5月28日 憲法審査会

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

 今日は、まず最低投票率についてお尋ねしたいと思います。

 七年前の改憲手続法案の審議で、最低投票率を定めないなら、投票権者の僅か一割、二割の賛成でも改憲案が通る仕組みになってしまうという根本的欠陥が大問題となりました。当時行われた世論調査、新聞の世論調査で、定めないのはおかしいとする国民の皆さんが八割に達したというこの結果は、当時法案の審議中でございました参議院に大きな衝撃を与えて、法案審議の重要な焦点ともなりました。その結果、十八項目に及ぶ附帯決議の一項目として、「低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること。」という項目が付されたわけです。

 今回の改定案の提出に当たって、発議者の皆さんの中でこの国民投票の最低投票率の定めをどうすべきかについて調査だとか検討がなされた形跡が私にはうかがわれません。

 船田議員にまずお尋ねしたいと思うんですが、この参議院の当時の憲法調査特別委員会で付された附帯決議は、自民党、公明党、そして民主党の共同提案によるものです。この共同提案会派でありながら一顧だにしなかったのか、いかがですか。

○衆議院議員(船田元君) お答えいたします。

 最低投票率の問題につきましては、七年前の参議院の議論におきましても大変大きな議論であったことを私も記憶をしております。また、その結果として参議院における附帯決議、十八項目ございますが、そのうちの一つに入ったということも理解をしております。

 また、考え方として、衆参両院に分かれておりますけれども、参議院での決議、これにつきまして直接的に衆議院を縛るものではないと考えております。またその逆もしかりでございますけれども、やはり国会での取決めでございますので、その点は衆議院においてもこれは十分に検討しなければいけない、尊重しなければいけないということはまず申し上げなければいけないと思っております。

 その上で、じゃ、全然その議論もしなかったのか、あるいは調査等もしなかったのかということでございますが、この最低投票率につきましては何回か私ども衆議院側で、憲法審査会、あるいはその前の憲法特別委員会、あるいは憲法調査会、それで何回か海外の視察もいたしました。その中で、やはり最低投票率を設けている国、設けていない国、様々ございまして、それぞれのメリット、デメリットについてその現地の担当者に問い合わせる、あるいは問いただす、そういったこともやってまいりました。また、今回の改正案における衆議院での議論におきましても、記憶は定かではございませんけれども、複数の政党からの質疑の中で、この最低投票率いかがかということで御質問いただき、それに答弁をさせていただいた次第でございます。

 現状におきまして、私としては、やはりまだ最低投票率を設けることについては疑義があると、このように感じております。理由は、この間も申し上げましたけれども、投票権者の意思の捉え方、棄権の票というものをどう捉えるかということで、これを反対にみなすということは、これは意思を測り過ぎてしまってはいないだろうか、あるいは民意のパラドックスがあるのではないか、さらにボイコット運動を誘発することになるのではないか等々、様々な課題があると思っておりまして、そのことについては最終的に結論が全て出たということでは決してございませんで、これからもこの点を中心に議論を進めていきたい、多くの皆さんと議論していきたい、このように感じておる次第でございますが、現状においては最低投票率は大変導入することはかなり厳しいのではないかと、こういう認識に立っております。

○仁比聡平君 議論をすべきだというのであれば、この審査会で徹底して議論し、その前提として行うべき調査は行うべきではないかと私は思います。

 憲法調査会の時代あるいは調査特別委員会の時期に、今、船田議員がおっしゃったような衆議院における調査が仮にあったとしても、この改定案の発議に、発議というか提案に至る提案会派の皆さんの議論の中に、最低投票率制度についての調査や検討というのは行われていないんじゃないんですか。実際、改定案が提出された後の衆議院の僅かな審議時間の議論があったという御紹介だけで、七年前の改憲手続法案そのものの根本的な欠陥であるという議論を乗り越えることなど絶対にできないし、これで動かすことができるということには私ならないと思うんですよ。

 この問題は、国民主権原理と憲法九十六条が求める憲法改正手続の意義をどう考えるのかという問題に関わっています。私、七年前に、各議院の三分の二以上の多数によって憲法改正案が発議されたという場面においても、発議した国会の意思とは全く別に、主権者である国民の意思が優位する、つまり、国民投票というのは国会の発議の追認ではなくて、憲法をどうするかの決定権は国民一人一人とその総意にあるのであって、たとえ国会が三分の二以上の承認で憲法を変えようという発議、国民にとっては提案をされたとしても、その投票、国民の投票で過半数の賛成があって初めて憲法改正が成立する、それが憲法九十六条が定めているところではないかという理解を皆さんに確認をしようとして、かなりの議論がありました。

