○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。齋藤大臣、どうぞよろしくお願いいたします。
所信をお伺いしたいと思います。
一週間前のこの委員会で、葉梨前大臣の、朝、死刑の判こ押しまして、昼のトップニュースになるというのはそういうときだけという地味な役職などという発言に問われたのは、死刑執行の決裁の重みと倫理でした。
刑事訴訟法第四百七十五条一項は、「死刑の執行は、法務大臣の命令による。」と定めています。国家として生命を剥奪する命令を大臣が決裁すると。この文書のひな形の提出を求めて提出いただいたのが一枚目の資料です。
刑事局長、この起案者や決裁者、この決裁の流れというのを御説明いただけますか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。
今、死刑事件審査結果というこの資料でございます。これにつきましては、私ども刑事局の担当者の方で起案をいたしまして、下の方から、下の右から御覧いただければよろしいかと思いますが、刑事局総務課長から始まり、刑事局長、秘書課長、官房長、事務次官、法務副大臣、法務大臣とございます。これらの刑事局総務課長から法務副大臣までのいわゆる決裁と申しますか、ここを経由いたしまして、最終的に大臣の決裁をいただくという流れになっております。
○仁比聡平君 大臣、その決裁の重み、そして問われる倫理をどう考えているかなんですよね。葉梨前大臣は、朝、死刑の判こ押して、昼のトップニュースになるなどと、この書類に決裁をすることを軽々しく政治資金パーティーで同僚副大臣の持ち上げの中で発言をしたわけです。どう思われますか。
○国務大臣(齋藤健君) 同様の答弁をさせていただいておりますけど、葉梨前大臣の発言については、葉梨前大臣自身がきちんと説明責任を果たされるべきものと認識しておりまして、法務大臣としてコメントすることは差し控えたいと思いますが、どう思うかと言われれば、私自身については、自分が果たさなければならない職責に影響が出るような発言は厳に慎まなければいけないというふうに考えていますし、私は、この法務大臣の内示といいますか、やれと言われたときに真っ先に浮かびましたことは、この死刑の執行についての責任の重さでありました。
死刑執行の判断は、私は法務大臣の果たすべき重要な職責であると認識しておりまして、法務大臣として、裁判所の判断を尊重しつつ、法の定めるところに従って慎重かつ厳正に対処してまいるという決意であります。
○仁比聡平君 アムネスティ・インターナショナルによりますと、一九八〇年代に五十か国以下だった完全な死刑廃止国は、今日、百八か国にまで増え、これに、過去十年間執行がなされていない、あるいは死刑を適用しないという国際公約をしているなどの事実上の死刑廃止国を含めると百四十四か国に上ります。お手元の二枚目の資料がそれを示しているわけですが、国連加盟国の七割以上に上っているわけですね。
法務省、そのとおりですか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。
私どもの方で把握している死刑廃止国というのは、ちょっと今委員がお示しになった資料と異なっておりまして、死刑制度に関する国連事務総長の報告というものがございます。これによると、令和二年五月の時点の数字がございますが、この数字をちょっと私の方からはお答え申し上げたいと思いますが、これによりますと、死刑制度を廃止した国又は地域は百十九であるということになってございます。
○仁比聡平君 後できちんと突き合わせますけれども、恐らく事実上の廃止という国々の評価が、今刑事局長の御答弁と評価が違うだけなのかなと思うんですけれども、(発言する者あり)いえ、もう、これはまたいずれ確認していきましょう。
いずれにしても、アムネスティの調査でいえば七割以上、今の御答弁の百十九か国にしても、国連加盟国の多くが死刑の廃止ということになっているということですよね。
OECD加盟三十八か国で見るとどうか。このOECD諸国の中で死刑制度を残している国の名前を挙げてください。
○政府参考人(川原隆司君) 済みません、今の質問のお答えの前に、先ほどの質問、ちょっと私、言葉足らずのことがありましたので。
先ほど申し上げた百十九は死刑制度を廃止した国又は地域でありまして、このほかに事実上の死刑廃止国又は地域が四十九ございますので、これをちょっと補足させていただきます。
その上で、今、OECDの関係、お尋ねがありましたのでお答え申し上げます。
