「もう一押し」―。16日に都内で行われた司法修習生のための給費制存続を求める集会では参加者の声が相次ぎました。制度の廃止目前に、見えてきた存続への光明。司法関係者と市民の共同の成果です。(矢野昌弘)
「修習生が多額の借金を抱える制度では、優秀で多様な法律家が確保できない」と、給費制存続を求める運動が本格始動したのは、日本弁護士連合会が4月に対策本部を立ち上げてから。短期間に35万人分を超える署名が集まりました。
宇都宮健児会長が呼びかけてきたのが、法律家と市民がスクラムを組んだ運動です。市民団体などでつくる「支給継続を求める市民連絡会」も結成され、市民との共同が始まりました。
各地の弁護士会が開く集会で、えん罪被害者や公害患者らが、思い思いの言葉で、存続の必要性を訴えました。
シンドラーエレベーター事故で、当時16歳の息子を亡くした女性もその一人。
「事故の調査機関もなく、会社側は都合のいいデータしか出してこない。被害者にとって、一番頼りになるのは弁護士です。人の痛みがわかる弁護士がいなければ、私たちのよりどころはどこにもありません。痛みがわかる法律家がもっと増えてほしい。これは人ごとではありません」と話します。
仙台弁護士会の菊地修副会長(53)は「8月に8000人分の署名が集まりました。日を追うごとに、市民の反応や関心が高まっていることを実感できた」と手ごたえを語ります。
パレードの参加者には「弁護士になりたかったが、法科大学院にいくだけで600万円もかかるのであきらめた。弱者のために活動する弁護士を減らさないため、存続すべきだ」という、ホームレス支援の活動をする男性(25)もいました。
この運動で、6年前に廃止に賛成した会派が存続に転じる動きが生まれています。「経済状況も進路も様々な修習生を一律に手厚く遇する必要があるのか」(8月29日付「朝日」社説)などという論調もありましたが市民の力がそれをはね返しました。
給費制を今年11月に廃止するとした2004年の裁判所法改定に国会で反対したのは、日本共産党と社民党だけでした。
その後も仁比聡平前参院議員が6月の参院法務委員会で取り上げるなど、給費制存続の論戦を張ってきました。
権利の守り手育成
司法修習生は研修中のアルバイトが禁止されています。また研修を受けるため2回の引っ越しを余儀なくされる修習生(図)もいます。
こうした生活費や経済負担をまかなうために国は現在、修習生に月約20万円を支給しています。権利の守り手を国が責任を持って育成する上で、その裏づけとなる制度です。はじまりは1947年。
一方、11月から計画されている貸与制は生活費が必要な修習生に最高裁が無利子でお金を貸す制度です。基本額は月23万円。最高で月28万円まで借りることができます。5年の返済猶予がありますが、10年間で完済しなければなりません。
日弁連の調査で、現在研修中の修習生の半数が学費などの借金を抱えており、平均で318万円です。経済負担で、急減中の法律家志望者(グラフ)がさらに減ることも予想されます。
また修習生の所得がなくなることで、研修地のアパートが借りにくくなったり、老後の年金で不利益となるなど、さまざまな問題が予想されます。
勝負これから 宇都宮日弁連会長
16日の集会での宇都宮健児日弁連会長のあいさつ(要旨)を紹介します。
福岡で薬害肝炎訴訟の山口美智子さん、京都では中国「残留」孤児国賠訴訟の原告団、熊本で水俣病訴訟の原告団、千葉で布川事件の杉山卓男さん、桜井昌司
さんとお会いしてきました。みなさん「手弁当で世話をしてくれる弁護士がいて助かった。給費制がなくなるとそういう弁護士がいなくなるのでは」とおっしゃ
ります。
特に印象的なのはハンセン病国賠訴訟の谺(こだま)雄二さんの話です。「ハンセン病元患者は自分の姿を出すことをためらって、裁判を躊躇(ちゅうちょ)
していた。そんな時、弁護士が療養所にきて、一緒に風呂に入って『原告になろう、がんばろう』と励ましてくれた。弁護士は『社会生活上の医師』といわれる
が私にとっては『人間性回復の医師』なんだ」と。
この運動を通して、市民は弁護士の社会的貢献を求めているし、日弁連はそれに応えていかなければならないことを確信しました。
これから臨時国会が始まり、最後の勝負です。単なる給費制の維持にとどまらず、完全な維持を勝ち取らなければなりません。(しんぶん赤旗 2010年9月17日)