5月27日 法務委員会

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

 まず、今回の司法試験の短答式科目を憲法、民法、刑法の三科目に限定するという、そこの改正の趣旨について、通告を必ずしもしていないんですけれども、局長がいいでしょうかね。

 平たく言うと、旧司法試験に比して現行試験の科目が多いので特に法学未修者にとって負担が重い、それで基本的な法律科目の理解が不十分となっているというふうに改正の趣旨をおっしゃっているわけですけど。というのは、つまり短答式試験が七科目だと、分野はとても広いし、しかもそのあらゆる分野についてあらゆることが短答試験で問われると。そうなると、勢い知識偏重になるとか、特に法学未修者の方だと学部での教育は受けていないということですから、そうすると三年間のうちに学ぶ方向が、とにかくその七科目についてあらゆる知識を覚え込まないと仕方がないというみたいな、そういう知識偏重型になりかねないとか、あるいはなっているとか、そこを短答式試験の科目を限定することによって、ロースクールの教育の本来の在り方に沿っていこう、ちょっと平たく言うとこんなような狙いがあるんでしょうか。

○政府参考人(小川秀樹君) まず、やはり法学未修者、これまで法学を勉強してこなかった方についての負担ということで、もちろん科目数が多いことによって負担があることに加えまして、これまで基本を余り修得してこなかったということから、かえって科目数が広がることによって基本の修得がおろそかになる、こういう指摘もされているところでございます。

 そういったことも踏まえて、法科大学院の方でも未修者に対する基礎的な科目の修得などを可能にする方策を検討されているというふうに承知しておりまして、それと軌を一にするものでございます。

○仁比聡平君 これは、もう大臣、改めて聞くまでもないことですけれども、憲法、民法、刑法、この三科目に限定するとはいえ、この憲法、民法、刑法、それぞれが大変重要な、そして膨大な論点なりを含んでおりまして、ここについての法曹としての知識を修得するということ自体が大変ボリュームのあることなんだと思うんです。

 論文式試験では、七科目といいますか、今の科目について論理的なあるいは法的な思考力が試されると。そうした試験にすることによって基本的な法律科目の理解を確かめていくような試験にする、そういう趣旨で理解したらいいんでしょうかね。

○国務大臣(谷垣禎一君) 論文式試験で試せるものと短答式試験で試せるものというのは多分違うんだと思うんですね。短答式試験ですと、かなりいろんな条文等々の理解度といいますか知識も試せる。しかし、論文式試験には必ずしも向いていない条文というのはありますよね。やっぱり論文式試験の場合には、どちらかというと論理的な展開や制度の基本的な論述や、そういうものは試しやすいと。

 それで、やはり余り多く条文の隅々まで、まあ読むことも必要なんですが、条文の隅々まで読まなければならないような科目を多くすると、なかなか基本的な理論体系の修得やら、そういうものができにくくなるということではないかと私は考えております。

○仁比聡平君 いろんな表現があっていいと思うんですけれども、今大臣がおっしゃらんとするところは私も了解するところなんですね。

 つまり、そうしたロースクールの教育であってほしいというか、プロセスとしての法曹養成の中核であるロースクールがそうした実情というか期待に応えられていない部分があるのではないかということと今回の司法試験の科目の問題というのは、提案者からしても連携をしているわけですね。

 そこで、文科省に先にお尋ねしたいと思うんですけれども、基本的な法律科目の理解が不十分となっている、特に法学未修者にとってそうなっているというふうに今日指摘をされている。これ、そう指摘はされているんですけれども、ロースクール制度を導入した理念や、あるいはそれぞれのロースクールが現実に設立をされてカリキュラムを組んでいくという際には、そうした基本的な法律科目の理解を十分にしようというものだったはずなんですよね。だから、司法制度改革の一番当初に、ロースクールが中核だというときに、基本的な法律科目の修得ができないような制度設計をするつもりは誰もなかったはずですね。

 今、基礎、基本の重視ということを特に言わなければならない状況になっている原因というのをどこに、どう考えるのか。例えば、ロースクールの導入の際のロースクール教育の充実という観点で、的確な評価、多様性の確保に配慮した公平な入学者の選抜だとか、あるいは少人数による高密度の授業といったことが言われました。