 ですが、議論の挙げ句、私が今申し上げた趣旨は、当時、発議者において確認されたと理解をしているんですが、船田議員、いかがですか。

○衆議院議員(船田元君) お答えいたします。

 直接のお答えになるかどうかは分かりませんが、まず最初に仁比議員から御指摘をいただいた点でございます。

 最低投票率について、今回の改正案を出すまでの間に議論をしたかということでございますが、それは残念ながら、各党間でメーンのテーマとしてなってはおりませんでした。これは、今回の改正をする場合の我々の目的、ミッションとしては、いわゆる三つの宿題を中心として、これを解決するためにどうするかということの議論に終始をしたということでございまして、最低投票率の制度の導入については三つの宿題の中には入っていなかったということが一つございます。

 それから、最低投票率が設定されないことが制度の重大な欠陥であるという御指摘でございますが、決して私はそのようには感じておりません。もちろん、投票率が高くなるということは望ましいことであり、そして民意の反映がそういう中でしっかり行われるということは、これは我々が努力をしなければいけない点でありますが、そのことを全て最低投票率の設定に委ねてしまうというのはいかがなものかというふうにも考えております。

 我々の努力は、やはり投票率をできるだけ上げるということであり、また投票率が上がるような発議を、そういう内容を持った発議にしなければいけない、こういうことで国会としての責任を果たすべきものであると、まずはそのように考えております。

○仁比聡平君 私の質問にはお答えになっておられないんですけど。

 まず、今お話しになった点について、三つの宿題を解くために終始したというのは皆さんの御事情ですけれども、この三つの宿題を解いて動かすためにというので、船田議員と私で定めるべきかどうかという議論について立場は違って構わないんですよ。ですが、七年前にあれだけこの国会を包囲をした国民の皆さんからも声が上がり、世論調査では八割という人たちが設けないのはおかしいという、そういう声を出していた最低投票率制度の問題について議論をせずに、検討さえせずに動かせるものかということを私は申し上げているんですね。先ほどの御答弁で一顧だにされていないということは明らかになりましたが、だったらば、この参議院の審査会は、当の附帯決議を上げた参議院の立場で徹底した議論をすべきだと私は申し上げたいと思います。

 それで、先ほどの九十六条の趣旨ですけれども、発議した国会の意思とは全く別に、国民一人一人がその投票において憲法をどうするかの決定権を持っている、その九十六条の趣旨についてはいかがですか。

○衆議院議員(船田元君) 九十六条の趣旨は、主権者としての国民が、憲法というまさに基本的な政策について主権を生かす、主権を発揮しまして賛成なのか反対なのかその意思表示を行って、それが半数を超えた場合には国民の意思として憲法改正が行われる、その手続の重要な部分を九十六条が規定したものと理解しております。

○仁比聡平君 主権者として、憲法改正権限、憲法制定権力のその改正に当たっての行使を直接行う場面なわけですから、主権者国民が時の政府の手を縛るという立憲主義からしても、今私が申し上げていること、それから船田議員が端的におっしゃったこと、これは当然のことだと思うんですね。

 国会の発議は国民代表機関による提案であって、決めるのは主権者国民だということです。それが二割足らずといった低い賛成率で変えられ得ると、必ずそうなると私は申し上げているわけじゃないんですよ、変えられ得るという制度はおかしいのではないかというのが随分議論になりました。

 そのときに、北側議員にお尋ねしたいと思うんですけれど、当時の公明党の発議者として赤松議員がいらっしゃったんですが、私、おかしいとは思わないかと、国民の、あるいは投票権者の二割足らずで憲法が変えられ得るというのはおかしいとは感じないかとお尋ねをしたところ、赤松議員は当時、おかしいと思いますと答弁をされたんですが、北側議員はいかがですか。

○衆議院議員(北側一雄君) 国民投票をやった場合の投票率が高いことにこしたことはない、低くないようにしなければならないという意味では私もそのように思いますが、最低投票率制度ということを設けることについては、先ほど船田さんがおっしゃったこと、全く私も同じ意見でございます。

