○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
私は、ハンガリーDV被害者殺害事件と我が国の共同親権について、今日、質問をさせていただきます。
お手元に資料をお配りをしておりますけれども、全国女性シェルターネットの声明始めとしたこの資料にもあるように、今年一月二十九日にハンガリーで元夫のDVに苦しんできた邦人女性が殺害をされました。本当に無念なことだったと思います。
御友人が、岩屋外務大臣、岩本領事局長、そして小野駐ハンガリー大使宛てにお手紙を送られていますけれども、そこには、被害女性が、離婚後、子供たち二人をシングルマザーとして一生懸命育ててきた、元夫からの仕送りもなく、実家からの援助に頼りながらも母親として強く生きてきた、元夫からの暴力におびえながらも、子供たちと私たちの前ではいつも笑顔を絶やさず頑張っていた、いつか子供たちと一緒に元夫からの危害の及ばない日本で暮らすことを一年以上も希望していましたと。書かれているとおりだと思うんですね。この子供たちはそのかけがえのないお母さんを失ってしまうという取り返しの付かない結果になりました。
そして同時に、我が国でも、父母間の高葛藤が殺害に至る痛ましい事件が繰り返されてきたわけです。それは、昨年の民法改正に当たっても、父母間に合意のない場合にも裁判所が離婚後共同親権を定め得るとする法案で一体どうなるのかと、大争点になりました。
そこで、法務大臣が今回のこのハンガリーの事件をどのように受け止められていて、どのようにDV被害を防いでいくとおっしゃるのか、まず基本的な御認識をお尋ねしたいと思います。
○国務大臣(鈴木馨祐君) まず、ハンガリー国内で、今御指摘の件でありますけれども、この元夫のDVに苦しんでいた日本人の女性、殺害をされて御逝去されたということ、極めて痛ましいことでありますし、心からお悔やみを申し上げたいと思っております。
DV被害者の保護、そして被害の拡大防止、これは極めて重要な課題と認識をしております。その意味から、先ほど御指摘ありました令和六年の民法等一部改正法でありますけれども、この改正法によって、家庭裁判所において父母の合意がない場合にも離婚後共同親権とすることができる制度を導入するものでありますが、DV被害者の保護といった課題、これは改正法の審議の過程においても御指摘のように極めて重要な論点の一つであったと承知をしております。
改正法においては、DV被害を受けるおそれ等の事情を考慮して、父母が共同して親権を、共同して親権を行うことが困難であると認められるときには必ず父母の一方を親権者と定めなければならないとされております。すなわち、それは、DV被害を受けるおそれがある場合には父母双方が親権者と定めるということはないと我々としては考えているところであります。
また、改正法におきましては、父母双方が親権者である場合であっても、子の利益のために急迫の事情があるときについては単独に親権を行使することができることとされております。したがいまして、例えばDV等からの避難、これが必要な場合に子を連れて別居をするといったことに何ら支障を生じさせるというものではないということであります。
このような改正法の趣旨、内容、これが正しく周知をされ理解をいただけるように、関係府省庁とも連携をして、適切かつ十分な広報、そして周知に我々としても努めていきたいと思っております。
○仁比聡平君 昨年の法案の審議の中でも、つまり、DVのおそれが認められるならば、これは必要的に単独親権であるし、この避難のための行動が支障を生じさせてはならないんだなどの御認識がまず示されました。
そこで、DVとは何なのかということを少し議論したいと思うんですけれども、私は、支援に当たってきた様々な専門家の皆さんのお話からしても、家庭内の権力格差を背景としてパートナーを支配する人間関係の構造そのものがDVであって、暴力はその手段にすぎないと思います。加害者が得意とする暴力、例えば身体的、精神的あるいは性的な、そうした暴力が振るわれるけれども、DVの本質は個人の尊厳を害する支配であり、人権侵害なのだと思います。
そこで、内閣府の男女共同参画局にお尋ねしたいと思いますが、そうした支配であり人権侵害であるという理解が我が社会で著しく遅れているために、加害者に加害の自覚がない、一方で被害者は被害に自信が持てないという実態が克服できずに来ていると思うんですが、これ、どう捉えておられるか。根絶にどう取り組んでいかれますか。
○政府参考人(原典久君) 配偶者からの暴力は、外部からその発見が困難な家庭において行われるため潜在化しやすく、加害者に罪の意識が薄いという傾向にあり、このため、周囲も気付かないうちに暴力がエスカレートし、被害が深刻化しやすいという特性がございます。また、被害者自身に自らが被害を受けているという認識がないために相談に至らないことも多いとの指摘もございます。
