〔仁比聡平君登壇、拍手〕

○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、外国人技能実習法案について、関係大臣に質問いたします。

我が国で働く外国人労働者は過去最高の約九十一万人となり、そのうち派遣や請負で働く人たちが四分の一、技能実習生は一八・五%を占めています。言葉の壁、構造的な低賃金と様々な人権侵害、家族を含む生活の困難さなど問題は深く、外国人労働者の憲法と労働法に基づく権利が保障され、人間らしい営みができるよう、労働条件の抜本的改革こそ急務です。

安倍政権は、いわゆる働き方改革の一つとして外国人材の受入れを掲げ、また、自民党働き方改革特命委員会は、これまで政府が高度人材として積極的に受け入れてきた多国籍企業の経営者や技能労働者などの専門職に限らず、人材不足の分野への外国人労働者受入れを検討していますが、深刻な現状をそのままに受入れを拡大することは安易かつ無責任極まるものです。

政府は、外国人労働者の現状をどう認識し、どのように拡大していこうというのか。基本方針について、法務大臣、厚生労働大臣に伺います。

現在の技能実習制度は、前身の外国人研修生・実習生制度以来、途上国への技能移転と国際貢献を建前にしながら、実際には無権利、低賃金、劣悪な労働条件の下での労働力受入れ制度として、強制労働と数々の人権侵害が国際的にも厳しく批判されてきました。

その実態を否定できず、政府は二〇〇九年入管法改定で、在留資格「技能実習」を新設して労働者保護の対象とし、適正な監理、ブローカー行為を始めとした不正行為の排除などの監督強化を行いました。

にもかかわらず、その施行から八年、技能実習生をめぐる人権侵害は一層深刻となっています。失踪は増え続け、実習生の死亡、とりわけ脳疾患や心臓疾患など過労死が疑われる若者たちが後を絶たず、八月、岐阜県でとうとう二件目の過労死が認定されました。

法務大臣、厚生労働大臣、失踪と実習期間中の死亡の実態はどうなっていますか。なぜ技能実習で過労死に至るのか、その原因をどう考えますか。

ここには技能実習制度が抱える構造的問題が横たわっています。下請零細の製造業、建設業、農業などの分野に低賃金の労働力を提供するなどと付け込んで、悪辣なブローカーが母国の送り出し機関と国内の受入れ機関に結び付いて横行し、高額の保証金や田畑の担保をてこに技能実習生を縛り付けています。政府は労働者として保護すると言いながら、労働者が不当な拘束、奴隷的労働から解放される上で最も中核となる職業選択の自由、実習先選択の自由を認めず、労基署や入管による指導監督、是正はモグラたたきになっています。

政府は、こうした問題をどう認識し、どう正すのですか。法務大臣、厚生労働大臣、それぞれお答えください。

全国で二番目に多い技能実習生が働き、アパレル縫製が主要産業の岐阜県ではどうか。時給三百円など深刻な最低賃金違反、毎日四時間から五時間の残業、土曜日曜も休みなしの休日出勤を強いられながら、法定の残業代割増しどころか、逆に割引される重大な違反が蔓延しています。

十年前、岐阜県と労働局、名古屋入管など関係機関が技能実習生等受入適正化推進会議を立ち上げ、以来、毎年受入れ機関や業界団体への要請を繰り返していますが、そこでは、一か月百時間を超える長時間残業や割増し賃金の支払等に関し不適切な事例が数多く見受けられる、監督指導時における虚偽説明又は帳簿の改ざんなどの隠蔽行為は後を絶たず、さらに監理団体ぐるみの隠匿も疑われる事案があるなど、より一層の悪質化が進んでいると厳しく指摘されています。

その上で、アパレル業界団体に対して、外国製品との競争の激化などを背景にした縫製工賃単価の切下げなどの厳しい業界事情がこれら技能実習生の労働条件に与える影響が少なくないとして、計画的、合理的な発注と適正な工賃の設定、つまり工賃の引上げを強く要請しています。労基署や入管など監督指導機関が実態に基づいて抜本的解決を求めているのです。

