いている以上、残念ながら棄権せざるを得ません。

改めて、できる限り全会一致で実りを上げるために必要な協議を求めて、意見の表明といたします。

 

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

今、有田議員からお二人の思いが紹介をされたように、ヘイトスピーチによる被害の深刻さと、当事者そして支援の皆さんの身を振り絞るようなヘイトスピーチ根絶をという声につき動かされてきたこの私たち参議院法務委員会の取組が、今日一つの節目を迎えようとしているわけです。

そこで、与党案について最後に確認をさせていただきたい二つの点、先ほどの有田議員の質問にも重なりますけれども、まず第一は、在日米軍のありようを批判する人々が米軍は日本から出ていけなどの声を上げる言動、これは、私が読む限り、本法案の前文の趣旨に照らしても、また法案二条に言う「本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」と、この定義にも当たり得ないと考えるわけですけれども、実際には、先ほども御紹介のあった与党議員の発信などもあり、四月二十五日の沖縄タイムスの社説においても、与党の法案にその意図が隠されているのであれば、憲法で保障された表現の自由に基づき米軍基地問題で住民らが米軍は沖縄から出ていけなどと叫べばヘイトスピーチとされるおそれがある、国会審議でただされなければならない重要な点だと指摘をされているわけですね。

この問題について、自民党、公明党両発議者にきっちりとした御見解を伺いたいと思います。

○西田昌司君 先ほどもお答えしましたけれども、そもそもヘイトスピーチを抑制するこの法案、我々の法案の中に、米軍の問題というのが立法事実として初めから含まれておりません。そして、なおかつ、この文章を読んでいただいても分かりますけれども、そもそも適法に居住する方々を排除するという目的でやっているわけでありまして、米軍というアメリカの軍隊、そういう機関、そういうことは元々この中には入っておりません。

さらに、具体的なその中身を見ないと分かりませんけれども、いわゆる沖縄の基地などの前でされている活動というのは、これは政治的なそれぞれの活動であると、政治的な政策であったり、その政策に対する批判であったりだと思います。当然、そういうことは憲法上許される表現の自由の一番大事なところでありますから、我々自身がこの法案を作るときに一番気を付けたのは、まさにそうした様々な自由、表現の自由、それから思想、信条の自由、そうしたものが制約を受けない、その受けない中でどうやって実際に行われているヘイト事例を排除していくかということに腐心をしたわけでございます。

したがいまして、仁比議員が御質問されましたそういういわゆる米軍に対する排撃というのは元々入っておりませんし、政治的なそういう活動に対してこの法律が使われることもあり得ないという認識であります。

○矢倉克夫君 今、西田発議者の回答、答弁とほぼ趣旨同じではございますが、定義に沿って更に補足させていただきますと、二条は「本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、」と書いています。まさにその人の出身がどこかとか、そういうことを理由にした言動。今の米軍というものに対しては、これは出身云々というものにもそもそも当たらない。まさに米軍というものの存在に対しての評価を前提にしたこれは議論でありますし、政策として日米安保その他をどういうふうに捉えるのか、それはまさに政治的言論として御発言をされているものでもありますので、そういう点からもこれには当たらないという趣旨であります。

我々も、繰り返しになりますけど、表現の自由ということを、これをどのように保護するのか。当然ですけど、表現の自由と言うときに、その自由の対象としてあのようなヘイトデモとかをこれ念頭に置いて言っているわけではございませんで、私は個人的にはそういうのは保護に値しないものだというふうに思っていますが、ただ、名宛て人としては、いろんな方の、何人にも対してのこれ規制が掛かる、その全ての方の表現の自由に対してどうやって配慮をすればいいかという悩みからこのような形での立法になったところであります。

そのような趣旨からも、今のような言論が対象になるということではないということであります。

○仁比聡平君 定義との関わりで矢倉発議者から御答弁がありましたからちょっと重ねて確認ですが、西田発議者が政治的言論というのはこれは一番大事なものだと憲法上の保障の意義を語られたわけですけれども、これがこの対象になり得ないということについて、この法案に言う不当な言動ではあり得ないというふうにも思いますけれども、そういう理解でもよろしいのかということについては、矢倉さん、どうでしょうか。

