「アベノミクス」の名で大型公共事業をばらまく安倍自公政権の下、「阿蘇くじゅう国立公園」内で立野ダム(熊本県大津町、南阿蘇村)の建設が強引に進められようとしています。洪水対策を理由にしていますが、市民からは「ダムよりも河川改修を」「世界の阿蘇に巨大ダムはいらない」との声があがっています。 (内野健太郎記者)
「『いまさらダムかい』の疑問が建設反対署名を集めていると寄せられます。ダムによる治水が時代遅れになる中のダム建設なんて逆行しています」
労組・民主団体でつくる「いのちとくらしを守るネットワークくまもと」の上田たかこ共同代表が語ります。
河川の改修怠る
立野ダムは、ダム建設ラッシュの一段落した1983年に事業を開始したものの、30年間、本体工事が着手されないままでした。「コンクリートから人へ」を掲げた2009年の民主党政権発足時に事業見直しとなりましたが、野田民主党政権の末期に「ダム継続」を決定、「国土強靭(きょうじん)化」をうたう安倍自公政権は今年度、28億円の予算を計上し、14年度は37億9000万円を概算要求しています。
立野ダム計画は、火山活動でできた世界有数の大きなくぼ地(カルデラ)である阿蘇外輪山の切れ目の峡谷に巨大なコンクリート建造物を建設しようというものです。
「世界遺産登録や地球科学の重要な地域として世界ジオパーク認定をめざす熊本県にとってもイメージダウンは必至」と上田さん。建設予定地周辺は国立公園の特別保護地区。完成後に水をためる「試験湛水(たんすい)」で国指定天然記念物「阿蘇北向谷原始林」の一部は枯死すると専門家が警告しています。観光資源となっているトロッコ列車の走る橋も水没予定地です。
環境への配慮もない“時代遅れ”のダム建設が動きだしたのは、阿蘇カルデラから熊本市内へと流れる白川が昨年7月の九州北部豪雨で氾濫したことでした。「白川改修・立野ダム建設促進期成会」(会長=幸山政史・熊本市長)などが「スピード感を持って治水対策を」と国交省に迫ったのです。
日本共産党の松岡徹県議は「氾濫の原因は国・県が河川改修を怠ったことによるもの」と指摘します。「10年前につくっていた白川河川整備計画に沿って河川改修をしておれば防げた。これまで立野ダム計画には421億円がつぎ込まれた。ダム計画が河川改修を遅らせ、災害を引き起こした」
「立野ダムで治水はできない」と語るのは、市民団体「立野ダムによらない自然と生活を守る会」の中島康代表です。「阿蘇カルデラの切れ目は最も地盤の弱いところ。建設予定地一帯は断層が集中し、溶岩が冷却した割れ目(柱状節理)だらけです。工事では地盤の強度を高めるためセメントミルクを大規模に注入するとしていますが、それだけ岩盤が軟弱ということです。地滑りなどの危険がつきまといます」と語ります。
中島さんは続けます。「熊本市の洪水流量のうち立野ダムで洪水調整するのはわずか8%。ダム以外の代替案で十分対応可能です。例えば、水田の保全。田んぼに水がため込めるように15センチあぜを高くすれば、立野ダムの有効貯水量と同じ容量ができます。河川改修、遊水地の整備、荒れた人工林の間伐などをこそ提案します」
中止求めて署名
「いのちネット」や「自然と生活を守る会」は、署名運動を展開。熊本県に国交省に中止を働きかけるよう要請しています。県負担だけでも県民1人当たり1万5000円にのぼるからです。
熊本県労連の楳本光男議長は、「ダム建設は費用が当初見込みよりどんどん膨らむ。当初想定の総事業費に匹敵する425億円がすでに使われ、総事業費は2倍の917億円を見込むようになった」と指摘。「ダム建設は大手ゼネコンがもうかるだけで地域経済の活性化にならない」と「アベノミクス」を批判します。
日本共産党熊本県委員会は、立野ダム計画を中止し、河川改修や遊水地計画などを遅くとも5年以内に完了するよう提案してきました。仁比聡平参院議員とともに国交省交渉も計画、参院選で躍進した力で「立野ダムはいらない」「アユが上り下りする豊かで安心安全の白川に」と全力をあげています。
立野ダム計画… 阿蘇外輪山の唯一の切れ目の立野火口瀬に高さ約90メートル、幅約200メートルの巨大なコンクリートの「穴あきダム」(ダム底部に一辺5メートルの三つのゲートのない放流孔が設けられており、水量が少なければ水がたまらない)を建設し、洪水調節をしようという計画。総貯水容量約1000万立方メートル。想定外の洪水になれば洪水調節不能となります。(しんぶん赤旗 2013年9月4日)