○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
本法案は、国連主権免除条約を受けて、いかなる場合に外国が我が国の民事裁判権に服するのかについて明らかにするものでございまして、外国及び私人の予 見可能性を明確にし、取引などをより安全、円滑に行う上で有効であると考えますので、私どもは賛成をさせていただきます。


これまでに出るかと思ったんですが、ちょっとはっきりした形で出ませんでしたので、倉吉局長、確認なんですけれども。
外国が我が国の民事裁判権に服するのか否かというのは、これはこれまでも個別事件において裁判所の判断が積み重ねられてきたということだと思います。か つて大審院の時代に絶対免除主義と表現されている考え方が取られたが、その後の様々な社会状況の変化もあり、いわゆる制限免除主義という立場が取られるよ うになってきたということだと思います。こういう裁判上の主権免除の考え方というのは裁判所が個別事件において判断を重ねてこられたし、これからもそうだ と思うんですね。
この法案によって、この考え方、つまり制限免除主義と今呼ばれている考え方が成文法の上でも明確になるということなのだろうと私は理解しているんですが、いかがでしょうか。

○政府参考人(倉吉敬君)
委員御指摘のとおりでございます。
この法律、法案というのは制限免除主義に立ってでき上がっておりまして、ちょっとこの制限免除主義に至る日本の裁判例の内容等を少し申し上げたいと思い ますが、元々、今委員がおっしゃったとおり、こういう法律がない、あるいは条約もできていない段階ではまさにそうなんですが、国際慣習法等をいろいろ探求 して裁判所が個別の事案に応じて判断してきたわけであります。
そのとき、過去はどうであったかというと、昭和三年に大審院の決定がございまして、これが長らくリーディングケースとしてありました。絶対免除主義でご ざいます。国家というのは、基本的に日本に所在する不動産であるとか、あるいは国家が国家に対して意思表示をして、あなたのところの裁判権に服するよと、 そういう意思表示をしている場合以外はおよそ民事の裁判権には服しないのだという絶対免除主義の考え方をずっと取っておりまして、下級審の裁判例もおおむ ねそれに沿ってきたというのが実態でございます。
平成の十八年に最高裁の判決が制限免除主義を取るということを言いました。この判決はどういうことを言ったかといいますと、国家の行為には主権的行為と それから主権的行為以外の私法的又は業務管理的行為というのがあるんだと、この私法的、業務管理的な行為については裁判権は免除されない、主権的行為につ いてはこれまでと同様、裁判権が免除されるという国際慣習法があるんだと、こういうことを説示いたしまして、その事案はコンピューターの売買、外国に日本 の企業がコンピューターを売った、その代金の回収に関するものだったと思いますが、そういう事案についてはまさに主権的又は業務管理的行為なんだから、主権免除の対象にはならないということで、原審は大審院の判例を踏襲して主権免除だと言ったんですが、それをひっくり返したという、こういう最高裁の判決で ございます。
ただ、この判決ではまだ一般論として言っているわけですけれども、私法的又は業務管理的行為というのが具体的に何になるのか。この事案で、コンピュー ターの売買でしたので、まあ売買契約は大丈夫だなと、そこまでは行きますけれども、じゃ、それ以外の契約はどうなんだというのはまだ分からないという状態 になります。
この法律がなければ、日本の裁判官は相変わらず、ほかの事件が来たらそれはどうなるのかな、私法的、業務管理的行為に当たるのかなというのは探求しなけ ればならぬということになりますが、今回の法律はそれを商業的取引の中でも役務も入りました、それから賃貸借も入りました、それからさらに労働契約である とか、それから人の死傷又は滅失の場合とか、そういうことについて全部列挙して、こういう場合には主権免除の対象にはならないということを全部明記してお ります。
この考え方はこの最高裁の判決とも整合しておりますので、国際的な主権免除条約という国際的な潮流にも合うものでありまして、したがって、今、ちょっと 長くなりましたが、委員の御指摘のとおり、最高裁の引いたラインというものとこの法律は整合していて、むしろ、最高裁が事案ごとにしか判断できませんの で、ほかのところが空白になっている部分をより明確にして、それで法的な予見可能性を高めたと、こういうことになると思っております。

○仁比聡平君
そこで、今局長からお話があったように、我が国の民事裁判権が及ぶ場合について列挙されているこの項目が制限列挙であるとい うふうに説明をされていることの関係で、本条約、本条約というか本法案、それから外務省にもおいでいただいていますけれども、本条約が刑事裁判と軍事的活 動については対象外ですというふうに説明をしておられる。このことについて今日は私、お尋ねしたいと思っているんです。
この軍事的活動については対象外という説明はどんな意味になるんでしょうか。

