第169回国会 参議院法務委員会 第3号
2008年3月25日 仁比聡平参議院議員
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
ただいま議論がありました取調べ全過程の可視化の問題については、私も速やかにこの委員会での民主党案の審議に入ることを改めて求めておきたいというふうに思っております。
今日は、残酷な人権侵害が各地で問題となっております外国人研修生、技能実習生問題についてお尋ねしたいと思っております。
まず、入管局に。
政府が外国人単純労働力は受け入れないという方針だと言いながら、九〇年の入管法の改定で研修という在留資格をつくり、九三年に技能実習へ枠を拡大をされました。九七年には、一年だった技能実習を二年に延ばし、当初十七種類だった技能認定職種を六十二職種まで広げ、しかも非実務型研修、いわゆる座学ですね、これが三分の一以上と決められていたものを実質上五分の一にまで緩和をされています。さらに、研修生の受入れは、従業員二十人に対し一人だったものを五十人以下で三人というふうに変えて、結局、三人の従業員のうち一人、そういう割合で研修生の受入れを可能にしたわけでございます。
このような一連の施策、受入れの規制緩和と言ってもいいのかと思いますが、このような施策の基本的な考え方を入管局長に簡潔にお尋ねします。

○政府参考人(稲見敏夫君) お答えいたします。
確かに委員御指摘のとおり、研修制度は、技能実習制度、その後の期間の延長等、一貫して拡充の方向でこれまで進んでまいりました。この原因は、一つの原因というわけには、理由というわけにはいきませんが、一貫して流れておりますのは、途上国へより実践的、実効的な技術技能の移転を図るためにどうすればいいかという観点からそういう拡充が図られてきた、これが一つの理由と考えております。
先ほど御指摘ございました、平成元年に研修という名目の在留資格をつくり、受入れの基準を省令等で明定したわけでございますが、これにより中小企業の外国人研修生の受入れが本格的に開始した、この際に出されました要望も、途上国が必要としている技術技能は大企業の技術技能であるよりも中小企業の持っている技術技能であるんだという要望があったことが一つの理由でございます。
また、技能実習につきましても、またその後の技能実習の拡充につきましても、既存の研修制度では技能の熟練度を高めるという点では不十分、実効ある技能の移転という見地から見ると改善するべき点が多いというような御意見を踏まえましてその拡充が図られたという事実がございます。
以上でございます。

○仁比聡平君 あくまで技能移転だというその建前を今もおっしゃるわけですよ。入管局長、もう困ったなという顔を今していらっしゃいますけれども、そういう建前がうまくいっていたなんていうのは言えないでしょう、ここで。
実際には、その下で外国人単純労働者が急速に増大して、特に団体管理型で、逃走防止だといってパスポートを取り上げる、給料の天引きで強制貯金をさせる、物を言えば強制帰国だといって脅す。もしそうなると本国で巨額の保証金や罰金を強要されるために、月に百六十時間とか二百時間とかですよ、こんな想像を絶する無法な長時間労働を強いられる、そんな奴隷労働と言われる実態が広がっているわけです。研修ならあり得ないはずの残業を強いられながら、その残業代が支払われないと、そういう訴えまでございます。
日本の物づくりの現場で偽装請負という働かせ方が大問題になってきましたけれども、これはもう研修ではなくて偽装研修なんじゃないのかという声が出るのは私は当然だと思いますし、その結果、労災、中でも死亡事故が多発し、この過酷な状況に耐えられなくて失踪するという労働者が増加をしているということ、ここから見ても許されない人権侵害であることは間違いないわけですよね。
今も技能移転というお話がありました。そこで伺いたいんですが、技能移転、つまり研修、技能実習を経た外国人労働者が本国に帰ってどのようにその成果を生かしているのかということについて調査、検証をしたことが、法務省、ありますか。

○政府参考人(稲見敏夫君) お答えいたします。
入国管理局が直接調査したという例、平成十八年にございます。平成十八年に実は八百七十六人の研修生、技能実習生からお帰りになった方、これを対象にアンケート調査をさせていただきまして、お帰りになってどこで御活躍になっているかというようなことを調べさせていただきました。
その結果、簡単に申し上げますと、七割の方が派遣前の企業にお戻りになって御活躍になっている。それから、一割の方は派遣前の企業とは異なるところに行かれたんですが、同じ職種、会社は変わりましたけど、多分日本で習得した技術というのを生かして御活躍なんだろうと思います。また、数%の方ではございますが、更に上級の大学、大学院等に御進学になった方もいらっしゃるというような結果になっております。

