○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
法案の質疑に入る前に一問入管にお尋ねしたいと思うんですが、ウィシュマさんの事件に関する監視ビデオを昨日当委員会で、二回目といいますか、前回一回目は七時間の法務省が編集したビデオ、そして昨日は裁判所に証拠提出をされた五時間のビデオを閲覧をいたしました。
まず、入管に確認をしたいのは、最後ウィシュマさんが亡くなられる三月六日の十四時七分頃から十四時十二分頃にかけてのビデオの中で、ウィシュマさんはあおむけで寝たまま右側に首をかしげた形で、呼びかけにも全く反応しないと。体をたたかれたりしても反応がないと。そういう中で、看守職員が体を触るわけですけれども、指先が冷たくなっているようだと。そして、カメラを通じて、上司なんでしょうか、指示を仰いだ上で、脈が取れるかということで脈を確認しようとしますが、脈は取れなかった様子の中で、他の職員も入ってきて対応しようとするわけですよね。そのプロセスの中で、その看守職員が愕然としたようにええっと小さい声で声を漏らす、そういう場面が私はあったと思うんですけれども、そのとおりですか。
○政府参考人(西山卓爾君) ビデオ映像の内容の詳細を申し上げるのは差し控えさせていただきたいのですが、今委員も御指摘のなられた場面、三月六日当日の搬送直前の場面でございますけれども、そのビデオ映像において、職員がウィシュマさんの様子を見て御指摘のような声を出す場面があった、部分があったというのは事実でございます。
○仁比聡平君 お認めになりました。
大臣、就任された当時から、このビデオは閲覧をしたというふうにおっしゃっておられまして、私の今紹介と次長の今の答弁で思い出されたんじゃないかと思うんですが、私がこの七時間のビデオと、それからそこに含まれていない五時間のうちのビデオですね、これ全部、二月の二十二日からの監視ビデオを拝見をする中で、看守勤務者がこのウィシュマさんの急速に悪化する体調について愕然とした様子を示したのはこれが初めてだったんじゃないかなと思うんですよ。
もちろん、そぶりや声に表れていない動揺みたいなものは職員の中にもあったかもしれませんけれども、愕然としたように、つまり自分が触って指先が冷たい、脈が触れない、たたいても反応しない、そこで初めて愕然とした様子というのは一体何を意味するんだろうかと。
四月の十八日の当委員会での質疑で、バイタルチェックをしようとしてもバイタルが取れないという状態が三月の四日から五日、そして六日の当日も続いているじゃないかと、声掛けても反応しないというのはこれは急激な衰弱を示しているじゃないかと、普通ならここで救急車呼ぶでしょうと、私、指摘をいたしました。
けれど、そうしたプロセスの中でも、例えばウィシュマさんに対して、大丈夫、大丈夫と声を掛けたり、あるいは最近よく眠っているねみたいな形で声を掛けたり、あるいは職員同士の会話の中で笑い声が出たりという、このウィシュマさんの体調悪化についてさほど気にしていないという、そういう様子がずっと続いて、最後、全く反応がなくなって、体が冷たくなって、そこで初めて愕然として、ええっという声を出すと。
やっぱりこれ、入管収容における人権保障というのは一体どうなっているんだと思いますが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(齋藤健君) ちょっと、私、ビデオ、確かに全部見て、最後の場面のところはおっしゃるようによく覚えているんですけど、それ以外のところで具体的にどうだったかというのを詳細ちょっと覚えていないです。ただ、最後のところは、おっしゃるように愕然として、それで騒ぎになったところはよく覚えております。
○仁比聡平君 私、そういう点も含めて、今度、今度といいますか、二年前のウィシュマさんが名古屋入管収容所で亡くなられてしまったというプロセス、それから、二〇〇七年以降、入管収容所内で十八件の死亡事案が起こっている、このことについて徹底して検証をすべきだというふうに申し上げてきたんですけれども、これ改めて求めていきたいと思うんですが、こうした事案というのは、四月二十日の質疑のときにも申し上げましたけれども、個別の事件としてとか、あるいは個々の職員の資質の問題で起こっているのではないと思います。
二十日の質疑のときに、大臣直接お答えにならなかったんですが、私、こう申し上げました。収容がおよそ入管組織の裁量によって行われる、その必要性や合理性について第三者、とりわけ裁判所のチェックもない、無期限に行われる、被収容者が帰国できないと言う以上、送還忌避者だというふうに呼んで、帰国意思を示すまで自由を奪い続けると、そういう構造になっているから、だから、そうした下で、職員の判断もあるいは言動もむごい人権侵害ということになってしまうのではないんですかと。
