○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました法務委員長秋野公造君解任決議案に賛成の討論を行います。
 その最大の理由は、安倍政権が憲法違反の共謀罪法案を何が何でも押し通そうとする下で、法務委員長が、徹底審議に求められる重要問題を脇に置いて、結局、政府・与党言いなりにその職権を行使しているからであります。
 先週の北海道新聞の世論調査で、共謀罪反対の声は前月から一四ポイント増えて五九%と、賛成三四%を大きく上回り、特に四十代、三十代以下の若い世代で急増していることがはっきりしました。内閣支持率は一二ポイント急落し、四一%です。説明不十分との声は八五%に達し、自民党支持層でも六八%、公明党支持層の八六%が今国会にこだわらず慎重に議論すべきとの声を上げているのです。
 その後の全国調査でもいよいよ広がっているこうした国民の不安や批判に正面から応えて、法案の持つ重大な危険性、それをごまかそうとする政府答弁の矛盾や詭弁を徹底してはっきりさせることが法務委員会の任務であり、政府さえ説明できない法案を断じて通してはならないのであります。共謀罪法案は廃案にするほかありません。
 法務委員長が、国会法と参議院規則に反し、質問者の要求なしに法務省刑事局長を常時出席させ、憲法上の大臣の答弁責任を踏みにじる包括議決を強行し、総理ラジオ発言の撤回、国連特別報告者書簡への回答と提出、徹底審議の上で重要な野党、とりわけ反対会派、少数会派の質問時間の十分な確保を求める野党の反対を押し切って委員会の職権開催を決めた責任は、極めて重いと言うべきであります。
 当の政府の責任者である総理は、六月四日放送のラジオ番組で、法案の国会審議について、野党の議論はまさに攻撃をするために不安をあおっているにすぎない、不安を広げるための議論を延々としているんだろうと思いますねなどと、口を極めて議員の質問と国会審議の意味を否定する重大発言を行いました。不安を広げるばかりの答弁を繰り返してきたのは政府の方ではありませんか。
 それは、法案の正体が、何を考え、合意、計画したか、内心に限りなく踏み込んで捜査、処罰しようとする、紛れもない憲法違反の共謀罪だからであります。丁寧な説明どころか、既に破綻した答弁をぐるぐる繰り返すばかりで、ごまかし押し通そうとする恥を知らない強権ぶりに国民の不信と怒りが募っています。
 総理が不安を広げるための議論と切り捨てた、一つ、内心に踏み込む捜査や処罰が行われるのではないか、二つ、一般人が捜査や処罰の対象となるのではないか、三つ、民主主義の根幹に重大な萎縮をもたらす監視社会になるのではないかという大問題は、国民の不安、専門家の指摘の焦点です。先週始まったばかりの参議院審議、二回の定例日だけでも、新たな重大問題が次々と明らかになっています。
 金田法務大臣は、先週の本会議で初めて、環境保護団体や人権保護団体が隠れみのなら共謀罪と答弁しました。衆議院では全く述べてこなかった重大問題です。委員会で政府は、その団体の活動実態、組織構造を解明していくと言い、○○マンション建設を考える会とか米軍基地強化反対の○○住民の会も共謀罪で処罰され得ることを否定していません。隠れみのかどうか、どうやって見極めるのか。
 現に大問題になっている岐阜県警大垣署事件では、住民は中部電力子会社の風力発電施設建設をめぐる勉強会を開いただけなのに、警察は、その住民の機微なプライバシーをひそかに収集し、事業者にこっそり提供して、住民運動をどう潰すかと相談し、それを一貫して通常業務の一環だと正当化してきました。警察は、戦後も、犯罪の未然防止や任意捜査の名で、犯罪と無縁の市民の人権、プライバシーを秘密裏に深く侵害する活動を行い続け、それに今も全く無反省なのです。その警察組織が、住民運動は隠れみのではないかと情報収集を行い、その中で共謀罪の嫌疑を抱けば捜査に移行する、公安情報収集活動と犯罪捜査を連続して行うことが僅かな審議でもはっきりしました。一変にせよ隠れみのにせよ、労働組合や市民団体も処罰対象にされ得るのです。
