○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

一月十九日のこの委員会で、私の質問に大臣はおおむね、公選法の選挙権年齢と少年法適用年齢は必ずしも連動しない、再犯、再非行は刑事施設と比較して有意に低く、少年院での矯正教育は一定の効果を上げているという趣旨の御答弁をされました。そんな謙遜することはない、我が国の戦後少年法の仕組みは世界的に見ても極めて有効に機能していると私は申し上げたわけですが、しかし、そうした少年法や少年事件の現状と少年法に対する国民の意識との間にはある種の乖離があるのが一方の現実のように思うんです。

例えば、内閣府の二〇一五年、少年非行に関する世論調査で、五年前に比べて少年の重大な事件が増加したとお答えになった方が七八・六%、およそ八割で、減少したという方が二・五%、変わらないと答えた方は一六・八%だったわけですね。こうした少年非行の動向の見方もその一つだと思うんです。

そこで、まず法務省に、五年前に比べて少年非行、また重大事件は増えているのか、この点についてお尋ねしたいと思います。

○政府参考人(高嶋智光君) 平成二十七年度版犯罪白書によりますと、まず一般的に、少年による一般刑法犯の検挙人員は平成十六年以降ずっと減少しておりまして、平成二十六年は一般刑法犯は六万二百五十一人の検挙人員でございました。他方、少年十万人当たり、これは十歳以上の少年ですが、十歳以上の少年十万人当たりの一般刑法犯の検挙人員の割合は、成人の十万人当たりの一般刑法犯の検挙人員の割合よりは高くはなっております。

さらに、御指摘の凶悪犯罪、また重大犯罪の一つでございます殺人罪の検挙人員でございますが、平成二十七年度版白書によりますと、平成二十二年以降はおおむね横ばいで推移しておりまして、平成二十六年は五十二人でありました。

○仁比聡平君 つまり大きく減っているわけですね。

念のため確認ですけれども、先ほどお話のあった人口比ですが、これ少年の人口比で見ても、つまり少年の数そのものが大きく減ってきているわけですけれども、それ以上にその少年の中で非行に走る、陥る、その子たちは急激に減っているというふうに思うんですが、いかがですか。

○政府参考人(高嶋智光君) 先ほどの人口比でございますが、人口比の割合についても減っているということは、すなわち人口比以上に減っている、犯罪が減っている、人口が減少した割合以上に犯罪自体が減っていると、こういう趣旨でございます。委員御指摘のとおりでございます。

○仁比聡平君 大人に比べて少し人口比が高いという御発言もあったんですけれども、どの国でも子供が逸脱行動に走るというのはこれは多く見られることであって、日本の特徴というのは、前回も議論させていただきましたけれども、初発非行の年齢と累犯化の関係が著しい欧米に対して、初発への介入が適切に行われて効果を上げているという評価もされていることがその数字にも出ていると思うんですね。いずれにしろ、つまり大きく減っているわけです。

ちょっともう一個確認しておきますが、犯罪白書を始めとした刑事司法の統計の中で、少年非行全体が凶悪化しているということを基礎付ける資料や分析というのは何かありますか。

○政府参考人(高嶋智光君) 今年度の二十七年度犯罪白書におきましては、そのような記述はございません。

○仁比聡平君 そのとおりです。

ちなみに、家庭裁判所の少年保護事件、一般保護事件の数を見ましても、二〇一〇年と二〇一五年で比較しますと、およそ事件数というのは四割以上、四二%から四三%、大きく減っているわけです。

そこで、大臣にお尋ねしたいんですが、大きく減っている、これはいいこと、つまり全体としては大きく改善されていると言ってよいと思うんですが、いかがでしょうか。

○国務大臣(岩城光英君) 平成二十七年版犯罪白書、これによりまして、少年による一般刑法犯の検挙人員については、先ほど答弁したとおり、平成十六年から減少しております。そして人口比も、この割合は先ほど答弁したとおり減っているわけですけれども、成人の割合よりも高いということは、これも今御指摘のあったとおりの状況だと思います。さらに、少年による殺人の検挙人員についても、先ほど政府参考人が答弁したとおりでありますが、過去五年間では大きな変化がないものと認識をしております。