これ、大臣、政治家として、このこれまでの入管収容と、それから難民認定と、この問題についてどう認識して変えていくのか、そこが問われていると思うんですけど、大臣、いかがですか。
○国務大臣(齋藤健君) 今までも答弁しているんですけど、二つに分けて考えなくちゃいけないと思っていまして、一つは、調査報告書において、第三者含めて調査をされて、そこにおけるウィシュマさんに対する医療的対応の在り方について様々御意見、御指摘をいただきながら事実を確認をしてきたという、そういう一つの流れがございます。
その流れの中で、調査報告書では、危機意識に欠け、そもそも組織として事態を正確に把握できておらず、こうした事態に対処するための情報共有、対応体制も整備されていなかったと、こういう指摘などもいただいているところでありまして、こういう指摘を踏まえて、入管庁においては、これまで、人権と尊厳を尊重して職務を行うための使命と心得の策定ですとか、それから、被収容者の生命と健康を守ることを最優先に考え、行動することを心構えとする緊急対応マニュアルの策定ですとか、そういうものを行いながら職員の意識の改革を行ってきているということ、これが一つの流れだと思います。
もう一つの流れは、今回の入管法の改正の中に幾つか盛り込まれておりまして、それはもう委員御指摘のとおりだと思いますけれども、こういった調査報告書のやつに加えて、今回の改正法案では、入管収容施設において常勤医師の確保に支障になっている常勤医師の兼業要件の緩和ですとか、それから、全件収容主義で批判されている現行法を改めて、監理措置を創設して、収容しないで退去強制手続を進めることができる仕組みとした上で、収容した場合であっても三か月ごとに収容の要否を見直して不必要な収容を回避するですとか、それから、体調不良者の健康状態を的確に把握して柔軟な仮放免判断を可能とするために、健康上の理由での仮放免請求については医師の意見をしっかり聞きなさいですとか、そういう健康状態に十分配慮して仮放免判断に努めると、こういうもう一つの流れとしてこの改正法案の中に盛り込まれているので、両者相まってこの改善が図られていくものというふうに考えています。
○仁比聡平君 先ほどの袴田さんの再審公判に臨む姿勢の問題でも同じだと思うんですけど、今大臣がおっしゃったような、ウィシュマさんの事件を反省したと言ってというか、調査報告書があって改善をこんなふうにしているとか、あるいは今回の入管法改定案でそうした改善点があるんだというような説明をされてきた。
それは、法務省としてされてきたし、大臣も繰り返しされてきたけれども、だけど、今、国会に向かって、それでは変わらない、逆に悪くなるという声がたくさん上がっているでしょう。とりわけ、当事者やその支援をしてきた人たち、あるいは弁護団の皆さんから猛然と抗議の声が上がっているじゃないですか。その声を聞くべきじゃないですか。法務省の中の声だけじゃなくて、国民の声をそれこそ聞いて歴史的な転換を図っていくというのが政治家の仕事じゃないですか。それが大臣の責任じゃないですか。
○国務大臣(齋藤健君) 私は、申し訳ないですが、改悪とは思っておりませんので、この直す部分について理解を深めていただくように、国会それから記者会見においても全力を尽くしているということであります。
○仁比聡平君 引き続きの議論をするとして、入管、もうここまでで、あと質問ありませんので、次長、退席いただいて結構です。
○委員長(杉久武君) 西山次長は御退席いただいて結構です。
○仁比聡平君 法案の質疑をさせていただきたいと思うんですが、前回の二十七日に、法案について私がやや誤解を招くような問い方をしてしまって、刑事局長にもう一回確認をしたいと思うんですけれども、個人特定事項の秘匿に関わって、この法案で、起訴されて証拠調べの手続が始まる、そこに向かって弁護人がその書類や証拠物についての閲覧請求をする、そのときにその閲覧そのものが禁じられるということがあるのではないかと私申し上げたんですけれども、これ、どうやら弁護人には氏名などの特定事項を明らかにしなさいと、だけど被告人には知らせてはならないよという裁判所の決定が出たときには禁じられないということですか。
○政府参考人(松下裕子君) 御指摘のとおりでございまして、被告人に対して個人特定事項を知らせてはならない旨の条件を付されてという規定が、ということができるということになっているんですけれども、当該個人特定事項を被告人に知らせてはならない旨の条件を付し、若しくは知らせる時期や方法を指定して閲覧、謄写を認めるということが可能でございます。
○仁比聡平君 もう一点。その質問に関わっての局長の前回の答弁で、被告人には全く知らされないのかというと、弁護人に対して防御の必要性があるからということで裁判所が開示を認める、だけど被告人には知らせてはいけないよという決定になったときに、再度、被告人にも知らせなきゃいけないんだという手続を、手続というか請求をして被告人が個人特定事項を把握し得るという仕組みにはなってございますとおっしゃったんですが、それはそういう理解ですか。