 広く国民投票をする際に、多くの国民の方々に参加をしていただく、そしてまた投票機会を広く認めていくように様々な施策を取っていくという努力は当然のことながらしなければなりませんし、現行の国民投票法の中にも、また今回の改正案の中にも、そもそも十八歳投票権を認めようというのもそういう趣旨でございまして、幅広い国民の方々の声を聞かないといけないというのはそのとおりですし、その機会の保障はしっかりとやっていく。しかし、最低投票率制度というのを制度として設けることには様々な課題、先ほど船田さんが述べたような問題点が多いなというふうに私は感じております。

○仁比聡平君 様々な課題があるという御認識があればこそ、調査や検討を徹底して行うということが必要だと思います。

 先ほど船田議員が設けるべきでないという理由としておっしゃった、棄権を反対にみなすのはいかがかというのは、賛成という国民の皆さんがどれだけいるかが承認において大切なことなので、その点をよく議論するといいますか、ちょっと認識の仕方が違うのかなと思うんですね。

 民意のパラドックスという問題は、同じ改憲案、一つの改憲案についてもう一度投票するといったことがあって初めてパラドックスが起こったということが分かるのではないのか。現実の国民投票で先ほど来お話しになっているような発議をして、その一回の国民投票で物事が決するわけでしょうから、テーマが違ったり時期が違ったりすれば様々な投票率なり国民の関心ということになるのに決まっているわけですよね。ですから、その議論というのは本当に論理的にも成り立っているのか、よく議論する必要があるのではないかと思います。

 まして七年前には、憲法九十六条に最低投票率の定めがないから設けてはならないという議論がしきりにされました。しかし、現行法の発議に関する両院協議会について憲法九十六条は定めていないのに、皆さんは設けた。にもかかわらず、憲法が明文で規定していないからといって最低投票率は定めてはならないと。それを根拠にするのはこれは御都合主義ではないかという議論を私、させていただきました。

 いずれにしても、今日これを直接議論していこうとは思いませんけれども、調査や検討もせずに宿題を解いたといってともかく動かそうとする、それは結局、できる限り低いハードルで改憲案を押し通そうということになるんですよ。とんでもないことであって、何も急ぐ必要はないわけですから、衆議院でそうした議論の上で当院に送られてきたということであれば、この参議院の審査会で徹底した審議が必要だということを重ねて申し上げたいと思います。

 次に、国民投票運動の自由に関してお尋ねしたいと思います。

 衆議院の五月八日の参考人質疑で、日弁連の水地参考人がこんなふうにおっしゃっています。憲法改正手続では、いかに主権者である国民が萎縮することなく自由に憲法改正についての意見表明ができるか、憲法改正の最終決定者である国民の間において、いかに自由闊達な議論ができるかが何より重要であります、したがいまして、あらゆる公務員を含む国民の意見表明の自由が実質的に確保されなければならず、ましてや罰則をもって規制されるべきではないと考えますという趣旨なんですね。

 私は、こうした考え方が七年前の議論の中で深まっていったと思います。前回、裁判官を始めとした特定公務員四職種に対する規制を七年前削除したのに、逆行して改定案が復活をするということは重大であり、この日弁連の参考人がおっしゃるような、憲法上重要な意義を持つ運動の自由を制約するどんな憲法上の根拠があるのかと伺いましたけれども、私、まともに御答弁をいただけなかったと感じております。

 ジャッジする立場という議論が衆議院から行われているんですが、七年前も同じであって、裁判官やあるいは捜査に携わる公務員がジャッジする立場にあるというのは、これは七年前から同じじゃないですか。その上で七年前は外したんですね。だったら、この七年間の間に、例えば裁判官がとんでもない行動を行う、それが類型的に認められると、そんな事態でもあったというのかと。

 この改定案で規制を復活するという立法事実があるというなら示していただきたいと思いますが、船田さん、いかがですか。

○衆議院議員(船田元君) 公務員の運動規制については、これまでも様々な経過、そして様々な紆余曲折があったということは認める次第でございます。

 ただ、今お話しになったようないわゆる特定公務員の運動規制ということについて、確かに七年前はまだ国家公務員と地方公務員の勧誘行為における規制の在り方、そこには、例えば地方公務員においては公の投票という言葉があるために、国民投票運動における勧誘が国家公務員には認められ、地方公務員には認められないというアンバランスが生じている、こういう問題が一方でございまして、それが整理されていない、こういう状況の中でこの特定公務員の扱いということも議論されておりました。

