○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平です。
私は、会派を代表して、齋藤法務大臣問責決議案に賛成の討論を行います。
衆参両院の審議を通じて、入管法改定政府案に関わる大臣の答弁は、その立法事実の根幹部分で大きく崩れています。野党対案を一括審議してきた参議院法務委員会では、審議すればするほど大問題が噴出しています。それは、我が国の入管難民行政と政府案そのものが底深い人権侵害の構造の中にあるからにほかなりません。そのことに何の反省もなく、政府・与党一体に審議を打ち切り、法案を押し通そうとする齋藤大臣に法務大臣としての資格はないと言うべきだからであります。
第一に、大臣は、我が国に難民はほとんどいないという誤った認識にとらわれたまま、隠されてきた極めてずさんな難民審査の実態が明らかになっても、三回目以降の難民申請者から送還停止効を剥奪し、強制送還しようとしていることです。それは、難民条約が定めるノン・ルフールマン原則に反するものです。
我が国に本当の難民はいない、濫用が非常に多いなどとした柳瀬房子参与員の発言について、大臣は、衆議院で審議大詰めの四月二十五日、記者会見で、むしろ我が国の現状を的確に表しているものと擁護しました。その前提とされたのは、十七年間で二千件以上を対面審査したという柳瀬発言と、それを全て慎重な審査を行ったと全面的に肯定した入管庁の答弁でしたが、そのような回数の対面審査が不可能なことは、大臣御自身、先週五月三十日の記者会見で一旦可能とした答弁を、夜になって、言い間違えた、不可能と訂正したことで、お認めになったのではありませんか。
その同じ日、柳瀬参与員自身が支援者との電話で、対面審査は一年間に九十人か百人に届かないくらいであり、年間八十人、九十人くらいは必死ですと認め、さらに、難民認定すべき人はたまたま回ってきていないというだけですと語った音声データが先週末公表されました。もはや、我が国に難民はほとんどいないとか、難民認定率が低いのは分母である申請者の中に難民がほとんどいないからだという柳瀬発言を土台にしてきた政府案の立法事実は崩れたと言うべきであります。
参考人の阿部浩己教授は、ほとんどいないということは全くない、十年間で約五百件を審査し、四十件弱について難民と認めるべきだと意見したと語りました。他の参与員の方々からは、柳瀬発言に大変驚愕した、職務を全うしようとしている参与員を愚弄していると憤りが噴き上がっています。
二年間ゼロ件の方がいる一方で、書面審査のみで迅速処理する臨時班がつくられ、総審査件数の二割以上を柳瀬参与員に関与させてきた実態に、審査の正確性や公平性からすれば、スピーディーに処理する班をつくる発想自体がおかしい、きちんと吟味するケースとしないケースをなぜ判断できるのかと厳しい批判が向けられています。柳瀬参与員問題は、入管庁による難民認定審査がどれほどずさんかを明らかにしたと言うべきです。
大臣は、三回目以降の難民申請者は、二度にわたり外部有識者である難民参与員が審理を行い、慎重な審査が既に十分尽くされた者だから問題ないと言いますが、その認識が根本的に間違っています。慎重な審査どころか、一部の難民参与員は出身国情報もまともに参照せず、予断を持って不認定を重ねる送還ありきのベルトコンベヤーに組み込まれてきました。
難民保護という国際社会への義務を全うするためには、難民行政を出入国管理から切り離し、独立した第三者機関、すなわち野党対案が求める難民保護委員会の創設こそ真剣に検討すべきであります。
第二に、入管庁が様々な事情で帰国できない非正規滞在者を悪質な送還忌避者と一くくりにして、その縮減目標を持ち、各入管に毎月達成状況を報告させる送還ノルマが明らかになったにもかかわらず、大臣が何の反省もなく、開き直っていることです。
入管庁は、国会では令和二年度以降はコロナ禍で目標の設定は行っていない旨答弁しておきながら、驚くべきことに、一昨日私が独自に入手した内部資料によれば、令和四年度末、全国で四百五十六件の送還目標を持っていたことが明らかとなりました。それでも、業務上の支障に鑑みて公にすべきではないなどと言い張る入管の隠蔽体質は、もはや底なしと言うべきではありませんか。
第二次安倍政権の下、二〇一五年、入管庁は仮放免の柔軟な活用から転換し、仮放免許可の厳格化、仮放免者の動静監視と再収容の強化を進め、二〇一六年、東京オリンピック・パラリンピックまでの送還忌避者大幅縮減を掲げ、さらに二〇一八年に、仮放免の取消しによる再収容と速やかな送還へと厳格運用を一層強めてきました。そこに設けられたのが送還ノルマです。これが司法審査も受けない無期限収容と一体となって、非正規滞在者の命と人身の自由、生活を奪う拷問のような構造的人権侵害をもたらしてきたのではありませんか。
個々の事情を顧みず、働ける在留資格を突然取り消されれば、人々は生きる基盤を失います。大切な保険証も住民票も取り上げられ、子供たちまで仮放免者として入管への出頭を義務付けられ、県外への移動を禁じられます。いつ収容され送還されるか分からない恐怖は、人々の心身をぼろぼろに痛め付けていきます。送還促進のために在留資格や収容を自ら帰国せざるを得ない状況に追い込む道具とすることは、ノン・ルフールマン原則に反することです。大臣にはその認識が全くないのではありませんか。
入管が民主主義の届かない闇の中でつくり出してきた構造的人権侵害のあらゆる通達を廃止し、ブラックボックスを打破すべきです。
第三に、大臣が、日本で育ち学ぶ子供たちとその家族が安心して暮らせるように、在留特別許可などの取組について、真剣に前向きに検討していきたいと答弁しながら、法案成立後、施行までに検討すると繰り返していることです。それでは入管庁任せになるのではありませんか。
ある家族は、東京入管の職員から、小学生の子供たちの前で、裁判中だって親はいつでも収容できるんだ、子供は児相行きだと脅されました。以来、その子は毎日、いつパパとママは捕まるの、僕はいつ児相に行くのと聞くようになり、弁護士との打合せのとき、突然土下座して、助けてくださいと頼んだそうです。
大臣、こんな入管庁に白紙委任などできるはずがないではありませんか。
第四に、入管収容の医療体制について、大臣が、ウィシュマさん死亡事件の調査報告書で示された改善策を進めるとか、常勤医師の確保や職員の意識改革など効果が着実に現れてきていると思うなどと国会で答弁を繰り返す陰で、大阪入管の常勤医師が、泥酔し、患者への暴言、不適切な投薬などを繰り返してきたことが明らかになりました。ところが、入管庁も大臣も、それを隠し続け、あたかも大阪入管で常勤医師が診療に従事し続けているかのように説明してきたのは、そのことが明るみになれば、法案の三月七日再提出すらできなかったからではありませんか。
これも私が独自に入手した大阪入管幹部への呼気アルコール検査の報告文書によれば、一月二十日、常勤医師が登庁した際、明らかに平時と様子が異なる状態が確認され、検査の結果、呼気一リットル中〇・二二ミリグラムから〇・三六ミリグラムが検出されたことが明らかです。ところが、その事実さえ答えられないと隠し続ける入管庁に、入管収容の改善や改革などできるはずもないではありませんか。
大臣、大臣は、入管庁幹部の声ではなく、人権と人道に反する非正規滞在者の不安と恐怖の声、保護と共生への希望を見出そうと手をつなぐ人々の声こそ聞くべきであります。
今からでも入管法政府改定案を撤回し、国際人権水準に基づく根本的見直しを行うことを強く求め、法務大臣問責決議案に賛成の討論といたします。(拍手)