経済産業大臣、価格競争の重い負担が末端業者と技能実習生に押し付けられている構造をそのままに、技能実習機構など新制度を発足しても、人権侵害は生み出され続けることになります。

実習生受入れは進めながら、これまでその実態をつかんでこなかった責任をどう考えますか。少なくとも岐阜のアパレル縫製で働く実習生全員の実態がどうなっているか、速やかな調査を求めます。国内外の価格競争が一層激しくなる中で、下請工賃の引上げを始め、アパレル産業の振興をどのように図っていくのですか。明確な答弁を求めます。

政府も法案に盛り込んだ二国間協定は、ブローカー排除のためにも有効です。であるなら、法務大臣、厚労大臣、二国間協定が締結されなければ、その国からの実習生は受け入れられないようにすべきではありませんか。

ベトナムには、労働者の海外派遣法があります。インドネシアやフィリピン、また中国でも同様の法制度が制定されています。各国の国内法に基づいて技能実習生が送り出されているにもかかわらず、そこにブローカーの介入が横行し、人権侵害が引き起こされていることは極めて深刻です。

外務大臣、各国の送り出しに関わる法制度をどのように認識しておられますか。また、そうした国々との間で二国間協定をどのように締結していくのか、何が課題か、お答えください。

次に、介護分野への外国人労働者受入れの拡大について伺います。

在留資格「介護」の新設と技能実習「介護」の追加は、これまでEPA、経済連携協定による特例として、母国の看護師資格を有し我が国で介護福祉士を目指す高度人材に限られ、それでも様々な問題を抱えている対人サービスに初めて一般的に外国人労働者を受け入れようとするもので、介護現場と利用者、家族に大きな影響を及ぼすものです。

公的介護を担う介護職には、要介護者の身体や生活のニーズに応える介護を通じて、要介護者の観察とコミュニケーションによって内面的要求をつかみ、チームで共有して、介護の目標や計画を充実、発展させていく力が求められています。そのコミュニケーションのツールが介護記録であり、だからこそ介護事業所の指導監督の上でも重視されているのではありませんか。さらに、転倒や誤嚥、心肺停止など万一の対応に臨むとき、日本語能力のいかんは命に関わります。

ところが、厚生労働省の検討会では、五段階で評価される日本語能力について、入国時は初級のN4程度の能力で足る、二年目以降はN3程度とする方向で検討されています。今の技能実習生も、入国前後の研修時間を見ればN4程度の日本語力を有しているはずですが、現実には平仮名、片仮名も分からず、簡単なコミュニケーションさえ困難な人も多くいます。日本語能力試験はマークシート方式で、読む、聞くの理解は問えても、書く、話す能力を問うものではありません。政府は、介護の現場で要求されるコミュニケーション能力をどのように捉え、どのように判定することで担保するのでしょうか。

介護現場の人手不足を打開するためには、何より介護労働者の処遇改善が必要です。全産業平均より十万円以上も低い介護職の賃金を抜本的に引き上げるべきです。現在の介護現場の矛盾をそのままに外国人労働者を受け入れることは、逆に現場を深刻にし、外国人労働者の人権を脅かすことになるのではありませんか。いずれも厚生労働大臣に伺います。

最後に、入管法改定案で、偽りその他不正の手段により上陸許可などを受けた場合の罰則の新設や、在留資格外の活動を行い又は行おうとしたといって在留資格の取消しを拡大することは問題です。これらの構成要件は広範かつ曖昧で、当局の濫用によって、技能実習生の正当な権利実現や庇護されるべき難民認定申請者、またその支援者の活動を威嚇し、萎縮させるものです。

そもそも技能実習生の失踪を生み出している根本問題、また難民受入れに極めて消極的な政府の難民政策の転換こそが求められています。法務大臣の答弁を求め、質問を終わります。(拍手)