OECD加盟国のうち死刑制度を存置している国は、死刑制度に関する国連事務総長の報告によりますれば、令和二年五月の時点におきまして、日本及びアメリカ合衆国の二か国であると承知しております。なお、大韓民国につきましては、この国連事務総長の報告によれば、事実上の死刑廃止国とされているものと承知しております。
○仁比聡平君 ありがとうございました。御答弁いただいてよかったですね。
つまり、国連事務総長報告でも、廃止国が百十九か国、そして事実上の廃止国は四十九か国ということで、合わせて百六十八か国ということになりますか。この私の配付している資料よりも極めて多くの国々が事実上も含めて廃止していると。
韓国について、事実上の廃止国と評価をされているというお話がございましたとおりです。二十年以上執行がなく、さらに、死刑を法律上廃止するべきかどうかが憲法裁判所の課題となっているわけですね。法務省、いかがですか。
○政府参考人(川原隆司君) 済みません、今の韓国の関係で、私ども、ちょっと、その憲法上の問題という形はちょっと、済みません、把握しているものではございません。
諸外国における死刑の執行状況について網羅的に把握していないということで、ちょっとその点は把握がございませんけれども、韓国につきましては、先ほど来申し上げておりますが、法制度上は死刑を失効していないものの、平成九年、一九九七年以降は死刑を執行しておらず、先ほども申し上げたように、国連事務総長の報告において事実上の死刑廃止国とされているというところを承知いたしております。
○仁比聡平君 いや、韓国、お隣の国がどういう動向にあるのかということはそれは把握すべきですよ、法務省は。
アメリカについては二十三州が死刑を廃止していると承知をしています。トランプ政権が連邦政府として十七年ぶりに死刑を執行したということが厳しく批判をされました。死刑廃止を掲げたのがバイデン政権と。
その下で、昨年、二〇二一年の七月に、司法長官が連邦レベルでの死刑執行を一時的に停止するという通知を発していますが、法務省はどう受け止めていますか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。
死刑執行のモラトリアムに関する国連事務総長の報告というのがございまして、これによりますれば、今委員御指摘のように、令和三年の七月一日付けで、アメリカの司法長官が、司法省の政策と手続の見直しの結果が出るまでの間、連邦の死刑執行を一時的に停止する旨の覚書を発出したということは承知してございます。
○仁比聡平君 どう受け止めていますかと問うたんですが、そこのお答えはないんですけれども。
齋藤大臣、つまりOECD諸国で国家として死刑執行をしているのは日本だけなんですよ。これ、重い話じゃありませんか。世界は死刑を廃止しているんです。それは、死刑が生命を奪うものだからだと私は思います。大臣はどう思われますか。
○国務大臣(齋藤健君) 死刑制度の存廃につきましては、おっしゃるように、国際機関における議論の状況や諸外国における動向等を参考にしつつも、基本的には各国において、国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて独自に決定すべき問題であると考えています。
国民世論の多数が、極めて悪質、凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えており、多数の者に対する殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況等に鑑みますと、その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては死刑を科すこともやむを得ないのでありまして、私は死刑を廃止することは適当でないと考えています。
○仁比聡平君 いや、そうでしょうか。世界で死刑を廃止する国が、先ほど確認がされたように、著しく増えている。今御答弁の中にありましたように、国際人権条約の関係ももちろんあるんですね。そういう中でやむを得ないと本当に言うのかと、そこが問われているんですね。
平野啓一郎さんという作家の方を大臣もきっと御存じだと思いますが、最近、「死刑について」という御本を書かれました。二十代のときは死刑存置論、必要論という立場だったということもおっしゃった上で、なぜ死刑制度に対して心底嫌気が差して反対するようになったのかということをお書きになっておられます。
まず、そのまま読みますけれども、実際に取材をしてみると、捜査の実態はひどいもので、また、警察は冤罪だと分かっていても決してそれを認めようとせず、むしろ自分たちの正当性を守るために、場合によっては証拠の捏造まで行っています、その結果、死刑判決が下され、執行されるというのは言語道断ですと。
大臣はどう思いますか。