内閣府としては、配偶者からの暴力を容認しない社会の実現に向けて、配偶者からの暴力が重大な人権侵害であることや、殴る、蹴るなどの身体的暴力だけでなく、心を傷つける精神的な暴力も暴力であること等についてホームページやSNS等を通じた更なる広報啓発に取り組むとともに、被害者がためらうことなく相談することができるよう、配偶者暴力相談支援センター等の相談窓口について一層の周知を図っているところでございます。
先ほど申し上げた配偶者からの暴力の特性や暴力には多様な形態があり得ることを念頭に、関係省庁と連携してその根絶に取り組んでまいります。
○仁比聡平君 ありがとうございました。
だからこそ、厚生労働省においでいただいていると思いますが、仮に父母間で共同親権かどうかとか同居親が単独行使できるのかなどの争いがある場合でも、DVが認められる、DV被害が認められるという場合には、ためらわずに、ためらうことなく保護、支援を行わなければならないと思いますが、そうですね。
○政府参考人(岡本利久君) お答え申し上げます。
改正後の民法におきましては、親権の共同行使の例外として、子の利益のため急迫の事情があるときが規定をされておりまして、この点につきましては、法務省の方から、DV被害を受けている場合にはこれが該当する旨が示されているというふうに承知をしております。また、急迫の事情があると認められるのは暴力等の直後のみに限られないとの見解も示されていると承知をしております。
このため、女性相談支援センターにおきましては、DV被害者の立場に立って御相談に応じ、その内容に基づきDVから保護することが必要であると判断した場合には、子の利益のため急迫の事情があるときに該当するものとして、ためらうことなく必要な支援を行うべきものと考えております。
厚生労働省におきましては、こうした考え方について女性相談支援センターなどの関係機関に対し研修会等を通じて周知を行い、引き続き、DV被害者への支援が適切に行われるよう努めてまいります。
○仁比聡平君 ありがとうございます。
特に、警察現場の役割は重大だと思います。
警察庁にお尋ねをしますが、これまでDV、ストーカーの相談を警察署が受けていながら被害者の殺害に至ってしまったという事件が痛恨の教訓になっていると思います。これらを踏まえて、DVの相談をどのように捉えて対応していくように徹底しておられますか。
○政府参考人(大濱健志君) お答えいたします。
配偶者からの暴力事案等につきましては、一般的に、事案を認知した段階では被害者等に危害が加えられる危険性やその切迫性を正確に把握することが困難であることが多い一方、事態が急展開して殺人などの重大事件に発展するおそれが高いものであるというふうに認識しております。
警察では、委員御指摘のとおり、過去の重大事件を踏まえまして、被害者の安全確保を最優先に、認知の段階から組織的に対処するための体制を直ちに確立いたしまして、関係機関等々と連携した被害者の保護及び加害者の検挙等の措置を講じております。また、この種事案では、身近な者が行為者であるなどの理由から被害届の提出等をためらうことも見受けられることから、被害者に対しましては、事案の特徴、警察としてとり得る措置、被害者自身の選択、決断、協力の必要性等を分かりやすく丁寧に御説明いたしまして被害者の意思決定を的確に支援するなど、被害者等からの相談への対応にも万全を期しているところでございます。
今後とも、引き続き、被害者の安全確保を最優先に、認知の段階から関係機関等と連携した被害者の保護及び加害者の検挙等の措置に万全を期すよう、都道府県警察を適切に指導してまいりたいと考えております。
○仁比聡平君 お手元にお配りしている資料の三枚目に、警察庁が現場に徹底しておられる人身安全関連事案への対処に係る留意事項についてという通達の中から、被害相談に来られた方への資料として、知っていただきたいことなどの「警察に来られたあなたへ」という資料をお手元にお配りしています。
警察庁、確認ですけれども、ここにあるように、あなた自身や子供や親族、同僚などに対する殺人、傷害など重大事案へ発展するおそれがあるということ、一旦暴力が収まって相手が優しくなっていても、また暴力が再開される可能性は十分あるということ、それから、まだ相手に情が残っている、外では真面目な人なのに、自分さえ我慢すればなどと考えていませんか、生命や身体を守ることを第一に考える必要がありますと。
こうした観点で、相談に来られている方の御相談を十分に伺って、そして身を守るための意思決定ということを支援していくんだと、先ほどの御答弁はそういう趣旨でしょうか。
○政府参考人(大濱健志君) お答えいたします。
まさに委員おっしゃるとおり、そのとおりでございます。
○仁比聡平君 このDV被害者の相談というのは、警察や、それから女性支援センターや配暴センターや様々な場面での相談ということになるんですけれども、相談に来ているということは、これまでDVの被害がある、あるいは怖いということなんですよね。そういう、これ、かつてのDVが疑われる場合、認められる場合、よほどそのおそれがなくなったという事情がない限りDVのおそれは消えない。リスクがあるし、当事者が怖いと思っているのは当然だと。けれども、そこに自信が持てないというような実情や特徴をしっかり踏まえた対応が私は必須だと思います。
