衆参両院の審議を通じ、入管法改定政府案にかかわる法相の答弁は立法事実の根幹部分で大きく崩れ、審議するほど大問題が噴出しています。入管難民行政と政府案そのものが底深い人権侵害の構造の中にあるからにほかなりません。何の反省もなく、法案を押し通そうとする斎藤(健)法相に法相の資格はないというべきです。
「わが国に本当の難民はいない」との柳瀬房子難民審査参与員の発言に、法相は「わが国の現状を的確に表している」と擁護しましたが、その前提の柳瀬氏の対面審査数を法相自身が「不可能」と認め、柳瀬氏の発言を土台にした政府案の立法事実は崩れました。
第二に、入管庁がさまざまな事情で帰国できない人を「送還忌避者」と一くくりにして縮減目標をもち、各入管に達成状況を報告させる「送還ノルマ」に、法相が何の反省もなく開き直っていることです。私が入手した内部資料で、2022年度に456件の送還目標があったことが明らかになりましたが「公にすべきでない」と言い張る入管の隠ぺい体質は底なしです。
第2次安倍政権下の15年に入管庁は仮放免の柔軟な活用を転換し、16年に東京五輪までの「送還忌避者」大幅縮減を掲げ、18年に仮放免取り消しによる再収容と速やかな送還へ厳格運用を強めました。そこに設けたのが送還ノルマです。司法審査も受けない無期限収容と一体に、非正規滞在者の命と人身の自由、生活を奪う拷問のような構造的人権侵害をもたらしました。民主主義の届かない闇の中でつくり出した構造的人権侵害の通達を廃止し、ブラックボックスを打破すべきです。
第三に、法相が日本で育ち学ぶ子どもと家族が安心して暮らせるよう「前向きに検討していきたい」と答弁しながら、「法案成立後、施行までに検討する」と繰り返したことです。入管庁任せになるのではないですか。
第四に、大阪入管の常勤医師が泥酔し、暴言や不適切な投薬などを繰り返したことが明らかになりました。入管庁も法相もそれを隠し続け、常勤医師が従事し続けているかのように説明してきたのは、明るみに出れば法案再提出すらできなかったからではないか。私が入手した呼気アルコール検査の報告文書に記された事実さえ隠し続ける入管庁に、入管収容の改革などできるはずがありません。
法相は、非正規滞在者の不安と恐怖の声、保護と共生への希望を見いだそうと手をつなぐ人々の声を聞き、入管法政府改定案の撤回と、国際人権水準に基づく根本的見直しを強く求めます。(しんぶん赤旗 2023年6月8日)
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