193通常国会2017年3月27日予算委員会「共謀罪 条約口実は許されない」
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
共謀罪について伺います。
政府は、三月二十一日、法案を閣議決定し、提出をいたしました。断じて許されません。総理を先頭に政府は、テロ等準備罪であって共謀罪とは全く異なるとか、このままでは東京オリンピックを開催できないと言っても過言でないと強弁してきましたが、二月末、与党に示した政府原案には、案の定と言うべきか、テロとは一言も書かれておりませんでした。そこに与党から、これまでの答弁と整合性が付かないとか、これでは支持者の納得が得られないなど次々不満が上がり、政府は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と書き込んだわけです。
総理にお尋ねしたいと思うんですが、「テロリズム集団その他の」と書き込むことで犯罪が成立する範囲が変わるんですか。
○国務大臣(金田勝年君) ただいま、仁比委員の質問にお答えいたします。
改正後の組織的犯罪処罰法の第六条の二、この案文には「テロリズム集団その他の」と書いてありますが、これは組織的犯罪集団の例示であります。いかなる団体が組織的犯罪集団に該当するのかをより分かりやすくするためのものであります。
○委員長(山本一太君) 総理の答弁求めますか、よろしいですか。
○仁比聡平君 先に伺います。
総理、つまりですよ、「テロリズム集団その他の」というのがある場合とない場合、これで犯罪の成立範囲が異なるのかと。いかがですか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 改正後の組織犯罪処罰法第六条の二の「テロリズム集団その他の」は、これは組織的犯罪集団の例示でありまして、いかなる団体が組織的犯罪集団に該当するのかをより分かりやすくするものでありまして、したがって、「テロリズム集団その他の」がある場合とない場合で犯罪の成立範囲が異なることではないということでございます。
○仁比聡平君 つまり、その言葉があってもなくても意味は変わらないと、そういうことですよね。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) それは今答弁したとおりでございます。
○仁比聡平君 法務大臣は、さきの私の質問に明確に変わらないと答弁をされた。つまり、どう言っても、テロリズム集団という言葉を入れたのは付け足しなんですよ。
政府は、テロ等準備罪を作ることが国際組織犯罪防止条約を締結するのに必要不可欠だと言いますが、そもそも条約はテロ行為を合意することの処罰を義務付けているのかと。
総理、パネルを御覧いただきたいと思うんです。(資料提示)TOC条約の交渉当時、テロ行為を処罰すべきだというエジプトやトルコなどの提案が激しい議論になりました。パネルは、外務省から提出いただいた二〇〇〇年七月に行われた条約起草委員会第十回会合第一週について、我が国交渉団が東京に至急として送った公電を私の方で要点を記したものです。
御覧いただくとおり、テロ犯罪のリスト化にアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、また中国を始めとして主要十八か国が反対を表明したわけですね。その中で、カナダは、テロリズムは別個の問題であるので適当でない、パキスタンは、非同盟諸国会合やイスラム諸国会合などにおいて、首脳レベルで、これが民族自決闘争と区別されるべきことが合意をされている、本条約でテロリズムについて扱うことは非常に危険であると述べています。フランスは、本条約の対象にテロリズムを含めることはテロに関する既存の条約に悪影響を及ぼしかねない、テロに関する既存の条約に悪影響を及ぼすというわけですね。
こうした参加国のテロ犯罪の処罰に反対するという意見を特に交渉団は明記をしたといいますか、特出しをした上で、我が国、日本政府の立場として、これら諸国と同様の理由でリスト化には反対であると、テロリズムについては他のフォーラムで扱うべきであり本条約の対象とすべきでないことを主張したというふうに公電に記されているわけです。
総理、条約の起草段階でテロが議論の対象だったと政府は繰り返してきました。確かに議論になっています。しかし、その議論で、主要国、そして日本政府はテロ行為を対象とすることに反対した。だから、条約はテロ処罰を義務付けるものになっておりません。この公電はそのことを明確に示しています。
総理にお尋ねしたいのですが、このことを総理は御存じだったでしょうか。御存じの上で、この間、テロ対策と強調をしてこられたんでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 御指摘のTOC条約起草時のやり取りでありますが、この各国の発言、そうやって切り取りますと大変分かりにくいんですが、要はこの議論は、テロリズムを条約の中で……(発言する者あり)
○委員長(山本一太君) 静粛に願います。
○国務大臣(岸田文雄君) リスト化するかどうかという議論における各国の発言です。
これ、委員もよく御存じだと思いますが、国連において、テロとかテロリズムの定義というのは大変難しいものがあって延々と議論が行われています。歴史を振り返りましても、例えば植民地からの独立運動において、あるいは中東の動きにおいて、テロというのはどういうふうに定義するかというのは、各国いろんな立場から延々と議論が国連の中で続けられています。そして、結果として、今でもこれ定義というのは結論が出ていないわけです。