そこで、国内法の問題としてちゃんと確認したいのが、改正民法、特に八百十九条七項ですけれども、ここに関して、先ほど大臣の御答弁もありました、条文で言いますと、父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無などを考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
この要件に出てくる暴力、DVというものをどんな本質のものとして捉え、どのように判断をしていくと基本姿勢を持っていらっしゃるのか。いかがですか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
委員御指摘のとおり、改正民法の第八百十九条第七項第二号は、父母の一方を親権者と定めなければならないときとして、父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、それから、親権者の定め等に関する父母間の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるときを定めております。
個別の事案には応じますが、委員御指摘のような、父母間に様々な力の差を背景として一方的に他方を支配するような関係が認められる場合には、父母が共同して親権を行うことが困難であると言えるものと考えられます。また、身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれについては、裁判所において、個別の事案ごとに、それを基礎付ける方向の事実とそれを否定する方向の事実とが総合的に考慮されて判断されることになると考えております。そして、このおそれについては、当事者の一方がその立証責任を負担するというものではありません。
委員御指摘のとおり、DV被害者にはそもそも被害の自覚を欠いている場合もあることも勘案した上で適切な判断がされることになると考えております。
○仁比聡平君 大事な答弁だと思います。昨年の法案審議の中ではこうした答弁にまで至らなかったと思います。今後の周知の在り方やその判断の審査をどうしていくのかということも含めて、今後議論をしていきたいと思うんです。
これまで伺ったような答弁に示されるような取組が仮に行われていれば、ハンガリーでの事件は起こらなかったのではないかと思います。
今日、外務副大臣にも、そして領事局長にもおいでいただいています。
まず、ハンガリーの対応についてお尋ねをしますが、ハンガリー警察は被害女性の相談にまともに取り合いませんでした。報道によれば、これはハンガリーでは犯罪でも何でもない、ばかげているなどと、被害女性を門前払いしたということが伝えられているんですね。これは、女性差別撤廃条約やイスタンブール条約を始めとした国際人権基準に照らしても、重大な人権侵害だと私は思います。
殺害された後も、現地警察は失火事故としました。これに対して、そんなわけがあるかと、支援者、支援団体、そこには現地の弁護士の方もいらっしゃるということですが、DVの存在、防犯カメラ映像などの存在を告発したということによってようやくやり直し捜査が行われ、結果、立件され、元夫は逮捕されたということなんですね。
外務省は、こうした経過について、政府として、ハンガリー政府あるいは現地警察当局に対して抗議をされたんでしょうか。ハンガリー側はどう受け止めているんでしょうか。
○政府参考人(岩本桂一君) まず、今回の事件につきましては、外務省としましても大変重く受け止めております。
そして、今委員お尋ねの点でございますけれども、この事件発生後、ハンガリーに駐在しております小野大使から、現地の警察当局、そして副首相に対しまして、この事件の真相の解明、そして再発防止を強く申し入れさせていただいたところでございます。
ハンガリー側からはこの真相究明に向けて全力を尽くすという反応を得ているところでございますが、まだ司法のプロセスが続いておりますので、私どもも、このプロセスをしっかりとフォローしていきたいという具合に考えております。
○仁比聡平君 資料の二枚目にありますが、ハンガリー当局は、このDV相談をまともに取り合わなかったということなどを理由にして警察官五人の懲戒処分に及んでいるわけですから、これを、そのハンガリーの社会においても許されないことだったんだと、その結果、被害女性の殺害に至ってしまったんだと、それが世界で起こっている現実なんだということを私たち深く受け止める必要あると思うんですね。在外公館の基本姿勢はどうなのかと。
