○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
私からは、破産した企業において未払賃金あるいは退職金の債権、この確保をという問題について絞ってお尋ねしたいと思うんですけれども、現実は、確保、優先といいながら、労働者にとっては極めて厳しい、あるいは不条理だというのが破産の現実なんですよね。
今回、今日も話題になっている組入れという問題で規定が置かれる集合動産譲渡担保あるいは集合債権譲渡担保という件について、お手元に資料がありますけれども、つまり、ある倉庫に在庫があると、この在庫は取引、生産あるわけで、流動するわけですが、ここに担保権を設定するということなんですよね。
労働者にとってみると、もう社長が頑張っていると、これで会社立て直すんだというので、賃金は遅れるとか今月は未払だとかいうみたいなことになっても懸命にこれをつくって在庫ができるわけですよね。あるいは、集合債権譲渡担保で例えば売掛金でいいますと、営業職の社員があの取引先に懸命に営業を掛けて新規で取ってきたと、そういう売掛金ということになるわけでしょう。
これが残念ながら破産ということになってしまうと、この担保権者、これまで典型的なのは抵当権ですけれども、メインバンクが抵当権を持っているということになったら、そうやって懸命に労働者が会社のためにと形成してきた資産が全部この担保権者に持っていかれてしまうわけです。租税もこの労働債権に優先するという形になってしまうわけですね。
その点で、この法案が、譲渡担保の設定に当たって、譲渡担保権者は一旦担保権を実行して貸していたお金に充当するわけですけれども、一旦そうやって充当したはずの金額を、要件は限定されますけれども、一定の要件の下で破産財団に組み入れなきゃいけない、言ってみれば返さなきゃいけない、戻さなきゃいけないということを義務にするという七十一条、九十五条というのは、これまでの担保権と労働債権の関係を考える上では一歩前進だと私は思うんですよ。
ここの意義あるいは目的は、民事局長、どんなことでしょうか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
委員御指摘のように、譲渡担保法案では、集合動産譲渡担保権又は集合債権譲渡担保権が実行された場合に、労働債権者を含む一般債権者への弁済原資を確保し、これによって担保権者と労働債権者を含む一般債権者との間の分配の公平を図るという観点から、集合動産譲渡担保権等が実行された場合において、設定者について法定の倒産手続が開始したときは、担保権者が実行により回収した額のうちの一定額を破産財団等に組み入れなければならないこととしております。
これは、集合動産譲渡担保権等につきましては、一定の範囲に属する設定者の財産を一括して担保の目的とするものであって、その範囲の定め方によっては設定者の倒産時において一般債権者のための引き当て財産が著しく減少するおそれがあること、集合動産及び集合債権の価値を維持するためには労働債権者や仕入先などの一般債権者の寄与が必要であり、さらには、これらの一般債権者の寄与によってその価値が増大することもあることから、集合動産譲渡担保権等には特定物を目的とする譲渡担保権その他の担保権とは異なる特殊性があり、その価値の全てが担保権者の債権の満足に充てられるのは相当とは言えないことを考慮したものであります。
○仁比聡平君 つまり、企業とかその価値というのはみんなでつくっているものなのであって、メインバンクが抵当権持っているからといって全部持っていっていいというような話じゃないということが今回法制度になるわけですね。ここは一歩前進だと思うんですが、二枚目の資料を御覧いただいたらと思いますが、ところが、今回の制度でも、組入れというのはごく僅か、あるいは労働債権の充当には充てられないという事態が想定される。
つまり、端的にお尋ねしますと、担保の目的になっている例えば集合動産、これを破産手続の中で額が幾らかということで評価をした、あるいは管財人が売却をしたというときに、その金額が譲渡担保債権者の元本とそれからその実行費用を下回っていた、そういう場合というのはどうなるんですか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
