第169回国会 参議院法務委員会 第4号 2008年3月27日 仁比聡平参議院議員

○仁比聡平君
日本共産党の仁比聡平でございます。 一昨日の大臣所信に続きまして、外国人研修生・実習生問題について、不正行為が認められる場合の在籍研修生、技能実習生の保護という角度で幾つかお尋ねをしたいと思います。 一昨日に閣議決定もこの関係でなされておりまして、その中で「研修生・技能実習生の保護のため早急に講ずべき措置」というテーマがございます。この全体のこれからどうしていくのかという問題は、私はこれからしっかり吟味をさせていただきたいと思っているんですけれども、この早急に講ずべき措置というものの中の一つとして、受入れ機関が不正行為の認定を受けた場合及び受入れ機関の倒産などにより研修・技能実習が継続できない場合であって、研修生、技能実習生の責めに帰すべき理由がないときは、原則として、当該研修生、技能実習生が他の受入れ機関において研修・技能実習を継続できるよう受入れ先機関の開拓を行う仕組みを構築をしようと、そういうお話がございます。 つまり、前回御紹介をしたような不正行為の認定がされる、あるいは企業が倒産すると、こうなれば外国人労働者たちはほうり出される格好になるわけですね。その場合、原則として、ほかの受入れ先機関の開拓をしっかりつくっていこうじゃないかという御趣旨だと思うわけです。 不正行為や倒産の場合に、その奥にパスポートの取上げだとか強制貯金だとか、あるいは賃金未払だとかという問題があるわけで、労働者たちを帰国させるということが何の解決にもならないどころか、逆に、母国での保証金や罰金などの重大な人権侵害をもたらすケースが多々あるということは、もう前回の質疑で大臣も御理解いただいていると思うんです。だからこそ、こういった場面で、研修生や実習生を受け入れた国なんですから、私たちはきちんと保護するという立場に立って、こういった考え方を具体化そして運用をしていっていただきたいというふうに思っております。 大臣、いかがですか。
○国務大臣(鳩山邦夫君)
今仁比先生おっしゃったように、これは本来、国際交流というか、日本外交の問題でもあるわけでして、そして技術移転という非常に大きな目標があって、日本のすばらしい技術や制度を外国の方に学んでいただこうという、そういう目的でやっていることですね。これを食い物にするようなやからが出てくるから非常に困っているわけで、そういうことは防いでいかなくちゃならないわけですが。 つまり、外国から研修・技能実習という形で希望に燃えてやってくる方、あるいは、おまえのようなやつは優秀だから行ってこいといって歓呼の声に送り出されてくる方もいるんだろうと思うんですね。その方々が、一次受入れ、二次受入れとあって、今先生おっしゃったように、そこに不正があったと、あるいは倒産しちゃったというんでお帰りなさいということは絶対しちゃいけないと思うんです。 つまり、倒産しちゃったならば、その一次受入れ機関が、じゃ別のところにきちんと面倒を見る、あるいは不正があったところは、もうこれは駄目ですから、不正があったところから引き揚げてきちんとしたところを紹介するという、こういう保護努力をしなければこの制度はうまくいかないと思います。
○仁比聡平君
厚生労働省の職業能力開発局長にもおいでいただいておるんですが、今大臣の御答弁もありましたし、私からも、この具体化に当たって今の大臣のようなお考えを是非徹底していただきたいということを要望だけ今日はしておきたいと思います。 それで、お手元に資料を、福島民報の去年十二月二十八日付けの記事をお配りいたしました。今問題にしているような場面、つまり、ベトナム人の実習生十六人が働いていた福島県田村市の縫製加工会社、ここファッション緑という企業ですが、ここが〇六年の十二月に倒産したわけですね。これ、多額の賃金が未払になっていると。この記事の冒頭にあるとおりでございます。 記事の中身に入っていただきますと、この十六人の、これ女性たちですけれども、ベトナム人は、研修期間であるはずの一年目から残業が始まって、残業時間は最大で月百六十時間に及んでいた。残業手当はわずか時給四百円。これ、最賃法に基づく最賃は福島は六百二十九円だそうで、これを大きく下回るというわけですね。そして、大臣、よろしいですか、下から二段目の段のところにありますが、給与からは「ちょきん」、ひらがなで書くわけですね、ちょきんという名目で強制的に毎月二万円、三万円が天引きされていたが、倒産後も返還はされなかったと。私、このちょきんというひらがなで書かれた給与明細書、コピーが写りが悪いと思いますけれども、これ、本当に見て切ないし、悔しいし、絶対に許せないというふうに思うわけですよ。 この件については、郡山労基署が書類送検をされたと私伺っておりますけれども、事実でしょうか、確認をさせてください。
○政府参考人(青木豊君)
本件につきましては、賃金不払、労働基準法第二十四条、最低賃金法等の違反で法人及び代表者を書類送検しているところでございます。
○仁比聡平君