加えまして、警察庁生活安全局少年課が作成した少年非行情勢によれば、社会の耳目を集める凶悪犯罪が発生しているほか、振り込め詐欺の検挙人員が増加、また再犯者率の上昇など、少年非行を取り巻く情勢は引き続き厳しい状況にあるとされておるわけでございます。

したがいまして、少年犯罪に対する対策は引き続き重要であると、そのようには認識をしております。

○仁比聡平君 大臣の御答弁の中で今触れられた社会の耳目を集める事件、こうした事件や振り込め詐欺などが存在して、この対処が必要なのだということについては、これはもちろんそのとおりだと思うわけですね。

問題は、少年非行全体が凶悪化しているという何かの根拠があるかというと、それはないということだと思うんですね。全体としては大きく改善されていると。一方では、国民意識として少年事件や少年法に厳しい見方がある。ここにある種の、まあ言葉がこれで正しいかどうか分かりませんが、乖離があるとしたら、これは大臣、どんなふうに捉えておられますか。

○国務大臣(岩城光英君) 国民の皆様方が、少年の事件、これが非常に重大事件が増えていると、そうした認識についての私の考えでよろしいですか。

○仁比聡平君 はい。

○国務大臣(岩城光英君) 昨年行われました少年非行に関する世論調査において、少年による重大な犯罪が増えていると思うと回答した方が多いとの結果が出ております。そのような回答が多数を占めた理由については、そもそもこの世論調査においてなぜ増えたと思うかという質問がありませんので、お答えすることはちょっと難しいなと考えております。

ただ、この点に関しまして、若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会におけるヒアリングに応じていただいた有識者の方々からはこんな意見が出されております。一つには、テレビやインターネットなどの影響を指摘する御意見、それから報道の現場としても凶悪事件が後を絶たないという実感があり、一般人も同じような感覚ではないかと、こういった意見などが述べられたものと承知をしております。

ですから、といったことが国民の世論の形成になっているのかなと、そんなふうに受け止めております。

○仁比聡平君 今の御答弁は、つまり、そうした勉強会で述べられている意見なども踏まえながら勉強、探求していくべき課題という御認識なのかなとも思ったんですけれども、その勉強会が今急ぎ足で開催されているわけですが、これは確認でお伺いしたいんですが、少年法と少年非行の現状が国民的に理解されないまま、適用年齢の引下げという刑事政策上の大きな変更を引下げありきで進めてはならないと思いますが、大臣、いかがですか。

○国務大臣(岩城光英君) 少年法の適用対象年齢につきましては、少年非行の情勢などの少年法固有の観点から検討を行う必要があるほか、公職選挙法の選挙権年齢や民法の成年年齢についても考慮する必要があると考えております。

そこで、法務省におきましては、若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会、先ほども申し上げましたが、これを開催し、少年法の適用対象年齢を引き下げるべきか、仮に引き下げる場合には刑事政策上どのような措置が必要となるのかといった点を含む幅広い事項に関連する検討を行うための基礎的な知見を得ることとしているところでございます。

○仁比聡平君 つまり、引下げありきではないんだということですね、ちょっと念のため。

○国務大臣(岩城光英君) ですから、引き下げるという方針を決めて勉強会を重ねているとか検討しているということではございません。

○仁比聡平君 その第四回の勉強会で主婦連合会の方が、ヒアリングを受けることが決まってから女子少年院と少年刑務所の視察をしたと、想像していた以上に非常に手厚く丁寧に行われていて、その理念、実践共に社会システムとしてとても誇れるものであると再認識したと述べていらっしゃいます。

また、全国高等学校長協会会長の先生は、この機会に初めて少年鑑別所と少年院を訪問した、本当にびっくりしたというか、ここまで丁寧にやっているのだと思った、子供たちは恐らくここまで自分のことで丁寧に関わってもらったという経験はこれが初めてなのかなと思うくらいだったとおっしゃっているんですね。

校長会の会長の先生が、子供たちはここまで自分のことで丁寧に関わってもらったという経験はこれが初めてなのではないか、つまり少年司法の処遇において初めて体験しているのではないかと感想を述べておられるのは、僕はとても大事だと思うんですね。

