○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
裁判員制度について、この国会で機会をつくってお伺いしていきたいと思っております。
まず最初に、大臣、所信表明で裁判員制度について、司法を国民により身近なものとするという大きな意義を有する制度だというふうに述べられましたけれども、新聞などの世論調査を見ますと、逆に参加したくない、できれば参加したくないと、こうした声が七割、八割を占めているわけです。こうした国民の声をどう考えておられるか、まずお尋ねをしたいと思います。
○国務大臣(森英介君) 今委員御指摘のその調査結果というのは、昨年一月から二月に実施されました最高裁判所による意識調査の結果に基づいたものだと思いますが、それは、辞退が認められている七十歳代以上を除いた二十歳代から六十歳代では、参加したいが四・八%、参加してもよいが一二・三%、余り参加したくないが義務であるなら参加せざるを得ない四七・八%、義務であっても参加したくないが三三・三%となっておりまして、恐らく、余り参加したくないが義務であるなら参加せざるを得ないという方を参加したくないという方に分類された計算結果だと思うんですけれども、いささか手前みそでございますけれども、余り参加したくないが義務であるなら参加せざるを得ないという方を参加してくださる方に入れますと約六五%の方が裁判員として裁判に参加するとの意向を示していただいているということでございまして、この結果によれば、裁判員制度に対する国民の制度に対する理解と関心は相当程度深まっており、裁判員になることへの不安をお持ちの方はなお少なくないものの、全体としての参加意向は制度を実施するために必要な水準に達してきているものと認識しております。
それでもなお、法務省においては、これまでも最高裁判所や関係省庁等と連携して、より多くの国民の方々に不安なく参加していただけるよう、裁判員制度の広報活動を積極的に実施してきたところですが、引き続き更に拍車を掛けて制度実施に向けて広報活動を行ってまいる決意でございます。
○仁比聡平君 大臣もいささか手前みそかと思いますがとおっしゃいましたけれども、私、見方が逆ではないかと思うんですよ。
私が冒頭、七、八割は参加したくないと言っているんじゃないかというふうに紹介したのは新聞などでの世論調査を踏まえて申し上げたつもりだったんですが、大臣の紹介された一年ほど前の最高裁の意識調査、数字としては大臣が御紹介されたところかと思いますけれども、今おっしゃられた七十代未満に限っても三五%、その調査の中で裁判員制度について認知度が高い、内容についてよく知っておられるという方々の調査もしておられますが、その高い方でも二六・七%、この方々は義務であっても参加したくないというふうにおっしゃっているんですよね。これがなぜなのかということを私は問題にすべきだと思っているんです。
周知が足りないからと、もっと知ってもらえればみんな参加したいというふうになるんだということではないということがここに示されているのではないかということなんですよね。
模擬裁判を取材したある新聞記者がこういう記事を書いています。裁判員の大半が、裁判の難しさや時間的拘束ではなく、責任の重さから本番ではやりたくないと感想を話した。審理を短縮して裁判員の負担を減らそうと法廷に出す証拠や争点を最小限に絞っており、裁判員からは、何が真実か判断材料が足りないと不満が噴出した。評議でも、証拠が少な過ぎる、法廷証言がもう少しあれば、供述調書だけ示されても口調など細部が分からず判断できないという声が出た。こうした記事にもなっているんですけれども。
最高裁にお尋ねをしたいんですが、先ほど来の意識調査で裁判員として参加する場合の心配及び支障、差し障りですね、これについての調査がありますけれども、これをどのように見ていらっしゃいますか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
最高裁が昨年実施しました意識調査ですと、制度参加への心配また支障としては、判決で被告人の運命が決まるため責任を重く感じる、これ七五・五%の方でした。それから、素人に裁判が行えるのか不安である、六四・四%。裁判官と対等な立場で意見を発表できる自信がない、五五・九%。仕事上の都合というものもございますけれども、そういった言ってみますと精神的な負担が重いという、そういう点が上位に挙げられているというところでございます。
裁判所としましては、これは重く受け止めて、国民の様々な疑問や不安に応じたきめ細かい情報を提供する広報活動を行ってこうした不安を軽減、解消するとともに、今後も刑事司法手続の適正な運用に努めてまいりたいと思っておりますが、一つだけちょっと申し上げたいのは、確かに意識調査で消極的な方が多うございます。ですから、そうすると参加したいという人が二割にも達していないんじゃないかという見方もあれば、義務であれば参加せざるを得ないといった、これはそういう方も足せば六割は参加意向があるというふうな受け止め方をしているんですが、こういう方々も裁判員裁判に参加するというのは非常に負担の重たいこと、そういうことはあるいは精神的負担も重たいし社会生活上も大きな犠牲があるということはよくお分かりの上で、なお義務であれば参加せざるを得ないというふうに言っていただいているというふうに思っていますので、それは有り難いことだというふうに思っております。