ですから、国連で作るこの条約の議論においてテロという言葉を持ち込んできたならば、またこの定義を延々と議論しなければいけない。結果として、これ条約はまとまらないというこの考え方に基づいて各国はそれぞれ発言をしたわけです。ですから、この条約、TOC条約を是非まとめようという前向きな立場からそれぞれこの発言を行って、このテロという言葉についてはそれぞれの考え方を御示しのように示したということです。
これは、結果として、こうした前向きなこの議論がまとまった上で二〇〇〇年にTOC条約は採択されたということです。
これ、もしこのテロという議論にまたはまり込んでしまったら、TOC条約は起草できなかったということになるのではないか。この点について是非お考えいただいた上で、この御議論についても判断していただければと思います。
○仁比聡平君 いや、岸田大臣が今るる大展開されたような難しい議論がある。だから、パキスタン、例えば代表的にこの意見が公電にも書いてあるわけだけど、こうした議論の挙げ句にといいますか上に、この条約、TOC条約はテロリズムを対象とすることにはならなかったと、そういうことじゃないですか。
あのね、大臣、切り取るとね、というよりも総理ですよ、総理、切り取ると分かりにくいなんて言うけれども、この各国の意見に出ているのは、テロの定義というものは、今お話にあったように、これ定まらない。そういう下で、国際的な組織犯罪に対する対処を、しっかり合意する条約作ろうということの議論であって、本条約の対象にテロリズムはしないということですよ。
私は、総理にお尋ねしているのは、この国会でテロ対策だということを総理、強調してこられているわけです。だから伺っている。こうした公電あるいはテロ犯罪を処罰化すべきだというエジプトなどの提案に対して、主要国、そして日本が反対したんだと、当時。そのことを御存じなのかということです。
○委員長(山本一太君) じゃ、まず、岸田外務大臣。(発言する者あり)いや、岸田外務大臣からこの経緯の説明して。岸田外務大臣。
○国務大臣(岸田文雄君) 委員は今、この条約はテロを対象としていないということをおっしゃいましたけど、それは全く間違いであると思っています。
先ほど申し上げたのは、条約の中にこのリストを作る際に、テロというものをリストの中に入れるということについて各国が反対したという経緯を御説明させていただきました。要は、リスト化することによって、またテロの定義のこの議論にはまり込んでしまってこの条約がまとまらないということからこういった議論が行われました。
あくまでもテロは対象にされています。ですから、二〇〇〇年にこの条約は国連総会において採択をされていますが、その採択の時点においてもしっかりと、このTOC条約、テロとの関係において大変重要だということが確認をされています。
これ、内容においてずっとこのテロを対象として議論を行ってきた、これは間違いないところでありますし、採択時においても国連総会でテロとTOC条約のこの関係、重要性についてはしっかり指摘をされているということ、これはしっかり申し上げておかなければならないと思います。
○仁比聡平君 いや、大臣、国連総会の決議などで、国際的組織犯罪の収益がテロ組織の資金源になるといった関連性があると、そう述べられているし、それはそうでしょうと、それ自体は。けれども、国連諸条約は、マフィアを典型とする国際的組織犯罪あるいは国境を越える越境的な組織犯罪とテロリズムというのは、これ別のカテゴリーだということを大前提にしているんだと思うんですよね。実際、政府は、この間の夏にテロ等準備罪などと言い始める前までは、テロと関係ない、そうした趣旨の答弁をしてきているわけでしょう。
総理、このテロリズムを条約の犯罪化の対象とするかについて、こうした激しい議論があり、日本政府を含め主要国は反対をしていた。そのことを、共謀罪をテロ対策だと言いながら、この大事なことを説明をしてこなかった。結局、隠してきたんじゃないのかと。条約をテロを対象とすべきか最後まで各国間に深い対立があって対象とせずに調印をされた、それが歴史の事実であって、これをあたかもテロ処罰を義務付けるものであるかのように百八十度ねじ曲げる、それは許されないんじゃないですか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) ただいま岸田外務大臣から答弁をさせていただいたように、今そこのフリップに挙げられているどうしてそういう議論があったかといえば、テロ、テロリズムというこの言葉についての定義がない中で、そこにはまってしまうとこの条約がこれはむしろ難破してしまうという中においての議論であって、そして、結果として、結果としては本条約にはテロに直接言及する規定は設けられなかったのでありますが、テロ組織が本条約に言う組織的な犯罪集団に該当する場合、そのような組織が行う犯罪は本条約の対象となるわけでございます。
ということはまず押さえておいていただいて、その後、言わば九・一一が発生したわけであります。アルカイダによる九・一一テロが発生し、さらにISILのような凶悪な組織も登場して、こうした組織は様々な犯罪行為で収益を上げ、それを資金源に暴力的な行為を行っていることは確かなことであります。