少年法の議論は、少年非行の現状や背景を把握して、こうした少年司法の現実の姿とともに広く国民の皆さんと共有をするということがまず重要であるし、出発点なのではないかと思いますが、大臣、いかがですか。

○国務大臣(岩城光英君) 委員がおっしゃるとおり、現状を把握して、その把握した現状を国民と共有していく、国民の皆様方に広く知っていただく、そのことは極めて大事なことだと思っております。

○仁比聡平君 今、世の中を見ますと、犯罪や非行に対して自己責任のみを強調して制裁と排除を求める、そうした風潮というのもあるように思うんですね。非行の背景、要因を明らかにして、それに対応した貧困対策、社会的支援など諸政策を進める、強めるということでこそ非行、再非行や犯罪の減少につなげていくことができる、私はそうしたことがとても今大事なのではないかと思います。少年法を始めとした法改正や刑事政策を議論するならば、エビデンスに基づいた議論、立法事実を探求する議論を行うべきが政府と国会の務めだと思うんですね。

その国会議員、とりわけ与党自民党の例えば稲田朋美政調会長が、一年前、少年犯罪が非常に凶悪化していると、少年法見直しを強調したといった報道がされましたけれども、引下げありきで排除の風潮をあおるような発言というのはもうおやめになるべきだというふうに思うんですね。

そこで、非行の要因について次にお尋ねしたいと思うんです。

厳密にその少年の非行との因果関係が認められる原因かどうかというのはこれはちょっと別に置いて、非行に至る要因や要素として諸外国でこうした研究があります。反社会的な仲間集団の存在、家庭の社会経済的地位の低さ、反社会的な親の存在、放任や厳し過ぎなど不適切な親子関係、親による虐待、学校での態度や成績の悪さ、こうした要因が非行に影響を与えるという研究なわけですが、こうした要因の分析は刑事政策を検討する上で私は重要だと思うんですね。

そこで、大臣は、少年のこうした養育環境や学歴あるいは階層、これは非行に関連ないし影響があるとお考えですか。

○国務大臣(岩城光英君) 少年の非行には、本人の資質とともに、家庭、学校、職場等の様々な問題が多重的、複合的に関わっているものと、そのように認識をしております。そのような問題を抱える少年非行について、矯正関係機関としては、少年鑑別所において非行の背景にある資質上及び環境上の問題を明らかにするように努めております。また、家庭裁判所の保護処分により少年院送致となった場合には、その少年院において、個々の在院者の性格、年齢、経歴、心身の状況及び発達の程度、非行の状況、家庭環境その他の事情を踏まえた矯正教育を行ってきております。

今般の少年院法の改正及び少年鑑別所法の制定を機に、少年鑑別所におきましてはより精度の高い鑑別等に努めており、少年院においては個々の在院者の事情に応じた各種プログラムの実施や就労・修学支援等の社会復帰支援の一層の充実に努めております。これからも、そういった意味で個々の少年非行の問題性に柔軟に対応しつつ、処遇に資する鑑別やきめの細かい矯正教育、そういった対応をしてまいりたいと考えております。

○仁比聡平君 私が大臣にもう一度確認したいのは、養育環境だとか学歴、階層などが非行に影響があるかという問題なんです。例えば、先ほど来法務省の方でお答えいただいている犯罪白書には、少年院の入院者のそうした例えば教育程度だとか、実母のみといったその親の状況などを分析をしておりますし、平成二十三年の犯罪白書ではそうした要因に迫る特集を組んでもいらっしゃるわけですけれども、それはつまりそうした要因が非行に影響があるという、その認識ということですよね、大臣。

○国務大臣(岩城光英君) 今お話がありましたとおり、犯罪白書におきましても、本人の資質の問題のみならず、家庭、それから学校、職場、地域社会といったレベルを異にする環境上の問題等、様々な問題が多面的、複合的に関わっている、こういったことが明らかにされておりますので、私自身も、先ほども申し上げましたとおり、そういう同じ認識でおります。