〔国務大臣金田勝年君登壇、拍手〕

○国務大臣(金田勝年君) 仁比聡平議員にお答えを申し上げます。

まず、外国人労働者の受入れに関する政府の基本方針についてお尋ねがありました。

専門的、技術的分野の外国人につきましては積極的に受け入れることといたしておりまして、これらの外国人は我が国の経済社会の活性化に貢献していると認識をいたしております。今後の外国人材の受入れの在り方につきましては、日本再興戦略二〇一六におきまして、真に必要な分野に着目をしつつ、総合的かつ具体的な検討を進めることとされており、国民的コンセンサスを踏まえ、政府全体で検討していくこととしております。

次に、技能実習生の失踪についてお尋ねがありました。

技能実習生の失踪者数は近年急増をしており、この事態を重く受け止めております。入国管理局が実施している失踪原因に関する調査によりますと、技能実習意欲が低く、より高い賃金を求めて失踪する者が多いため、技能実習生には制度の趣旨を周知徹底しますとともに、受入れ機関に対する適切な監督により、受入れ機関における不適切な処遇を理由に失踪することのないようにしていきたいと考えております。

次に、技能実習制度の問題点の認識とこれをどう正すのかについてお尋ねがありました。

技能実習制度に関しましては、一部の制度趣旨を理解しない者によって安価な労働力の確保策として使われたり、一部の送り出し機関により保証金の徴収が行われているといった問題があると認識をしております。

そこで、今回の見直しにより管理監督体制を強化するなどいたしまして、制度趣旨に沿った適正な運用を確保することとしております。また、人権侵害等により実習の継続が困難となった技能実習生につきましては、現在も実習先変更を認めているところでありますが、新制度では外国人技能実習機構にこれを支援させるなどをしまして、技能実習生の一層の保護を図ることとしております。

次に、二国間協定が締結されていない国からの受入れについてお尋ねがありました。

現在、技能実習生を送り出している国を含め、全ての送り出し国との間で政府間取決めの作成交渉を進めてまいりますが、いまだ取決めが作成されていない国の技能実習生を受け入れないことは、我が国で技能を学びたいと願っている人たちにとって不幸なことでありますし、送り出し国との関係上も得策ではありません。また、政府間取決めが作成できていないことを理由としてその国からの技能実習生の受入れを停止することは、我が国が締結している国際約束との整合性の観点から適当ではないと考えます。

最後に、入管法改正法案における罰則の新設と取消し事由の拡大、また、技能実習生の失踪問題や難民受入れの政策についてお尋ねがありました。

「偽りその他不正の手段」という罰則の構成要件は他の法令でもよく用いられている一般的な表現であり、また、新たな在留資格取消し事由の「他の活動を行い又は行おうとして在留している」という状態は客観的事実も踏まえて判断するものでありまして、いずれも広範で曖昧なものではないと考えております。

技能実習生の失踪問題につきましては、新たな在留資格取消し事由を活用するだけではなく、送り出し機関や技能実習生になろうとする者への制度趣旨の周知徹底や受入れ機関における処遇の適正化などを通じて、根本的な解消を図っていきたいと考えております。

難民認定については、難民条約等の定義にのっとって適切に判断をしており、さらに、難民に該当しない場合でも人道上の配慮が必要である場合には在留を認めておりまして、引き続き、真に庇護を求める者の確実な保護を図ってまいります。(拍手)

〔国務大臣塩崎恭久君登壇、拍手〕

○国務大臣(塩崎恭久君) 仁比聡平議員にお答え申し上げます。

外国人労働者の受入れ方針についてのお尋ねがございました。

我が国は、経済社会の活性化の観点から、専門的、技術的分野の外国人労働者の就業を積極的に推進をしております。外国人材の受入れの在り方については、日本再興戦略二〇一六を踏まえ、真に必要な分野に着目しつつ、総合的かつ具体的な検討を進めていくこととしており、国民的コンセンサスを踏まえ、政府全体で検討していく必要があると考えております。