という中において、また、この本条約はマネーロンダリングの犯罪化を義務付けておりまして、テロ行為それ自体への対処のみならず、テロ組織の資金源となっている犯罪行為にも対処でき、テロの根本を断つことができるわけでありまして、例えばイラクやシリアにおけるISILは、人身取引や不法取引ネットワークを活用した原油の取引により不正に利益を得ている。この利益を元にテロを行っているわけであります。と同時に、また例えばアフリカのサヘル地域においては、アルカイダは薬物等の密輸品の取引業者に対する非公式な徴税によって収益を得ております。また、アフガンによる、タリバンはあへんの取引により多額の収益を上げておりまして、このようなことが国連の報告書においても取り上げられているところでございますし、また、二〇一四年十二月に採択された安保理決議では、あらゆる形態のテロリズムを防止するために協同して取り組むことの必要性を強調し、そして国際組織犯罪防止条約を始めとする国際約束を優先的に批准し、加入し、実施することを加盟国に要請し、テロリストが国際組織犯罪から資金を得ることを防止するよう明確に求めているところでございます。
○仁比聡平君 いろいろおっしゃるんですけど、今総理がおっしゃった国際的なテロ対策の必要性に対しては、私どもが申し上げてきた国連の関連十三条約があり、あるいは十四条約があり、その実施のための国内法整備や国際協力というのは、これずっと進めてきた。実際に具体化してきているじゃないですか。
私が聞いているのは、そんな理由であるいは言い方で安倍政権が今このTOC条約をどう解釈しているのかではないんですよ。条約はそもそもどういう意味で調印をされたのか、そこが重要でしょうと。主要国はテロ犯罪化に反対し、日本政府も反対した。それを今テロ等準備罪などと呼ぶごまかしというのは、これは国民を欺くこそくなやり方ですよ。現行法で条約は締結できるんです。
委員長、私に開示された公電を見る限り、テロ処罰が条約の対象となったという記載は一切ございません。政府は、テロ等準備罪が条約で求められているというのなら、交渉過程で本国に発信された公式協議、非公式協議、この全ての公電を提出すべきだと思います。特に、条約五条が今のようにまとまる上で重要な役割を果たした日本政府の提案が第七回会合で行われていますが、その経緯はいまだ示されておりません。
その直前に行われた米国、カナダなどとの二〇〇〇年一月第七回会合における非公式協議の公電の提出を私、強く求めたいと思いますが、お取り計らいをお願いします。
○委員長(山本一太君) 後刻理事会で協議をいたします。
○仁比聡平君 広く合意を処罰する共謀罪は、人々の話合い、合意をその中身ゆえに罰することになります。一般人か組織的犯罪集団かは事案ごとの警察の認定次第になる。実行準備行為がなければ処罰しないと言うけれども、犯罪の下見か、それとも花見や散歩なのかは外見からは分かりませんから、目的、つまり内心が捜査の対象となる。政府が衆参予算委員会で認めてきたことです。
その警察は一体何をやってきたか。先日、GPS捜査を違法とする最高裁判決が出されました。警察官が、車の持ち主に知られないように車庫や時にはラブホテルの駐車場にまで立ち入って、GPS端末をこっそり、総理、御存じですか、自動車の底だとかバイクの見えないところだとかに磁石だとか両面テープで貼り付けるわけです。それも被疑者だけではない。知人や交際相手の車にも付ける。そして、二十四時間三百六十五日、どこにいるのか、どこに立ち寄っているのか、監視し続けるんですね。やろうと思えば、その位置情報を記録し、蓄積して、分析することもできるし、精度も使い勝手も技術は日進月歩なんです。
警察は、それを目立たないところに付け、傷も付かないから権利侵害ではないなどと言ってきました。公道で行動する者は自分の行動を他人にさらしているんだからプライバシーの利益はないなどとも言ってきました。それで、令状を求めて裁判所のチェックを受けることも考えずに、ひそかに警察内部の判断だけでやり続けてきたわけですよ。
そうした捜査を厳しく弾劾した最高裁判決はこう述べています。憲法三十五条の保障対象には、住居、書類及び所持品に準ずる私的領域に侵入されることのない権利が含まれるものと解するのが相当であるところ、GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う、個人のプライバシーを侵害し得るものであって、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品にひそかに装着することによって行う点において、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。したがって、GPS捜査は、憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、令状がなければ行うことのできない強制の処分と解すべきであるというんですね。
総理、合意を処罰するということは、人の人格の中核にあるプライバシーを深く侵害し、内心の領域に刑罰をもって踏み込むことです。ありふれた日常の行動との境界が極めて曖昧で不明確な刑罰を作ったら、人が何か話し合っている、それは何か犯罪をたくらんでいるのではないかと、警察がしかもひそかに……
○委員長(山本一太君) 仁比君、時間が終わっておりますので、まとめてください。
○仁比聡平君 嫌疑を掛けていくことになる。安倍総理、これは絶対に許されないですよ。共謀罪は憲法違反、断固として撤回すべきだと。
答弁を求めたいと思いましたが、残念ながら時間が参りましたので、今日はここで質問を終わります。
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