○仁比聡平君 そこで、最高裁家庭局長においでいただきまして、一問だけお尋ねしたいんですが、お手元に資料をお配りをいたしました。これ、家庭裁判所が少年ごとに記載をする少年一般保護事件票というもので、家庭裁判所や最高裁の司法統計の基礎になるものだと思うんですけれども、このお手元にあるのは平成十年までのものなんですね。私がラインマーカーを付けましたように、本件行為時の少年の教育程度に加えて、右の欄にその行為時の職業があったかなかったかなど、それから、その行為時の保護者として実父母がそろっているか、あるいは一人親か、あるいは祖父母が同居しておるか、養父母かなどの種別、生活の程度が富裕か普通か貧困か被保護かなど、そして親御さんの職業がどんな職業かといった項目について調査をそれまではしていたわけです。

これ、調査していた理由はまず何でしょうか。

○最高裁判所長官代理者(村田斉志君) お答え申し上げます。

現在の裁判統計の主な項目には、お配りの資料にもいろいろございますとおり、裁判所が取り扱っております事件の数ですとか種類、審理期間等の審理の状況、それから結果と、こういったことがございまして、これらは裁判所が取り扱っておりますところの各種事件の処理状況、これを明らかにするという目的で統計項目とされているものと考えております。

また、統計のそれ以外の目的としては、各事件処理をする上で参考となり得る資料を収集すると、こういう目的もあろうかと思いますが、委員御指摘の少年の行為時の職業ですとか保護者の種別というようなことで御紹介をいただきました事項は少年の環境に関する事項と考えられますので、今申し上げた目的のうちの後者の方、すなわち事件処理をする上で参考となり得る資料を収集するという目的に資すると考えられて調査をしていたものというふうに考えられます。

ただ、この点に関して、この記録を取っていた当時の正確な記録が残っておりませんので、確実な理由としてお答えを申し上げることは難しいというところは御理解をいただきたいと思います。

○仁比聡平君 というように、少年の環境に関する事項としてこうした統計をしていたんだけれども、九九年以降、この項目を取らなくなった。ですから、その後、この項目は統計上表れなくなっているわけです。

端的に言えば、私、こうした調査項目をよく検討して、このままでいいかというのはあるかもしれないんですが、更に虐待の有無なども加えて改めて調査対象とするようにしてはいかがかと思うんです。

といいますのは、もう皆さん御存じのとおり、少年事件は全件家庭裁判所に送致されるという全件送致主義の下で、その審判は非公開で行われるという、この大原則はとても大事なことなわけですが、そうした下で、多くの国民の皆さんにとって、あるいは犯罪学などの研究者の皆さんにとっても個々の事件の審判の中というのは全然分からないわけですね。ですから、少年法、あるいは少年非行の現状、処遇の取組というのを広く共有して研究に資していく、それが刑事政策の基礎資料を充実させることにもなるという上で、家庭裁判所が果たしていただく責務というのはやっぱり大きいものがあるんじゃないかというふうに思うんですね。

そうした中で、もちろん職員さんの負担などは、事件数は大きく減っているわけですけど、その下で必要な増員を是非大臣にもお願いしたいとも思うんですけれども、方向性としてこうした項目を言わば復活させるというふうにした方がいいんじゃないかと思うんですが、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(村田斉志君) お答え申し上げます。

申し上げるまでもなく、裁判所の役割は個別具体的な事件を適正、迅速に処理をするということでございますので、委員のお話にありましたような非行の現状を広く国民との間で共有したり一般的に研究に資する資料を提供しよう、あるいは刑事政策の基礎資料のためというような、そういう目的で統計事務を裁判所が行うというのはなかなか裁判所の役割としてはそぐわないところがあるのかなというふうに考えておりまして、そういう目的のために一般的な統計項目に改めて加えるというところは現時点では考えておらないというところでございます。

○仁比聡平君 現時点では考えておらないということなんですけれども、戦後七十年にわたっての少年審判社会調査の中で積み重ねられている少年非行の見方というのは、これはとても大事な財産だと思います。個々の事件を適正に解決をしていくということを進めながら、是非御検討を願いたいと思うんです。

時間が参りましたので、少年院の多様な取組について御答弁をいただく時間がなくなってしまったのが残念なんですが、男子の和泉学園のウオーターボーイズだったり女子の青葉女子学園のオペレッタだったり、本当に高い評価を受けている個別処遇と多様性という実践があります。是非大臣も現場を見に行っていただいて大いに応援をしてもらいたいということを強くお願いして、今日は質問を終わります。