 こうしたことからして、今のロースクールが抱える問題や、あるいはこの制度の本来の期待に応えた取組というのは一体どういう現状にあるということなんでしょう。

○政府参考人(中岡司君) お答えいたします。

 法科大学院教育でございますけれども、先生御指摘のように、法曹養成の中核を担う者として理論的教育と実務的教育を架橋するものとして教育を行うということで、専門的な法的知識を確実に修得させるということもあるんですが、一方で、法的分析能力とか法的議論の能力を付けるとか、あるいは法曹としての責任感と倫理観、あるいは実際に社会への貢献を行うための機会を提供し得るものというような観点がそもそも論で示されまして、それを受けまして、文科省の方で法科大学院の教育としては、御案内のとおり、大きく四つの分類、一つは法律基本科目、今話題になっているものでございますが、それ以外にも、クリニックとかエクスターンシップというようなものを含んだ法律の実務基礎科目、また法哲学とか法社会学などそもそもの基礎的な基礎法学というようなところ、あるいは展開・先端科目といって労働法とか経済法とか知財法とか、そのような極めて先端的なもの、そういったものをいずれかに偏ることのないように幅広く体系的に教育課程を編成するというような方針が示されたわけでございます。

 一方で、司法制度の改革審議会の平成十三年の意見書でございますけれども、その中では、まさにこれからの二十一世紀の法曹には、経済系とかあるいは理数系など他の分野で学んだ者を幅広く受け入れるというようなこと、あるいは社会人の経験者を含めて多様なバックグラウンドを持った者を受け入れるというようなことで、先ほどおっしゃったように幅広く受け入れるということになったわけでございますけれども、実際、そういうような各法科大学院で例えば法律基本科目といいますものを設定いたしましたようなときに、やはり法学未修者には法学部以外の学部出身者だとか、法学部の方もいらっしゃるんですけれども、まさに社会人経験者の多様なものが実際入ってきたということなんでございます。

 そのときに、特に法律基本科目につきましては学習する時間がやはり十分ではないのではないかという議論がございまして、実はこの平成二十一年の中教審の報告の中で、まず三年間の中の、未修者の場合は一年次から入ってくるわけですけれども、その一年次で六単位を多くして学ばせることが必要ではないかというような報告が出まして、そのようにいたしたわけでございますけれども、それでもなかなか負担が大きいのではないかというようなこともございまして、現在、中教審の方では、例えば一年次だけに限るんじゃなくて、もうちょっと高い年次のところにもそういった法律的な基本科目をやる、ある意味、分散させて履修させるというようなことで無理なく履修することができるとか、様々なやり方があるというようなこともございまして、そのような工夫を現在検討しているというようなことでございます。

 繰り返しになりますけれども、様々な人が入ってくる、なおかつ、例えばそういった多様な者が混在してクラスの中にいるというような状況でもございますので、まさにきめ細やかな教育をしていかなきゃならないわけでございますけれども、やはりまだまだ個々の事情に応じてきめ細やかに教育をしていかなきゃいけないという議論は今も続いておるということでございます。

○仁比聡平君 この間、法学未修者に対する法律基本科目の単位数の増加や配当年次の在り方の見直しといった形で端的に御答弁があっていたのが今のようなお話なんだなと。

 今のお話を伺っても、司法試験によって試される、あるいはロースクール教育で修得が期待される法曹としての実務に必要な学識及びその応用能力並びに法律実務の基礎的素養と。これ、この司法制度改革が議論になっていたときに、弁護士会の中で我々のプロフェッションとは何かという議論をよくしていたのをちょっと今日思い起こしていたんですけれども、そうしたプロフェッションなり素養を身に付けるのには、今の御答弁聞いてもそれなりの時間が掛かるということかと思うんですよ。

 憲法、民法、刑法だけに絞って言いましても、一年間で司法試験に合格できるだけの素養を、全く学んでいない未修者が身に付けよという方が初めから無理な話であると思いますが、文科省、いかがですか。