 しかし、今回、純粋な勧誘行為はこれはオーケーである、しかし他の政治的目的を持って政治的な行為を行うことについてはその限りではないという切り分けをした。その途端に、やはり純粋な勧誘行為であっても、これは特定公務員の場合にはどうなのかという新たな問題が発生をした。それに対しては、特定公務員の中でも、先ほどおっしゃったようなジャッジをする立場、取り締まる立場ということにおいては、やはりそこは一定の制限を加えるのが妥当ではないかということで、また議論の前提が前回よりも変化をしているということについて是非御理解をいただきたいと思っております。また、その上で、地位利用に罰則を付けるかどうかという課題、それから組織による勧誘等の行為はどうなのかという課題、こういった課題も新たに出てまいりました。

 したがいまして、これは宿題を解いた、どうかということよりも、新たな宿題といいましょうか、宿題が深化してきたと、深まってきたと、こういうふうに理解をしているものであります。特定公務員の新たな規制ということにつきましても、これは宿題が深化した、このような中で議論されてくる問題であり、またそのような前提で議論をしてきたというふうに我々は考えています。

○仁比聡平君 国会の議員の側のその議論の前提が変わったというので、なぜ主権者である国民の投票運動の自由が、前は自由になったのに、自由がちゃんと保障されるという形の法律が作られたのに、それが一度も行使される間もなく今度は駄目だと、そんなことになっちゃうのか、私はよく分からないですね。

 この国民投票運動の自由の意義というのは、私は九十六条の改正に当たる決定権が国民にあるのだということと深く関わっていると思います。つまり、たとえ国会が三分の二以上の多数をもって改正案を発議したとしても、国民はそれとは異なる意思決定が十分に保障されなければならないということなんですよね。よく人気投票だとか、あるいは気分や衝動に左右されてはならないという議論がありますけれども、そうならないためには、その改正案の意味がどういう中身なのか、どんな議論が国民の中で行われているのか、周りの人たちがどんな意見を真摯に持っていらっしゃるのか、そういう議論が国民的に、あたかも一億数千万の国民全体が一つの議場であるかのように徹底して自由闊達な議論がされなければ、真摯な意思を形成し、投票に臨むことができないからだと思います。

 私は、そうした自由闊達な国民投票運動ということ自体を、例えば船田議員が損なおうとしているものだとは思いたくないんですけれども、ちょっとそうした前提で枝野議員にお尋ねしたいと思うんですが、当時、この公務員や教育者はおよそ五百万人に及ぶと言われ、この方々に取り返しの付かない萎縮的効果を与えるということになれば、これは国民全体の申し上げているような自由闊達な討論そのものを大きく萎縮させるのではないか、こうした認識が随分深まったと思います。

 そうした中で現行法に付されたのが附則十一条なのではないかと思うんですね。この議場の皆さんには少し御紹介をしますが、現行法の附則十一条にはこう書かれています。「国は、この法律が施行されるまでの間に、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」という規定ですね。今回の改定案でこの附則十一条は削除されようとしているわけですが、この十一条はいわゆる併合修正案によって現行法に盛り込まれたものだと思います。

 その審議、平成十八年の十一月の二日、衆議院の当時の調査特別委員会の小委員会で、枝野議員がこんな趣旨の発言をしておられます。公務員法一般における政治活動の規制が、この改定案の法律本体で規制を掛けなくてもかぶってしまうというのは、私どもとしても若干うっかりしていたところでありますので、私どもとしてはそこの整合性が取れるように、国家公務員法、地方公務員法の必要なところは手直しをしなければいけないと思っておりますと。

 そして、国家公務員が思想、信条の自由に基づいて国民投票に関する記事が掲載されている政党の機関紙やビラを配布した場合にはどうなるのかという趣旨の質問に対して、少なくとも国民投票に限って言えば、今のようなケースを規制する必要は全くないと。公務の中立性が国公法の保護法益であろうが、これは憲法の国民投票についてはちょっと違うだろう、少なくとも国民投票については、投票の公正さを害しない行為については規制の対象に含める必要はないという御答弁をされていると思うんです。