この件で、仮にハンガリー大使館が現地警察に対して、国家として、日本国として保護要請を行っていれば、ハンガリー警察の対応はまた違ったのではないかとも思うんですね。この点が衆議院の予算委員会で議論になりまして、岩本領事局長が、もう今にも相手の配偶者から殺されそうになっているとか、殺されないにしても危害を加えられる状態にあるということになれば切迫度も相談の具体性もあるがという旨の答弁をしておられまして、これを聞くと、殺されそうにならなければ相談には切迫性も具体性もないんだと言わんとしているように聞こえるんですよね、この答弁は。そのように読めるんです。
DVをそのように極めて狭く捉えるというのは、これは重大な誤りではありませんか。
○政府参考人(岩本桂一君) 今委員御指摘の、二月二十八日の衆議院予算委員会分科会でのやり取りだと思いますけれども、その際、御指摘をいただいたのは、DVの具体的な状況について、一般論としてどういったものがあり得るのかというお尋ねございました。それに対しまして、私の方からは先ほどおっしゃったような答弁をさせていただいたんですが、趣旨としては、当然、DV、いろいろな形態ございます。その上で分かりやすい一例として申し上げましたので、これに限定されると、そういう趣旨では全くございませんので、当然ながら、DVのその個別の状況をしっかりときめ細かにお聞きをした上で対応していくべきものと考えております。
○仁比聡平君 先ほど御紹介した被害女性の友人の手紙には、被害女性が、子供たちと一緒に帰国したいということを何度も大使館に伝えていた、元夫に取り上げられた子供たちのパスポートを再発行してほしいと何回も懇願していた、大使館に連絡するたび、元夫からの度重なる暴力や家庭の状況を伝え、助けてほしいとお願いしていたと。この訴えに対して、あるいは被害女性と大使館のやり取りに対して、相談の具体性がなかったとかパスポートの申請をしなかったとかいうようなことを国会で答弁をされてきたことに対して、この御友人たちはこう言っています。どうして彼女から具体的な相談がなかったなどと国会でうそをつくのですか、亡くなった彼女が反論できないので、うそをついて責任を逃れてもよいと思っているのですかと。
この批判は、極めて厳しい、国家に対する、政府に対する指摘だと思うんですね。そうでないというんだったら、これから一体どうするのか。もちろん、今、子供たちだけになってしまった御実家の御遺族などとのもう本当につらい調整を現場でしておられると思いますけれども、二度とこんなことを起こしてはならないんだと、それは、ハンガリーのみならず、世界各国で絶対にそれを起こしてはならないんだと。
国際人権基準に照らして許されないジェンダーに基づく暴力、二度と起こることのないよう国際社会に働きかけていくというのが、私は、日本の政府、外務省がやるべきことだと思いますが、副大臣、いかがでしょうか。
○副大臣(藤井比早之君) 配偶者からの暴力、ましてや殺人は、個人の尊厳を踏みにじる重大な人権侵害であり、決して許すことのできるものではございません。
我が国は、昨年秋、人権理事会において採択されたDV防止及び撲滅への効果的な策を講じることを全ての国に求めるDV撲滅決議につきまして、共同提案国となってコンセンサス採択に参加しているところでございます。また、昨年十月、イタリアで開催されたG7男女共同参画・女性活躍担当大臣会合においてジェンダーに基づく暴力を非難する共同声明を採択するなど、我が国はDV撲滅のために国際社会と連携しているところでございます。
政府といたしましては、引き続き、DVの根絶に向けて国際社会において取り組んでまいる所存でございます。
○仁比聡平君 そうした見地をどう具体的に生きたものにしていくのかということが今まさに問われていると思うんです。
その一つとして、時間がありませんので一問だけ聞いて、あとは次回に譲りたいと思いますけれども、離婚した元夫、別居親から子供たちのパスポートを取り上げられているという相談を聞いたら、これは行動制限であって異常なDVではないかと強く問題意識を持つのが当たり前だと思います。ところが、パスポートが発行されなかったと、逃げられなかったということに対して、DV相談がされた場合、一般論で構いませんが、未成年者パスポート発行の要件を一体外務省はどう考えているのか、どう周知していくのか、これはいかがですか。
○政府参考人(岩本桂一君) 今御質問のあった旅券の発行の基準でございますけれども、この未成年者の旅券につきましては、基本的には、その共同親権を持っておられる御両親がいらっしゃる場合には御両親からの同意を得るようにしておりますが、仮に、そのDVというような、様々な状況ございますけれども、そういうことがありましたら、この旅券又は一時的に帰国だけできるための帰国のための渡航書といったものもございますので、それはその各事情に応じて発行できる体制にもなっております。ですので、こういった制度については、改めて各在外公館にもしっかりと周知をしつつ、間違いのない対応をしていきたい、このように思っております。
○委員長(若松謙維君) 時間が来ております。
○仁比聡平君 今日はもう終わりますけれども、この人道的な配慮あるいは邦人の保護という、そうした見地を徹底して貫かなきゃいけないということを指摘して、質問を終わります。