○理事(木庭健太郎君)
どちらですか。

○仁比聡平君
倉吉局長。

○政府参考人(倉吉敬君)
軍事的活動に関する裁判手続において、外国等が我が国の民事裁判権から免除されるか否かということは、従前から 他の条約又は国際慣習法により規律されてきたところであります。この法律案はそういう従前の取扱いを変更するものではありませんので、この法律案第三条に 書いているとおりですが、条約又は国際慣習法に基づき外国等が享有する特権又は免除に影響を及ぼすものではないと、こう明記しているのはその趣旨でござい ます。
それから、済みません、先ほど、私の答弁の中でコンピューターの売買が主権的又は業務管理的と言ったようでございます。私法的と言うつもりが言い間違いました。訂正させていただきます。

○仁比聡平君
今の言い間違いは私も気付いておりましたが。
それで、つまり、軍事的活動について当該国の民事裁判権が及ぶか否かは、これは国際法の問題であると。ですから、国際法が優位するのであって、国内法である本法案によって決めるべきことではそもそもないという、そういう御趣旨かと思うんですよね。
そうしますと、当然ですけれども、これからも、これからも個別の軍事活動が問題になった場合に、国際法の中身がいかなるものか、その裁判が起こった時点 での国際法がいかなるものかということは、これは様々な要素を勘案してそのときに受訴裁判所が判断をしていくということになると思うんですが、確認です、 どうですか。

○政府参考人(倉吉敬君)
ただいま委員御指摘のとおりでございます。

○仁比聡平君
としますと、在日駐留米軍の事件、事故にかかわって、その被害に対する民事訴訟が提起されたときに、今審議をされていますこの法律が、この法律が米軍、米国に対して民事裁判権を及ぼさないという直接の裁判上の根拠になることはありませんね。

○政府参考人(倉吉敬君)
御指摘のとおりでございまして、在日米軍の軍事的活動に関する裁判手続において米国が我が国の民事裁判権から免 除されるか否かは、従前から日米地位協定及び国際慣習法により規律されてきたところであります。先ほど御説明した法律案第三条にあるとおりでありまして、 その部分はこの法律は一切影響を及ぼさないということになります。
したがって、従前と同様に日米地位協定及び国際慣習法により規律されることになりますので、この法律案が在日米軍の軍事的活動に対する我が国の民事裁判権を制限するといったような、そんな根拠となるというようなことはございません。

○仁比聡平君
今御答弁の中にあった日米地位協定と、それから、これまで最高裁も含めて在日米軍に民事裁判権が及ぶのかという問題について 裁判所がお取りになってきたお立場というのは、私はこれは改めていくべきではないかと思っているんですが、そのこととこの法案の審議はまた別の議論だと 思っておりまして、ちょっともう一回確認しますが、本法案によって外国軍隊の活動に関して新たに何らかの特権や免除を認めるものではないと思いますけれど も、いかがですか。

○政府参考人(倉吉敬君)
先ほど答弁したとおりでございまして、この法律案の成立により在日米軍の軍事的活動について新たな特権又は免除を認めるということにはなりません。

○仁比聡平君
そこで、民事裁判権が免除されない場合の一つである法案の第十条について少し伺っていきたいと思うんです。
この十条は、外国等は、人の死亡若しくは傷害又は有体物の滅失若しくは毀損、こうした不法行為の場合において我が国の民事裁判権を免れることはできな い、免除されないと、そうした規定になっているかと思うんですが、まずこの法案十条の趣旨について、どうしてこうした場合には我が国の民事裁判権を及ぼす のかと、この理由について、民事局長、いかがですか。

○政府参考人(倉吉敬君)
これはもう十条に記載しているとおりでありまして、もちろんただいま委員が前提としておりました、まず第三条に よって国際的な慣習法であるとか条約等で規律されている部分は除かれますが、それ以外の部分の、したがってごく普通の不法行為について定めた規定であると いうことになりますけれども、ここに要件を書いているとおりでありまして、外国等が責任を負うべきものと主張される行為によって、これは主張さえしておけ ばいいということです、実際にそうだったかどうかは別問題。
その上で、人の死亡若しくは傷害あるいは有体物の滅失若しくは毀損というのが次の要件でありまして、さらに、ここで書いてありますとおりに、その当該行 為の全部又は一部が日本国内で行われ、かつ、当該行為をした者が当該行為のときに日本国内に所在していたとき、こういう条件がそろっているときは当該外国 等は損害又は損失の金銭によるてん補を求める裁判手続について民事裁判権から免除されないということにすると。これはそういう結論が妥当であるということ でありまして、もちろんその被害者の救済を、日本で裁判を受けた方が容易だからということで、容易に受けられるようにしようという配慮によるものと考えて おります。

○仁比聡平君
日本の裁判で受けた方が被害者救済に資するのであるという、そこの点について御答弁があったわけです。
その場面を要件の一つとしての死亡若しくは傷害あるいは有体物の滅失若しくは毀損、こうした場合にしたのは、こういう場合が恐らく、いろんな不法行為の 形はあるけれども、こうした結果が発生した場合には、それは重大であるからであるという価値判断があるのではないかと私は思いますが、いかがでしょう。

