○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 核兵器のない世界をという激動の中で、五月にはNPT再検討会議も開かれるわけでございます。世界最初の被爆国として、我が国が人類と核兵器は共存できないという被爆の実相を明らかにしてこそ核兵器廃絶のイニシアチブを発揮することができると思います。
 今日は、広島原爆の黒い雨に遭いながら重い健康被害に苦しみ続けてきた多数の被災者が被爆者援護を何ら受けられないでいる問題について、長妻大臣にお尋ねをしていきたいと思います。
 原爆のキノコ雲や大火災による積乱雲から死の灰や巻き上げられたちりやすすなどの放射性物質を含んで降った放射性降下物が黒い雨でございますけれども、これによる外部被曝、そして体内にこれを摂取したことによる内部被曝が人体にどれほど重大な影響を生じるかということが原爆症認定訴訟でも明らかにされてきました。
 被災者の皆さんが口々に、後世にありのままを伝えるのが私らの務めというふうに語るとおり、この黒い雨の地域指定は、核兵器の非人道性を直視する上でも、そして被爆者援護の上でも重い意味を持っていると思います。
 資料をまずパネルにいたしましたけれども、(資料提示)この内側の青色の部分が一九七六年に国によって指定されました広島の健康診断特例区域というところですが、ここでの被爆者援護施策がどうなっているか、まず長妻大臣に御説明を願いたいと思います。

○国務大臣(長妻昭君) 今その図をお示しをいただきましたけれども、この健康診断特例区域というような区域でございますけれども、いわゆる大雨地域とも言われておりまして、今黒い雨のお話いただきましたけれども、原爆が落ちて上昇気流の影響等で雨が降ったということで、その爆心地から近い大雨地域については、一定の要件が課せられておりますものの、そこにおられた方に関しては健康診断受診者証を交付をして、被爆者と同じように無料で健康診断を受けられるようにすると。
 そして、その後、その方が一定の障害があると診断された場合、この障害というのは肝機能障害などの十一の障害ということでございますが、それが診断された場合は被爆者健康手帳、つまり被爆者として認定をさせていただいて、医療費の自己負担分については公費負担、そして月額三万三千八百円の健康管理手当の支給を受けていただくと、こういうような形になっております。

○仁比聡平君 今御説明があったように、この青色の線引きの外で黒い雨に遭った方々には健康診断受診者証さえ交付されずに置き去りにされてきたわけです。同じように土砂降りに降ったのに、例えば広島の湯来町では、狭い川を境に南側は大雨で区域内だけれども、北側は除外されていると。安佐南区の相田では小さな溝一本ですよ、これが境に線引きをされていると。こうした線引きに対して前政権に対して、雨が川に沿って降るものか、地形や気象条件があるのにこんなにきれいな卵形に降るわけがないと、被災者の方々から大変強い声が突き付けられてきたわけです。
 この声について、大臣はどうお考えですか。

○国務大臣(長妻昭君) これについて私も調べてみましたけれども、御存じのように、その区域をどうやって決めたのかというのは、これは昭和二十年、ちょうど原爆が落ちた直後に宇田博士という方がいらっしゃいまして、その方が聞き取り調査を数か月にわたって直後からされて、いろいろな状況を勘案をしてその地域の骨格ができ、その後も昭和五十一年度、五十三年度にも当時の厚生省の委託研究ということで、これもいろんな土を分析をするなどして、この中心の大雨地域というのと、周辺の通称小雨地域というものの中から核分裂生成物が残留するとは言えないということで、そういうような研究もありましてそういうような線引きにさせていただいているというふうに聞いております。

○仁比聡平君 今、長妻大臣が紹介をされたいわゆる宇田博士の調査ですが、これがどんな状況で行われたかというのは大臣御存じですか。

○国務大臣(長妻昭君) これについては、戦後のすぐの状況の中で数百人の方の具体的な証言を聞いて、そしてこの宇田博士の調査で大雨地域というものを指定をしたというようなことを聞いております。
 その後も、先ほど御紹介した調査のみならず、平成三年度には広島県や広島市が実施をした黒い雨に関する専門家会議報告書と、こういうようなものもございまして、これについても残留放射能の残存の研究がなされておりますけれども、そういうものも勘案して今日の補償のスキームを作らせていただいているというふうに考えております。

○仁比聡平君 大臣、年代がやや前後していると思うんですけれども、この線引きが指定されたのは七六年なんですね。その七六年にこの線を引いた根拠というのは、宇田降雨図以外にありますか。

○国務大臣(長妻昭君) 一九七六年に今の黒い雨の大雨地域を健康診断特例区域に指定したというのはそのとおりでございますけれども、これについては宇田博士の調査を基本として指定をしたものでありますけれども、そのほかにも黒い雨地域内の一部で高い濃度の放射能が検出された例の報告があったことなどを参考にして、これは一九七六年に指定をしたというふうに考えております。

○仁比聡平君 この線引きの中に黒い雨の地域があったと、たくさん降った地域があったという材料があったとしても、こうした線を引いたという調査は宇田降雨図以外にはないと、七六年以前は。いかがですか。

○国務大臣(長妻昭君) これは宇田博士の調査以外にはないということでありますけれども、やはり非常に難しい点がございますのは、時を経て、いろいろな証言やその当時どこにどういう形で雨が降ったのかなどなど、当時の状況を知るすべというのは、やはり被爆、原爆が落ちた直後のこの調査というのが今のところは、非常に証言の信憑性、あるいはその生々しさからいって信用性が高いのではないかというようなことで、今日もこの宇田博士の調査というのは一定の信頼性を得ているということで、それに基づいたものとしてそういうような区分を決めさせていただいているということであります。