○国務大臣(齋藤健君) 私も、平野啓一郎さんの本は、その本じゃないですけどいろいろ読んで、なかなか筆力のある方だなというように思っていますが、そのケースについて私は具体的なことを存じ上げませんので、ここでコメントすることは差し控えたいと思います。
○仁比聡平君 続けて、死刑判決が出されるような重大犯罪の具体的事例を調べてみると、加害者の生育環境がひどいケースが少なからずあります、そうした中で犯してしまった行為に対して、徹底的に当人の自己責任を追及するだけでよいのかと疑問に感じたことも死刑に反対するようになった理由です、果たしてどこまでを当人の責任として問えるのだろうかと。
少し飛ばしますが、本来なら、そういう状況に置かれている人たちを私たちは同じ共同体の一員として法律や行政などを通して支えなければならないはずです、しかし、支えられることなく放置されていることがあります、放置しておいて、重大な犯罪が起きたら死刑にして存在自体を消してしまい、何もなかったように収めてしまうというのは、国や政治の怠慢であり、そして私たちの社会そのものの怠慢ではないでしょうかと。
どう思われますか。
○国務大臣(齋藤健君) まず、現実に凶悪な犯罪が存在をしているという前提に立って御答弁させていただきますと、我が国の裁判の実務におきましては、令状主義及び厳格な証拠法制が採用され、三審制が保障されるなど、捜査、公判を通じて慎重な手続により有罪が確定され、確定された裁判に対しても再審、非常上告等の救済制度が設けられており、これらは誤判を防止するために有効に機能していると承知しています。
その上で、一般論として申し上げれば、その上で、死刑に関しては、個々の事案につき関係記録を十分に精査し、刑の執行停止、再審事由等の有無等について慎重に検討し、これらの事由等がないと認められた場合に初めて死刑執行命令を発するということとされてきたものと承知をいたしまして、私といたしましても、我が国では死刑は厳格な制度の下において極めて慎重に運用されているものと承知をしております。
その上で、死刑執行の判断は法務大臣の果たすべき重要な職責であると認識をしておりますので、法務大臣として、裁判所の判断を尊重しつつ、法の定めるところに従って慎重かつ厳正に対処していくというのが私の考えであります。
○仁比聡平君 今大臣がおっしゃる我が国の司法制度の下で数々の冤罪が、死刑を含む誤判が繰り返されてきたということについて何の認識もなく今の役所が書かれた答弁をお読みになるようでは、私は法務大臣務まらないと思いますよ。
もう一点、この平野さんの指摘を御紹介したいと思いますが、なぜ人を殺してはいけないのかという問いを突き詰めていったときに考えたのは、人を殺してはいけないということは絶対的な禁止であるべきだということです、おまえが殺したのなら自分たちも殺すというように、同じレベルにまで国家や社会が堕落してしまっては、法制としての刑罰を科すことは倫理的にできなくなってしまうはずです、たとえ人を殺すような罪を犯した共同体の構成員がいたとしても、その人はあくまで規範の逸脱者であり、規範自体は維持されなければならない、あくまで私たちは、人を殺さない社会であり、人を殺さない、命を尊重する共同体の一員であるということを絶対的な規律として守るべきではないでしょうかと。
これは世界が死刑を廃止していっている大きな理由でもあると思うんですが、大臣、いかがですか、うなずいていらっしゃるけど。
○国務大臣(齋藤健君) 平野さんや委員のような御意見があるということは十分承知をしておりますが、国民世論の多数が、極めて悪質、凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えていて、現実に多数の者に対する殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況などに鑑みますと、その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては死刑を科すこともやむを得ないのでありまして、死刑を廃止することは適当ではないと考えています。
○仁比聡平君 私、大臣の答弁は極めて苦しいと思います。
極めて慎重にと何度もおっしゃいますが、二〇一七年以降、再審請求中に執行された方々が十九人にも上ります。日弁連の資料をお手元にお配りしていますが、二〇一七年七月十三日の金田法務大臣の執行に始まって、しばしば、それまでは行われていなかった極めて異例である再審請求中の執行ということがこんなに続いているのは一体なぜなんですか。大臣、この方々を死刑に執行するというその判断基準というのは一体何なんですか。