○仁比聡平君 何言っているんですか。一年間に入国するその数というのは六万人をはるかに超えているんでしょう。八百七十六人ですか。そんな調査をやったからといって、どうして技能移転の検証をやったなんてことを言えるわけ。昨日、レクのときには、厚生労働省、経済産業省それぞれ伺いましたが、そのような検証はやっていないということでございました。
外務省が対象のごく限られたアンケート調査をやっておられると思いますけれども、これは例えば中国で四十一人、わずかそのような人たちのものを調べたと、そういう中身ですね。その数だけで結構です。

○政府参考人(山崎純君) お答え申し上げます。
外務省は、平成十年度以降、毎年、帰国技能実習生フォローアップ調査を送り出し国において実施しております。帰国生本人及び送り出し企業、送り出し機関の責任者との面談によるヒアリング調査、アンケート実施を通じて、制度の評価、同制度により取得した技術技能の活用状況等を調査しております。
これ、一番最近でございますれば、ベトナム、平成十八年、また十九年、中国に実施しております。

○仁比聡平君 中国の対象者の数は。

○政府参考人(山崎純君) お答え申し上げます。
一番最近の数字で、今手元に持っておりますのはベトナムでございますが、企業四十社、帰国生九十四名からの回答を得ております。

○仁比聡平君 本当にごくわずかの例を尋ねただけで、まともな検証をしていないんですよね。
政府は、この研修は労基法の適用外だというふうに言ってきました。しかし、実際に日本で働いている、つまり受入れ企業の指揮命令によって労務を提供して、残業代、そういった対価を得ているという実態があるんだったら、給与はもちろんのことですけれども、労基法の適用を始めとして、労働者として保護されるのは当然なんじゃないですか。労働基準行政について伺います。

○政府参考人(森山寛君) お答え申し上げます。
これ、もう委員今まさに御案内のとおりでございますけれども、外国人研修生の実務研修、これは在留資格上の研修という非就労資格での在留している者が行う活動でございまして、労働基準法上の労働ではないというふうに認識をしているものでございます。
ただし、出入国管理機関におきまして、外国人研修生が実務研修の範囲を超えた就労を行ったと認める場合において労働基準関係法令上の問題があると認められる場合には、監督機関における監督指導等を行い、適正な労働条件の確保を図ることにしているところでございます。

○仁比聡平君 いや、もう一回分かりにくいから聞きますけど、在留資格は確かに研修でしょう。だけれども、実際に例えば労基署が立入調査をした、そうしたら、技能実習生は労働者ですからね、技能実習生と一緒に研修生が全く同じ仕事をしている。あるいは、技能実習生は二年目からそうなんであって、最初は研修生として入国しているわけでしょう。最初からずっと同じ働かされ方をしてきましたという話が出てきた、そのときに労基署は見て見ぬふりするんですか。

○政府参考人(森山寛君) 繰り返しになりますけれども、この研修というのは非就労資格での在留資格でございまして、例えば、研修と労働と区別するためには、例えば研修の目的で行われているのかどうか、あるいは全体的なスケジュール等がどうなっているのか、あるいはそういうものの最初の計画等の文書等を把握する必要がございますし、そういう実態を踏まえた上での判断をしなきゃいけない問題でございます。それで、私ども、出入国管理機関と連携を図ってこういう問題について対応していきたいというふうに考えているところでございます。

○仁比聡平君 現行制度になってからでもほぼ十年なんですよ。九〇年からすればもう十八年もたつんですよね。現実に無権利状態に置かれている実態を直視して労働者としての保護を検討するというのが、私は政府全体の少なくとも責任だったと思う。だけれども、それをずっとしてこなかったことはもう今の答弁で明らかでしょう。
技能移転だという建前で、労働者ではないというふうに言って労働者保護の外に置き続けてきたことが、私は残酷な人権侵害を生んできたんだと思います。そして、その実態が日本の労働条件全体を押し下げることになっている。事実上、安上がりの単純労働力の受入れ政策を国が進めてきたと私は言うほかないと思うんですよね。こうした制度の下で、あくどい研修生ビジネスとでも呼ぶべきそういう構造を生んでいるのではないかと私は考えております。
お手元に資料をお配りをいたしました。一枚目の新聞記事にございますように、昨日、三月の二十四日、名古屋の入国管理局に愛知県労働組合総連合が大臣あての要請書を出したということなんですね。中を御覧いただければ分かりますように、去年の五月からこれまでに二十件もの外国人研修生からの相談を受けて、その解決のために駆け込み寺になって事態の打開に必死で取り組んでこられた上での要請なんです。私は大変重いものだと思うわけですけれども、この要請書の続きに、最後に三枚付いておりますが、この相談の実例の要約が表になっております。
この右端の方の組合名、これは受入れ組合ですね。それから、一番右の送り出し機関というところを見ますと、同じ名前がたくさん出てくるわけですよ。特に、受入れ組合がアケボノというところ、それで送り出し機関はコクヤンというこの組合せ、幾つも出てくるんですが、例えばこれについて、この相談例一、二のケースについては入管が不正裁定をされたというふうにこの表にございます。
不正裁定をされたというのが事実か、そしてその事案の概要と、ここに出てくるアケボノ、コクヤンというこのものの実態についてつかんでいることをここで紹介していただきたいと思います。