○政府参考人(松下裕子君) 御指摘のとおりでございます。
○仁比聡平君 どんな場合ですかね。つまり、検察官は被告人には知らせてはならないから、だから、そもそも起訴状からも秘匿をしているわけですよね。で、弁護人にも秘匿をしなきゃいけないと、特別のおそれを認めて弁護人に抄本が来ているわけじゃないですか。これを被告人にも明らかにしていいですよと。つまり、弁護人にも、弁護人にはもちろんのこと、被告人にも明らかにしますという場面というのは、これ、どんな場面を想定しているんですか。
○政府参考人(松下裕子君) お答えいたします。
本法律案におきまして、弁護人に対しても抄本が、起訴状抄本が送達されて個人特定事項を秘匿する措置がとられた場合も含めて、被告人に起訴状抄本等が送達されて個人特定事項の秘匿措置がとられた場合において、例えば、被告人に対する秘匿措置がその要件を満たさない場合又は被告人に対する措置により被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合には、被告人又は弁護人の請求により、被告人に対して当該措置に係る個人特定事項を通知する旨の決定をしなければならないという仕組みを設けてございます。
ここにいうその防御に実質的な不利益を生ずるおそれとは、刑事訴訟法二百九十九条の四において既に証拠開示の際に証人の氏名等を秘匿する措置の要件で用いられている防御に実質的な不利益を生ずるおそれと同様でございまして、秘匿措置の対象者の個人特定事項を被告人自身が把握できないことにより、その者の供述の信用性の判断に資するような利害関係の有無などの調査を行うなどの防御の準備を十分に行うことができなくなるおそれがある場合がこれに該当し得ると考えられます。
具体的にどういう場合なのかというところにつきましては、個別の事案ごとに具体的な事実関係を踏まえて判断されるものでございます。
○仁比聡平君 結局、条文を説明いただいただけなんですよ。
実際には、今の刑事裁判、刑事訴訟の実務的な感覚として、警察や検察の逮捕状、勾留状の請求というのはほぼ認められるじゃないですか。起訴状は、当然その裁判所には判断のしようがないですから、起訴段階で、検察官の必要性を認めたというとおりに抄本が送られるということになるわけですよね。で、証拠調べを求めるというときに、袴田さんの事件もそうですが、証拠開示に対して、捜査機関、当然消極ですけれども、裁判所だって、その証拠開示を行わない、積極的な訴訟指揮をしないという、それが今の日本の裁判の現実ですよ、刑事裁判の。その中で、弁護人あるいは被告人の防御というものが行われる。だからこそ、実質的な当事者対等のために弁護人という制度があり、そして被告人、被疑者の弁護を受ける権利、この保障というのは憲法上極めて重要なものなんですよね。
そこで、大臣にお尋ねをしたいと思うんですけれども、被告人に絶対に知らせてはなりませんと弁護人に開示された、もしこれが防御、裁判の必要上、徹底した否認事件で、これが争点だと、被告人に意見を聞かないことには駄目だということでこれもし開示すると、被告人に知らせると、裁判所から弁護士会に懲戒の申立てがされるといいますか、その懲戒の申立てを含む処置請求がされるということになるんですね。それが、大臣が提出されている法案なんですよ。
それは結局、当事者対等、本来第三者的な審判権者である裁判所と検察、被告人、弁護人という当事者構造が、被告人とそれ以外の法律家、弁護士は知っているけれども被告人だけが知らない、身柄を取られてから上訴審、控訴をしても、最高裁に上告しても分からないという、そんな状態になりませんか。それって危うくないですか。
○政府参考人(松下裕子君) お答えいたします。
本法律案において規定しております個人特定事項の秘匿措置に関しましては、重なる部分もあって恐縮でございますけれども、これまで御説明しておりますとおり、秘匿措置によって防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるというふうに認めるときには、裁判所は被告人又は弁護人の請求によって個人特定事項を被告人に通知する旨の決定をしなければならず、裁判所の決定に不服があるときには即時抗告をすることができることといたしまして、不服申立ての機会も十分に保障しているところでございます。
ですので、例えば、被告人自身がその個人特定事項を知らなければならないと、それでなければ防御ができないというような事情がある場合でございましたら、それは裁判所に請求を、通知請求を行っていただき、それが、その裁判所の判断に不服があるときには不服申立てをしていただくなどの制度はしっかりとつくってございます。