そこで、この未払の強制貯金だけで一人九十一万円もあるんですよ。実習生たちは本国で日本円で九十三万円、この保証金を田畑を担保にして借金して払って来日しているわけですね。この未払になっているお金がどれほど大切かと、本当によくお分かりいただけると思うんです。 住み込みの部屋はすし詰め状態だというこの記事がございます。会社の倒産後は水道、電気、ガスも止められて、衣装ケースにためていた水を飲んだり、この記事にあるように冬山で木を切ってたき火をしてしのいだというわけです。 この記事の冒頭に出てきます福島大学の坂本准教授、この方はこのことが起こって直後にベトナム人の労働者たちと面談をされ、その後、ベトナムまでわざわざ出向かれて調査を続けて、あるいは支援を続けてこられているわけです、本当に貴いことだと思うんですけれども。その先生のお話では、この彼女たちが山でこんなにして頑張ったのはどうしてもお金を取り返したかったからだというふうに言っているそうなんですよね。 この御紹介でもお分かりいただけますように、この研修生や実習生には何の責めに帰すべき理由もないわけです。ほかの受入れ機関の開拓をして頑張るというのは私、もっともだと思います。あわせて、こうした実習生たちがせめて未払になっている賃金あるいは強制貯金、これを取り戻すことができるように、受け入れた私たち日本の政府も、できる限りの、それはもちろんできることとできないことあるでしょうけれども、できることはできる限りの手だてを打つと、そしてこういうことはあってはならないという意思をはっきりさせるというのは当然だと思うんですが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(鳩山邦夫君)
基本的におっしゃるとおりだと思います。 ですから、先ほど申し上げましたように、立派な目的がある研修・技能実習制度を食い物にする、商売にするという感覚で送り出し機関が、これも日本人が絡んでいる可能性もあるわけですね、そこで保証金を取るとか、そういうことはやめさせなくちゃならないし、あるいは今、「ちょきん」と書いてありますね。ちょきんという名目で天引きされるというのは、パスポートとか財布や預金通帳というものは奪ってはいけないと、置いとけとは、こっちで保管するからとは言ってはいけないということに全く反するケースにもなるわけだし、そういう意味で、何というんでしょうか、確かに安い労働力を得たいがためにこの制度を悪用するということをとにかくやめさせなければならないと私は思います。 そのためには、いろんな議論があるけれども、研修・技能実習制度がどうあるべきかというのでいろんな案がありますけれども、これもある程度先に確定をしなければいけない時期が来ているなとつくづく思います。
○仁比聡平君
一般論として、青木労働基準局長、賃金確保法の立替払についてちょっと御確認をさせていただきたいんですけれども、外国人労働者であっても日本の労働者と同様に適用されて八割が支給をされる、それは本国に帰国をしていても変わりはないと。それから、強制貯金の分は不払賃金として立替払の対象になると。そして、賃金が最低賃金以下の場合は当然最低賃金まで引き上げて支払うことになると。これは手続や証拠の問題はありますけれども、制度としてはそういうことで御確認いただけますか。
○政府参考人(青木豊君)
未払賃金立替払制度、これは企業倒産によって賃金未払のまま退職した労働者に対しましてその未払賃金の一部を立替払する制度でございますが、この制度におきましては、原則として、委員がお話しになりましたように、未払賃金総額の八割を立替払するというものでございます。技能実習生が強制送還をされた場合でありましても、その未払賃金の八割が立替払されるものでございます。その額が変更されるというものではございません。 また、積立貯金についてでありますけれども、この立替払制度におきましては未払の賃金の立替払を定めたものでございますので、貯蓄金はこの立替払の対象とはなりません。ただ、個別の事案についてどのような範囲で賃金未払になるのか、それが貯蓄金に行っているのかということもございますので、個別の事案につきましてはお答えを差し控えさせていただきたいというふうに思っております。賃金の全額が支払われていないのであれば、その部分につきましては賃金不払となる可能性があるというふうに思っております。 また、最低賃金額に満たない賃金であったということである場合においてどうかということでございますが、これは、最低賃金額を基礎といたしまして立替払額を算定して未払賃金立替払制度を適用することといたしておるところでございます。
○仁比聡平君
結局、強制貯金が不払だと、これは預かっているんじゃないという実態というようなことなんかのある場合などは、先ほどのお話でもこれは賃確法の対象になるという趣旨かなと思うんです。勉強またさせていただきたいと思いますけれども、この坂本先生などの調査によりますと、最賃との差額を含めると、これ十人全体で三千五百万から四千万というような金額に上ってしまうんですよね、未払が。この件でもどのように立替払がされたのかもよく調べていただいて、善処をいただければと思っております。 そこで、先ほど大臣からも送り出し機関がどんなところなのかという趣旨の御発言もありましたけれども、実はこの福島の事件も、前回取り上げさせていただいたコクヤンという送り出し機関でございます。しかも、それだけの未払で苦しんでいる、そして彼女たちは在留期間が迫っていたんですよ。