譲渡担保法案では、集合動産又は集合債権の価額の九〇%に相当する額と実行費用及び最先順位の譲渡担保権の被担保債権の元本の合計額のいずれか大きい方の額を超えて被担保債権が消滅したという場合に、譲渡担保権者はその超える額を組み入れなければならないこととしております。
これは、集合動産又は集合債権の価額の一〇%が常に組入れの対象となることとする場合には、譲渡担保権者が把握することができる担保価値も一律に一〇%減少することとなり、融資することができる金額が一律に減少するおそれがあるため、このような資金調達への悪影響が生ずるおそれをできる限り低減させようとするものでございます。
したがいまして、実行費用及び最先順位の譲渡担保権の被担保債権の元本の合計額が譲渡担保権の目的である集合動産の価額を上回るという場合には、譲渡担保権者は組入れ義務を負わないということになります。
○仁比聡平君 結構そういう場合が間々あるというか、多いのではないかとも思われるわけですよね。
もう一点、そうやって組み入れるというのは、破産財団全体に組み入れるので、直ちに労働債権に充当されるわけではないわけです。
特に、多額の租税債権の滞納分あるいは社会保険料の未払分というのがこの労働債権、未払賃金と競合するという場合が多くありまして、結果、そういう場合は額で案分配当されるんですね、それが破産法のルールになっているんですけれども、そうすると、労働債権にはほんの僅かしか充当されないと。
これ優先といいながら、有名無実ではないか、著しく保護に欠けるではないかということになるんではないかと思うんですが、いかがでしょうか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
破産手続におきましては、労働債権のうち、その開始前三か月間の給料の請求権等は財団債権として扱われ、財団債権となる租税債権とは同順位として扱われます。その上で、破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合には、委員御指摘のとおり、財団債権の額の割合に応じて案分して弁済をされることになります。
しかしながら、組入れ制度が設けられたことにより、これが存在しなかった従来に比較をいたしますと、破産財団が増殖することになりますので、労働債権の弁済額もこれによって増加することになってまいります。
したがいまして、組入れ制度は組入れ額の一部が租税債権といった他の財団債権者への弁済原資になるにしても、労働債権保護の観点から相当程度の実効性を期待することができると考えておるところでございます。
担保法制部会におきましては、集合動産譲渡担保権者及び集合債権譲渡担保権者のこの組入れ義務に関しまして、その組み入れるべき金銭から労働債権者などの特定の一般債権者が優先的に弁済を受けられるようにするための方策についても議論がされたところでございます。これに対しましては、倒産手続が開始した債務者に対する債権の倒産手続における優劣関係全般に関わる問題として、倒産法制の見直しの中で検討すべきであるとの意見がございました。
法務省といたしましては、このような意見をしっかりと受け止めまして、適切に対応したいと考えておるところでございます。
○仁比聡平君 お聞きいただいているとおり、本来なら、賃金あるいは退職金というのは、これは使用者の資力不安が生じた場合でも優先的に支払われているべきものなんだと思うんですよ。ところが、現実にそうならないということになっていて、倒産の制度の中でも、今申し上げていることが確実にされていく法制度というのがもう強く求められていると思います。
その下で、三枚目に、昨年十月十五日の担保法制部会の議事録から、山本和彦委員、倒産法制の大家だと思いますけれども、御発言を引用させていただきました。
村上委員、竹村参考人も言われた労働債権の保護というのは極めて重要な課題だと。村上さんというのは連合の村上陽子さんで、竹村さんというのは日本労働弁護団の竹村和也弁護士なんですけれども、例えば、竹村弁護士は、本当は財団債権内の順位をいじっていただいて、全労働者への分配をすべきだという、そういう御発言を受けて、この山本先生の御発言があるんですね。
先ほどの租税債権との順位も含めた破産法の改正というのが平成十五年、それから続いて十六年にも関連の改正がありました。このときから関わってこられているこの研究者がこうおっしゃっている。倒産手続の中で、労働債権がより保護されるような仕組みということを考えていくということになるのではないか、以前の改正からですけれども、既にそれから二十数年がたっているわけでありますので、十分にこれまでの経済的、社会的な変動に鑑みて、新たな優先順位の形成というのを正面から考えるべき時期に来ているのではないか。この発言始めとして、今局長から紹介ありましたけど、今回の担保法制部会で相当活発に議論がされていると思うんですね。