○仁比聡平君 だから、その制度の下で警察や検察の、もうそこまで局長がおっしゃるから私も言いますけど、言いなりの、警察や検察言いなりの刑事司法というのは現実にあるんですよ。だから冤罪が起こってきているんですよ。
多くの事件で懸念はないということだと思いますよ、前回申し上げたとおり。だけど、そういう場面で、これまでは弁護士の倫理に任されていたところを裁判所による懲戒申立てというような強制をするというのは、これ、大臣、おかしいんじゃないですか。前回も答弁されなかったんだから、ちょっと一言、答弁、最後、ください。
○委員長(杉久武君) 申合せの時間になっておりますので、簡潔な答弁をお願いいたします。
○国務大臣(齋藤健君) 結論を申し上げますと、本法律案におきまして、起訴状における個人特定事項の秘匿措置については、トータルとして、被告人、弁護人の防御権、弁護権にも十分配慮した、トータルで見ていただければ仕組みとなっているというふうに考えておりますので、御理解いただければなというふうに思います。
○委員長(杉久武君) おまとめください。
○仁比聡平君 終わります。
○委員長(杉久武君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
これより討論に入ります。
御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。
○仁比聡平君 日本共産党を代表して、刑事訴訟法等改定案に対し反対の討論を行います。
本法案は、被告人を保釈するに際して、国外逃亡を防止するため、裁判所の判断でGPS、位置測定端末を装着させることができるようにするものですが、GPSによる位置情報の把握は、当然に無罪推定を受ける被告人のプライバシーを侵害します。
その侵害度合いは強く、二〇一七年最高裁判決は、警察が無令状でひそかに車両に付けるなどして行ったGPS捜査について、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする、このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うとして、憲法三十五条に照らし、証拠能力を否定しました。
法案が導入する位置測定端末は、身体に装着させることでより詳細に個人の所在と移動状況を把握するもので、プライバシー侵害の度合いはより強く、制約の必要性、合理性が厳格に検討されなければなりません。
ところが、法案では、装着させる装置の大きさや装着させる部位など、どの程度の自由制限をもたらすかは今後の検討に任されています。国際線や国際航路を利用可能な空港や港湾は全国各地に所在しますが、それらにどの程度接近すると保釈条件違反になるかも不明であるなど、法律上、制約の必要性、合理性は明らかでなく、賛成できません。
また、単純逃走罪の拡大と厳罰化や公判期日への不出頭罪新設などに立法事実が認められるのか、監督者制度の創設や実刑判決後の裁量保釈に身体拘束の継続による不利益等の程度が著しく高くなければならないとの要件をすることで、保釈される範囲が狭まらないのかのおそれもあります。
また、犯罪被害者、特に性犯罪被害者の個人特定事項が犯罪加害者に知られることで、報復のおそれや社会的な名誉、平穏な生活の侵害、その不安から被害申告や法廷証言のちゅうちょ、強い葛藤により被害者が二次的に傷つけられることなど、刑事裁判における被害者保護は重要ですが、本改正案の個人情報秘匿制度は、捜査機関が必要と認めた場合、性犯罪被害者だけでなく、重要な事件関係者の個人特定事項を被告人は捜査段階から公訴提起、証拠調べ、一審判決から上訴段階に至るまで一切知り得ない裁判類型を創設するところに特徴があります。
従来、起訴状等や証拠書類に表れる被害者などの個人特定事項を弁護人が全て被告人に知らせてきたかというと、そうではなく、被告人から知りたいと求められても、知る必要はない、絶対に接触してほしくないとのことだなどとして被告人を納得させることも高度の弁護士倫理の範疇で行われてきました。
本法案が、裁判所が被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれを認めて弁護人には情報を開示した場合にも、被告人に知らせてはならないなどの条件に反すれば懲戒申立てなどの制裁を受けることとしていることは、被告人の弁護を受ける権利を侵害し、実質的当事者対等のための弁護人制度を脅かす危険があります。にもかかわらず、こうした制度を必要とする立法事実は質疑を通じても明らかにされたとは言えません。
法制審議会で最高裁判所の委員が法制度の在り方についても更なる検討の必要性を指摘したように、真摯な検討が引き続き行われることを求め、討論といたします。