それを、そこに乗じて、ベトナム青年を、名前がありますが、甲とし、コクヤンを、日本支店を乙とするという債権譲渡契約書というのを、私手元に今これ持っております。これは、九十一万円という貯金と言われて取り上げられたものの返還請求権ですね。これを、つまり甲が所有する下記の債権を乙に対し無償で譲渡し、乙は甲よりこれを譲り受けた。ちなみに第二条も読みますけれども、甲は、本契約成立後、遅滞なく丙に対し前条の債権譲渡に基づく通知をなし、又は丙の承諾を受けなければならない、通知又は承諾は確定日付ある証書をもってしなければならないと。 委員の弁護士の先生は意味分かったと思いますけれども、これ日本語ですよね。ベトナムの青年が、こんな目に遭って縛り付けられてきた青年たちが、これ読んで意味分かりますか。こういうものにサインをさせて、そして送り返しているわけですよ。こんなひどいやり方があるかと。法的には、もちろん法律論的には詐欺や錯誤あるいは公序良俗違反ではないのかというような問題がありますけれども、そんなことをおいても、こんなことをやるやり方が許せない。 入管は、私は前回からの質疑で恐らく徹底した調査を取り組んでいただけるものというふうに思っておりますが、大臣、ちょっと時間がないので端的に、是非、その徹底した調査を指示をいただきたいと思いますが。
○国務大臣(鳩山邦夫君)
前回も議論に出ていたと思いますが、フォローアップですね、非常にまだ数が少ない、八百程度でございまして、これでは全貌を把握するには全く数が少ないので、徹底したフォローアップを命じたいと思っております。
○仁比聡平君
今私が申し上げたのは、このコクヤンという送り出し機関がこれだけの悪らつなことをやっている。これに対して徹底して調査をして、せんだって入管局長がおっしゃったような厳しい措置をとるということは当然ではないかと思うんですね。局長の決意をちょっと伺いたいと思います。
○政府参考人(稲見敏夫君)
御指摘のケースにつきましては、徹底した調査をいたしまして、所要の対応を取らせていただきたいと思います。

○仁比聡平君

そこで、こういったやからに縛り付けられてきた青年たちが、先ほどのその立替払も含めて、民事上あるいは労働法上の権利の実現の手だてを取ると。これ、どれだけ大変なことかというのは大臣もお分かりだと思うんですよ。言葉も文化も違うわけですね。外国で本当に心細い。だけれども、自分の当たり前の権利、働いたんだから、それを取り返したいというこの思いが実現をされるというのは本当に大事なことであって、公的機関に相談すれば送り出し機関から保証や罰金というような話になるのではないかという、その彼らの心理状態ということもよく考えなければならないと思うわけです。 そういった中で、在留期間が迫ってくるということがあります。この福島の件でもすぐに在留期間が迫ってくるということで、協同組合が、早く帰らないと警察に逮捕されると。警察が逮捕するわけないと思うんですけれども、こんなことを言って脅して彼女たちをベトナムに送り返したというふうに言うわけですね。 不正行為や倒産について研修生や実習生に責めに帰すべき理由はないと。なのに、在留期限が迫っているというだけで本人の意思に反して帰国をさせられるということになったら、原則としてほかの研修先、実習先を開拓するという先ほどの閣議決定の方向性さえできなくなるじゃありませんか。こうした場合に、私は相応の期間、在留期間の更新、その申請を認めるべきだというふうに思います。 そして、コクヤンの、せんだって指摘をした愛知や岐阜の件でも、これ千五百人、これ中に送られているというわけですよね。そうすると、入管局長が先ほど決意を示されたように、調査が進んでいった場合に、受入れ企業や協同組合が次々にという話になりかねないでしょう、送り返すということに。こうしたことにならないように是非手だてを打つべきだと思いますが、入管局長、いかがですか。
○政府参考人(稲見敏夫君)
委員御指摘のケースは、これから調査いたしますと、御懸念のとおり、相当大勢の研修生、実習生の方の新しい研修先を見付ける、あっせんをしなきゃいけないというような事態が生じることも考えられます。その場合、その数の多少が多い少ないに関係なく、関係機関と連携を取りまして、本人たちの意に反して帰国しなくて済むよう対応していく所存でございます。
○委員長(遠山清彦君)
仁比聡平君、質疑時間終局しております。
○仁比聡平君
はい。 この在留期間の申請をどうするのかという点も含めて私よく検討いただいて、一人一人の外国人研修生、実習生が了解ができるように、母国語でその一人一人に説明する文書を作って関係機関から対象になる青年たちに渡すというようなことも是非前向きに検討をしていただきたいと思うんです。局長、うなずいていらっしゃいますから、期待をしております。 いずれにしても、いろんな制度の検討はもちろん必要でございます。ただ、目の前で現実に起こっているこの人権侵害と、これを生み出しているようなこのビジネスモデルですね、あくどいやり方、ここにきっぱりメスを入れるということをやることが私たちの今の本当に大きな責任だということを最後に申し上げまして、質問時間参りましたので、終わりたいと思います。 ありがとうございました。