 ちなみに、その後、最高裁は、国公法違反が問われたいわゆる堀越事件について、公務員の政治活動は公務員の職務遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められない限り自由であるという趣旨の判決をしているところです。

 そもそも、公務員法で適法な行為が、いざ国民投票ということになったときに違法とされる理由があるはずがないと私は思います。元々のこの現行法の附則十一条の趣旨というのは、私がちょっと紹介させていただいたような理解でよろしいんでしょうか。

○衆議院議員(枝野幸男君) 従前の附則の趣旨は、これはこの間、他の提案者からも御答弁いろいろさせていただいておりますが、従前の、まあ現行もそうですけれども、公務員法に基づくと、国家公務員については公の投票についての何らの規制も明文上ありません。したがって、国民投票について、殊更何か規制が掛かるということは基本的にはないだろうという基本的な立場ですが、地方公務員については御承知のとおり公の投票について運動してはならないという規定がありますから、これ文言だけ読めば、地方公務員だけ国民投票運動は一切できなくなってしまうように取られかねない。

 これは、当時の国会審議に先立つ党内の検討プロセスにおいて我々が十分に認識ができなかったこと、そのことが明らかになったことによって、ただ単に国民投票運動を自由にするという宣言とかそういうことでは足りずに、この公務員法にある公の投票について規制されているものを国民投票、憲法改正の国民投票については対象にならないんだということをきちっと位置付けなければならないと。これがあの当時の議論の中で出てきた。

 したがって、そういう処理をしなければならないんだけれども、その具体的な内容について合意が取れないままに、併合修正案もできましたし、その後は更に合意ができずに、併合修正案の直前のものまで行きましたけれども、最終的にはいろいろな事情で合意ができなかったわけですけれども、この条文の趣旨というのは今のような趣旨ですので、まさにその趣旨に基づいて、国家公務員も地方公務員も国民投票運動について、まさに最高裁の示す必要最小限の規制以外の規制が掛からないようにという立法を今回したということです。

○仁比聡平君 船田議員に同じ点の確認なんですけれども、国公法の百二条と人事院規則一四―七ですけれども、これがいわゆる国公法による政治的行為の禁止と言われる規定ですが、これは極めて厳格な制限列挙であるということを当時私、議論させていただきました。

 日本語で政治的な行為というふうに述べると、政治に関わることは広く当たり得るようにも聞こえるんですけれども、法律の用語としての国公法あるいは人事院規則における政治目的あるいは政治的行為というのは極めて限定されたものなんですよね。

 さんざんぱら、それをあの当時、委員会で議論した上で、平成十九年の五月九日の参議院調査特別委員会で保岡興治議員が私の質問に対して、国家公務員法上、国民投票運動というのはいわゆる政治的目的を持った人事院規則に触れないだろう、それを追認することも必要だし、地方公務員法が公の投票というのは政治活動ということでやはり公務員の禁止の対象になる、制限対象になるということで、これは改正をする必要がある、是非自由にできるようにしようという前提で検討もするつもりでおりますという答弁をしているんですが、これ、船田議員、そのとおりでいいんでしょうか。

○衆議院議員(船田元君) お答えいたします。

 国家公務員法、それに基づく人事院規則、そして地方公務員法、それぞれに政治的な目的それから政治的行為というのが非常に具体的に示されていると思っております。

 ただ、その中で、先ほどの例にもありましたように、当時の保岡議員がおっしゃった、国家公務員におきましては、純粋に国民投票をする場合、つまり他の政治的目的がない状況の場合には、国家公務員においてはこれは全ての政治的行為は自由であるという状況にあります。一部ちょっと違うものもありますが、ほとんど自由であるという状況にあります。

 一方で、地方公務員の場合には、今お話ありましたように、公の投票というのが国民投票をも指すということから考えまして、純粋に国民投票に限定をされた行為でありましても、これは賛否の勧誘行為から人事上の権限利用まで制限される、こういう状況があって、先ほど来アンバランスということを申し上げたわけでございます。

 ただ、私どもは、この全体の公務員法規定のアンバランスを直していくということは大変大きな作業でございますし、時間の掛かることでございます。我々がミッションとして預けられた部分というのはやはり政治的行為の最も典型的なもの、すなわち賛否の勧誘行為、この部分に限って、地方公務員におきましても、これは国民投票の純粋な行為ということであれば自由にしようということで、その部分だけをそろえるということでこれまで議論してきたものでございます。