実習生の実習期間中の死亡の実態についてのお尋ねがございました。

平成二十七年度は、持病や交通事故等も含め、実習中に三十名の方々が亡くなられております。実習生の中には不法な長時間労働を強いられている方もいると承知をしております。実習生の方が過労死に至ることはあってはならず、この法案により、実習環境の改善に向けた指導を確実に行ってまいります。

技能実習生の保護と実習先選択の自由についてのお尋ねがございました。

御指摘のような実習生から保証金を徴収する問題のある送り出し機関については、今後、二国間取決めにより排除する仕組みをつくります。また、人権侵害や法令違反等の事情がある場合は、実習先の変更を認めるとともに、本法案に基づき厳しく対処していく考えでございます。

二国間取決めについてお尋ねがございました。

取決めのない国からの実習生受入れを直ちに停止することは大きな混乱を伴うため困難ですが、主務大臣や外国人技能実習機構が送り出し機関を厳格に審査するとともに、送り出し国との取決めが早期に実現できるよう交渉を進めてまいります。

介護における技能実習生のコミュニケーション能力と介護人材の処遇改善についてのお尋ねがございました。

利用者の心身状態を適切に把握をし、チームで介護を提供していくためには、コミュニケーション能力の確保が不可欠でございます。このため、実習生の日本語能力を読む、聞くという観点から試験で評価をするとともに、話す、書くという能力向上のための講習受講を求めることなどにより、現場で必要な日本語能力を担保することとしております。

また、介護人材の処遇改善については、技能や経験に応じた給料アップの仕組みを構築をし、月額平均一万円相当の改善に取り組んでまいります。(拍手)

〔国務大臣世耕弘成君登壇、拍手〕

○国務大臣(世耕弘成君) 仁比聡平議員にお答えをいたします。

技能実習生の受入れに関する実態把握やアパレル産業の振興についてお尋ねがありました。

外国人技能実習制度に関して、岐阜県の縫製業の三十五の事業所において賃金の未払があったことや、最低賃金を定める労働基準法の規定に違反していたことは、誠に遺憾であります。

この背景として、アパレル企業から縫製企業に対する縫製工賃単価の引下げの影響が少なくないと指摘されていることを承知をしております。事業者間の取引対価は、発注側、受注側の両者の協議によって定まるものでありますが、経済産業省では、毎年、アパレル業界を含め、業界団体等を通じて、取引対価の決定に当たっては下請事業者と協議の上で適切な労務費を含めるよう要請をしているところであります。

引き続き、適正取引に関する法令遵守について普及啓発等を実施し、仮に下請法の法令違反行為が疑われる情報を得た場合には厳正に対処してまいります。また、今回の事案を受けて、関係府省と連携して岐阜県における実態を調査してまいります。

アパレル産業の振興につきましては、取引慣行の改善を図ることに加え、サプライチェーンの再構築による各工程の付加価値の向上、業界の認証制度であるJクオリティー制度などを活用したジャパンブランドの構築、海外見本市や商談会に参加する事業者への支援など、繊維産業全体としての付加価値向上の拡大のため、必要な施策を進めてまいります。(拍手)

〔国務大臣岸田文雄君登壇、拍手〕

○国務大臣(岸田文雄君) 外国人技能実習制度の下での送り出し国の法制度及び二国間取決めの作成に向けた今後の進め方についてお尋ねがありました。

送り出し国においては、御指摘のとおり、各国の関連法令に基づき、送り出し機関の認定及び労働者の派遣を実施していると承知をしています。

他方、技能実習制度については、ブローカーの介入等により、技能移転による国際貢献という制度本来の趣旨、目的と実態との間に乖離があるとして、国内外から様々な指摘や懸念が表明されていると認識をしております。このような不適正な送り出し機関を排除するため、技能実習制度の見直しに関する法務省・厚労省合同有識者懇談会報告書において、送り出し国との間での取決めの作成の必要性が指摘をされています。

当省としましても、関係省庁とも緊密に連携しつつ、送り出し国との間で取決めを作成し、速やかな制度の適正化に努めていく所存です。(拍手)