○政府参考人(川原隆司君) 私ども法務省では、死刑を執行した場合に、その者の氏名等一定の情報は公開しておりますが、執行した者が再審請求中であったかということについては私ども法務省としては明らかにしていないところでございまして、大変申し訳ございません、委員の御質問は、その個々の執行された者について、これが再審請求中であるということを前提に御質問をなさっている部分がありますので、お答えは差し控えさせていただきたいと存じます。
○仁比聡平君 大臣、それでいいのかということを私は問うているんですね。
鳩山大臣の頃に名前は明らかにするというふうになったけれども、再審請求中の執行について、その下の欄に金田当時大臣の記者会見の文章が記載をされています。何とおっしゃっているかというと、仮に再審請求の手続中は全て執行命令を発しない取扱いとした場合は、死刑確定者が再審請求を繰り返す限り永久に死刑執行をなし得ないということになり、刑事裁判の実現を期することは不可能となるものと言わなければなりません、したがって死刑確定者が再審請求中であったとしても、当然に棄却されることを予想せざるを得ないような場合は、死刑の執行もやむを得ないと考えていますと。
この答弁を局長なんかがされるのかと思ったんだけど、そうではなかったので読みましたが、私、大臣に聞きたいのは、当然に棄却されることを予想せざるを得ないような場合というのは一体どんな場合ですか。法務省がそれを判断するというのはおかしいじゃありませんか。
再審請求というのは、そうした確定判決があったとしても、裁判所にその再審を求める請求でしょう。再審制度があるのに再審請求中に死刑の執行をする、それは当然棄却されることを予想せざるを得ないからだと、さっき刑事局長おっしゃったように、その理由を明らかにしない。つまり、ブラックボックスの中で、冒頭の決裁文書にあるような、課長から大臣までの法務省の中だけの決裁で、そのプロセスは国民には何にも明らかにせずに人の生命を奪う。大臣、あり得ないじゃないですか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。
まず、個々の執行された者に対して、再審請求中であるか否かをお答えしないという点でございます。これは、再審請求の手続が非公開であることに加えまして、死刑確定者によっては、再審請求をしている事実自体を公表することにより、死刑確定者や被害者の御遺族の感情を害するおそれも懸念することから、個別の死刑確定者の再審請求の有無については明らかにしていないところでございます。この点は御理解を賜りたいと思います。
次に、再審請求、一般論としての再審請求の関係でございます。これは、委員も御案内と思われますが、刑事訴訟法四百三十五条で再審請求のすることができる理由について定めております。個別の請求が、この理由があるとされるものであるかどうかということを判断することになることでございまして、その結果、その刑事訴訟法の定めた理由及び当該再審請求の理由及び当該事件の証拠関係に照らして内容を検討した結果、当然棄却されることを予想せざるを得ない場合があるということでございまして、例えばの例で申し上げますと、同一の理由によって再審請求を既に以前に行っていて、それについては再審請求の理由がないとして再審請求が棄却されているような場合、こういったような場合につきましては今言ったものに当たり得るということでございます。あくまで一般論のお答えでございます。
○仁比聡平君 今、刑事局長が条文の解釈についてあれこれおっしゃって、それは条文の解釈としては大事ですよ。
だけど、例えば、再審請求中の死刑執行について、今、冤罪弁護団が徹底して争っています。裁判所でそれは議論されるでしょう。それは、法律家の議論として、それはそういう議論はあるけれども、だけど世界が死刑を廃止していっている中で、再審請求を行っている人を死刑執行すると、そんな判こが押せますか。そこが大臣に問われているんじゃないですか。
私は、少なくとも再審請求中の死刑執行というのはもうやめるべきだと思いますけれど、大臣、いかがですか。
○国務大臣(齋藤健君) 私は、自分の職務として、再審請求中であろうと再審請求がなされていないものであろうと、一件一件の事案に真摯に向き合って、厳正かつ粛々と、慎重に判断をしていきたいと思っています。
○仁比聡平君 葉梨大臣の辞任という経過で大臣に就任された齋藤大臣には、この問題は正面から突き付けられていると思います。今後も議論していきたいと思います。
もう一問、統一協会の問題について、文科省審議官にもおいでいただいていたんですが、質問時間がなくなってしまいまして、後ほどの時間にもしおいでいただけるなら続けたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
ありがとうございました。