○政府参考人(稲見敏夫君) 個々の企業の個別の案件の中身についてのコメントはちょっと差し控えさせていただきますが、不正行為の認定をしている、あるいはそういう調査をしているということにつきましては、仁比委員御指摘のとおり、もう既にしかるべく対応をさせていただいているところでございます。

○仁比聡平君 何で答えられないのかと私はやっぱり思うんですけれども、この申入れ書も見ていただきながら私の方で少し紹介をいたしますと、この二十件のそういった相談にほとんどに共通をしているのは、最低賃金違反、強制貯金、そしてパスポートの取り上げなわけです。
愛労連によりますと、このコクヤンから、名古屋、岐阜、三重を中心に千五百人ほどのベトナム人労働者が派遣されてきているということなんですね。この研修生たちは、出国の前に、残業代が時給三百円や六百円という契約書類にサインをさせられたというふうに言っております。私、この契約書というのを入手して、ここでお見せするわけにいきませんけれども、読んで大変びっくりいたしました。研修手当は一年目四万五千円、二年目、三年目は五万五千円、残業手当は時給三百円というふうに書いて、それにサインさせているんですよ。つまり、送り出しのときから日本の最低賃金法には満たない時給三百円というのを残業代として定めている。そして、その中には、研修期間内に失踪したり強制送還されたりした場合にはコクヤンに日本円で二百五十万円の賠償を行うという約定が定められていて、その担保のために保証金を事前に支払わされるわけです。多くは米ドルで一万ドル。この金額はベトナムの農家の平均年収から考えたら二十六年分に当たると、そういう調査もあるわけです。
多くのベトナムの青年が家や田畑を担保にしてこの送り出し機関によって日本に送られてくる。そういうベトナム人たちにとって、ベトナムに返すぞと、強制送還、送り返すぞという言葉がどれほど恐ろしいことか、これは大臣も想像がお付きになると思うんですよね。
さらに、この送り出される青年たちが研修のための自己負担金とは別にそのような保証金を支払わされていて、そして罰金まで取られることになっている。さらに、中間ブローカーというのが介在していて、日本で受け入れる企業は、送り出し機関の、つまりこの場合でいえばコクヤンという派遣局、受入れの機関である協同組合、そしてそのブローカーに合わせて一人月五万円以上を支払っていたと、そういう証言もあるわけですね。
この要望書に補足資料というものが三ページ目に付いておりますけれども、ここではさらに直接コクヤンに受入れ企業が管理費を支払っていたとか、研修生、実習生は帰国をしたら二か月分の給料をコクヤンに渡すことになっているとか、あるいは、受入れ企業と研修生を同時に話を聞いてみたら、日本に来るための旅費、これは両方が自分は支払ったというふうに言っていて、二重払いをさせている、二重取りをしているのではないかという強い疑いも生まれているわけです。
もう少しお聞きいただきたいと思うんですけれども、このような送り出し機関が日本側の受入れ組合あるいは受入れ側、ここが主導して設立されたのではないかという重要な指摘がこの申入れの中でなされています。それはエイラインという名前の、株式会社エイラインディベロップメントというところのようですけれども、ここは先ほど不正裁定を受けたところに関与しているアケボノというこの協同組合も含めて十の協同組合から成るグループをつくって、そのうち岐阜県中部繊維技術統合協同組合、Gネット協同組合、岐阜繊維システム開発協同組合、岐阜ソーイングテクニカル協同組合という、この四つの協同組合はいずれも同じ住所、そして人的なつながりも極めて濃いという、そういう実態であることがこの労働組合の調査で明らかになっているわけです。
このエイラインの受入れマニュアルというのがある。つまり、ベトナムから日本に来たその研修生たちに最初の研修をする入国時研修のマニュアルが内部告発で私もここに持っております。
ここの冒頭には、組合が研修生を呼んだのではない、会社、つまり受入れ会社ということだと思いますけれども、受入れ会社は直接ベトナム人を呼び寄せることができないので組合を通して呼んだのだと説明をした上で、大事な話として、契約内容の確認をするようにマニュアルはなっているんですね。
研修生の皆さんが日本に来た目的は何ですか。それは、在留資格は研修生ということになっている。これは先ほど入管局長も言われたように、本来の目的は日本の優れた技術を勉強する、学ぶということになっている。しかし、実際は仕事をする、働くんですということがまず研修の第一項目なんですよね。
研修生は、残業や休日出勤など本来してはいけない、していることが入管にばれてしまうとベトナムに送り返される、大変なことになるとこの研修生にまず研修をして、だから、どんなことがあったって自分たちのその苦しみ、これからどんなことになるか、その研修を受ける時点では知らないんだと思いますけれども、そこに耐えさせるような、縛り付けるような、そんな研修をこのエイラインというところは行っているわけです。
こんな実態が許されるのかと。どうなんですか。入管局長、そして大臣、伺います。