○矢倉克夫君 まさにそのような趣旨で御理解をいただいて大丈夫であると思います。

○仁比聡平君 もう一点、米軍という機関、これを排除の対象というふうにはそもそも捉えていないというお話があったんですが、これはちょっと、ちょっとというか、こういうことなのかなと思いますのは、例えば沖縄タイムスの社説の部分に、そもそもヘイトスピーチはマイノリティーに対するものだ、米軍人は日米地位協定によって特権的な地位を与えられ、マイノリティーでもない、この表現については与党、もしかしたらいろいろ御意見があるのかもしれませんが、つまりマイノリティーに対する排除という言動、これがヘイトスピーチの大きな焦点であって、そういう意味ではこれは当たり得ないと。言ってみれば、強い者に対して国民の側、市民の側がこれを排除するという概念がヘイトスピーチではあり得ないと思うんですが、いかがでしょうか。

○西田昌司君 我々は、今申しましたように、政治的な表現活動について制限を加えるつもりは全くございません。

しかし、もう片っ方で、例えば米軍の話今出ましたけれども、アメリカ人出ていけとかいろんな発言もあろうかと思うんですよね。そのときにアメリカ人が、例えば今の仁比委員の発言ですと、マイノリティーじゃなくて強いから言ってもいいんだということにもならないと思うんですね。そうじゃなくて、マイノリティーであるかどうかというのは別で、要するに不当な差別的言動とは何かといえば、いわれないということなんですよ。本人がその責に負わない、全くいわれないことで差別的言動で侮蔑を受けたり、それから地域社会から排除を受けたりする、そういうことを我々は不当な差別的言動として、国民としてやめようじゃないかと、そういう差別的なことは恥ずべきことだという、そういう思いでこの理念法を作っているわけであります。

ですから、当然、米軍基地の話はそれとは全く違う話でありますから対象になりませんが、アメリカ人に対して何を言ってもいいのだということを我々は言っているつもりもまたないということは確認させていただきたいと思います。

○仁比聡平君 今おっしゃっているのは、それはそのとおりの話だろうと思うんですね。

あともう一点確認をしたいのは、今の問題とパラレルではありますけれども、政府の政策やそのありようを批判する人々の言動があります。これは政府対抗言論などともよく呼ばれますけれども、これも同じように当たり得ないと考えますけれども、いかがでしょうか。

○西田昌司君 全くそのとおりであります。

私も仁比議員も恐らくいろんなところで街頭遊説をやって自分の政策を言っておりますけれども、時には、野党のときには我々与党に対し批判もするし、当然皆さん方も政府に対し批判もあるわけでありまして、それを制限を加えたりしていたらこれは言論の自由そのものを否定することになりますので、全くそういうことにはなりませんし、想定もしておりません。

○矢倉克夫君 もうまさに全く想定もしておりませんし、そのような言論をしっかり自由に、言論は言論でやり合うということが民主主義であります。これは、まさにそういう対抗言論というようなものを許さないような形で社会を分断するような言論というのは駄目だということを理念でしっかり言っているわけですけれども、今先生がおっしゃっているのは、まさに民主主義の根幹たる言論の自由そのものであるというふうに思っております。

○仁比聡平君 ありがとうございました。

いよいよこの質疑そのものも終わろうとしているわけですけれども、最後にちょっと、通告はしておりませんでしたが、お二人にお伺いをする時間が少しありますので。

こうして私どもが立場は違えど取り組んできて、この大きな節目を迎えようとしているわけです。私は、この取組を踏まえて、国会の内外でこれからヘイトスピーチを根絶をするために一層力を尽くしていくということが私たち国会議員に求められていると思うんですね。とりわけこの問題を十分な審議を尽くしてきたこの参議院法務委員会のメンバーとして、是非御一緒にヘイトスピーチ根絶のために国会の内外で力を尽くそうではありませんかとお二人に呼びかけたいと思うんですけれども、それぞれ御決意を伺いたいと思います。