 ですから、今申し上げたような国家公務員法、地方公務員法全体に関わる制限規定というのをどうするかということについては、これはまた別の機会において議論しなければいけないことである。さらに、賛否の勧誘行為の中で、今申し上げたような特定公務員ということについては、勧誘行為の中でも純粋なものであっても、やはり影響力が大きいということを勘案し、私たちはその部分についての禁止規定を新たに設けると、こういうふうに整理をさせていただいたと理解をしております。

○仁比聡平君 特定公務員の件については先ほど議論しましたから、その余の部分についてですが、例えば、人事院規則に言う特定の政策の主張又は反対というこの政治的行為というのは、これまでの解釈上、日本国憲法に定められた民主主義の根本原則を変更するような、例えば議会制そのものを否定するといった、そうした主張のことであって、そこまでに至らない、特別の政策の実現を主張するとか特定の法案の成立に反対することはそもそも政治目的に含まれないというのが国公法、人事院規則の確定している解釈だと思います。

 ですから、切り分けるみたいなお話になると何だかよく分からないんですけど、現在の国公法や人事院規則あるいは地公法によって禁じられない行為を国民投票運動の際に禁止するということではないんでしょう。

○衆議院議員(枝野幸男君) おっしゃるとおりで、少なくとも国家公務員については、現行の公務員法の規制上も違法とは解釈されないであろう行為について、国民投票運動について確認的に合法ですよということを確認しているんであって、まさに萎縮的な効果を働かせないためには大変重要なことであるし、あえて申し上げれば、地方公務員についても、その地方公務員法の趣旨からすれば、公の投票というのは、これは恐らく、たしか裁判所の判決はないと思いますが、基本的には当該自治体の住民投票を想定しているものなので、国民投票運動については規制が掛からないと私は解釈いたしますが、しかし、やはり萎縮的な効果が生じてはいけないですから、きちっと確認的に、そうしたものは及びませんよと、政治的な活動の自由として、まさに発議された憲法改正について賛成だとか反対だとか言ったり、賛成しようよと呼びかけたりということは基本的に自由だということを、萎縮的な効果をもたらさず、誤解が生じないように明文にしたことは、むしろ先生の立場からもこれは評価していただけることじゃないかと思うんですけど。

○仁比聡平君 今の枝野議員の御答弁の言わば確認のような話になるんだと思うんですけど、今議論してきた現行法の附則十一条を削除して百条の二を置くことにされるわけですよね、御提案としては。ここに言う、百条の二の本文に言う、公務員の政治的目的をもって行われる政治的行為又は積極的な政治運動若しくは政治活動その他の行為にかかわらず、国民投票運動はすることができるという、その規定ぶりというのは今の枝野議員の御答弁の趣旨だということでしょうか。

○衆議院議員(枝野幸男君) そういう趣旨です。

○仁比聡平君 その確認をした上で、検討条項とされている新しい附則の四項ですね、四項についてちょっとお尋ねしたいと思うんですけれども、結局どういう検討をするのかと、そうしたら。

 政治的行為の禁止の問題は今の議論で解決できるはずだと私は思うんですが、教育者の地位利用について、七年前の議論で、公職選挙法に言う地位利用の規制というのがどんな性格のものかということも議論をさせていただきました。福岡高等裁判所のこの問題についての判決が昭和五十年にありまして、ここで、教育者がその教育上の地位に伴う影響力を利用せずに、一個人として一般人と同様の選挙運動をすることは何ら制限されるものではなく、たとえ教育者が単に教育者としての社会的信頼自体を利用した場合でも問題の余地はないと。ですから、大学の教授だとか学校の先生だというそれだけで、社会的信頼があるのはもちろんでしょうけど、それが利用した形になったとしたって、それ自体は公選法上問題ではない、だから無罪であるというのが公選法の解釈なんですよね。

 問題とされる地位利用というのは、結局、個別的な関係で、その生徒さんだとか、あるいはその親御さんとの関係で具体的な教育上の精神的な影響力だとか感化力がある、これを持ち、かつ利用するという場合に限られる、絞られるのではないか。