そこで、大臣、これを踏まえて速やかに検討を進めて必要な措置を行っていただきたいと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(鈴木馨祐君) 今御指摘の労働債権についての様々な議論、これまでも行われてきたと承知をしております。
その中で、現行で申し上げると、民法の三百六条、法における一般の先取特権であったりとか、あるいは破産法の中でも様々この財団債権の関係で、一定の優先的な地位、これが与えられている状況であるとは認識をしております。
その一方で、今の御指摘はその破産法全体、倒産法制全体での労働債権の優先順位どう引き上げていくかという話、更に引き上げるべきではないかという御趣旨だと思いますが、その場合、やはり幾つかの課題があるとは思っていまして、例えば抵当権等の約定担保権を設定する際に、これに優先する債権はどの程度発生をするのか、それを予測することがやはり困難になるということで、担保取引、この安定性を害するおそれがあるということ、あるいは抵当権や質権等の不動産に設定できる担保権と労働債権との関係、これを全面的に見直す必要が生じてきますので実務に対する重大な影響が生じる、そういった課題がある、これは事実だと思います。
そういった意味で慎重な検討が必要だと思っておりますが、この法制審の担保法制部会においても、倒産法制における労働債権の優先順位、債権の倒産手続における優劣関係全般に関わる問題として、倒産法制の見直しの中で検討すべき、これは先ほど御指摘をいただきました山本先生の御意見ということも含めて、そういった御意見があったことも事実であります。
私どもといたしましては、こうした御意見を受け止めながら、まずは倒産局面における各債権者の債権の満足の状況等の実態調査、これを行っていくということを考えておりまして、そういったことの結果、この実態ということも踏まえて、どのようなことが必要なのか、そういったことを適切に検討していきたいと考えているところでございます。
○仁比聡平君 よろしくお願いしたいと思うんですね。
弁護士の中で、例えば日本労働弁護団からは、優越的一般先取特権という考え方、つまり労働債権の一定の範囲について、担保対象の財産に限定を掛けるということをしながら優先するということにして、金融機関の予測可能性も確保するというような制度設計もかねてから提案をした議論があっているところで、そこで、ちょっと残る時間、一問だけになりますが、厚労省にお尋ねしたいと思うんですけれども、今申し上げている議論について、二十五年前、二〇〇〇年に、当時の労働省で労働債権の保護に関する研究会の報告書というのが発表されていて、お手元に資料をお配りしました。とても勉強になるものだと思うんですね。
保護の必要性というのは今日も同じ認識なのだと思うんですけれども、お尋ねしたいのは、このときに、ILO百七十三号条約、労働債権については、他の債権、特に国及び社会保障制度の債権よりも高い順位の特権を与えると、こう求めている条約の基準も大きな議論になる中で、その関係の各国の実施状況ですね、ここについて詳しい調査をして提言をしているんですよ。
こうした調査を改めて行って、法務省を始めとした関係省庁にも生かしてもらうし、我々の国会審議にも生かしていただきたいと思いますが、最後、いかがでしょうか。
○委員長(若松謙維君) 答弁、簡潔にお願いします。
○政府参考人(田中仁志君) はい。
お答えいたします。
御指摘の研究会報告書におきましては、イギリスやフランス等の諸外国の労働債権の保護に関する取組についても調査されておりまして、労働債権保護の在り方について広範な観点からの議論が必要とされておるところでございます。
ただ、その後、最新の状況を必ずしもアップデートしていないと、こういう状況でございますので、労働債権保護に関して各国においてどのような取組が行われているか的確に把握するということは非常に重要なことでございますので、引き続きどのような対応が必要かということについては検討してまいりたいと思います。
○仁比聡平君 頑張ってください。
終わります。