○西田昌司君 全く仁比議員の御発言に賛同いたします。要するに、我々は、いわゆるヘイトスピーチ、これなかなか禁止という形では、法律上、言論の自由の関係でできなかったわけですけれども、とにかくそういうものは日本人として恥ずべきものであると、そういう共通認識でやってきたわけでありますので、この法律が成案できましたら、是非その趣旨を多くの国民の方々に共有をしていただいて、ヘイトスピーチをしている方自身がそういう恥ずべき行為だということを認識していただいて、自ら自重していただきたいと思っております。

○矢倉克夫君 まさに我々こういう形で理念法を作った、それは、国民全体の共通認識としてこういう社会をつくっていこう、そのような言論を許さない社会を、みんなが声を上げていくような社会をつくっていこうという理念を掲げて、それに向けてしっかり全体で努力をして実現していこうということを高らかにうたい上げて、それがまた国民世論に更に醸成させていくということでこのような法案を作らせていただいたところであります。

当然ですけれども、主権者たる国民の代表として我々がまず中に入っていって、こういうような社会をつくるための第一歩であるということをこれから更に努力をしていって、実現に向けて全体でこれは議論をして、そして努力をしていこうということをしっかりと私からもまたお誓いを申し上げて、またお呼びかけをしたいというふうに思っております。

○仁比聡平君 終わりたいと思います。

お疲れさまでした。

 

 

○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、与党提出の修正案及び修正部分を除く原案について、いずれも賛成の立場から討論を行います。

先ほども申し上げたとおり、与党案の提出は、当委員会の取組の中で、ヘイトスピーチによる被害の深刻さとその根絶を求める被害当事者、国民の声に迫られたからにほかなりません。その内容には大きな問題点がありますが、ヘイトスピーチの根絶に向けた立法府の意思を明確にする理念法としての意義を評価し、賛成するものです。

与党案には、適法に居住する本邦外出身者を対象とするというその骨格が、人種や民族を理由とする差別は許されないという憲法と人種差別撤廃条約の趣旨を曖昧にするのではないか、「不当な差別的言動」との用語が明確性を欠くのではないか、また、前文で「許されないことを宣言する」としながらヘイトスピーチの違法性を明確にしていないなどの問題点があります。

我が党は、ヘイトスピーチ根絶の運動や自治体決議、条例制定などの取組を踏まえ、与党案に対し、以下の修正を求めてまいりました。

一、法案の名称をヘイトスピーチ根絶に向けた取組の推進に関する法律などとすること。二、何人もヘイトスピーチを行ってはならない旨の規定を設けること。三、ヘイトスピーチの定義について、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に換えて、人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は集団、以下、民族等としますが、この社会からの排除、権利、自由の制限、民族等に対する憎悪又は差別の意識若しくは暴力の扇動を目的として、不特定多数の者がそれを知り得る状態に置くような場所又は方法で行われる言動であって、その対応が民族等を著しく侮辱、誹謗中傷し、脅威を感じさせるものをいうとのような規定を置くこと。四、「適法に居住する」との要件は削除すること。五、地方公共団体の責務は、「努めるものとする。」に換えて、国と同様、「責務を有する。」ものとすること。

こうした法案修正は成りませんでしたが、質疑の中で、対象となる言動は本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動であり、扇動の定義も例示しているから、「不当な」や「差別的」という曖昧な用語がそれだけで要件とはならないこと、政府や在日米軍を批判する言動は対象たり得ないこと、アイヌ民族や難民認定申請者など在留資格の有無、争いにかかわらずヘイトスピーチは許されないこと、道路使用許可など行政処分あるいは司法判断において理念法が根拠規範となり得ることなどが答弁で確認をされたことを前向きに評価し、賛成をするものです。

ヘイトスピーチを根絶するために一層国会内外で力を尽くそうではありませんか。

その決意を表明し、賛成討論といたします。