○政府参考人(中岡司君) お答えいたします。

 先ほど、特に法律基本科目につきまして、一年次配当のときに法律のある意味未修者につきましてはなかなかその時間数も足りないんじゃないかというようなことで、いろいろ今検討しているということを申し上げましたけれども、先ほど先生おっしゃいましたように、まさに法理論教育を中心としながら実務教育の導入部分をこの法科大学院が担うということでございますので、例えば要件事実とか事実認定に関する基礎的部分も併せて実施する。これは従来の法学部教育になかったようなところになるわけでございますけれども、そういったところはある意味、そういった基礎、基本の部分を踏まえて履修をしていくというようなところになるわけだと思うんですけれども、そういったところは各未修者につきましても様々努力されていると思いますけれども、やはりそれぞれ一年次の教育をきちっとクリアをして、次の二年次でそういった法律の実務基礎、そういったところの教育に臨むというようなことをやはりある意味達成度試験というような形で見ていく必要があるんじゃないかというようなことが議論で出てまいりまして、現在、そういった達成度試験についての在り方を検討しているということでございます。

○仁比聡平君 今も御答弁の中に触れられました共通到達度確認試験というふうに言われているものの制度設計についても、法曹としての学識などを修得するには、やっぱり時間も掛かれば、我々の世代のときには法学徒という言葉もありました。やっぱり一人一人の独立した、自立した法曹を志していくわけですから、その信念も含めて、あるいは今日リーガルマインドとよく呼ばれる人間性も含めて、鍛えられていく時代というのは、それぞれの志望者の個性というか、いろんな在り方があるんだと思うんですよ。

 その下で、この共通到達度確認試験の基本設計についてちょっと心配しているのが、まだこれ議論なんだと思うんですけれども、全国規模の比較の中でロースクール生が自らの学修到達度を把握することを通じて、その後の学修や進路指導や進級判定などに活用するということが言われていて、これちょっと本当に平たく言うと、全国一斉模試みたいなのがあって、数千人のロースクール生の中であなたは何番みたいな、何かそんなことになってしまうと、元々プロセスとしての法曹養成と言っていたんだけれども、ロースクールの二年次に進級するにはその中で何位以内に入らなきゃいけないみたいな話になって、点をわざわざ増やして、選抜をする、ふるい落とすというようなことになってはならないんじゃないか。あるいは、その設計を短答試験を免除するということとも結び付けようということが、これは取りまとめだけでなくて、昨年七月のあの関係閣僚会議決定の中にも出ているようですけれども、そうした方向にすると、司法試験のありようそのものが根本的に変わってきはしないのか、そうした疑問も持つんですけれども、これ、大臣、いかがですか。

○国務大臣(谷垣禎一君) 非常に難しいことを今、仁比先生お問いかけですので、私もちょっとうまく頭の中整理できないんですが、司法試験の在り方そのものが変わってくるとはまだ必ずしも、まだ議論の最中ですが、必ずしもまだそう結論付けているわけではございません。

○仁比聡平君 文科省に、ちょっと後先になるようですけれども、この到達度確認試験の目途について、今どんな状況で、どうするのか、これから、お尋ねします。

○政府参考人(中岡司君) 共通到達度確認試験、これはあくまでもまだ仮称でございますけれども、これの現在の状況でございますが、昨年七月の政府の法曹養成制度関係閣僚会議におきまして、教育の質の保証の観点から、法科大学院が共通して客観的、厳格に進級判定を行う仕組みとして、中央教育審議会の審議を踏まえて、二年以内に基本設計、実施を検討し、その結果を踏まえて五年以内に試行を開始するものと決定されたところでございます。

 この法曹養成制度関係閣僚会議決定を踏まえまして、中央教育審議会におきまして共通到達度確認試験の基本設計について審議が行われ、今年三月にまとめられた基本的な方向性において、その基本的な考え方、目的、試験の内容や実施方法などについて仕組みが示されたところでございます。

 文部科学省におきましては、中央教育審議会から示された基本設計に基づきまして、平成二十六年度中の試行実施を目指し、検討体制の立ち上げや試験問題の作成準備などに速やかに取り組んでまいりたいと考えております。

○仁比聡平君 試行体制を今立ち上げようと、その次には試験問題がどんなものがふさわしいかを検討しようというような状況で、それぞれのロースクールの自律性とか自治とかいうことを考えますと、実際にどうなっていくのかというのはなかなか、まだまだこれから議論が必要なところかなというふうに思います。しっかりと国民的な期待を持って出発しているこのロースクールと法曹養成制度の改革ですから、本当に理解が得られるように、そうした理解を得ながら議論を進めていくべきだということを求めておきたいと思うんです。