○仁比聡平君 大臣も宇田降雨図以外に線引きの根拠はないということをお認めになりました。この宇田降雨図というのは、被爆直後の広島で徒歩と自転車で、大臣も広島のあの山、御存じだと思いますけど、ここ本当に苦労して行われた、先駆的だけれども、だけれども、手掛けた研究者御自身が不十分だというふうに言ってきたものなんで
すね。
 宇田博士と二人で調査に当たりました元広島管区気象台の北勲技師は、非常に不確実な少ない材料で一応線を引いたもの、当時からこれは暫定的なものだと語っていらっしゃいます。それが独り歩きし、重要視されて、厚生省辺りがこれを基にしていろいろやられた。医療関係に使われると目的が多少違っている、何しろ不十分なものだと思います、後々、増田さんとかいろいろいいものができておりますというふうに述べていらっしゃるわけです。
 この増田さんというのは、八七年に完成降雨図を発表された、増田降雨図と言われるものなんですけれども、こうした宇田降雨図のみを言わば金科玉条にして、被災者の実態に背を向けてきた前政権のこの黒い雨に対する対応こそ非科学的だと私は言うべきだと思うんですよ。大臣、これよく見直して検討するべきじゃありませんか。

○国務大臣(長妻昭君) 二つのことを申し上げたいと思うのでございますが、今の宇田博士の調査につきましては、その調査のみならず、先ほど来御紹介しています昭和六十三年から平成三年にかけて広島県、広島市が実施した黒い雨に関する専門家会議においては、この宇田博士の調査による降雨範囲は妥当なものであったというふうにされているというのと、もう一つ、今御指摘いただいた増田博士というのが昭和六十二年に実施した調査においては、この宇田博士の調査より広い地域に黒い雨が降ったとされているということで、宇田博士の調査と異なる研究結果が出ているのも事実でございます。
 今、御存じのように広島市中心に再度、今現在調査をされておられるというようなことも聞いておりまして、かなり綿密な調査ということも聞いておりますので、その調査の結果が出れば、我々も関心を非常に持っておりますので、それを有識者の方で分析をいただいて、我々としてもそれをどう考えるかということを検討していきたいと思います。

○仁比聡平君 今大臣がおっしゃった広島市と県がこの度三万七千人のアンケート、二万七千人の有効回答を得て、そのうち、黒い雨体験者千八百四十四人の綿密な聞き取り調査を行っているわけです。行政がここまで大規模で綿密な聞き取り調査を行ったのは初めてなんですね。
 その中間報告によりますと、お手元の資料の黄色の部分、現行地域指定の六倍、小雨地域の三倍を超える、ここに黒い雨が降ったというふうにされているわけです。この調査は改めて大変重いものだと思いますけれども、大臣、もう一度いかがですか。

○国務大臣(長妻昭君) これも先ほど申し上げた調査、今やっている調査でございますけれども、これは今御紹介いただきましたようにかなり大規模な調査だということで、この調査を行った事実は重く受け止めていこうというふうに思っております。
 これについて、三月末、今月末に最終的な取りまとめが行われるということで、我々も非常に関心を持ってその取りまとめを拝見したいと思っているんですが、中間報告というのが出まして、それも拝見をいたしますと、黒い雨を体験した方の証言により、雨の強さやちり分布等々でこれまで黒い雨が降ったとされる地域よりも広範囲で降った可能性を示唆されておられる方もいらっしゃるということで、それがどういう意味を持つのか、どの程度の方が具体的にどういう証言をされたのかというのも正式な今月末の結果を見て、それを専門家に分析をしてもらって、そして、我々としては、その後対応が必要であればそれを検討していくと、こういうようなことを考えております。

○仁比聡平君 専門家の分析もですが、私は、大臣御自身がこの被災者からの直接の実相の聞き取り、向き合うことが大切だと思うんですね。
 これ、二枚目のこれ資料は、広島県の「黒い雨」原爆被害者の会の皆さんによる独自の健康調査で、区域内なら被爆者とみなされるべき十一の疾病がほぼ認められた方々を宇田降雨図に重ねたものです。これほどたくさんの方々が、がんやあるいは肝炎、甲状腺機能障害などで苦しんでいらっしゃるわけですね。私、この会の総会でたくさんの証言を聞きましたけれども、まさに被爆者そのものですよ。この皆さんの声を、大臣、直接お会いになって聞かれるという、そうした思いはありませんか。その点を是非尋ねて、質問を終わりたいと思います。

○国務大臣(長妻昭君) 先ほども申し上げましたけれども、広島県、広島市の新たな大規模調査の結果がもう今月の末に出てくるということでございますので、その中身をよく分析をして、そして専門家の先生方にも詳細にその中身を分析をしていただいて、そして私としても、厚生労働省としても見解を出したいというふうに考えております。
 そういう中で、その方々に会うということがあれば私もお会いをしようと思っておりますけれども、その前にまず、その評価と検証をきちっと私としても、厚生労働省としてもさせていただくというのがまず先になるというふうに思います。

○委員長(簗瀬進君) 時間が切れています。

○仁比聡平君 ありがとうございました。