○政府参考人(倉吉敬君)
確かに、ここに書かれているのは人の死亡若しくは傷害という、要するにいわゆる我々が日本法で不法行為と考える ときは、損害はもっといろんなものがございます、精神的苦痛であるとかですね。だから、その程度のものは国家はもう主権免除してあげようよという、そうい う配慮があるわけです。
しかし、死亡又は傷害とか、有体物の滅失とか損壊と、そこまで来たら、それはやっぱり裁判権の免除はないということにして、法廷地国の裁判に服せしむる のがいいだろうと、それが今国際的なおよその共通の理解であるということでこの条約ができ上がり、その条約に基づいてこの法律案ができ上がっているという ことでございます。

○仁比聡平君
今の倉吉局長の答弁でもう一点確認ですけれども、精神的苦痛という言葉がございました。一方で、この法案十条に言う「人の死 亡若しくは傷害」のこの「傷害」ですね。この「傷害」には精神的傷害は含まれる、肉体的なものには限られないというふうに御説明をいただいているかと思う んですが、そうした理解でよいのかということと、それから、この精神的傷害が含まれるとして、精神的苦痛と精神的傷害というのは一体具体的な場面において どのように判断されるんでしょうか、区別されるんでしょうか。結局、ここはもちろん法律の概念としては精神的傷害と精神的苦痛を区別することは可能かもし れないけれども、事は裁判ですから、提訴された具体的、個別的な事件において裁判所が判断するということになるんだと思うんですが、いかがですか。

○政府参考人(倉吉敬君)
まず、前提として、この傷害という言葉の解釈ということになるわけですが、これは肉体的傷害だけではなくて、精神的な傷害も含まれるということでございます。そこはもうまず間違いございません。
それで、何らか精神的な何かの衝撃を受けたときに、あるいは精神的苦痛と先ほど申し上げました、苦痛は入らないという前提で申し上げたわけですが、それ が精神的苦痛にとどまるのか精神的傷害とまで言えるのかというのはまさに事実認定の問題でございまして、これは個々の事案に応じて裁判所の判断にゆだねら れるということになろうかと思います。
一般的に、どこまでが傷害だということでよく言われているのは、医学上もうその傷害が精神疾患に及んでいると認定できるような場合というのがよく挙げら れております。今特に言われているのがPTSDというやつでありまして、ああいう形になるともう傷害であろうと。ただ、ちょっと嫌なことを言われてショッ クだったという程度の精神的苦痛であれば、少なくともこの法律案の傷害には当たらないと。しかし、現実にはそれがどっちになるのだというのは、事実認定の 問題として裁判所の判断にゆだねられるということになろうかと思います。

○仁比聡平君
大臣、いかがでしょうか。こういう議論というのは、やっぱり裁判員制度で裁判員になると分からないかもなというふうにも思う んですけれども、結局、個別事案に応じて被害者救済という、そういう価値判断に立って判断していくのが国際法の感覚でもあるんだということなのではないか と思うんですよね。
これは、米軍あるいは米兵が相手の場合どうすべきかというのは、これは議論は別の議論があるわけですけれども、行為の中身だとか結果の重大性という意味 では価値判断は同じはずなんじゃないのかなという思いが私するわけです。個別事案に応じて加害行為の残虐さだとかあるいは加害者の属性なども含めて精神的 な傷の度合いというのはいろいろ様々になるわけで、当然それは個別事件においての個別の裁判所の認定にかかわる問題なのですけれども、こうした重大な結 果、それも生命あるいは精神的なそういう傷害をもたらしたという、こういう重大な結果に対しては裁判権を及ぼそうじゃないかという法感覚といいますか、価 値判断といいますか、こういうものが広がってきているということなのではないかと私は思うんですが、大臣、率直な御感想はいかがですか。

○国務大臣(森英介君)
私も、人が死亡又は負傷したというこの法律案第十条が定めるような場合には、それによって生じた損害の賠償等について我が国の裁判所で裁判をすべきと考え、この法律案を提出しているところでございます。

○仁比聡平君
大臣の慎重な御答弁を是非、今後大きく前進をしてもらえるように私も努力もしたいなと思います。
最後、外務省審議官においでいただいておりまして、今議論をしてまいりました法案十条に、カウンターパートといいますか、対応している条約が、むしろそ ちらの方が出発点ということかと思いますけれども、十二条というのがございます。この趣旨は、これまで民事局長が答弁をされてきたような方向でよろしいん でしょうか。

○政府参考人(北野充君) お答え申し上げます。
この条約十二条、今お尋ねがあった条項でございますけれども、外国の責めに帰するとされる作為又は不作為が法廷地の領域内で行われ、人の死亡、身体の傷 害又は有体財産の損傷、滅失を生じさせた場合には、そのような人の死亡等に対する金銭に対するてん補に関する裁判手続においては、外国は法廷地の裁判所の 裁判権からの免除を享有しないという規定でございまして、まさしく先ほど民事局長から答弁がありました内容と同等の内容を規定しているものでございます。
その規定の背景ということで申し上げるならば、これは当該外国と法廷地国とのそれぞれの主権の調整であり、また被害者に対する救済の観点というふうなものを踏まえて検討がなされてきているというところでございます。
以上でございます。

○仁比聡平君 終わります。