○政府参考人(稲見敏夫君) 今委員から御指摘いただきましたようなケース、もちろん私ども事実を調査をいたしますが、事実を確認できれば、今のお話の中で、まず受入れ機関につきましては、事実が確認できた場合には当然に不正行為に当たるということになります。
それから、これは送り出し機関もかなり問題だと思いますので、送り出し機関につきまして御指摘のような事実が確認できた場合には、当該送り出し機関からの受入れは認めないという措置をとって対応することになろうかと思います。

○国務大臣(鳩山邦夫君) ちょっと前段の方の話になるかもしれませんが、昨日、私、参議院の予算委員会で答弁をいたしておりまして、それは読売新聞に出ておりますが、研修一年、技能実習二年という分け方でやっているし、本来の目的が技術の移転、国際貢献であることはもう御承知のとおりでございますが、実際に一年目の研修のときにも仕事をしているケースが非常に多いので、研修と技能実習を最低賃金法とかあるいは他の労働法上仕分をする必要はないのではないかと、働かせている以上は最低賃金法等を適用したらどうだということを答弁したことが書かれてありますので。
今先生のお話をいろいろ聞いておりますと、いろんなブローカーが入ってくる、送り出し機関が保証金を取る。その送り出し機関というものも場合によっては日本から金出してつくらせているという可能性があって、そこでまた搾取をして、より太っていくという。大体、研修、技能実習などという、本来は技術移転という立派な目的を持ったものを食い物にする、何でも商売にする人間は出てくるんだろうと思いますが、これはよほど厳しく見ていかないと、こういうものをはびこらせれば、もう研修も技能実習でもなくなる、安易な労働力を売るという、大変なことになると思いますね。
私はたまたま「サンダカン八番娼館」の山崎朋子さんの小説というか女性研究史、あるいはその続編等を最近ちょうど古本屋で手に入ったものですから今読んでおりますが、女衒という妙なやつらが非常に貧しい天草島の女性をシンガポールに、ペナンに、そしてサンダカンに売り飛ばしていく、何かそういうことに近いようなことがこの立派な目的を持った研修・技能実習制度の中で行われることがもしあるとするならば、これはもう絶対許されてはならないので、入管局を厳しく指導してまいります。

○仁比聡平君 私はこれ、今日はもう時間なくなりましたから、引き続き取り上げていきたいと思いますけれども、何とおっしゃいましたか、つまり、建前といいますかね、これがいい制度があって、その中でたまたま起こっているというような、そんな話ではないという、もはやなくなっているということを大臣に是非認識をしていただきたいと思うんですよね。
といいますのは、このマニュアルの中見ますと、金属系の職場では研修生も実習生も残業代は一律六百円ということがあって、繊維関係の産業は残業代一律三百円、強制貯金は三万円というようなことまであっているわけですよ。そうすると、グループ組合が受入れ企業にそういった営業ですね、大臣もブローカーというふうにおっしゃいました、そういうことをやっているんじゃないか、だからこれほど同じ構造の問題が中部でも、そして全国各地でも起こっているんじゃないのかということなんですよね。
これはもう本当にあくどい、研修生を食い物にする、外国人の労働者を食い物にして使い捨てにする、ぼろぼろにしてしまうという、そういう汚いやり方ではないですか。そこへの認識を私は経産省にも外務省にもお尋ねをしたかったですけれども、時間がありません。大臣、一言だけいただいて、今日の質問を終わりたいと思います。

○国務大臣(鳩山邦夫君) 将来的にこの研修・技能実習制度をどう見ていくかということは、長勢私案があったり厚労省案があったり経産省案があったり、いろいろありますよね。
そもそも日本の雇用というものをどう考えるか。例えば、三Kみたいに日本人がやりたくないものは外国人に単純労働させればいいんだという考え方もあるでしょうし、日本にもニートとかフリーターとかいっぱいいるんだから、それはなるべく外国人を労働力としては入れないで、日本人で全部労働の需要は賄っていくべきだとか、いろんな議論があるから大議論が必要だと思いますが、少なくとも、少なくとも研修・技能実習制度というものを安価な外国人労働力の購入方法と考えて、そこにまたブローカーが群がっていろんなところにもうけが発生するような在り方だけはとにかく直さなければいかぬと、こう思います。

○仁比聡平君 終わります。