○仁比聡平君 今、小川局長から御紹介いただいたほかに、冷静に判断できる自信がないという、こうした回答もかなり上位に類するものとして挙がっていると思うんですね。先ほど御紹介した模擬裁判の裁判員役の声に沿うものだと思うんですけれども、これは裁判員制度が重大事件について事実認定のみならず死刑を含む量刑をも多数決で決する、その評決は市民裁判員だけではなくて裁判官三人を含む評議によるというふうな制度設計になっているところからそうした声が出ていると私思います。認知や周知が足りないからだという話ではないと思うんですよね。
私ども日本共産党は、五年前の法案審議の際に、例えば評議は全会一致にすべきではないかということを始めそうした点についても修正案を提起いたしましたが、当時入れられませんでした。裁判員の守秘義務、あるいは同時に行われた刑訴法の改正、これには反対をいたしましたけれども、これについても多くの問題を指摘してきたわけです。今、残念ながら、当時指摘した矛盾が噴き出していると言わざるを得ないのではないかと。この国民の皆さんの声を伺ってそのようにも感じますし、今からでも国民の声を受け止めた議論をこの国会で行っていくべきではないかと呼びかけたいと思います。
今日は大臣の基本認識をもう一点伺いたいんですけれども、それは、こうした声の根底にあるのは、冤罪を始めとした我が国の刑事司法の構造的な問題が正されないまま市民がそこに組み込まれるということ、市民が職業裁判官の付け足しやお客さんにされてしまうのではないかという不信や不安があるのではないでしょうか。
自白の偏重とその強要、その調書化というので密室での長時間の取調べ、身柄の拘束、そのような人質司法が指摘をされ、職業裁判官のみによる裁判が本来とは逆に有罪推定が働いているのではないかと指摘される構造的な問題の下で、数々の冤罪を始め重大な人権侵害が生み出されてきました。私も当委員会で、志布志や氷見事件、あるいは引野口事件はもちろんのこと、様々なこうした問題を取り上げてきましたけれども、国民世論は刑事司法の適正化を強く求めているわけです。にもかかわらず、その実現すらしていないのにそこに組み込まれてしまうとしたら、大きな不信や不安を感じるという思いが私は根底にあると思いますが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(森英介君) 私は、我が国の現在の刑事裁判は基本的には適正に行われており、国民の信頼を得ているものと認識をしております。
また、裁判員制度は、刑事裁判に関する様々な御意見を伺いながら、関連する諸制度との関係も含め、十分な検討を経た上で立案され、制度化されたものというふうに受け止めております。
もっとも、裁判員として刑事裁判に参加することに今お話にあったように様々な不安をお持ちの国民の方も少なくないと思われることから、法曹三者においては、裁判員となる国民の方々に不安なく参加していただくためにも、迅速で分かりやすく、かつ適正な裁判が実現されるように努めているところと認識をしております。
○仁比聡平君 これまでの刑事裁判が基本的には適正に行われているという、その基本的にはという答弁は、この法案の議論の当時からよくしておられるわけですけれども、基本的にはとおっしゃりながら、これほど重大な冤罪事件が国民の前に明らかになりながら、例えば捜査過程の全面可視化の問題も、あるいは捜査側の手持ち証拠の全面開示の問題もなかなか実現をしていかないというところは、私は国民の皆さんよく見ておられると思うんですよね。この点は別の機会に時間をきちんとつくって大臣とも議論をしたいと思いますから、ここでとどめますけれども。
今日、特に確認をさせていただきたいのは、そうした状況の下で職業裁判官が裁判員に結論を押し付けるというようなことが絶対にあってはならないということです。裁判員が職業裁判官に対して独立して裁判に当たることができなければ、これは裁判員制度はその根幹を失うことになると思いますが、まず大臣の御認識を伺いたいと思います。
○国務大臣(森英介君) 裁判員制度においては、法律の専門家である裁判官と一般的な国民の感覚を有する裁判員とが十分に評議を行うことにより、双方の有する知識、経験を合議体全体で共有することが期待されておりまして、その過程を通じて適正な結論に到達することができると考えております。
このような趣旨からいたしますと、審理や評議の過程において裁判員が職業裁判官と意見が異なると考えたときにはその御意見を率直に述べていただくことが肝要であり、そのようにして述べられた御意見を踏まえて更に合議体として議論を尽くすことが期待されていると考えております。
○仁比聡平君 最高裁にも同じ問いなんですけれども、裁判員裁判に当たって、審理においても評議においても裁判員が職業裁判官の認識ややり方をただすというのはこれは当然だと思うのですが、どうでしょうか。