 そこで、もう一つ、この法曹養成制度や司法制度の根本に関わる法曹人口に関わって、関係閣僚会議決定で、閣僚会議の下で法曹人口についての必要な調査を行って、その結果を二年以内、つまり来年の七月までに公表するというふうになっているわけですが、この調査について内閣官房法曹養成制度改革推進室に伺いたいと思うんですが、どんな調査をどんな項目でどういう人たちに対して行うのかというのは、これなかなか難しい話だと思うんですよ。調査をしたら、日本の社会に法曹人口は何千人必要であるとか必要でないとかという結論が論理的に出るものかと、数学的に、それは大変疑問もあるんですよね。

 ですから、この調査のやり方そのものも議論を本当に深めなきゃいけないと思うけれども、その調査の結果が出たからといって、これが独り歩きするのもまた困ると思うんですが、いかがでしょうか。

○政府参考人(大塲亮太郎君) 法曹人口調査の関係でありますけれども、確かに委員御指摘のとおり、こういった調査については実はこれまでなされたことはありませんで、初めて私たちがやっていくということになります。

 これまで、各種の法的ニーズ、需要の調査というのは、それぞれの団体だとか機関がやってきたというのはありますけれども、それに応じて、あるいは供給側の事情にも応じまして、法曹人口がどれぐらいが適当かというのは、今回、私ども初めて行うものであります。

 具体的に現在考えておりますのは、法的需要がどういったところにあるのかということについて、一般の方や、あるいは法律相談に来た方、あるいは地方自治体だとか企業などにアンケート調査を広範に行いたいというふうに考えております。

 さらに、これまでの既存の調査結果、あるいは各種団体がやっております調査結果なんかも踏まえて、それを分析して、そこであるべき法曹人口というのをはじき出したいと考えておりますけれども、まずは調査をやってみて、どういった結果が得られるか、そこでどういった人口というのが出せるかというのをまずはやってみたいというふうに考えているところであります。

○仁比聡平君 最後、大臣に、その調査、今推進室が準備をしておられる調査そのものは独り歩きさせちゃならぬのじゃないかと私は思うんですが、そのことへの感想と、それから、そこの調査に合わせてということじゃないんですけれども、先ほど行田委員も取り上げてくださいましたけれども、三月に給費制、三月十三日だったでしょうか、給費制の復活をということで、貸与制を維持するということの今根拠になっている法曹の養成に関するフォーラムの当時のアンケート調査、これは、現在の若手法曹、中でも若手弁護士の経済実態を反映しているものではないのではないかと、私たちの想定をはるかに超えて厳しい現実が進行しているのではないかということを御指摘申し上げました。大臣は実態をよく見ていかなければならないと御答弁されたと思うんですけれども、その実態をちゃんと見ていく上でも、あるいは法曹志望者が減ってきているということの一つの要素として、弁護士というのもどうやら大変みたいだという声もあるわけで、個々の経済的な実態、ここも法務省としてもしっかりつかむべきではないかと思うんですが、大臣、その二点いかがでしょうか。

○国務大臣(谷垣禎一君) まず最初の点ですが、法曹需要、どれだけあるのかという調査ですが、大塲室長が答弁いたしましたように、なかなか、初めてのことでありますから、どういうものがどういうふうになってくるのか、実は我々もまだよく分からないところがございます。

 一つは、前回決めたとき、フランス並みというようなことで、実態調査なんかなかったなと、それは少し良くなかったんじゃないかという反省を踏まえましてやっておりますが、果たして、じゃ、具体的な数字としてこの程度必要だというようなコンクリートなものになるのかどうかもまだよく分からない。ですから、今、仁比委員おっしゃいましたように、それがどういう意味合いを持つものなのか、十分分析もしないで独り歩きするということがあると、御心配のようなことが起きてくることもないとは言えないと思います。まだ、その辺のところはもっと煮詰めていかないと、私もはっきりしたことはお答えできないということでございます。

 それから、もう一つ、修習生の貸与制、給費制という問題ですが、これは平成二十三年の五、六月頃のアンケートで、一応それを前提として幾つかの制度改正をして、今、仁比先生から御批判を浴びると思いますが、貸与制を前提とした幾つかの改善策をまとめたということでございます。

 それで、貸与金の返還というのもまだ始まっているわけではありませんので、いま少しやはり状況をよく見ていきたいというのが今の状況でございます。

○仁比聡平君 時間が参りましたので、これで終わります。