 大垣事件で監視された四人の方々はなぜ情報収集の対象にされたのか。国家公安委員長は、今後の警察活動に支障を及ぼすおそれがあることから答弁は差し控えると答弁しています。極めて重大です。犯罪と無縁の国民が、警察のさじ加減一つでプライバシーをひそかに侵害され、なぜ調査対象になったかも分からないまま深く傷つけられる重大な危険があります。法案のどこにそうはならないという明確な保証がありますか。どこにもありません。政府が一点の曇りもなく答弁できない限り、到底審議は尽くされないのです。
 政府は、主体を組織的犯罪集団に限定したから一般人が対象となることはあり得ないと繰り返します。しかし、法文上、組織的犯罪集団の構成員でなくとも共謀罪、計画罪は成立することが参考人の松宮孝明教授によって明らかとなり、民進党小川議員の質問に、法務省もこれを認めています。
 共謀罪の主体は、組織的犯罪集団の構成員には限定されません。これまでの政府の説明は全てごまかしだったのです。それをまだ言い繕おうと、法務大臣は、今度は組織的犯罪集団と関わり合いがある周辺者と言い始め、一層支離滅裂を深めています。しかも、政府は、自民党古川法務部会長の、組織的犯罪処罰法にいう団体の定義と法案にいう組織的犯罪集団の定義の関係を問う質問にさえ答弁できないでいます。
 同僚議員の皆さん、これは、法案そのものが憲法で求められる刑法としての明確性を決定的に欠いていることのあかしです。松宮教授は、言葉自体からは何とでも取れるような法律を作れば、それは濫用の危険がある、濫用の懸念があるものを立法段階でチェックせずにそのまま通してしまったら、それは必ず濫用がされますと厳しく批判しましたが、そのとおりであります。そんな立法をしては絶対にならない、その重責を法務委員長は深く肝に銘じなければなりません。
 法案の不明確性が法執行機関の前近代的な秘密体質と結び付いて深刻なプライバシー侵害が引き起こされる、そのことをケナタッチ国連特別報告者の公開書簡は指摘しています。国連TOC条約の締結のためと言いながら、国際社会から批判されたら、独立した専門家としての特別報告者の権限もわきまえず、日本が国連人権理事会理事国になるに当たっての特別報告者との建設的な対話の実現のために今後もしっかりと協力していくという誓約も投げ捨てて、感情的に非難する安倍政権の姿は異様です。
 自分の意に沿わない真実の証言や道理に立った批判は、国内においても、そして国際社会に対しても、敵視し、けなし、封殺しようとする、そのような態度が通用するはずもありません。
 政府・与党は、国際ペン会長の、私たちは日本国民の基本的な自由を深く侵害することとなる立法に反対するよう国会に対し強く求めると異例の警鐘を鳴らした声明を深く受け止めるべきであります。
 ケナタッチ公開書簡に回答しなければならないことは、政府も認めています。速やかに回答し、それを法務委員会に示させることは、審議の土台にほかなりません。
 西田自民党筆頭理事は、昨日、記者団に対して、参院の委員数は衆院の半分だから、衆院と同じ時間審議すれば参院では衆院の倍やったことになると述べましたが、参院ではその半分で審議時間は十分確保したことになると言わんばかりの態度は、言語道断と言うべきです。衆議院では、法案自体が持つ重大問題が解明されないまま、極めて乱暴な強行採決が行われました。その審議時間が目安になるはずもありません。この参議院でこそ徹底審議を尽くし、法案を廃案にすべきであります。
 共謀罪法案は断固廃案、加計学園疑惑にも問答無用で逃げ切ろうとする安倍政権退陣に全力を尽くす決意を表明して、解任決議に賛成の討論を終わります。(拍手)