もう一点。同じことかもしれませんが、事実認定の判断力は専門家も素人も優劣はないというふうによく言われます。これはどういう意味だというふうにお考えですか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
裁判員裁判におきましては、委員御指摘のように、裁判官と裁判員、対等な立場でいろいろな疑問や意見を出し合った上で、被告人が有罪なのか、あるいは、有罪である場合にはどのような刑が相当なのかというようなことを判断するということでございます。
したがいまして、委員御指摘のように、評議等において裁判員から様々な意見が述べられて、その意見を受けて職業裁判官が考え直すということも当然あり得ることであろうと思っております。したがって、裁判所としても裁判員と十分に意見を交換し、まあ裁判所とというのか、裁判官同士もそうですし、裁判員同士もそうでしょうけれども、全体で十分に意見を交換して十分に耳を傾ける、お互いに意見を交換する必要があるというふうに思っております。
それから、事実認定につきましては法律の解釈、適用とはちょっと違いまして、こういう証拠に基づいてどういう事実が認められるか、あったのかなかったかという判断でございますので、これ自体は一般の方々がふだんの生活においても行っておられることでございますので、そこの点については、十分に事実認定については裁判員の方も御判断できるというふうに考えられているということでございます。
○仁比聡平君 今の後の方の点について、市民の持っている多様な社会的な経験やそれを踏まえての常識、これが裁判に反映されるようにというふうに、例えば最高裁もコマーシャルなどもされておられると思いますが、そういった理解でよろしいのか。
それから、先ほど御答弁の前者の方の答弁で、評議等でというふうにおっしゃいましたが、審理においても、これは例えば証人尋問の過程において裁判員が裁判長の指揮とはまた別の角度で質問をしたい、あるいはそういう機会は十分保障されるべきだと思いますが、どうですか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) 今、二つ御指摘ございました。
最初の御指摘は委員御指摘のとおりだと思いますし、それから二番目の審理のところも、当然裁判員の方から必要な補充尋問ですか、そういうのもされるわけですし、それは当然委員の御指摘のとおりだと思います。
○仁比聡平君 ところが、裁判員の負担を軽減するということばかりが強調されて、審理期間の短縮が進められた模擬裁判において多くの矛盾が現れたというふうに指摘もされているわけです。
この点で、最高裁が原則三日で審理、評議を終えるというモデルを示したとよく言われるんですけれども、こうしたモデルを示したことがあるんですか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
原則三日で審理を終えるべきだというモデルを示したことはございません。この原則三日とかいうことじゃなくて、七割は三日以内に終えられるのではないかという見込みを申し上げたことはございます。
これは、従前の裁判員裁判対象事件を今までの審理で実際どのぐらいの時間を掛けてやってきたのかを全部調べまして、それを足し合わせました。そして、しかも、裁判員裁判になりますと評議の時間ももちろん掛かりますし、それから、従前は確かに要旨の告知とかいうことですね、書面を、時間は短く証拠調べしたということもございますが、裁判員裁判になると全部公判中心、口頭主義ですので、証拠調べも時間が掛かりますし、朗読しますから、それから双方のプレゼンテーションも、検察官も弁護人も双方が冒頭陳述されるわけですから、そういう時間も掛かります。さらに、裁判員選任手続の時間も掛かりますので、それも全部足し合わせてみて、もちろん公判前整理で審理計画を立てますから、それで見ると、これまでの事件を全部その審理時間を合わせてみても、どうも七割は三日以内に終えられるという推計をしただけのことでございまして、三日で終えろとか終えるべきだとか、それは原則だとかいうようなことを示したということは全くございません。
○仁比聡平君 見込みを言わば推定しただけですというふうに今御答弁はあるわけです。これがまさか現場の裁判体あるいは職業裁判官にそうした審理ができなければならないというような運用がされては絶対にいけないと思うんですよね。うなずいていらっしゃいます。
元々、三日などと示すのがおかしいのではないかと私は感じているんですが、それぞれの事案に即して審理と評議を尽くすこと、それらを尽くすことによって真実の発見と無辜の不処罰を達成すること、これが刑事訴訟の第一義のはずだと思いますが、いかがですか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) 今、委員御指摘のとおりだというふうに思っております。
刑事裁判の原則というのは、被告人の権利を保障しつつ事案の真相を明らかにする。もちろん無辜の者を処罰することがあってはならないということが原則でございますので、この要請を全うできなければいけないわけでございます。