 ですから、今日も、例えば単位をあげないというふうな話が出ていますけれども、そうした職権を濫用する場合、あるいは職権の行使そのものとして、まさかないと思いますが、賛成あるいは反対の投票を職務で命令するとか、こういうことが地位利用なのであって、公選法上の、そうではない場合について、国民投票運動において何らか規制するとか、まして罰則を付けるとか、そういうことにはならないんでしょう。船田議員、どうですか。

○衆議院議員(船田元君) 基本的に地位利用という場合に、これは公職選挙法での規定もございます。また、今例示をされたような判例も出ているわけでございます。そのことに我々が考えている公務員、教育者の地位利用を、それを超えるような規制をするということは私どもは考えておりません。あくまで、やはり公選法の規定に従ったものである、その範囲の中にあるものであるというふうに基本的に理解しております。

 ここで言う地位利用がいけないと申し上げますのは、今、仁比議員おっしゃったように、その地位にあることによってその地位を利用して他の者に対して何らかの影響を与える。それは不利益を与える場合もあれば便益を与える場合もありましょうが、そういう形で影響力を及ぼすということが伴わなければ、これは禁止の対象にはならないと、このように理解しております。

○仁比聡平君 そこで、その四項の今後検討するというのが一体何なのかというのはよく分からないんですが、北側議員にちょっとお尋ねしますが、衆議院の四月十七日の審議の中で、今回罰則を設けないという趣旨について、地位利用というのは必ずしもその範囲が明確ではないのではないかという御答弁があっています。これはどういうことを言わんとしておられるんでしょう。

○衆議院議員(北側一雄君) これは罰則を設けるかどうかというところの議論だと思うんですけれども、罰則を設けるという以上はその構成要件が明確でなければいけないという趣旨で今のように答弁をさせていただきました。

○仁比聡平君 この北側議員の御答弁にしても、あるいは船田議員はその同じ日に、地位利用の形態というのがまだ十分にこなれていないという御答弁もあるんですけれども、これは罰則を付けるにはもちろんのことですよ、無論ですけれども、現行法百三条で懲戒の根拠にもなり得るわけですが、この地位利用というのは、これも結局こなれていないし、明確ではないと。

 つまり、萎縮的効果が極めて重大に懸念される、そうした過度に広範な曖昧な規定ではないか、それは現行法もそうであって、それはもう百三条丸ごと削除すべきものなんじゃないかと私は思いますが、船田議員、いかがですか。

○衆議院議員(船田元君) 地位利用という形態には様々なものがあるというふうに理解をしております。その中で、地位利用がいけないという場合のものは、やっぱり他の者に対しての明確な影響を与える、それは利益を与える場合もあれば不利益を与えるという場合もありますが、そういう影響力を持って投票行動を動かす、あるいは規制すると、こういうことがあるわけでございますので、地位利用自体の概念というのは私ははっきりしていると思います。

 ただ、実際にどういうものが地位利用に当たるのか、個別のケースというものを考えますと、まだまだその判例が積み上がっていない、そういう意味でこなれていないということを申し上げたわけでありまして、その判例あるいはその判例の基になる基準あるいはその構成要件、そういったものを議論することをやらなければ罰則を設けることはなかなか難しい、そういうことを申し上げたつもりでございます。

○仁比聡平君 今日、最後に枝野議員に、この四項の今後の検討ということについて、先ほど来議論があったのによく分からないんですよ。結局、何だか発議されている会派の皆さんが持って帰って罰則を付けるとかいうような話で議論をするという合意があるんですか。

○衆議院議員(枝野幸男君) いや、罰則を付けるという方向での議論をするという合意はありません。少なくとも現時点で、私どもは、罰則を付ける必要はないし、罰則を付けるとすれば、こういうふうにすれば曖昧さを排除できるということについての案を持っておりませんから、罰則を付けるということを考えておりませんし、それから組織的云々という話も、明らかにこれに罰則あるいは規制をしなきゃならない立法事実はどなたからも指摘を受けていないと思っていますので、立法事実がない規制をするということを現時点では考えておりませんが、検討するということは、そうした立法事実を具体的にどこかが御提示をされることがあれば、それについてはちゃんとお聞きをして検討しましょうねと、こういう趣旨です。

○仁比聡平君 まだまだ議論が必要だと思います。

 今日は終わります。