もちろん裁判員裁判になりますと、それとともに裁判員の方の負担とかいうこともございますから、そういう点で綿密な審理計画を立てて、できる限り御負担のないような審理計画を立てるとか、あるいは選任手続のところでも柔軟な選任手続を行うとか、そういった要請をそれぞれ全うしなきゃいけない、こういうことでございます。
○仁比聡平君 法務省にも法を所管する立場として今の点をお尋ねしたいんですが、真実の発見と無辜の不処罰という目的を達すること、これは裁判員裁判においても、当たり前ですけれども、これは求められていると思いますが、いかがですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 裁判員裁判も、言うまでもなく刑事訴訟であります。刑事訴訟法の第一条にこの刑事訴訟の目的が掲げられているわけでありますけれども、それは、「刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」、こうなっているわけであります。それは、裁判員裁判においても何ら変わるところはありません。
したがって、裁判員裁判の下でも、充実した審理を行った上で評議を尽くし事案の真相を明らかにし、その上で処罰すべき者は処罰し、処罰すべきでない者は処罰しないという適正な結論を得ることは、刑事訴訟において最も重視されなければならない事柄であるというように考えております。
○仁比聡平君 そこで、刑事裁判に当たる上での大原則である無罪推定の原則、これを裁判員にどのように説示するのかということについて、まず最高裁にお尋ねしたいと思うんです。
これ裁判所の説明例と言われるもののちょっと部分を読みますと、「常識に従って判断し、被告人が起訴状に書かれている罪を犯したことは間違いないと考えられる場合に、有罪とすることになります。逆に、常識に従って判断し、有罪とすることについて疑問があるときは、無罪としなければなりません。」という、こうした表現がありまして、これ分かりやすいようでいて実はあいまいなだけでなく、疑わしきは被告人の利益にというこの刑事裁判の本質を誤らせるおそれがあるのではないかという指摘を法律関係者から強く聞くわけですね、私。
「模擬裁判の成果と課題」という最高裁の取りまとめられた文書がありますけれども、ここではこの無罪推定にかかわる表現として、検察官の主張する事実が、弁護人の主張立証したところを踏まえても、合理的疑いを入れない程度に立証できたかどうかというふうに、検察官の挙証責任と求められる立証の程度、これも含めた表現をしておられるかと思うんです。
私は、こうした無罪推定の説示、原則の説示を公判廷で説示をするようにしてはどうかと思うんですけれども、いかがですか。
○最高裁判所長官代理者(小川正持君) 今、委員御指摘の御説明例でございますが、これは最高裁の刑事規則制定諮問委員会とそれから準備会において議論をされました説明のイメージ案でございます。各裁判所は、これを踏まえてこれまで六百回を超える模擬裁判を通じて更に分かりやすい説明方法を工夫してまいったところでございますが、御指摘も踏まえて更に検討を重ねてまいりたいというふうに思っております。
それから、説明ですけれども、これはどこでやるかということですが、裁判員法三十九条一項の説明というのは、これは選任の中の一条として規定されておりますことから明らかなように、裁判員等選任手続の最後に行われるということが予定されているものと解されます。選任手続は公開されることはございませんけれども、検察官及び弁護人が出席することになっておりますので、その両当事者の前で裁判員に対して御説明をするということになろうかと思います。
○仁比聡平君 時間がありませんから今の点を法務省に尋ねて終わるしかないかと思いますが、裁判員法は、この今私が求めた公判廷におけるそうした説示についてやってはならないなんて言っていないと思うんですよね。加えて、被告人も、弁護人、検察官も、それから傍聴者も在廷をしている場でそうした説示がなされることが、裁判員の理解にとってもそれから裁判の公正さにとっても私は有意義なことではないかと思います。
その公判廷で行うということも検討されてはいかがかと思うんですが、法務省、いかがですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 確かに、裁判員法は、裁判員に対して立証責任の所在を当事者が在廷する公判廷で説明することを法律上禁止しているものではないというふうに考えております。
ただ、実際にどのような場でその説明を行うのが最もふさわしいのかということは、裁判所において適切に判断される事柄であろうというように考えております。
また、先ほど最高裁から御答弁がありましたように、立証責任の所在等に関する説明は裁判員等選任手続のもう最後の段階で行われることが予定されておりまして、ここには、検察官、弁護人も出席して行われるということが想定されているということだけ申し上げたいというふうに思います。
○仁比聡平君 非公開の場というのは、これは余り良くない。この点についてまた更に今後機会をつくって質問していきたいということを申し上げまして、今日は終わります。